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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第四章 新たな呪い
76/87

4─6

 ポーン、ポーン、と。何処かの何かの音が、午後五時の訪れを知らせる。因みに学校のチャイムではない。

 毎回、李々華が苦しみ死ぬことになるのは、六時台だ。あと、一時間。


「……話し合いのお陰で、色々察しがついて来たよな。多分、李々華にとっての時間制限は六時だ。それまでに何かを回避しなければ、死んでしまう」


 時間が大きく関わって来るというのなら、李々華が死んだ時間帯から考えてみれば簡単だ。いつも六時台。だから、そうなる筈。

 問題は、どうしたらそれを阻止出来るのかが、分からないことだ。


「花菱君、さ。ちょっと話したいことがあるんだけど、いいかな」


「ん? どした?」


 王都柊公園の噴水に座っていた。流美たんは日差しを警戒しての帰宅。ミコトは直ぐそこで、通りがかった子供達と鬼ごっこしている。

 矢吹は、さっきまで何処行ってたんだか分からなかったけど、飲み物を買って来てくれたらしい。


「えっと、今みたいな状況で言うことじゃないと思うんだけど、せっかく時間が過ぎてないんだから、予定を、立てておきたいなって」


 凄く申し訳なさそうに言うが、俺としては全然嬉しいことだ。だって、毎日会ってるのに改めて予定を立てるってことは、特別なお誘いだったりするわけじゃん?

 何処か遠出しよう、とか。前みたいに水族館デートしよう、とか。期待が膨らむ。


「二人切りじゃないんだけどさ」


「あ、違うのね。てことはデートじゃないか」


「初めはデートのつもりだったんだけど、今はちょっと……状況が複雑というか。梅原さんがいるから大丈夫かもだけど、瀬川さんと花菱君を離れさせるのも、怖いし」


 矢吹が、遠慮がちにミコトの方を見る。こっちに気づいたミコトは、この空気を知る由もなく、元気よく手を振る。

 ついでに子供達も手を振っていて、ミコトがますます小さな子供に見えて来た。


「まぁでも、矢吹の気持ちは分かる。ミコトがいつまた、あんなことをしでかすか分かったもんじゃないからな。出来れば、近くに置いておきたい」


「僕も。初めはあのコのことが、梅原さんのこともあって嫌いだったんだけど、誤解してたって分かったから」


 俺と矢吹はミコトへの当たりが強かったからなぁ。今では完全な反省点だ。

 それにしても、矢吹がミコトを認めてくれてるの、感慨深いな。


「瀬川さんはただ一生懸命、禁忌を犯してまで、大切な友達を救おうとした。その罰を受けて人間になっても、僕達や李々華ちゃんのために頑張ってくれてる。実際、梅原さんを助けたとも言えるし……何だか、感謝しなきゃいけないことばかりだね」


