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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第四章 新たな呪い
77/83

4─7

 トンカラトントンテントンカンチントンッ。


 ──たった一度呪いのループを回避しただけだというのに、めちゃくちゃ上機嫌で階段を下る。何なら、どうしてループしなかったのかも分かっていない。

 俺達は昨日、別に何か対策が出来たわけでも行動に移せた訳でもない。それでも回避出来たのは、李々華が行動パターンを変えたからなのだろう。

 とにかく、李々華が昨日どんな行動をし、どんなルートを辿ったかをそれとなく確認してみなくては。


「……意味分かんない擬音つけてないで、さっさと座ったら? ご飯準備出来てるよ」


 ちょうど上機嫌だったところを、麗しの妹・李々華たんに目撃されていた模様。やぁんえっちぃ。

 たださ、「変な」でもなく「意味分かんない」って言う辺り、ガチめに引かれたんだと思います。そう考えると切ない。お兄ちゃん泣いちゃう。えぇん。


「お母さん、バカ兄がいつも以上に異常」


「それ異常じゃなくていつも通りじゃない。結局は」


「マイシスターにマイマザー、泣くよ俺?」


「「あっそう」」


 泣いていい??

 そんな息ぴったりで興味無さげにしなくてもよくない? それこそいつも通りだけど、わたくしめに対して辛辣過ぎませんこと?

 わたくしここ最近、愛しの妹ちゃんのために頑張ってたのよ? めちゃくちゃお疲れなのよ? 知らないだろうけど労ってくれてもよくない?


 バカ兄こと俊ちゃんを雑に扱う、普段通りの我が家が帰って来た。普段通りの李々華が戻って来た。

 日常が、戻って来た……のかも知れない。

 そんな光景にぐっと涙を堪え、今日もまた、頑張って参ろうと思っておりますです候。


「──つまり、李々華の昨日の流れを確認することを、完っ全に失念しておったのだ」


「……のだ、じゃない」


 本日のお昼休み。フルサワから教えてもらった空き教室にて、流美たん・矢吹・昇の冷めた視線をいただくあたくし。

 今日はやたらと熱い視線を向けられる日だわね。ごめーんちゃいっ。

 こういう時優しく微笑んでくれるミコトは、やっぱりいいコなのである。優しさが身に染みるぜ。


「……でも、少なくともシュンが聞かなくてよかったかも知れないわね」


「え、何で? 兄である俺が聞くのが一番自然じゃね?」


「あんたバカだから、『李々華昨日何してた? どんな風にどこ行って何時頃に帰宅したか詳細頼む』とか、明らかに怪しまれること言いそうだし」


「……」


 黙るしか出来なかった。

 そうか、昇。お前には俺がそんな頭の悪い人間に見えてしまっているのか。流石幼馴染みだなその通りだったよ。

 危ない危ない、ただの気持ち悪い奴になるとこだったか。


「俊翔は、バカ」


 唐突に罵られて一瞬どもった。


「流美たん? そんな染み染み言うワードじゃないのよそれは」


「定期的に噛み締めていかないといけない言葉だよね」


「やーぶきー?」


「何を言ってるの二人とも。常識はいちいち、定期的に噛み締めなくていいのよ。自然と覚えていくものなんだから」


「いや常識ではないんですが」


「流石昇ちゃん博識!」


「いやこのタイミングでそれは意味分かんねーよ」


 こう、何だろう。時々みんなで俺をバカにする風潮、何なんだろうね?

 仲良いのはいいことよ? もうほんっといいこと。特に、仲良い相手が殆どいなかった子達だし尚更ね。

 でもさ、結託して一人を罵るのは違うじゃん? それじゃいじめになるじゃん?

