3─16
昇が三等賞。矢吹が普通に景品。流美たんもセフィもミコトも普通に景品。
俺は──
「はい、これで終わりね。残念だったねお兄さん、またチャレンジしに来てくれよ」
「ど、どもっした」
一個も取れずに完敗。皆の方に顔を向けるのが嫌だ。どんな表情してんだろう見たくもない。
と言っても戻らない訳にもいかないから、射的屋台の銀髪お姉さんに挨拶して、五人の元へ歩いて行く。
「えっと、ダメでした」
無言が一番嫌なので、ひとまずテヘペロしてみる。コクンと、流美たんが反応してくれた。
「見てたから分かる」
「ですよね」
「安心して花菱君。セフィだって簡単な飴だったから」
「俺は当たりもしなかったのよ」
「む、難しいから仕方ないよ! 僕は大きめなの狙っただけだし」
「よく取れたな縫いぐるみなんて」
「俊ちゃん、自信があったんじゃ……?」
「やめてくれミコト。今そこを指摘されるとダメージエグいから」
「だっさ」
「昇おおおおおおおおおう!!」
クソ、否定は出来ないけどそんなバカ正直に言わなくてもいいじゃん。実を言うとカッコいいとこ見せたかっただけで、射的初挑戦だったんだから。
……あ、違うな。小学四年生の頃に一度だけやって、その時も全く当たらなくて拗ねたんだった。
因みに、俺以外は昇を除いて初挑戦だったらしい。更に何か削られた気分。
「ん、次はどうする?」
「あ、そうだな。一通り行きたいとこは回ったって感じで……あれ? 流美たん日傘いいの?」
さっきまで差していた日傘が、手に握られているだけだ。陽に当たり過ぎると死んでしまう呪いなのに、大丈夫なのだろうか。
流美たんは空を仰ぐと、小さく頷いた。
「曇ったから。これなら陽に当たらない」
「そっか。にしても急な曇り空だよなぁ」
チラッと矢吹・昇・ミコトを見たら、全員揃って神妙な顔つきになった。よかった通じたみたいだ。
今のは「これは神様の仕業だから警戒しよう」って意味だったんだ。セフィがいるから迂闊に言葉に出来ないのよ。
あの焼き尽くすような快晴は、流美たんを呪った神様のだ。でもこの曇り空は、矢吹を呪った十字仙山の神・トオノミノによるものだろう。
流美たんを呪い殺すなら陽射しが不可欠。それを遮るなら別の誰かの所業と考えられる。
「暑いよりはいいんじゃない? 少し休憩してまた遊ぼうよ!」
俺らと相対して呑気なセフィ。まぁ、呪いのこと知らないから当然なんだけど。
でも、何でだ?
「陽射しがなくなってよかったのに、休憩するの?」
「え、しない? 流石にこのままぶっ通しはキツくない?」
「いやキツいっちゃキツいけど……」
「なら決まり!」
セフィの強引過ぎる提案を受け入れ、俺達は日陰で腰を下ろす。
……俺達、サッカー部じゃん。矢吹とミコトを除けば、かなりスタミナはある。炎天下でなければ流美たんも。
なのに、もう疲れたのか? 部員の中でもスタミナモンスターのセフィが? 何だかしっくり来ないな。
「んじゃ、また五時くらいにここ集合で!」
「いやいやいや待ってセフィどゆこと? 一回別れんの?」
「うん。セフィこの後ちょっと用事が入っちゃってさ。なるべく早く戻って来るけど、ごめんね!」
「あ、おい!」
セフィは自慢の足と反射神経で人混みを素早く抜けて行く。もう見えなくなってしまった。人で。
自分で一緒に祭り行きたいとか言っておいて、用事が入ったってどういうことよ。しかも細かい説明もないし。
ボケッとセフィの行った道を見ていたら、いきなり手首を掴まれてめちゃくちゃビビった。心霊の類いかと思ったじゃん昇さん。
「いちいち気にしていてもしょうがないでしょ。用事が入っちゃったってことは、自分でも予測していなかった急用ってことなんだから」
「そ、そうだよな。じゃあ俺達は俺達で、セフィが言ってた五時まで何かしてよう。それか休憩」
「五時過ぎたらお夕飯食べるつもりだし、その時でいいんじゃない? 休憩は」
「それもそうか。何か提案ある人」
「俊翔も少しは考えて」
「ごめん」
確かに俺、全部人任せだったな今日。よし、パンフレットをチェックしてみよう。
まず、五時から八時にかけては屋台がキツキツセマセマになるだろう。皆食べ物買う筈だから。だとしても今から買うと早過ぎて、五時頃には冷めてしまう。だからご飯は後回し。
特に特別なイベントとかもないみたいだな……。
「なぁ昇、暇だぞコレ。五時から飯食うとして、六時からは夜の山車とかが見れるし花火もあるけど、この時間帯あんまやることない」
「言われてみればそうかも。そうだ、ちょっと早いけど御神籤でも引きに行かない? この先の階段を上って行けば神社があって、売ってる筈だから」
「……神社」
俺とミコト、そして矢吹で顔を見合わせる。この先の階段とは、十字仙山のはみ出した部分にある百段程の階段のことだ。神社はその上にある。
そして俺とミコトは今朝そこで、神様の攻撃と思しき突風により、落下した。
「神社ってことだし、あそこにトオノミノ神がいないとは言い切れないもんなぁ……」
「うん、気をつけて行こう」
昇だけは話を聞いていないので、不思議そうな顔をしている。でも考えてみてよ昇、アソコ一応十字仙山だぜ? 分かるだろ?
