4─1 新たな呪い
4章開幕です!!!
おはよ〜うございます。花菱俊翔でございますですどうもどうも。
今日はですね、普通に休日ですね。普通の休日ではないですけどね。まだ夏休みだから。
この長期連休の間は勿論、学校はない。たまに補習があって登校するけど今から暫くはない! 三日後にはあるけどな。
だから、矢吹と会うんだ。遊ぶんだ。というか、デートをするんだ。
楽しみで浮かれ過ぎて、微妙に眠たいのは我慢すればいいだけ。さーてと顔洗いに行きますかね!
「おはよう我が家族よ。足音うるさかったらごめんちゃいっとな」
まだ少し早めな時間なので、小声で挨拶。廊下に出て直ぐのとこでだから、聞こえてるとして部屋が隣の李々華くらいだろうけど。
男はデートに気を使うものさ。いつもよりずっとイケてる俺を魅せるために、念入りに鏡をチェックする。
──背後に李々華さんが突っ立ってた。いつの間にか。
「あの、正味な話ガチ恐怖なんスけど……。無言で背後に現れるのはやめてくれませんかね……」
妹に怯える兄というのも、変なものだ。しかも二つも下なのにな。
李々華は少しだけ眠たそうな表情で俺を見つめ、突如クスッとイタズラな笑みを見せた。嫌な予感。
「今日さ、矢吹さんとデートなんだっけ?」
「何故に知っておるのでございましょうか。俺、廉翔にも母上にも伝えてないんだが」
「瀬川さんが教えてくれたよ。『だから今日退屈なんだ〜』って」
「ミコト……! アイツの前で迂闊にデートの話題を出す訳にはいかないか。いやでも、教えなかったら教えなかったでまた川に戻ろうとする可能性も……」
難しいところだ。次からは釘を刺しておこう、「誰にも言うなよ」って。
まぁどっちにしろ、昼飯は外で食べるとか伝えるんだから皆察すだろうけど。ついでに何しに行くのか訊かれたら、デートって言う他ないし。
ニヤニヤし続ける李々華が不安でならないけど、準備するため部屋に戻ろうとしたら──
「私も行っていい? 矢吹さんともっと仲良くなりたいんだよね」
──至近距離でバズーカぶち込んで来た。妹が彼女とのデートに割り込もうとしてやがります。
絶対阻止する!!
「仲良くなりたいなら、昼休みにでもうちのクラスに来ればいいだろ。学校で。いちいちデートを邪魔しようとするな」
「邪魔はしないよ、矢吹さんと話したいだけだって。それと今学校は休みだし、昼休みを過ぎたら矢吹さんは早退するでしょ基本的には」
「矢吹のサボり癖どうにかならないのかなぁ」
「彼氏が責任持って更正してあげたら?」
「それが出来たら苦労しないんだよ。矢吹はマジメに授業受けたりもしないし、それでいて直ぐ何処か行っちまうし、気づけば帰ってるしで一筋縄じゃいかないんだよ」
「矢吹さんあまり注意されてるところ見ないけど、凄いね。中々いないよそこまでの人って」
「その所為で、人と関わろうとしない全方位氷の壁のミステリアス美少女とか呼ばれるんだろうなぁ」
「解釈的には私もそんなイメージだけど、そう呼ばれてるなんて知らなかった」
「ヤスダだけだしな、言ってるの」
他の生徒は矢吹が金持ちの娘ってこともあってか、中々話しかけられていない。遠慮しているんだ、お互いに。
矢吹は自分から話しかけるとしたら、俺か昇か流美たんかフルサワだけだし。
「まぁそれは一旦置いておいて、今日のデートに李々華は不要! 言い方は悪いけど来ないでくれ。俺は純粋に矢吹とラブラブデレデレデートを楽しみたい……」
「矢吹さんは『いいよ』って言ってくれたよ? ほら」
「何でええええええええええええ!?」
お前とセフィは何なんだよ!? 何で俺と矢吹の間に割り込みたがるの!? 矢吹は優しいからOKしちゃうけど、俺は断固拒否! 二人切りのデート最近出来てないし断固拒否!
