3─14
わー、綺麗。手持ち花火みたいなバーッて火が出てるのを振り回して踊ってるよ。コレは初めて見たし、新しく考えたのかな?
つーか危なくないっスかそれ。
「何か、凄かったね花菱君」
矢吹が最早ドン引きしてるレベルに目を見開いている。分かりやすく言うと呆然。
目だけは虚ろな世界に入り込んでしまった様だ。
「確かに凄かったな色々。でも早めにここから離れよう、煙が凄いから」
「そ、そうだねそうしよう。まだ食べたいのいっぱいあるし」
「あ、そういう問題? 俺的には煙は有害だからって意味だったんだけど。そんでめちゃくちゃ熱いしここ」
「分かってるよ! 僕がそんなに食い意地張ってるなんて思わないで!」
「さっきの今でそれは難しくないですかベイベー」
早足でフランクフルトの屋台へ向かう矢吹を追う。よくもまぁ、人混みの中そんなスムーズに進めるもんだ。
現在俺は矢吹と二人切りで行動している。昇達は、わざわざ気を遣ってくれて、どっかに行った。
「お、あのコ可愛くね? え、ヤバ。芸能人でもあのレベルは中々ないっしょ」
「声かけに行く?」
──矢吹を横切った男二人の会話に、敏感に反応した。思わずそっちに目を向けたが、こんなとこで面倒事は嫌だから即座に視線を戻す。
今更だけど、矢吹は人とすれ違う度に振り向かれる程に美少女だ。彼女が可愛いのは嬉しいんだけど、この場合警戒心が余すとこなく膨張する。
半ば焦り気味に矢吹の手を取った。
「えっ。……花菱君? どうかした?」
一瞬驚いてたけど、矢吹はキョトンと首を傾げただけだ。少しも嫌がられてないのが幸せ。
なんて普段ならエデンな気分に浸れるんだろうけど、あんな会話聞いちゃったから余裕がない。
「えっと、人が多いし逸れる訳にもいかないから、手を繋いでたいなぁなんて……」
「あ、確かに。さっきまで無我夢中だったから気づかなかったけど、もうこんなに人いるんだね」
隙間も殆どないくらいの人にも気づけない程、食うことに没頭していたのか君は。
「うん……手、繋いでいよっか。僕も花菱君と一緒に居たいし」
照れ臭そうに笑う矢吹を、真なる女神に錯覚した。殆ど全ての女子が天使と思える俺でも、矢吹は本当に可愛い。
なのにそんな顔されたら、抑えが利かなくなってしまうじゃないか。ベッドインしたくなっちゃうよ。
「あ」
煩悩退散! と念じていたら、隣で矢吹が小さく声を出す。それからモジモジしながら繋いだ手を見つめる。
「どうかした?」
「あの、僕の手油とかで気持ち悪くない? 大丈夫? あと緊張して汗とかも酷いかもっ!」
「いやいや、別にそんなの気にしないし、毎回丁寧に拭いてたから大丈夫でしょ」
「でもフランクフルト食べたし! その前はたこ焼き、大判焼き、チョコバナナ、わたあめって食べちゃってたし!」
「もうそんな食べてたの貴女」
驚いたよ。ずっと近くに居た筈なのに気づけなかったよ。購入してから消化するまでが早いっスね。
にしてもやっぱり手汗とか気になっちゃうか。俺は俺で気にしてなかったけど、言われてから大丈夫かな? って不安になってきた。
おっともう集合する時間になる。遅れたらうるさそうだし、早めに行かなきゃな。
「矢吹、ここら辺でまだ何か食べたいのあるなら、買っておこう。もうそろそろ昇達と待ち合わせの時間になるから」
「あ、じゃありんご飴とお好み焼きといか焼きと焼き鳥買っていこ。花菱君も一緒にどう?」
「いや、俺は知っての通り少食でして、あまり早めに食べるとお腹がつらいと言うか。てかりんご飴とその他一緒に食えるって貴女凄くない?」
「そう? 普通だと思うけど」
普通ではないでしょ、特に量に関しては。
思ったことを口に出すのは、時には相手も自分も傷つける諸刃の剣同然。だから黙っていたんだけど、矢吹からの追い討ちが発生した。
「夜になったらかき氷食べるんだ。前に瀬川さんに町案内した時も食べたけど、やっぱりお祭りの夜に食べるかき氷は格別に美味しいから」
「なるほど」
それしか言えなかった。まだまだ食べるつもりでいらっしゃるわこのコ。胃袋の構造マジで知りたい。その小さい身体の何処に入ってるのよ?
