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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第四章 新たな呪い
75/83

4─5 救いたい

「──じゃあ今日は、着いて行けないってこと? 分かった。また今度にするね。今日は友達誘ってみる」


 ひらひらと手を振って、階段を降りて行く李々華を見送る。ひらひらと振っていた手が、力無く垂れた。

 これが、虚無感ってやつなのか……? もう、どうしようもないんじゃないのかって、思えて来る。


 李々華が再度死亡したことにより、四度目の「今日」が訪れた。


「矢吹はこれを、何度も何度も味わっていたってことだよな……」


 三年前。中学一年生の頃に矢吹は、俺に恋をしてくれた。

 そして神様の怒りを買って、呪われた。

 俺と会えない日もあって、何度も死んだらしい。どのくらいかけて今に至るのかは、想像を超えるものだと思う。

 辛かったよな、矢吹。一日が全く進まないのって、こんなに疲れることなんだな。


「どうにかして、李々華のループを止めなきゃな。いや、それだけじゃダメだ。呪いも解かなければ、李々華が本当に死んでしまうかも知れない」


 李々華に呪いがかけられた経緯も、呪いの発動条件も未だ不明瞭だ。怪しいこととか多過ぎて、絞れてもいない。

 まず、それらがはっきりしたとしても、呪いを解除する方法はどの道分からないんだ。


「……お祓いでもしてもらうか? いや何か意味あるかそれ。んもう分っかんねーよマジで」


「俊ちゃん」


 服の裾を引っ張られて、ミコトに振り向く。お前も巻き込んじゃってごめんな。


「俊ちゃん、また集まるんでしょ? 矢吹さんもまた、流美ちゃん家向かってるって」


「お、そうか。んじゃあ俺達も行こうミコト。俺は今のとこ何も分かってないけど、話し合えば一つくらい候補が出るかも知れないしな」


「それなんだけど、流美ちゃんはちょっと分かったことあるらしいよ。あと一応、私も」


「……え?」


 ♠


「──発動条件が、時間の可能性が高くなった」


 今度は、休日の学校に集まった俺達。真っ先に放たれた流美たんの言葉に、俺と矢吹は首を捻る。


「え、何で……? 確かに時間は大差ないけど、やっぱりちょっとズレてるよ?」


 一回目と二回目、そして前回の三回目。それらは全て、六時台ではあったものの、正確な時間は合わない。

 だから言ってみたんだけど、流美たんの代わりにミコトが割って入る。


「前に言ってたでしょ? 時間は曖昧だったりするの。たとえば『八時に死ぬ』、としても、八時から九時までの間にってなってたり」


「……そうかも。僕達が死ぬ時間も、よく考えたらバラバラだった」


「あ、そうだっけ? やべぇ、最近死んでないからか、もう覚えてなかった」


「妹さんが死ぬ条件として、可能性が高くなったのは二種類。前に話題に出したのだと」


 流美たんがまるで機械みたいな無表情で、人差し指を立てる。


「一つは、神様から直接手を下されている可能性」


「私が出したやつだ」


 ミコトが直ぐ様反応。ただ、無邪気に嬉しそうにするのではなく、真剣な面持ちで話を聞いている。

 いつも子供みたいなミコトでも、知り合いが死ぬことに関してはそうでいられないのかも知れない。恐らく、昇と重ねてしまっているんだろう。


「そして時間制限」


 中指も立ててピースの状態にした流美たんが、また淡々と言う。時間制限か。アウトラインが見えているだけ、楽に感じる。

 けど、


「その時間までに、何をすれば李々華は死なずに済むんだ……? そこが分からないと、どうしようも……」


「そうだね。僕と花菱君は、それまでに会えれば死を防げるけど……李々華ちゃんのことは、よく分からないよね」


「私もりりちゃんが好きな人は知ってるけど、一日一回会えてる筈だしなぁ」


 俺、矢吹、ミコトが一斉に唸る。流美たんもコクコクと頭を縦に動かす。

 皆して、李々華のプライベート? に踏み込めてはいないので、ミコトが好きな人を知ってる以外には何も──え?


「待てミコト、李々華には好きな男がいるのか……!?」


「え、う、うん。急に肩掴まないでよ俊ちゃん。力強いし、ビックリした」


「まだ中学生だというのに、そんな、そんなの……お兄ちゃん許しませんよ!?」


「……えー」


 場の空気が一瞬にして凍りついた。中学生のくせに、ケツの青い頼りがいのない男なんかに恋してたら、駄目だ! 許しません。断固許しませんよお兄ちゃんは!