「そうだよ! 今日はミコトが孤独なんだ、ゲームとかでもいいから相手してやってくれ!」
「早く着替えなよ、バカ兄。遅かったら置いてくからね」
「何で彼氏が置いてかれんの!?」
ああ……俺のオアシスよ。肌を焦がす暑さを吹き飛ばすような、彼女の笑顔を独り占め出来る筈だったのに、オアシスよ。
下手をしたら掻き乱されて笑顔を独占されるかも知れない。
「俺に何の恨みがあるんだよ李々華さん……。呼び名はバカ兄だし、何かあれば『キモい』だしデートは邪魔するし……」
矢吹との久し振りの、二人切りのデートだというのに気分が上がらない。気が乗らない。全く楽しみじゃなくなった。
でも、矢吹が許可してしまったのだから、受け入れるしかないんだよな。これからの状況をさ……。
ショックで覚束無い足取りのまま、部屋に戻った。デートなのに気合いを入れる気にもならない。
♠︎
「矢吹はもう駅についてるっぽいな。李々華もちょっと捜すの手伝ってくれ」
「分かった。矢吹さんってどっち方面から乗って来る?」
「鵬路町の方からだから…………向こうだな」
「間が長いんだけど」
普段使わないルートなんて覚えないからなぁ。掲示板で確認したんだよたった今。ごめんちゃーい。
クルクル回りながら愛しの矢吹を捜していたら、人混みの先でキョロキョロしている灰色の頭を見つけた。わっかりやすいな俺の彼女。
「李々華、矢吹見つけた。この一斉移動が落ち着いたら近づこう」
「あ、じゃあ先にメッセしとく。何もなければどっか行っちゃうかも知れないし」
「おう頼んだ」
やはり物凄い違和感。隣に実の妹がいる状況でのデートとか正気じゃないだろ。夜に二人でベッドに腰掛けながら、「ペット連れて来ちゃった」とか言ってんのと似たようなもんだ。
今ので思い出したんだが、世の中にはぶらぶらしててペットに噛まれたって人もいるらしいな。気をつけろ男性諸君。
そうこうしている内に流れは穏やかになり、矢吹の姿をハッキリ捉えることが出来た。ついでに目が合う。
「おーい矢吹! おはよう、今日もサイッコーにラブリィだぜ!」
「ありがとう。李々華ちゃんおはよう、今日は一緒に楽しもうね」
「おはようございます。すみません、どうしても矢吹さんと会いたくて」
「嬉しいなぁ、ありがとう。じゃあ行こっか」
仲間睦まじく手を繋ぐ二人を見つめて、何だか虚無感に襲われた。よく分からないけど泣きたくなって来た。
……そうか矢吹。彼氏である俺への反応は一秒くらいで済ませてしまうのか。
李々華に矢吹を取られた気分で、三人での不思議なデートに駆り出す。まずは矢吹リクエストの、雑貨屋に向かった。
「新しいグッズが出たんだよねぇ、『ネッチュー』」
ぬいぐるみコーナー的なエリアで、矢吹がお怒りマークだらけのネズミを持って来た。とても恐ろしいデザインであります。
「……ネッチューって何だ?」
「知らないの? 四年前くらいに少女向けのキャラクターとして作られたんだよ。結構人気で、テレビ番組とかでも取り上げられてるのに」
「あ、あまりテレビとか見ないからな」
もう一度、今にも首を締めて来そうなネズミのぬいぐるみを見てみる。これが少女向けだと……? しかも人気だと!? 今時の少女達の趣味は分からないな。怖ぇよこんなん。
激おこプンプン丸とかそんな可愛いもんじゃない。テメェら皆殺しじゃボケェだよ。
「李々華ちゃんもいる?」
「あ、いえ。私はぬいぐるみは大丈夫です」
「そっか」
李々華は完全にドン引いている。矢吹、君の趣味を理解出来る者はそれ程多くはないと思うよ。それ可愛くもないもん。
正直なところ、本当に人気なのかも気になる売れ残りの数。いつ入荷したかは知らんけど。
「あ、そういやミコトに枕買ってやるんだった。矢吹、悪いんだけどちょっと待っててくれ」
「うん、いいよ。僕は李々華ちゃんとお話してるから」
李々華と何を話すのか気になるとこだけど、お許しが出たのでさっさと寝具コーナーに行こう。ミコトは髪の毛赤いから、おふざけ感覚で赤いのでも選ぶかね。
寝てるとこを見かけたら溶け込んでて禿げてるように見える! とか。……そんなのどうやったって無理なのは俺でも分かる。
「よし、元々買おうと思ってた分は買えたな。俺的には大満足。矢吹と李々華は他にないか?」
「大丈夫だよ。僕も欲しかった物は買えたから」
矢吹はネッチューグッズを幾つか見せつけて来る。うん、矢吹は可愛いな。矢吹はさ。
一つくれたけどあまり嬉しくないかも知れない。
満面の笑みな矢吹の先で、何かをじっと見つめる李々華が視界に入った。正面にはアクセサリー売り場が。
何かあそこ外装凝ってるな。占い舘かよ。
「李々華、何か欲しいもんでもあったのか? 値段にも因るけど買ってやるぞ?」
「あ、うん。このネックレス欲しいかな」
李々華が指を差したのは、少し濁ったエメラルドといった感じの宝石がついた物だった。チェーンの部分はまさかの金で、これまた濁った色をしている。
何と言うかまぁ、綺麗とは言い難いネックレスだった。
隣にある類似したものなら、綺麗なんだけどな。本人がそれがいいならそれでいいけども。
「んじゃあ払いに行くか、李々華。このくらいの値段ならまだ余裕ある」
「ありがとうバカ兄、絶対大事にするね」
「……おうっ」
珍しく素直な笑みを浮かべた李々華に、少し戸惑った。けどそれをニマニマ見て来る矢吹に羞恥心が溢れ出て、必死にポーカーフェイス。
矢吹って、こういう場面でもからかって来るんだなぁ。新たな一面を発見! 花菱隊員帰還します!