 まぁ何かゾクゾクするんでいいんですけど。


「とにかく! とにかくよ! 結局李々華が何故生き延びれたのかは、分からなかったわけなんだ」


「うん、それさえ分かれば対策出来るんだけどね」


「……早い時間に帰ってた。やっぱり時間が関係してるかも」


「分かるぜ流美たん。俺もそう思う。単純に『〇時までに帰らなければ死ぬ』みたいな呪いかも知れない」


 ようやく本題に移れるみたいだ。脱線した時は案外強引に戻してもいいかもな、これなら。

 俺と矢吹とミコトは大した脳を持っていない。この中で圧倒的に優れた頭を持つ昇に目を向けたら、小さく溜め息を吐かれてしまった。


「言ってあるでしょ? 私は今回ループしてないんだから、状況も毎回聞かなきゃ分からないのよ。正直、戦力外なの」


「あっ、そうだった……。マジかぁ。何なら昇の脳だけが頼りなのに」


「どれだけ頭使えないのよ。みんな少なくとも私よりは、神様や呪いに詳しいじゃない」


「いやそれはそーなんだけ〜どもん」


 根本的なね、差というものがございましてね。

 昇が気づけても我々はボケッと見逃す可能性があるのですよええ。

 だからもし気づいたことがあったらお聞きしたいなと、心より縋り付く思いでござんす。


「……特に気づけたことはないわよ。当たり前でしょ?」


「んまぁでもそうよね〜。流石に、既に進んでる話を聞いてるだけで何か勘づくのは、人間業じゃないもんなぁ」


「それだけだったら探偵とかがいるじゃない。問題は、得体の知れない呪いがかかっているってとこ」


「探偵に任せても、ループしてるって伝えるだけで精神病院勧められそうだしな」


 やーよあたし。だって頭が悪いだけで別段何も悪いとこ無いのに、病院連れて行かれるだなんて。

 んでもまぁ、そんな事態になったとしても、その後李々華が死んで無かったことになるんだろうけど。

 ……改めて、心底嫌だと感じる。妹が死を繰り返すなんてことは。

 早くお兄ちゃんが救ってやるからな、李々華。

  みんなの力を借りて。


「──そもそも、何で李々華ちゃんは呪われたの」


 真剣な声色で、流美たんは呟いた。じっと俺の顔を見てる……が。


「いや、俺達も全く分からないんだよ。俺から呪いが移ったってことも……無いと思う。俺は李々華に話してないし、あの呪いにかかってないし」


「俊ちゃんは呪いを呼び寄せる呪いにかかってる筈。だから可能性はゼロじゃないけど……違う気がするんだよね」


「僕も、たった数時間一緒に遊んだだけで呪いがかかるなら、同じ家で暮らしてるだけでアウトだと思うし。違うと思うな」


「……確かに」


 めっちゃ疑いの眼差し向けるじゃんか流美たん。酷くない? ……いや、違うな? これ疑ってるんじゃなくて、そうだったらどうしようみたいな顔だ。

 流美たんなぁ、表情分かり難いからなぁ。表情筋固いならむにむにマッサージしてあげようかしら。


「りりちゃんが呪いにかかったのは、そんな前じゃないと思う。だって少し前までは時間関係なく外出してた筈だから」


「シュン、何か変わったこととか無かったの?」


「んー、特には無いと思うんだけど……時間で見るんなら、初めてループした前日だって同じくらいの時間に外出てたし」


「そう考えると、三人でデートしたっていう昨日かかったってことになるかもね」


「んー……」


 あの日、別に神様がいそうなとこにも行ってないし、呪われそうな罰当たりなことをしていた記憶もない。

 まず、頭のいい李々華がそんなことするわけがない。


「僕も、特に何かしてた覚えはないんだけど……」


「なら今はまだ原因は分からないわね。元を断てれば早いんでしょうけど、まずは何時以降がダメなのか確かめるとこからね」


「そうなるなー」


 何が原因なのか分からない。こんなことになるなんて思ってもなく、李々華の一挙一動に注意していたわけでもない。

 もし一瞬目を離した間に何かあったとかなら、見つけ出すのは至難の業だろう。


「たった一回乗り切れただけで呪いが解けたわけではないでしょうし、ループするみんな、李々華ちゃんのこと頼むわよ」


「おう、任せとけ。絶対救う。正直昇の頭なしに解決するのキツいと思うけど」


「そこは頑張りなさいよ。それに、私がいたとしても簡単に片付くようなことじゃないでしょ」


「それはそう。昇はこの中で一番神様には疎いわけだし、ここは神様に詳しい三人に託そうぜ」


「だからあんたも頑張りなさいっての」


 かかとで爪先を踏みつけられた。けっこーな勢いだったから、めちゃんこ痛いっぴ。爪生きてるかな。

 昇さん、椅子に座りながらわざわざ足伸ばしてやることかね? 前にも言ったことある気がするけど、あたくし選手ぞ? そして君はマネージャーぞ?