 本音をいうと李々華が誰かと付き合うのが、何か寂しいだけ。ちょっと前に彼氏がどうの言って怒らせたんですけどね、僕。


「中学生で好きな人がいるなんて、普通だよ? ていうか、そこに関しては年齢関係ないんじゃ?」


「違うぞ矢吹、俺も恋はいい。恋すること自体はいい。問題は、相手が頼りにならない中学生ってとこだ!」


「いや中学生が中学生に恋するのも普通なことだよ」


「かも知れんけど!」


「あと僕も一応、中学時代に花菱君を好きになってるんだけど」


「そうだった! 今のなし! とりあえず相手が嫌な奴じゃなけりゃよし!」


「じゃありりちゃん……ん、何でもない」


「気になるでしょおおおおおおおおお!?」


 ていうか、落ち着け俺。もっとショック受ける部分があった筈だ今。

 頼りにならないって出した後に、矢吹が俺のことを言った。つまり、俺がその相手に当て嵌ってしまうわけだ。悲しいだけだからもうやめよう。

 兄は寛大な心を持ち、妹の幸せを願うことにするのだ。


「俊ちゃん、もう情緒不安定過ぎて気持ち悪いよ……」


「気持ち悪いって何だよ。俺は仏様だぞ」


「なーむー」


「流美たん、その可愛い声でそれやめて。俺死んだみたいじゃん」


「「なーむー」」


「……」


 三人で言わなくてもいいじゃない。合掌して頭まで下げてさ。今のは軽いジョークじゃん。ガチの仏なわけないやん。

 俺なんかが、仏になる資格なんかないやん。誰も導けないもん。

 今ふと思ったけど、呪いでループする俺達みたいな人は、死んだことあっても「なーむー」されたことはないのよね。


「とにかく、妹さんが死ぬ条件が分かったわけじゃないけど、時間制限があるのは確かだと思う」


 完全に俺のせいで脱線した話を、流美たんが戻してくれる。目立つのが苦手な割に、進行してくれるよね流美たん。

 ……って言ってみたら、「梅原さんがいないから」という返事が。つまり俺達三人じゃ話を進められない、と思われてるのかしら。


「とりあえず時間制限は確定。だとしても、詳しい条件はまだ分からないわけだよな。流美たんが言ってた歩数はなくなって、ミコトが言った直接攻撃が可能性あるのは、何で?」


