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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第四章 新たな呪い
78/87

4─8

 ──先生、もう直ぐ誕生日なんですか? おめでとうございます! 絶対お祝いしに行きますね!

 ──先生、誕生日いつなんですか? お祝いしたいので教えて下さい!

 ──先生、誕生日パーティー開こうと思ってるんですけど、会場何処にします? メンバーの家は流石に狭いので、何処か予約するつもりなんですけど。

 ──先生! 先生先生先生先生先生先生────。


「一向に教えて貰えないんだけど」


「それは花菱君に問題があると思うな」


 あら本当? フルサワ先生の誕生日知りたくてしつこく聞いてるだけなんだけどな。

 何がいけないのかしら。


「そんな勢いで来られたら、流石の先生も怖いと思うよ。もっと落ち着きなよ」


 ベッドにゆっくりと腰を下ろした矢吹は、相変わらず表紙をカバーで隠してある漫画を読む。

 放課後、矢吹のおうちでおうちデート。ついでに、フルサワの誕生日会本当にやるなら〜ってことで話し合い。

 まぁ昇が言っちゃったからね。セフィに。やるしかないでしょ。


「ところでフルサワ先生の誕生日っていつなんだ?」


 今更だけど、直接フルサワに聞かずとも矢吹とかに聞けばいいんじゃんな。一緒にパーティーするんだし。

 矢吹は一旦漫画を閉じて、にこっと優しく可愛く天使で女神で素晴らしい微笑みを向けてくれた。


「9月2日だよ。僕も一応確かめてみたけど、梅原さんも本当にパーティーするつもりみたいだから、みんなで楽しもうね」


「おっけぃおっけぃサンキュッキュ。んじゃあま、フルサワの好きそうな誕プレ考えとかないとなぁ」


 ……てか今更だけど。


「それより流美たんの誕生日もうちょいじゃね?」


「え、そうなの? 僕知らないんだけど……」


「21だった筈だぞ。俺の8日後だった気がする」


「ちゃんと覚えておこうよ……それじゃあ、流美ちゃんのお誕生日パーティーもしないとね」


「もう直ぐだし急いで準備しないとだな」


 流美たんは言わないタイプだけど、自分だけスルーで他の人が祝われたらショックだろう。気づけてよかった。あと5日も無いけど。

 因みに、俺の誕生日はみんな祝ってくれました。パーティーはしてません。俺がバイトだったせいで。

 矢吹からの誕プレは、かき氷機でした。李々華が気に入ってます。


「フルサワ先生って何が好きなんだろう」


「んー、僕もよくは知らないけど……本を読むのは好きな筈だよ。難しい本とか、結構読んでるし」


「あー、確かに俺のバイト先にも頻繁に来るな」


 俺のバイト先は本屋である。たま〜にね、バイト中なのに先生と話すこともあるんだよね。最終的に成績どうにかしろって、担任が頭が抱えてるって怒られるけど。

 バイト中くらいそんなこと言わんでいいじゃんかなぁ! ちゃんと頑張りますよ!


