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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第四章 新たな呪い
79/83

4─9

 李々華の行動範囲くらいなら、知る手段は一応ある。絶対とは言えないし、変に思われる可能性も高いが、そんなこと構っていられない。

 ──中等部校舎。李々華の隣のクラスに訪問。


「い〜ずみちゃ〜ん! やほやほ〜ん」


「んー? おっ? 花菱先輩じゃないですか。どうしたのー?」


 俺の呼びかけにぴょんっと跳ねた、パッと見清楚の具現化とも言える女の子。普段は話しかけないけど、今日は李々華のことを聞きたい。

 我が親友・コタケの妹にして李々華の友達、和泉(いずみ)ちゃんだ。


「ちょーっとお尋ね申し上げたいことがあるんですけども、少し二人で話せない?」


 和泉ちゃんはこの容姿もあって、超人気者だ。明るいししっかりしてるし、優しいし余計ね。華奢な身体もいい感じだしね……ってそうじゃなくて。

 まぁそんな人気者の和泉ちゃんと話してたら、ビビるくらいには注目を集めるというね、そういうことです。


「うーん。花菱先輩と二人きりになるのは、身の危険を感じるなぁ」


「いやいやいや、大丈夫だから。俺彼女いるから」


「彼女いるのに、他の女の子と二人きりになりたいの?」


 めちゃくちゃジトーって見てくる。違うのよ、別にそういう意図じゃないのよ。


「誰にも聞かれたくない話ってだけだよ。お願いっ」


「んー、仕方ないね。いつも(あい)くんがお世話してるし、少しくらいなら」


「ありがとう和泉ちゃ……お世話になってるじゃないのかよ」


「え? 和くんがお世話になるほど、花菱先輩って出来た人間でしたっけ」


「和泉ちゃん、うちの妹の影響かな? 中々鋭利な言葉を使うようになったね」


「それほどでも」


「褒めてないのよ」


 それに、俺もたまーにコタケの世話はしてるぞ。アイツも中々困ったところがあるからな。下世話という意味で。

 あ、因みに和泉ちゃんの言う「和くん」というのは、コタケのことである。

 初出しかも知れないが、コタケの本名は「古武(コタケ)和音(アイト)」だからね。

 兄妹揃って「和」という文字が入ってるのよね。うちは李々華だけ違うや。


「──ここまで来れば誰も来ないかな? ね、花菱先輩」


「いやここ職員室の前じゃん」


「何かされても直ぐに先生呼べるから」


「信用無いね!? ただ聞きたいことがあるってだけなのに!」


「下着何処で買ってるかはちょっと……」


「シンプルに気にならないかな!!」


「先輩、お熱があったりする? 保健室に持ってってあげようか?」


「物か俺は! 熱もないよ!」


 何か、うん。懐かしいや。確かに和泉ちゃんってこういうタイプのコだったわ。うん。

 コタケには甘々で、李々華にはベタベタで、俺と廉翔にはこんな感じ。嫌われてんのかな俺達。


「それで先輩? 私の休み時間奪ってるんだから、早く本題に入ってくれないかな?」


「あ、うん。えっと、李々華のことなんだけど」


「本人に聞けないこと……? 言っておくけど、スリーサイズとかは流石に教えられないよ……?」


 そんな怯えた目をするんじゃない。興味なくはないけど知ろうとは思わないよ。てか何で知ってんのよ。


「違くて、今日って李々華が何処に遊びに行くか知ってる?」


 何でそんなこと知りたがるんだって顔をされるけど、李々華を呪いから解放するためだ。耐えろ俺。