ま、メンドーだから言わないんだけど。
「にしてもこんなとこで御神籤売ってるってどういうわけ? 神社だからなんだろうけど、もっと低い場所でもよかったじゃんね」
何もなく神社まで辿り着いたら、人が思ったより沢山来ていた。トオノミノ神も神様だから、関係のない人間を巻き込まないようにしてるってことか?
台風とか交通事故とか平然と起こす癖に、今さら神様面してんじゃねーぞ。
「つーか昇がここ見てくれってリクエストした理由、御神籤引きたかったからなのか」
「うん。私必ず御神籤引いてたんだけど、今年は神社でって聞いてたから」
「え? 昇今まで御神籤買ってたっけ?」
「うん、記憶を失ってからはね。お守りも買ってたの」
「あ……」
少し寂しそうに微笑む昇から目を逸らす。こんな態度よくないって分かってても、目を合わせられなかった。
中二からの二年を思い返せば、六時頃になると昇は必ず何処かに向かっていた。それがきっとそうだったんだ。
「昇ちゃん……」
「あ、ごめん瀬川さん。貴女のせいじゃないの。ただ、もうあんな風に死ぬのは怖いから」
「うん……」
涙目で落ち込むミコトを、昇が子供をあやすように頭を撫でる。何だかどっちも可愛いなんて胸キュンした俺は不謹慎。嫌だけど頭を丸めるべき。
最近毛根ピンチになりまくってね?
「梅原さんは、瀬川さんの川で……なんだっけ」
「あ、そうか流美たんはあまり詳しく知らないもんな。後で、家ででも昇から聞いてくれ。連絡先は持ってるっしょ?」
「うん、部員仲間だし」
そりゃそうか。──いやそれは違うでしょ。だったら貴女俺と小長屋先輩以外の男子とも交換しなさいよ。小鷹先輩と叶都パイセンと入谷先輩の連絡先持ってないんでしょ? 確か。
アレ? 小鷹先輩のは持ってるんだっけか。それと小長屋先輩は部員じゃねーや。
「はい、シュン。コレあげるからあんたも御神籤引きなさいよ」
「お? マジ? 女の子に金貰うとかちょっと気が引けるんだけど」
「つべこべ言うな!」
「いった!? お前、今のもうちょい前だったら金的……」
「うるさい!!」
二度尻を蹴りあげられて、ヒリヒリする患部を摩りつつ御神籤売場へ。矢吹と流美たんも興味があるみたいでついて来るけど、ミコトはじっと動かない。
……何だよ、あいつ。全然楽しそうに見えないじゃねーか。
「大吉。健康運が良い感じ」
「おっ、流美たん流石じゃん。俺にも運分けてよ」
「僕は吉。恋愛運が『サイコー』って書いてある」
「マジで!? 何か不安になってきたぞここの御神籤」
「花菱君は?」
「大凶」
「逆に凄いね!?」
驚き桃の木あと何だっけ。まぁいいや何でも。とにかく自分が一番衝撃を受けております。何だ大凶っておい。
「事故に気をつけろって書いてあるな。コレ、フラグか? 神様が事故起こすとかそんな感じの前触れかコンチクショー」
「で、でも所詮御神籤だし! 紙だし! 気にしないで花菱君!」
「神社で売り子さんもいるのにそれはどうなのよ矢吹さん」
俺を励まそうとしてくれるのは素直に嬉しいけど、背後の巫女姿のお姉様方からの圧がスゲーのよ。「何で買ったんだよ」って。
自分の御神籤を設置してあった物に結んで、背伸びする。視界の端で、昇が御神籤をじっと見つめてた。
「どうだった? 昇。欲しかったんだろ? お守りも買えた?」
「あ、うん。えっと、御神籤は小吉だった。あまり良くないかもね」
「あーマジ? そりゃショックだわな。ま、でも俺は大凶だったから全然良い方だと思っとけばよし」
「大凶なんて本当にあるんだ……」
結局、昇は俺同様紙を結んだ。それ程残しておきたくないことでも書いてあったのだろうか。俺も車とか気をつけよう。