俺はそこそこ大きく育ってるけど、ナマケモノみたいに少食だよ。俺の胃のサイズってどうなってるんだろう。エネルギー何から得てんの?
色々不思議な点に疑問を抱いたけど、矢吹が買い物を始めたから中断する。考えても無駄だと思うけど。
──んで、矢吹は温かい内に食べておきたいらしく、全て食べ終わるのを待ってから集合場所に向かいました。
ら、
「十分も遅れてるよ二人とも。谷田崖さんがいること、忘れてない? 長時間日向にいさせたらマズいんだけど?」
「「ごめんなさい」」
昇がオコだった。いやん怖い。でも俺達が悪いんで素直に頭を下げておく。
正直、流美たんがいたことは覚えてたけど呪いのことは忘れてた。俺達の方のも。注意しておくって決めたじゃんかよ……。
「じゃあ、この後どうする? まだ三時だけど。やっぱ昼からは早過ぎたか?」
何時まで遊ぶのかは知らないけど、きっと夜まではここにいる筈だ。だとしたら何とか時間を潰さなければ、ただ暇な時間になってしまう。
「そうね、食べ物ばかりも変だし遊びましょ。何かやりたいのない? 私とシュンは優先しなくていいわ、何度も来たことあるし」
「そうだな、ほぼ初めての他四人が行きたいとこでいいよ」
昇の案に賛成する。賛成はするけど指摘しておきたい部分もある。
優先しなくていいって、もし俺が本気でやりたいことあったらどうしてくれんのよ。勝手に決めんといてくれぃ。
矢吹達四人は揃って唸る。唸り過ぎで、変な集団に見えないこともないだろう。
「僕は基本食べ物目当てだったしなぁ」
「知ってる」
「花菱君は僕のこと、絶対食い意地の張った女の子って思ってるよね!」
「滅相もございません」
矢吹に詰め寄られて、思わず目を逸らす。こんだけ顔近いと流石に照れる。
次に声を出したのは流美たんで、
「私は、何か賞品が貰えるものをやってみたい。例えば、射的とか」
「あーなるへそ。確かに今回まだやってなかったな。ちょい待ち、パンフで探してみる」
んーと、パンフレットによるとここからは結構離れてるな。その間に金魚すくいとかあるけど……
「あ、セフィこれやってみたかったんだった! 金魚すくい! でも飼えないんだよなぁ」
強引に覗いてきたセフィが、パンフレットにある金魚すくいの屋台を指差す。まぁ飼えなくても戻せるからな。
「やるだけやって、取れたら戻してやればいいと思う。屋台の人も助かるし、楽しむだけが目的ならそれでいいんじゃね?」
「え、それ有りなんだ!? じゃあそうする! 明るい方が取れそうだからもう行かない?」
「何で明るい方が取れそうなん?」
「暗いと見えにくいかなって」
流石に屋台は電気点いてると思いますが。見たことないことはないよね? 昔はここに住んでいたんでしょ?
さて、最後はずっとオドオドしているコイツだ。全く世話の焼ける。
「ミコト、何かやりたいもんあるか? 分からないならパンフレット見ていいから、ほい」
「あ、ありがとう俊ちゃん。えっと……」
時々流美たんをチラ見しているから、きっと呪いのことを気にしているんだろう。でも気にするくらいなら、早めに決めてさっさと移動しようぜ。
ミコトはハッとして俺の顔を見上げる。いま気づいたけど、ミコトこの中で俺の次に身長高いんだな。
「コレ、昔俊ちゃん達が持ってたの見たことある! 私もコレ欲しい!」
「ヨーヨーか。確かに、な」
昔、祭りの帰りに、ミコトがまだ神様だった頃の小川に寄ったことがある。そこで俺と昇は、ヨーヨーで殴り合いのじゃれ合いをしてびしょ濡れになった。そんで帰り遅くなり過ぎて母上に怒られた。
ミコトにとってはあんな二人遊びも、三人遊びだったんだ。
「ん? 何、シュン。急にこっち見て」
「……いや、何でもない」
──そして昇はもう、その記憶はない。
「一般的には、思い出せないだけ。でも神様の力でだから……」
昇の記憶が戻ることは、きっとない。それは過去の思い出を笑い合うことも出来ないってことだから、凄く悲しい。
だけど昇本人は、今のままがいいと言っているんだ。記憶が失くなる前の思い出より、失くなった後のことを忘れたくないからって。
「どうしたのよ? たくっ、早いとこ移動しましょ。一番近い金魚すくいからでいい? 皆」