「エロ本でもプレゼントするか」


「花菱君が買える年齢じゃないでしょ。あと怒ると思う」


「顔面ぐちゃぐちゃにされそうだよな」


「暴力は振るわないと思うけど……」


 分からないぞ、矢吹。大人しい矢吹でも脛を蹴って来るんだ。気が強いフルサワがキレたら、何をしてくるか分からない。

 怖いからミステリー小説でもプレゼントしておこう。


「誕生日のこともいいけど、花菱君。……李々華ちゃんのこと忘れてないよね?」


「……もちろん、忘れてない」


 李々華の呪いはきっと、まだ解けていない。前回は偶然条件から外れただけなんだと思う。

 ただ、その条件は分からない。だからこそ一切の油断は許されない。

 早く李々華を救ってやりたい……自分の呪いも忘れないように。


「早いとこ条件を確定させないと…取り敢えず、時間が関係してそうなことは確かだよな」


「前回は何故か早めに家帰ってたんでしょ? そうしたら何も無かった。確実……ってわけではないけど、毎回似た時間に死んでたのもあるし、それが有力だと思う」


「平均死亡時刻は午後6時半……くらい? それまでに絶対、家に帰らなきゃいけないとか……?」


「そんな単純かなぁ……。僕達の場合は会えなければで、梅原さんも同じだった。流美ちゃんは、日光に当たった時間……だから、もっと複雑かも」


「んー……そうだよなぁ」


 考えても分からないということは、承知の上だ。何ならずっとそうだった。

 ……絞り込んで行くには、どうしても李々華が死ぬことが必要になって来る。それは嫌だ。けど、このままじゃ何も分からない。


「嫌すぎるな……絶対ごめんだ」


「うん、僕も。李々華ちゃんで実験しなきゃいけないみたいなのは、本当にごめんだよ……」


「そろそろ、6時半だな……」


 今日はいつもより早く学校が終わった。だから矢吹の家に来たのだが、早々に嫌な時間が近づいて来た。

 李々華がまだ外にいるのは、さっきチャットで確認した。これで李々華が死んだら……やっぱり時間が関係するということだろう。


「……ループ、始まらないね」


 6時半を過ぎた。5分過ぎた。だけどループは始まらない。

 喜ばしいことだ。李々華が死ななかったという、嬉しい知らせでもあるんだ。

 だけど、これだとまた振り出しに戻ったようなものになる。


「時間は関係なかったってことか……?」


「まだそうとは言い切れないよ。『その時間までに何かをしなくちゃ死ぬ』って条件だったら、時間を過ぎてもクリアしてたらループしないから」


「そうだよな……よし。じゃあ次はその条件を絞ろう。俺は今から帰って、李々華が今日何をしてたか聞いてみるから」


「うん、気をつけて帰ってね、花菱君。僕達の呪いも、決して弱くない」


 真剣な目を向けて来る矢吹に、深く頷く。任せてくれ。家までは結構かかるけど、俺はあの台風の日でも生き抜いた男だ。運はいい。

 李々華のことだけじゃない。矢吹のためにも、生き延びてみせるさ。


 ──トオノミノ神。

 この町、王都市に聳え立つ十字仙山・山頂に祀られる……いわゆる守り神という存在。

 祠の直ぐ隣には、かなり大きな一本の大樹があり、神樹と伝えられている。

 矢吹を生き返らせ、矢吹に恋をし、矢吹に呪いをかけた張本人。俺が今読んでる本には、大したことは書かれていなかった。


「……はぁ」


 電車に乗りながら読んでいた。特に役立つ情報とかは無かったし、買っただけ無駄だったな。

 李々華だけじゃなく、矢吹の呪いもどうにかしたいんだ。呪いを解く方法とか書いてあったら……って思うけど、やっぱそんなの無いよなぁ。


「……はぁ」


 矢吹可愛い。矢吹天使。矢吹俺の嫁。

 ……狂ったわけじゃないよ。今乗って来た女子高生達の、輝く生脚に釘付けになってしまったから、戒めとして矢吹を思い浮かべただけだよ。


「……ん? あ……?」


 ふと気づいた。何か空気が変わった。

 ……いや、女の子達の甘い匂いとかではなくて。何なら俺から大分離れたとこにいるし、全然分からないから。

 そうじゃなくて、何か違和感があるんだ。空気……空気がおかしい。


 何も、感じない──?


「……あっ」


 直後、体を支えていた脚に力が入らなくなった。正確に言うと、立っていられなくなった。

 ──違う。俺は寝転がっているんだ。


「嘘だろ……」


 見慣れた天井が視界に広がり、プチパニック状態。

 何でだよ、何でループした……!? 6時半はとっくに過ぎたのに……!


「時間が条件じゃなかったのか……!? だって、過ぎた……過ぎたのに……っ!!」


 シーツをギリッと握り締める。こんなの、おかしいだろ……!?