「思い返してみれば、散々助けられたよなぁ」


「本当だよね。いい、神様だと思うよ」


 今ではペットにしか見えない、無邪気な元川の神様を、矢吹と二人で眺める。今また、ペットを見てる気分だった。

 こんなタイミングじゃないと思うけど、ありがとうなミコト。お前はまだ遠慮してる部分があると思うけど、俺は本当に友達だって認識してるからな。


「……で、矢吹。予定って何すんだ? デートじゃないってことは、皆で遊ぶとか?」


 脱線してミコトに感謝する時間になったけど、Uターンして話を戻す。矢吹がニコッと微笑んでくれて、俺の彼女マジ天使サイコー大好き。


「そ。花菱君と僕はもちろん、瀬川さんも梅原さんも流美ちゃんも……李々華ちゃんも誘って遊びたいなって」


「おー! なるほどなるほど大賛成! んでも、それならついでにセフィもいい? 多分、嗅ぎつけて来ると思うし」


「あ、そうだねそうしよう。……最近会ってなくて忘れかけてた」


「もう三回ループしてるからなぁ。一応、前日には会ってるんだけど」


「僕は部活休んだから二日前かな」


「あの日風邪ひいたって聞いてたけどただのサボりだったよな」


「うん、暑いのだるくて」


「まー、分からんでもない」


 矢吹さんのサボり癖は、まだまだ治ることを知らなそうだ。でも多分、大学とかは目指さないだろうし、花歌(はるか)さんもいるし、最悪辞めるんだろうねこのコ。

 俺は、一日に一回会わなきゃ死ぬっていう枷があるから、高校出てガッツリ働いて、早めに矢吹と結ばれるつもり。同棲さえ出来れば、苦労せずに済むと思う。


「それでなんだけど」


「あ、はいはい。ちょっと夢の世界に意識が飛んでたわメンゴメンゴ」


「大丈夫だよ、今から言うから」


「あざっス」


 下ネタとか大バカな発言をしない限り、矢吹は慈愛の女神の如く優しい。言ってしまった場合は、魔王様より怖い。

 温度差の激しい、飴と鞭の使い手である。


「やっぱり夏って、暑いでしょ? だからプールとか行きたいなって」


「んなーるほどぅお〜! 夏休みに水泳の授業とかないもんなぁ、涼みたいよなぁ。大賛成!」


「よかった」


「でもちょっといい? それって皆水着になるわけじゃん? ちょっと興奮し過ぎそうだから、クールダウンにコタケとヤスダも誘っていい?」


「その理由は二人が可哀想な気もするけど、僕は構わないよ」


「サンキュー! アイツらは女子を見るの禁止ってことにするから、これで心置き無く楽しめる」


「それは流石に可哀想過ぎるよ」


 矢吹の了承も得て、コタケ・ヤスダという男友達も確保。だって周り全部女子でプールとか、ドキドキし過ぎてムクムクしちゃうでしょう。

 高校での水泳授業は基本男女で別れる。多分。少なくともうちの学校はそう。

 だから女子の水着姿を直接拝める機会なんて、そうないのだ。今から楽しみだね。涼めもするしプールサイコー!