「うん!」
ご機嫌なセフィとミコトを連れて、昇が歩き出す。流美たんが少し遅れて反応したのは、暑さで身体が弱ってきている証だろう。向こうに日陰あるかな。
「花菱君、何か様子がおかしいけど、どうかした?」
「ああ、矢吹。別になんてこたないんだけど、さっき昇の記憶のこと思い出しちゃって」
「話し合いで出てきたこと?」
「うーん、そうっちゃそうかな。昔、昇とコタケと三人で祭りに来てたことをなんだけど」
「あっ……」
矢吹はそれだけで察してくれたみたいだ。
ミコトのことを責めたくない理由に実は、あいつにとっては俺達が、幼馴染みで友達だったのと変わらないって知っているからなんだ。
友達に嫌われるのは、本当に嫌だ。その怖さは俺自身よく知ってる。
「行こう矢吹、俺が結構器用だってとこ、見せてやるから!」
「うん、頑張って! 手先だけはそこそこ器用だもんね」
「だけ、は要らん!」
自分を無理やりにでも鼓舞して、昇達の後を追う。矢吹と手を繋ぐことは忘れない。
既に取り返しがつかなくなったことを考えたって時間の無駄だ。だったらこれからの昇をどう楽しませるかを考えた方がいい。
もう、目の前で誰かが死ぬなんてごめんなんだ。
「うううう~! 難しいっ! 全っ然取れないよ金魚~」
「追い回すだけじゃ取れないわ。何でそんなに強引に行っちゃうの? 濡らし過ぎたらポイが破けちゃうでしょう?」
「勢いでどうにかならないかなって」
セフィの根性論というか何と言うか、とにかく今の言葉を聞いて直ぐに何か言える者はいなかった。屋台のおっちゃんも隣のjSも含めて。
マジで脳筋疑惑が浮かび上がって来たよセフィ。容姿は超絶美少女、声は鈴の音程に美しいが、性格はごり押しタイプだった。
サッカーでは守る方が得意らしいけど。
「セフィはお淑やかじゃない」
「流美ちゃんっ!!」
静まり返ったとこに流美たんの不意打ち追い討ち。セフィが羞恥でか真っ赤になっている。哀れなり、仮カノ。
「んじゃあ次流美たんとミコト挑戦してみ? お前ら三人が取った合計を、俺が上回ってみせるから」
「は? あんたそんなに上手かったっけ?」
「ハッハッハ昇よ。ああ昇よ。それは野暮というものだ」
「あっそ。はぁ……」
何か思うものがあるのか、昇が深い溜め息を吐く。その間に、ミコトと流美たんがおっちゃんからポイを受け取った。
さぁ、二人の腕はどうかの? ミコトに至っては、今どんなものか教えてもらってるレベルで初心者だけど。なるだけ正確に言い換えれば金魚すくい初対面だけど。
「取れた」
「早いな流美たん。こういうのって得意だったりする?」
「あまり。今日は運がよかったのかも」
運動神経は常人離れしている流美たんだし、金魚すくいとかもパパッと出来てしまうのかも。このままじゃ大量ゲットになってマズいのでは!?
──と思ったら、二匹目にして流美たんのポイは破けた。内心ホッとした俺。
「失敗。私一匹」
「ま、いいんでない? 普段取れないならちょっと嬉しいもんっしょ?」
「うん、嬉しい。私は身体が弱いからサッカー以外で外に出してもらえることが殆どなくて、友達と遊ぶのも中々ないから」
「そりゃよかった」
金魚取れたことより、俺達と遊べることの方が幸福らしい。いいコだ。そして可愛い。滴る汗がエロい。
「んでもってこっちは……」
「わっ、わっ! どうしたのかなこのコ達。凄い寄って来る!」
「何その状況!?」
流美たんの脇で同じく金魚すくいに励むミコト。励んでいる……のかな。アレ。
何か水バシャバシャ弾きながら、金魚がミコトの方に集まっている。まるで餌を投げ入れられた直後の鯉みたいだ。流石に気持ち悪い。
「おおっ!? 逃げない! このコ達逃げないよ俊ちゃん!」
「どういうこと!?」
次々と、金魚達はミコトに掬われていく。でもどちらかと言えば、金魚が自らポイに乗っている様に見える。コレはどゆことやら。
──あ、まさか。
「凄い、取れたけど、こんなには連れて帰れないなぁ」
一匹一匹丁寧に戻される金魚は、全てミコトを見つめている。多分だけど。
まさか、さ。
金魚達、ミコトが元川の神様って気づいてるんじゃね?