支払いを終えて外に出ると、李々華は直ぐに立ち止まった。俺も矢吹も、何やら首の後ろら辺で手をモゾモゾさせてる李々華を見つめる。
「あ、ネックレスつけてんのか」
「うん、似合う?」
李々華は首に下げたネックレスを見せつけて、華やかに笑う。普段は仏頂面な妹のこんな顔を見れて、兄としては非常に満足だ。似合っていない訳もない。
「凄くよく似合ってるぞ、李々華」
「キモい」
「何で!?」
「李々華ちゃん可愛いよ〜」
「ありがとう矢吹さん。でも、矢吹さんはその何倍も可愛いですからね」
「えっ、そんなことないよ?」
「よく分かってるじゃないか李々華」
「キモい死ね」
「だから何で!?」
さっきまでめちゃくちゃ可愛かったのに、悪魔に一変してしまった我が妹。やはり俺の妹があんなに可愛い訳がないのか……!?
容姿はね、非常にレベル高いと思いますよ。実を言うと母上も美人なんで、遺伝なのかもな。廉翔はアレでもイケメン野郎だし、俺くらいだ母上似じゃないのは。
父上すまん。
ここから先は、俺のリクエストでサイエンスワールドというナンタラカンタラで遊ぶ。チケットは事前に二人分取っておいたけど、当然李々華の分がない。だから仕方なく俺の分をその場で買った。
今日無駄に出費多くない!? 俺の矢吹に貢ぐ金が無くなるよ!
「だから僕はお金沢山持ってるんだから貢がなくていいからね!?」
「そうだった、前にも注意受けたんだった」
「忘れるの早いよ花菱君。お金が必要な時は僕を頼ってくれていいからね? 僕は花菱君のために使いたいから」
「いや、それは男のプライドが許さなくて……。でももしアレなら、本当に非常事態な時に限り借りることにする」
「借りるんじゃなくて貰うの!」
「はい、承知致しました」
何で帰り道で金の話してるんだろう俺ら。送りながらこんな会話してて、矢吹が嫌な気分にならないか不安でならない。もう金についてはなるべく喋らないことにしよう。
ずっと冷ややかな視線を感じると思ってたけど、それはちょっと先で立ち止まっていた李々華のものだった。何だよ、キモいとか言うのかまた!
「二人って、誰かの為に破産しそうだよね」
「そ、そんなことないしぃ?」
「そうだよ、流石にそこまでは……ね?」
「ねぇ?」
「普通にやりそうで怖いんですけど。まぁとにかく、駅に着いたし、矢吹さんまた今度遊んでくれますか?」
「うん、遊ぼうね。じゃあまたね二人共」
「おう! またな矢吹!」
三人で手を振って、一風変わったデートは終了。後は家に帰って熟睡するのみ!
──そう思った時だった。
「あっ……う……うぐっ……!?」
「李々華?」
「えっ?」
李々華の異変に気づいた矢吹も、足を止めて振り返る。李々華は胸の辺りを握り締めていて、まるで何か苦痛に襲われているかのようにもがき始めた。
「はっ……ぅぅうっ! カハッ……」
「えっ!? ちょっと待て李々華!?」
「李々華ちゃん!?」
駅の中で倒れた李々華は、抱きかかえた時にはもう──息をしていなかった。
目を見開いたまま、口を開けたまま、涙を流して微動だにしなくなる。まるで、死んでいるかのように。
──いや、本当に死んでしまっていた。
「おい、何で……急にどうして!? 李々華が何か病気持ってるとか聞いたことなかったぞ!? というか俺よりも健康だったし……」
「待って花菱君! これ────」
途中で矢吹の声が聞こえなくなって、抱えていた筈の李々華もいなくなっていた。それどころか俺は上向きに寝転がっていて、宙を掴んだ。
視界には見覚えのある天井に電気。
「俺の、部屋……?」
死に戻りした訳でもないのに、自宅に戻っていた。何がどうなってるのかよく分かんないまま廊下に出ると、ほぼ同時に──隣の部屋から李々華が出て来た。普段はつけないアクセサリーが様になっている。
更に訳分からんくなって来た。李々華は、死んだんじゃないのか……?
俺が、死に戻ったのか!?
「ねぇ、バカ兄。今日の矢吹さんとのデート、ついて行ってもいい?」
どうなってんだよ、これ!?