「でも、花菱君の言うことにも一理ある。二人に比べて僕達は神様を知ってるし、何なら元神様の瀬川さんだっている。知識が必要になるなら、僕達が頑張るのが手っ取り早いと思う」


 真剣な表情で、矢吹とミコトが頷き合う。そこ二人はズバ抜けて知識あるだろうし、頼りにしてるぜ。


「私は別に、言うほどの知識はない」


 おずおずと手を挙げた流美たんに、俺は親指を立ててだいじょーぶアピールをしておく。


「分かってる。流美たん、トオノミノ神分かってなかったもんな。知識があるというよりは、神様が実在することを知ってたって感じだろ」


「……」


 コクン、と小さく頷く流美たん。安心しな、俺もそこまでバカじゃない気がする。言いたいことは分かってたさ。

 とりあえず、どう考えても一番強いのはミコトなわけで。


「ミコト、何か思い当たることあったらどんどん言ってくれていいからな」


「うん、もちろんだよ。でも私はデートに参加してないし、結局はそこまで役に立てないと思う」


「まぁまぁ。この神様だったらこんな呪いかけそうだな〜とか、そんなでもいいから」


「別に知り合いの神様全然いないんだけど」


「もし変化があるのだとしたら、シュンと矢吹さんの二人が気づけたら早いんだけどね」


「ぼくたちバカなんで。こういう時頭働かないんで」


「こういう時だけじゃなくて、俊翔は常日頃から頭働いてない」


「何で突然ディスった?」


「先にあんたが自虐したんでしょうが」


 何だろうね、流美たんの小ボケというか俺へのいじりというか、ちょいちょいそれが入るから緊張感が割とない。ある筈なのに大して感じない。

 流美たん、君は場の空気を和らげる才能があると思うよ。仲良いメンツ相手にだけ。

 その他には怖く見えちゃってるけど。


「……とにかく、もうお昼休みも終わるし一旦後にしよ。各自、一つくらい仮説・予想を立てておくことをオススメするわ」


「考えたくないけど、もしまたループしたら今日話した内容、次の昇に伝えとくな」


「次のって言い方嫌なんだけど」


「気にしなさんな」


 脛を蹴られた。かなり痛いです。お願いだから足ばかり狙わないで。悪かったから。

 でもさでもさ、何て言い表せばいいの? 俺っちアホだから教えてー!

 ……肘で脇腹を打撃された。悶えましたとさ。


「早く李々華ちゃんを助けて、みんなで楽しく遊ぼうね」


 矢吹はずっと真剣な目をしてる。脳に関しては俺同様アレだが、基本的に真面目でいてくれるのは、本当に心強い。

 過去につらい思いをして、今は呪われている。そんな矢吹は、苦しんでる人を本気で救おうとしているのだろう。


 「みんなで遊びに行くのか? セフィも行きたい!」


 ──タイミングを見計らったかのように、セフィが扉を開けて来た。おい、心臓飛び出るかと思ったわ。

 普通にビックリしたんだけど、それより話聞かれてないだろうな……。


 「言うと思ったから、そのつもりだよ」


 「ほんと!? 矢吹さんありがとー! この六人で行くの?」


 「ううん、コタケ君とヤスダ君もだよ」


 「じゃないと俺が縮こまっちゃう」


 矢吹と昇が頷いてくれる。ありがとう。

 セフィ、考えてみろ。奴らを入れなければ男俺だけなんだよ。そんなキョトンとした顔をするな。


 「……何で?」


 「ガチで分かってないのやめてくれよ。性別って言えば分かるか? プール行くんだよプール。ボーイ僕だけになちゃうおけ?」


 「あ、なるほど? 理解理解」


 「ホントかよ」


 セフィ割と脳筋だからな。本当に理解出来たのかちょっと心配だわ。

 ……あの顔は男一人でバランス悪いーとかと勘違いしてそうだな。


 「それと、花菱君の妹さん」


 「あ! 李々華ちゃんだよね! 結構な人数で行くんだね、楽しそう!」


 矢吹が、少し強調して李々華の名前を出す。絶対にっていう意思が汲み取れて、何だかとても嬉しい。

 当然だが状況を知らないセフィは、かなり能天気に見えてしまう。流美たんが呆れ顔なのも原因かも知れないけど。

 あ、めんどくさ。もしループしたら、またセフィに説明するのか。ループはしてないだろうし。


 「とにかく移動するわよ、授業始まっちゃう。この話はまた今度」


 「そう言えば何でこんなとこで集まってたの?」


 「フルサワ先生の誕生日にサプライズでもしようって話してたの。それもまた後で」


 「サプライズいいねー!」


 昇がまとめて、セフィが面倒臭い疑問を持って、昇がテキトーに返して……俺は素で「え!? フルサワ先生誕生日なん!?」って言いそうになった。危ない危ない。

 ……てかセフィも乗り気だし、フルサワ本当に誕生日近いのかな。後で確認してみよう。

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