「……つまり、ストーキングしたいから教えてくれって……」


「違う違うそうじゃなくて、一緒に暮らしてる身として、何時頃まで帰って来ないかな? っていう目処を立てときたいのよ」


「ああ、なるほど」


 よし、ナチュラルに時間が知りたいことも伝えられたと思う。聡明な和泉ちゃんのことだ、言いたいことは分かってくれる筈。


「えっとね、今日りりと遊ぶのは私もなんだけど」


「うんうん。妹をよろしくね」


「うん。それで、何処行くかまでは教えないけど、何時くらいまで遊ぶとかは一応、教えられるよ」


「それでいい! ありがとう和泉ちゃん!」


「いえいえ。中2の妹が夜まで出歩くのって、心配だと思うしね」


「そう! そうなんだよ! その通り!」


 本当は、ご飯とか何時にするか決めなきゃ〜って意味で言ったんだけど、結果オーライだよねうん。

 嘘に嘘を重ねて、それで幸せなら問題ないない。


「んー、でも六時くらいまでしか遊ばないよ?」


「え、学校終わってからでそんな遊べる?」


「……先輩? 本当に大丈夫?」


「ゑ?」


 ゾンビ映画に何故か出てくる、クリーチャーを見つけたような目を向けてきた。いや俺を何だと思ってんのよ。

 それともあたくしの被害妄想かしら。多分こっちだねうん。

 和泉ちゃんは廊下の先にある時計を指差す。


「今日は2時で終わりだよ? 多少遊べるって」


「…………ん、は? え……!?」


「だから、2時で終わりだよ? 忘れてた?」


 本気で心配そうな顔をされた。俺も直ぐさまスマホを起動し、学園のスケジュール表を確認する。

 因みにうちは、そういうアプリを強制的に与えられます。まぁまぁ容量食います。あは。


「……そ、そうだったね。思いっ切り……忘れてたよ」


 確かに、スケジュールは午後2時で下校となっている。特殊な日程となっている。

 ──だが、前回までは少なくとも、普通に6限で午後5時まであった筈だ。

 内容が、変更されている。


「もー、しっかりしないと。部活で疲れてるのかも知れないし、ちょっと保健室で休んで来たら?」


 画面を見ながら固まる俺を、和泉ちゃんは優しく撫でる。本当に根が優しい子だ。

 今朝矢吹達と話した時は誰も触れていなかった……みんな気づいていない可能性もあるな。教えとこう。

 いやそんなことより、何故唐突に変化してしまったのか。


「ありがとう和泉ちゃん、少しだけベッド借りて来るわ」


「うん、そうしな? 知りたかったことはこれで大丈夫?」


「取り敢えず大丈夫! ありがとーうっ!」


「いえいえ」


 和泉ちゃんと別れ、矢吹とミコト・流美たんにチャットする。全員、さっき知ったと言う。

 下校時刻が早まったということは、李々華が外出する時間が延びるということだ。その時間に何か起こっても、到底分かりっこない。

 神様の。トオノミノ神の嫌がらせだろうか。


「──関係ないと思う」


「ゑ??」


 放課後、うちで集まってみた。誰もいなかったから。

 そこで流美たんからの衝撃の一言。日程が大きく変化したのに、何故? 関係ない? どして??


「時間は早くなったとしても、帰宅する時間は大体同じ。だから」


「……」


 俺と矢吹とミコトの三人は、真剣な面持ちなまま無言を貫く。つまり誰も理解していないだけ。


「……遊ぶ時間が延びただけで、呪いに殺される条件が変わったわけじゃない。元々は一時間くらいしか遊んでなかった。その中で条件が当てはまった。だから延びても関係ない」