「それじゃあ、僕達もそろそろ帰ろっか? もう結構暗いし」


「……だな。フルサワ先生が言っていたように、またループするんなら……このまま帰らなくていい気もするけど」


 李々華が、妹がまた死ぬんだと思うと、どっと身体が重くなる。歩き出す気力もない。

 一度死んで、永遠のお別れっていうのも辛いものだと思うけど、妹が何度も死ぬ姿を見るのも、耐えられたものじゃない。

 項垂れて、このまま時が過ぎて行くことを願った。けど直後に腕を引かれて、矢吹に立ち上がらせられた。


「まだ、決まったわけじゃないでしょ? フルサワ先生だって言ってた。ループしない可能性もなくはないって。次は助かるって、祈ろう?」


 真剣でかつ優しく微笑みかけてくれる。励ましてくれる矢吹に頷く。

 次は大丈夫なんて考えて、それがダメだった時のダメージはデカいけど、初めから死ぬものだと決めつけるのは兄として嫌だ。

 俺はただ、李々華を救う方法を探すんだ。妹の人生を諦めるなんてことはせずに、考えればいい。

 ……そろそろ、休憩したくなってきたな。自分でも何が言いたいのか分からん。


「……よし! 帰るか矢吹。俺は、信じる。李々華は今度こそ死なないって。時は動くって」


 立ち上がって、オレンジ色に染まる空を見上げる。大きく息を吸って、頭の中で蠢いていた、嫌ぁな黒いモヤモヤを吹き飛ばす。

 続くように立ち上がってくれた、優しい微笑みを向けてくれる矢吹の、暖かい手を取る。


「李々華ちゃんを、絶対に救おうね。フルサワ先生だって助けてくれる。きっと、何とかなる」


「うん、何とかなるって信じて、呪いを解く方法を探すよ。妹を何度も何度も殺されてたまるかってんだ」


 既に何度も死なせてしまっているのだが。

 未だ攻略の糸口は見つかっていないけど、もうこんなこと何度も決意してるけど。

 矢吹が一番大切だけど、矢吹だけが大切なんじゃない。

 李々華は妹だ。俺の妹なんだ。


「ミコト、矢吹送ってくから移動するぞ。子供達とバイバイして」


「はーい! みんなバイバイ! またね〜」


「「ばいばーい!」」


 幼児達の微笑ましいシーンを見届けて、矢吹の手を引く。ミコトも後ろからトテトテと追って来てててててててててて。


「いてぇよ! 脇腹抓るな何すんだよ!?」


「誰が幼児だ!? 君の頭の方がち〜〜〜っちゃな子供なんじゃないの!? あの子達の方がよっぽど賢かったからね!?」


「頭に関してはお前に言われたくねーよ! 俺と大差ないだろうが! つーか俺よりバカだろ!」


「勉強したことなかった、元神様なんですけど!? 人間になってまだ半年も経ってないし! 俊ちゃんは人間何年目!?」


「人間何年やっててもバカはバカなんだよ! 元神様だったらもっと有能でもいいと思うけどね俺はぁ!?」


「だから何度も言ってるじゃん低級なんだって! もう禿げちゃえ! いっそ禿げてしまえ!!」


「またかよおおおおおおおおおっ!!」


 ミコトと共に生きる限り、俺の毛根を懸けた抗争は終わることを知らない。いや、先に俺の毛根が終わることは確定している。どうしたって勝ち目のない争い。

 ……人の髪の毛を、そんな乱暴に扱わないで下さい。若くしてつるんつるんになるのはごめんです。自然に禿げていきたいです。

 仁義もクソもない戦いを、しらけた目で見ていた矢吹を、駅まで送った。


「……あ、そうだった」


 駅の中を見回して、ふと声に出した。

 矢吹改札口に向かおうとした矢吹が、俺の声に気がついて振り返る。振り返る瞬間も、変わらずビューティー俺の嫁マジ女神。

 まだ婚約もしていないんですけどね。


「どうかしたの? 花菱君」


「いやね、李々華見かけないなぁと思ってさ。でもよく考えたら、前回同様になるわけじゃないもんな」


「うん、2回目の時は駅に辿り着いてないからね」


「そう考えるとますます、条件が謎なんだよなぁ。時間制限は分かるけど、それまでにどうしてたら死ぬのか、そこが絞り難い」


「僕も瀬川さんも、呪いに詳しいってわけじゃないからね。先生で何も分からなかったら、正直、止められる自信がないよ……」


「そう、なんだよな……」


 現状、最大の問題はそこだ。死のループは確かにつらいけど、同じ日を繰り返すのしんどくて仕方ないけど、何より原因が分からなければどうしようもない。

 色んなこと試すにしろ、李々華に俺達の呪いを伝染したくないから、迂闊なことは言えない。だとして、李々華が俺達の言う通りにしてくれるなんて、そんな都合のいいことだって、ある訳がない。

 更に李々華は思春期でもある。理由を言われないまま、アレするなコレするなあーしろこーしろなんて、ウザいだけだと思う。


「──でもさぁ、ループしないね……?」


 ミコトの小さな呟きに、矢吹と二人で振り向く。

 ミコトの視線の先には、電子時計が設置されている。既に、前回までに李々華が死んだ時間を過ぎていた。

 俺達のんびりし過ぎじゃね? 矢吹電車大丈夫?


「本当だ。李々華ちゃんの呪いが、発動してない……?」


「いや、分かんないぞ矢吹。いつもより遅いといえど、まだ六時台ではあるんだ。油断してたらまた、急に朝に戻されるかも」


「でもそこまでバラつきあるのも、おかしいでしょ? 俊ちゃんは神様のこと、少し甘く見てるよ」


「いやその、ガチ神様だったミコトに言われるとその、ごめんなさい」


 でも確かに俺は、神様は時間に関してテキトーなんだろうなって、感じていました。すみませんでした。

 とにかく、まだ喜ぶのは早い。ループしないならしないで、俺もミコトを連れて家に帰らなくては。


「そんじゃ、まだ油断は出来ないけど、お互い帰宅しよう矢吹」


「うん、そうだね。このまま待ち続けても、ループすることがなければ無駄な時間だしね」


「その上俺は、こんな時間までミコトを連れて何してたって、問い詰められる」


「帰ってもまだ七時台でしょ? 別によくない?」


「我が家での食事は、みんなで一緒にいただくものでありんす。一人が遅れると、皆が遅れる」


「水族館の時とかは大丈夫だったのに?」


「今回は事前に連絡してないのよ」


「いやしておこうよ」


「またループするならいいかって」


 諦めてるような言い方をしてしまったからか、矢吹に呆れ顔を向けられた。いやんやめて舐め回したくなっちゃうっ。

 取り敢えず、矢吹が電車に乗るのを確認し、乗っている人達全てに向けて手を振って、ミコトの手を引きゴートゥー家。

 鍵は空いていた。きっと李々華たんだね。


「そう、李々華たんが我が家に帰って来たんだー!」


「家出した覚えはないんだけど」


「ただいま李々華ー! 会いたかったぞーーー!」


「……おかえり」


 物凄い勢いでドアを開けたら、嫌悪感丸出しの李々華と遭遇。やぁマイシスター、生きていてくれてありがとう。言葉の通り。


 ──皆で夜ご飯を囲んだ。寝る直前まで、李々華とミコトとゲームで遊んだ。フルボッコにされた。

 お風呂に入れた。気分的には四日振り。久々に、寝れた。


 「……おはよう。ようやく会えたな、新しい日」



 ようやく、李々華の死のループを、一回回避出来た。

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