「時間が関係するならないと思う。『〇時までに〇歩進まなければ死ぬ』だとしても、死ぬ時間がズレてるのはおかしいから」


「そうなん?」


「たとえば六時までが制限時間で、一万歩必要だとする。六時時点で九千九百九十九歩だった場合、一秒でも時間が過ぎるだけで一歩増やせるでしょう?」


「死ぬのが遅いだけで、計算は六時までなんだとしたら?」


「時間を過ぎて殺す意味がない。その場で死なせると思う。そもそも、だとしたら何分後に死ぬとか決まってる筈で、ズレがあるのはおかしい。そのズレも数分だけだし」


「……なるほど」


 分からん。俺は六時までの計算で、それ以降テキトーな時間に死なせる〜ってのがあると思ったんだが。

 この場で、流美たんの言うことを理解出来た者はいないようだ。矢吹もミコトも目の焦点が合っていない。

 誰かここに、名探偵を呼んでほしい。そのお方はもれなく呪われるけど。


「よく考えたら、歩数は関係ないと思う。神様だとしても、そんな日によって大きく変化する条件にはしないと思う」


「え? まずそこからの話? でも歩数を可能性として提示したのは流美たんで……でででででででで!?」


 疑問に思ったことを口に出しただけなのに、矢吹から強烈な二の腕抓りを受けた。アレ? 何処から出したの矢吹さんあなたそれ。

 ピンセットじゃないっスか。どうりで痛かったわけだよ。

 正面向いたら流美たんが落ち込んでて、隣見たら矢吹が睨みつけて来てて、俺まで落ち込んだ。ごめんなさい流美たん、デリカシーなくて。


「じゃあ、一応私達が予想する中では、神様の直接攻撃が可能性として残ってるわけだよね!」


「だな。けど俺はそれも関係ないと思うんだよなぁ」


「ガーン!」


「いやだって、時間制限があるのに神様が直接手を下す必要あるか?」


「……そうかも。必ず俊ちゃんの目の前でだったから、それかもって思ってて……」


 ズーンと、小動物みたいに落ち込むミコトを、三人で撫でる。俺も大概だが、他二人も向けてる目が人間に対するものじゃない。ペットを見る目だ。

 昇といい俺達といい、ペットとしか見てないのかミコトのこと。矢吹はいい進歩だと思うが。


「……よし。じゃあ一応神様が直接、何かしてるのか確認してみよっか」


「え? そんなこと出来んの? マジで?」


「花菱君忘れた? この学校には僕達以外にも、神様を知ってる人物がいるってこと」


 ミコトと流美たんも頷いて、俺は首を傾げる。ふむ? 後は昇くらいしか分からんけど。



「──どうした、お前達。今日は休日の筈だが、何故ここにいる」



 ……ああ、そう言えば生徒じゃなければいたな。フルサワ先生っていう、中等部の頃から矢吹を知ってるか何かで、俺同様矢吹の呪いに巻き込まれ──てるんだっけもう覚えてないや。同世代以外には興味ないのよねあたし。

 てか、先生が神様のこと分かるってことか……!?


「先生、ちょっといいですか?」


「ん? 何だ。花菱だけなら無視したが、この面々から用があると言われたら……断れないな。何があった矢吹」


 今一瞬、物凄い差別があった気がしたんだけども。まぁ、事情を知ってる矢吹・病弱な流美たんはもちろん、急に入って来たミコトのこともしっかり把握してるんだろう。

 この人は何気に仕事が出来る人だ。上から目線で褒めてつかわそう。


「花菱君の妹が呪われたんです。神様が直接何かしてるかも知れないって考えてるんですけど、知りませんか?」


 矢吹が、呪いのことも全く隠さずに伝える。

 そう言えばフルサワも呪われてるんだから、一緒にループしてるんじゃ?


「……花菱李々華か。なるほど、ここ三日全く時が進まないと不思議に思っていたが、そういうことか」


 ふぅ、とフルサワが溜め息を吐く。ほら、やっぱり知ってた。

 ──でもあれ? たった今思い出したけどこの人、初めて俺が死んだ時は、一緒に巻き戻されてなかったような。

 よく分かんない人だよな、本当に。


「……神様は何も手出ししていないって、ことですね?」


 全く別のことを考えていた俺とは打って代わり、矢吹達は真剣な眼差しをフルサワに向ける。今の矢吹の言い方だと、フルサワが神様みたいだぞ。

 けどフルサワは気にする素振りも見せず、


「そうなるな」


 と頷いた。いい加減、矢吹とこの人の真の関係が知りたい。


「呪いについてはよく分かっていなそうだな。本当なら直ぐ分かる筈なんだが……」


 フルサワが、チラッとミコトを見た。ミコトはそれに対して、萎縮したような態度。

 まさかこの先生、ミコトの招待が分かってるのか……? いや、矢吹が教えた可能性もあるか。


「花菱」


「えっ、はい」


「お前自分の妹のことなのに、ボーッとしていていいのか? 全く」


「いえ申し訳ない」


「妹は外出中か?」


「あ、友達と遊ぶって言ってました」


 今朝の会話を思い出して伝えたら、フルサワの眉間にシワが寄った。少し、悔しそうにも見える。錯覚でしょうこの人だし。

 再び溜め息を吐いたフルサワは、長い脚を組んで壁に寄りかかる。


「……そうか。だとしたら、恐らくまたループするだろう。調べておいてやるから、また次ここに来い」


「えっ、先生調べられんの? 初めからこうしたらよかったんじゃ……」


「俊ちゃん!」「花菱君!」「俊翔」


「おぇ?」


 同時に呼ばれて、皆呼び方に違いがあるんだなぁなんて思った。そんな呑気でいられる状況ではないというのに。

 流石俺バカ。これお約束。嫌〜なお約束。

 とまぁ名前を呼ばれたので、シャキッと三人の方を向く。流美たんは俯いていて、ミコトは何故か怯えてる様子。

 矢吹は一人、俺に真剣な眼差しを向けていた。


 「ほら、先生だって忙しいからね? 今回も、その忙しい中で三回もループしちゃってるんだもん」


 「あ、それもそうね。ご苦労様ですフルサワてんてー」


 「気持ち悪いなやめろその呼び方。本当に面倒なんだからな? 三度も同じことを指示され、同じ仕事を繰り返すのは。少なくともあと一日は同じことをする羽目になるしな」


 「嫌なことだけど、またループするって分かってるんなら、テキトーに済ませちゃえば?」


 「ループしない可能性もなくはない。雑に済ませて痛い目を見るのは私だ」


 「それもそうっスね」


 結局よく分かんないけど、神様が手を出してるってわけでもないらしい。

 段々、条件が絞れて来た……かも知れない。


 待ってろ李々華。

 絶対救ってやるからな!

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