「分かんねぇよ……どうしたら、いいんだよ……」


 取り敢えず起き上がる。行動に移すしかない……特に出来ることはないのだから。

 せめて家に帰れていれば。李々華に一日何をしていたか聞けていれば、多少は対策を思いついただろう。

 だけど、神様は……呪いはそれを許さなかった。俺が帰宅する前に、李々華を葬ったんだ。


「あ……矢吹。戻っ……たな」


『花菱君、きっと家に着く前だったよね……結局、何も分からなかった……』


 矢吹も衝撃が大きかったのだろう、スマホ越しでも狼狽えてるのが窺える。

 俺も正直……頭が追いついていない。


『花菱君、深呼吸しよ。つらいのは分かるけど、毎回落ち込み過ぎてたら、その分時間が勿体ないよ』


「……うん、分かった。早く李々華の呪いを解かなきゃ、これが続くんだもんな」


 落ち着いて考える頭を保とう。李々華の死ぬ回数を減らすため、分析出来るように気を強く持つんだ。


『花菱君、一応って感じなんだけど、今日の李々華ちゃんの予定だけ確認しておいてくれるかな。あんまり意味はないかも知れないけど』


「分かった。もうちょっとしたらみんな起きるだろうし、一足早く朝飯食べて李々華を待つよ」


『お願い。……頑張ろうね』


「……ああ、頑張ろう」


 ♠


「──李々華から聞いたのは以上だ。帰宅時間に関しては分からなかった」


 改めて矢吹達と集まり、李々華が教えてくれた今日の予定を伝える。殆ど学校だった。そりゃそうだ。


「何時までに帰らなきゃっていう予想をつけるなら、帰宅時間が分かった方がいいんだけどね」


 うーん、と矢吹は顔を顰める。そうなんだよな、李々華の帰宅時間が分かれば、そこから最大何時までなら逃れられる〜とか、大まかに割り出せるわけだもんな。

 俺と矢吹の会話を静かに聞いていた流美たんと、目が合った。何か言いたげ。


「流美たん、何か思い浮かんだ?」


「俊翔と矢吹さんがデートしなきゃいい」


「……Why!?」


 ビックリし過ぎて、反応が一拍遅れた。何てことを言うのこのコ!? あたし達のデートを否定された!?

 矢吹に目を向けたら、流美たんに向けて頷いてた。え? なぜ。何で納得出来ちゃってるの? どゆこと?


「俊ちゃんが矢吹さんと会ってる間にりりちゃんが帰宅したら、正確な時間が分からないもんね」


「あ、そういうこと? いやでも、どうせ同じ家なんだからミコトが確認しといてくれりゃよくない?」


「私は補習だからなぁ」


「何で補習してたんだっけ」


「流石にお勉強が分からな過ぎてね」


 自分から先生に頼んでいたらしい。担任のヤマナカに。意外と勉強熱心なんだな、ミコト。


「俊ちゃん達にもっと近づきたいからね」


 えへへ、と照れ笑いするミコト。可愛らしいこと言っちゃって。

 ……矢吹ってミコトと話してても基本何も言って来ないよな。別の人の時と違って。何なら頭撫でてるし。

 やっぱペットという認識なのかしらん。


「それじゃあ、今日のお家デートは中止だね」


「くうううぅっ! 仕方ないけどつらたんだプー!」


「「……は?」」


「何でもないです」


 こっわ。描写とか諸々気にせず言うけどこっっっわ。何今の空気。

 そうだ、李々華に帰宅したらチャットで教えてって言えば、デートしてても大丈夫じゃないか!? 俺天才!?


「うーん、李々華ちゃんがお家着いた瞬間に、教えてくれないとだからねぇ。シャワー浴びてからとかの可能性もあるよ」


「あー、ダメかぁ。矢吹とのお家デートが……」


「ループしてるとはいえ、前回したんだから我慢しよ?」


「俊翔は天才じゃなくて変態」


「何てことを言うのよ流美たん。今言うことじゃないでしょうよ」


 ミコト曰く、李々華が教えることを拒否する可能性もあるとのこと。普通にキモいらしい。そんな悲しい。


 ゲームでは死に戻り……つまりコンティニューさえ使えれば、段々攻略出来るものだ。

 でも俺達が攻略しようとしているのは自分ではなく、李々華の呪い。そんな手段は使えやしない。

 死ねば死ぬほど攻略には近づくけど、俺がごめんだ。断固拒否する。


「だとしても、りりちゃんの行動は多少でも把握する必要があると思うし、どうにかして聞き出すくらい……しないとかな」


 「僕も瀬川さんも、もちろん流美ちゃんも……李々華ちゃんと凄く仲がいいってわけじゃないし、花菱君じゃなくても知るのは難しいと思うよ。李々華ちゃん、クールだし」


 「そう……なんだよな……」


 何より厄介なのは、李々華の警戒心は兄である俺にですら強いとこ。何なら矢吹に対しての方が軽いかも知れない。

 今日何してた? 何時何分頃に何処で何してた? なんて聞いたら、絶縁される可能性も出て来る。そんなことされたら泣いちゃう俺。


 「……俺達の方から行動を制限してみるってのは?」


 「僕達の方から……?」


 三人とも、不思議そうに首を傾げる。うんまぁそうなるよね。


 「今日は何時になる前に帰って来い、とか。なになにするな、とか。そういう指示をしたら、結果次第で攻略の糸口が見つかるかも知れない……じゃない?」


 自分的にはそこそこいい考えだと思ったんだけど、矢吹とミコトがとっっっても嫌そうな目を向けて来た。から尻すぼみになった。


 「それは流石に……」


 「変に思われると思うよ……?」


 「俊翔はいつも変。バカ。頭悪い」


 「流美たん、俺そろそろメンタルが崩壊しそう」

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