 頑張って説明してくれる流美たん。かわいい。

 要するにこれはアレか? 時間が延びただけだから別に条件は変わらないってことか? うん分からん。


「そっか。グラフにすると分かりやすいけど、結局遊び終わる時間は同じだもんね。元々の時間帯は含まれてるし、条件は変わらないんだ」


「ミコトよく分かったな。偉いぞうんうん」


「……絶対、俊ちゃん分かってなかったよね」


 ふむ、よく理解しているじゃないかミコトよ。ああそうさ分かってなかったさ。図星を悟られないように目を逸らしておくけど。


「……つまり、条件は気にしなくていいってこと?」


「矢吹? だいぶテンポ遅れてますことよ?」


「仕方ないじゃん、分からなかったんだもん」


「……」


 いやそれはそうなんだけど、それでも更にワンテンポ遅れての反応だったのよ、あなた。

 矢吹って基本鋭い発言したり、勉強出来なくてもこういう時は察しがいいのに、今回は普通にね。ふっつ〜に、

 バカだったね。


「だから特に気にしなくていい。考えることは増えてない」


「分かった! 流美たんありがとう!」


「うん」


 昇の頭を借りれない今、次に頭が切れるのは恐らく流美たんになる。何せ他三人がバカだから。

 頼りっぱなしで本当に申し訳ない。


「…………ん? 車の音? 隣の方かしら」


 普段あんまり聞かないタイプの音が聞こえて、外を見てみる。あら。うちの駐車場に止まってない? あれ。


「そういえば、忘れそうになるけどここってアパートなんだったね」


「そうだぞ? 4階建て四世帯用のアパートだぞ」


「一世帯2階分使えるの凄いなぁ……」


「しかも、そこに駐車場あるけど、車庫もあるからな。うちの母上はそこを使ってる」


「じゃあ今停まってる車は……?」


 俺とミコトで、改めて窓の外を確認する。黒っぽい青の……大きめな車。

 そのお車さんが、うちの駐車場に停まっている。


「えーと」


 ふん、と息を吐いて冷静に思い出す。最近見なかったけど、アレは知ってる車だった。


「「ぱぱ??」」


 俺とミコトがハモる。俺とミコトの目が合う。俺とミコトは互いに、眉間に皺を寄せた。

 恐らく、お互いに「ぱぱ呼びかよ」って思ったんだと思う。

 いやまだ俺はよくない? 実の父親なんだし。普段絶対呼ばないけど。


「「────ぱぱ!?」」


 数テンポ遅れて、俺とミコトが再びハモる。割と大きな声が出たためか、矢吹と流美たんはビクッとしてた。すみません。


「でも、何で父上が……!? こんな時間に帰って来るの珍しすぎるんだが!?」


「そう言えば昨日、明日早くなるよって言ってたかも!!」


「何で言わなかったのよ!?」


「だって『昨日』が何日も前なんだもん!!」


「それはごめん!!」


 取り敢えず整理すると、たった今天然記念物ことうちの父上がご帰還なさり、時期中に入って来ると。

 まぁそれは問題ない。そこは全然問題ない。

 警戒すべきなのは、俺の部屋がある2階に上がって来ること。


「上がって来たらこの話、迂闊に出来ないぞ……!?」


「でもぱぱあんまり上がって来ないから……! お部屋も下だし!」


「もし聞かれたとしたら、呪いが伝染しちゃう。ここでやめた方がいいかもね」


「グループチャットでも話せる」


「でもそのグルチャ昇もいるから、混乱させちまうんじゃ……?」


「さっき言わなかったけど、『昨日』はもう過ぎた。梅原さんには、そこまでのことを簡単に説明してある」


「……あ、そうだループ回避したの、別の日だった」


「……あ、そっか」


 ミコトとアホ面で頷き合う。もう僕たちバカ過ぎて泣いちゃいそう。

 それよりまさか、流美たんが動いてくれてたとは。一番、昇との距離は離れていそうなのに。人見知りでもあるのに。

 てか昇に苦手意識あった筈なのに。


「マネージャーだから話しやすい」


「それもそうか」


「あと別に、中等部の時も話したことないわけじゃない。梅原さんの記憶には、残っていないだけ」


「あ……」


 そうだったな……。一応昇は、中等部時代もサッカー部のマネージャーだったんだ。同じく当時から所属していた流美たんと、会話がないわけがない。

 俺? 俺は流美たんのこと怖くて、会話したことなかったよ。つーか陰キャ過ぎて部内でも話す人、昇くらいだった。

 部長ってことで、小鷹先輩とは話すけど。


「中等部時代……のことは、僕達みんなあんまり話したくないね」


 矢吹が、悲しそうな微笑みを向けて来る。

 間違いない。この場にいる全員が、話題にしたくない思い出を持っている筈だからな。

 俺とミコトは昇のこと(俺は更にクラスマッチの黒歴史)、矢吹は呪いをかけられた時のこと、流美たんは……呪いに耐え続けた3年間、かな。みんな呪い関係してるな……。


「……はっ! そうこうしてる内に父上がご帰宅!」


「え、今更? さっきドアの音してたよ」


「いやまぁ、リアクション忘れたから今しておこうかなって」


「俊ちゃん、意味分からないことはしなくていいから……」


 すみませんでした。シンプルに謝ります。

 とにかく李々華のことは、これまで通り気にしておけばいいってことだったよねオーケィ。そろそろ呪いの発動条件を解き明かしたい。


 「てかそろそろ親父の描写欲しいって読者いるよね! パピー!」


 「読者? 描写? 花菱君どこに行くの……?」


 「私は時々、俊翔が分からない」


 「パピーだけ小声なのは何で?」


 背後から次々と放たれる冷めた声に振り向かず、珍しく会話出来そうな父上の元へ駆け下りる。

 ちょっとね、伝えたいこともあったもんだから。さっき思い出したんだけど。


 「お帰りなさいませ我が大黒柱の花菱せ…………」


 リビングにいなかったから、両親の寝室の前まで来てみた。来てみて立ち止まった。

 ……えーとね。

 うちの親父って、割と寡黙なタイプの男なんですよ。と言っても、子供のことは可愛がってくれる感じの人なんですよ。愛情はたっぷりなんですよ。

 でも何かね、たまーにこういう日があるんですよ。


 「……部屋の扉に、『今日は引きこもります』って貼ってある」


 パピーヘラってる? 何かあった? どしたん? 話聞こか?

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