ところで、階段の前で立ち止まってるアイツは何をしてるんだ? 折角の祭りなんだから、御神籤くらい買えばいいのに。
「ミコト、金やるから引いて来いよ。そんなんじゃ暇潰しすら出来ないぞ」
「あっ」
まるで心ここにあらず。ミコトは俺が至近距離で話しかけるまで微動だにしなかった。
階段の前でストップってことは、
「まだビビってんのかよ、昇に呪いかけたこと。もう気にすんなって言ってるだろ。まず昇の呪いは消えたんだし」
「あ、うん……。気にしないようにしないと、昇ちゃんに失礼だもんね」
「そういうこと。で、御神籤どうする?」
「私は、元々神様だったし、いいかな」
「宛にならないってことでおK?」
「ん? う、うん」
自分の運勢とか、微妙に分かったりしてるってことなのか? 宛にならないって言えるなら。
たまに聞くけど、めちゃめちゃ的中する御神籤とか何処かには有るらしい。一度でいいから引いてみたいな。高そうだけど。
「あ、そうだ。俺も新しくお守り買っておこう。矢吹と昇と流美たんと……ミコトを守り切るために」
「俊ちゃん……?」
「何でもない行って来るお前は昇のとこいろバイビッ!」
直接言うのってやっぱり恥ずかしいな。逃げちゃったじゃん。
──でも、冗談や軽い気持ちで言ったんじゃない。もし、ミコトが神様を辞めたことに納得がいっていない神様がいたら、腹いせにでも呪いをかける可能性もある。だったら普段から守るつもりでいた方がいい。
どんどん守る相手が増えてくけど、大丈夫だろうか俺。
「やっほ、バカ兄」
……………………お?
「李々華!? お前一人で来たのか!?」
「悪い? 誰もつかまらなかったの」
五時を過ぎて空が薄暗くなった頃に、我が妹とエンカウント。昇と矢吹、そしてセフィはニコニコ挨拶。ミコトは手を振ってる。
流美たんだけは、キョトンとして俺を見ている。会ったことないもんね、確か。
「俺の妹、李々華。中等部二年だから、たまに校内ですれ違うかも。よろしくしてやってくれ」
「よろしくお願いします。谷田崖先輩のことは、有名なので知ってます」
「よろ、しく」
李々華の方は流美たんのこと知ってたのか。でもサッカーと言ったら流美たんだし、嫌でも耳に入るくらいは広まってるしなぁ。
んでさ、兄妹感動の再開中にさ、少し先でピースピースしてるバカ二人いるの腹立つんだが。
「コタケ、ヤスダ! いちいち視界に入ってくんじゃねぇ!」
全く嫌ではないけど、悪態つきながら友人達の元へ進んで行く。背後で五人分程の溜め息が聞こえたけど、コタケ達を無視するのも変なので一旦スルー。
「いいなぁハナシュン、お前両手どころか全身に花状態じゃん」
「うっせー、マジ最高だよ。お前らはむさい男二人で寂しくお祭りに来たんですくわぁ?」
「花菱うぜぇその顔っ! 俺らは俺らで楽しんでるんだからいいだろ?」
「まーな! んじゃあ俺戻るから、目一杯楽しんで来いよ二人共! 男だけで!」
「「うっせー」」
男三人アホみたいに笑い合って別れる。二人の背中を見送って思ったことは、「身長差スゲェ」だった。コタケがデカい。
「ちょっとシュン、あんた矢吹さんいるんだからね?」
「悪い悪い、分かってるって。でもたった二人の男友達をスルー出来ないっつーか」
「いいよ、大丈夫。僕らももっと楽しも。そろそろお夕飯食べない?」
「結局食べること優先なのね矢吹」
「違うから!」
ぷんぷん怒る矢吹は可愛いけど、いつ脛を蹴られるか不安なので意地悪はやめておこう。女の子相手に大食い~って言うのはやっぱマズいよね。
それとさ、昇が不満気にしてて流美たんの瞳がブリザードでセフィが頬っぺ膨らませてるから。あまりイチャイチャもしてられない。
お好み焼きでも食べよっか、皆で。
そこに売ってるし。




