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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第三章 川の神の戯れ
63/92

3─14

 わー、綺麗。手持ち花火みたいなバーッて火が出てるのを振り回して踊ってるよ。コレは初めて見たし、新しく考えたのかな?

 つーか危なくないっスかそれ。


「何か、凄かったね花菱君」


 矢吹が最早ドン引きしてるレベルに目を見開いている。分かりやすく言うと呆然。

 目だけは虚ろな世界に入り込んでしまった様だ。


「確かに凄かったな色々。でも早めにここから離れよう、煙が凄いから」


「そ、そうだねそうしよう。まだ食べたいのいっぱいあるし」


「あ、そういう問題? 俺的には煙は有害だからって意味だったんだけど。そんでめちゃくちゃ熱いしここ」


「分かってるよ! 僕がそんなに食い意地張ってるなんて思わないで!」


「さっきの今でそれは難しくないですかベイベー」


 早足でフランクフルトの屋台へ向かう矢吹を追う。よくもまぁ、人混みの中そんなスムーズに進めるもんだ。

 現在俺は矢吹と二人切りで行動している。昇達は、わざわざ気を遣ってくれて、どっかに行った。


「お、あのコ可愛くね? え、ヤバ。芸能人でもあのレベルは中々ないっしょ」

「声かけに行く?」


 ──矢吹を横切った男二人の会話に、敏感に反応した。思わずそっちに目を向けたが、こんなとこで面倒事は嫌だから即座に視線を戻す。

 今更だけど、矢吹は人とすれ違う度に振り向かれる程に美少女だ。彼女が可愛いのは嬉しいんだけど、この場合警戒心が余すとこなく膨張する。

 半ば焦り気味に矢吹の手を取った。


「えっ。……花菱君? どうかした?」


 一瞬驚いてたけど、矢吹はキョトンと首を傾げただけだ。少しも嫌がられてないのが幸せ。

 なんて普段ならエデンな気分に浸れるんだろうけど、あんな会話聞いちゃったから余裕がない。


「えっと、人が多いし(はぐ)れる訳にもいかないから、手を繋いでたいなぁなんて……」


「あ、確かに。さっきまで無我夢中だったから気づかなかったけど、もうこんなに人いるんだね」


 隙間も殆どないくらいの人にも気づけない程、食うことに没頭していたのか君は。


「うん……手、繋いでいよっか。僕も花菱君と一緒に居たいし」


 照れ臭そうに笑う矢吹を、真なる女神に錯覚した。殆ど全ての女子が天使と思える俺でも、矢吹は本当に可愛い。

 なのにそんな顔されたら、抑えが利かなくなってしまうじゃないか。ベッドインしたくなっちゃうよ。


「あ」


 煩悩退散! と念じていたら、隣で矢吹が小さく声を出す。それからモジモジしながら繋いだ手を見つめる。


「どうかした?」


「あの、僕の手油とかで気持ち悪くない? 大丈夫? あと緊張して汗とかも酷いかもっ!」


「いやいや、別にそんなの気にしないし、毎回丁寧に拭いてたから大丈夫でしょ」


「でもフランクフルト食べたし! その前はたこ焼き、大判焼き、チョコバナナ、わたあめって食べちゃってたし!」


「もうそんな食べてたの貴女」


 驚いたよ。ずっと近くに居た筈なのに気づけなかったよ。購入してから消化するまでが早いっスね。

 にしてもやっぱり手汗とか気になっちゃうか。俺は俺で気にしてなかったけど、言われてから大丈夫かな? って不安になってきた。

 おっともう集合する時間になる。遅れたらうるさそうだし、早めに行かなきゃな。


「矢吹、ここら辺でまだ何か食べたいのあるなら、買っておこう。もうそろそろ昇達と待ち合わせの時間になるから」


「あ、じゃありんご飴とお好み焼きといか焼きと焼き鳥買っていこ。花菱君も一緒にどう?」


「いや、俺は知っての通り少食でして、あまり早めに食べるとお腹がつらいと言うか。てかりんご飴とその他一緒に食えるって貴女凄くない?」


「そう? 普通だと思うけど」


 普通ではないでしょ、特に量に関しては。

 思ったことを口に出すのは、時には相手も自分も傷つける諸刃の剣同然。だから黙っていたんだけど、矢吹からの追い討ちが発生した。


「夜になったらかき氷食べるんだ。前に瀬川さんに町案内した時も食べたけど、やっぱりお祭りの夜に食べるかき氷は格別に美味しいから」


「なるほど」


 それしか言えなかった。まだまだ食べるつもりでいらっしゃるわこのコ。胃袋の構造マジで知りたい。その小さい身体の何処に入ってるのよ?

 俺はそこそこ大きく育ってるけど、ナマケモノみたいに少食だよ。俺の胃のサイズってどうなってるんだろう。エネルギー何から得てんの?

 色々不思議な点に疑問を抱いたけど、矢吹が買い物を始めたから中断する。考えても無駄だと思うけど。


 ──んで、矢吹は温かい内に食べておきたいらしく、全て食べ終わるのを待ってから集合場所に向かいました。

 ら、


「十分も遅れてるよ二人とも。谷田崖さんがいること、忘れてない? 長時間日向にいさせたらマズいんだけど?」


「「ごめんなさい」」


 昇がオコだった。いやん怖い。でも俺達が悪いんで素直に頭を下げておく。

 正直、流美たんがいたことは覚えてたけど呪いのことは忘れてた。俺達の方のも。注意しておくって決めたじゃんかよ……。


「じゃあ、この後どうする? まだ三時だけど。やっぱ昼からは早過ぎたか?」


 何時まで遊ぶのかは知らないけど、きっと夜まではここにいる筈だ。だとしたら何とか時間を潰さなければ、ただ暇な時間になってしまう。


「そうね、食べ物ばかりも変だし遊びましょ。何かやりたいのない? 私とシュンは優先しなくていいわ、何度も来たことあるし」


「そうだな、ほぼ初めての他四人が行きたいとこでいいよ」


 昇の案に賛成する。賛成はするけど指摘しておきたい部分もある。

 優先しなくていいって、もし俺が本気でやりたいことあったらどうしてくれんのよ。勝手に決めんといてくれぃ。

 矢吹達四人は揃って唸る。唸り過ぎで、変な集団に見えないこともないだろう。


「僕は基本食べ物目当てだったしなぁ」


「知ってる」


「花菱君は僕のこと、絶対食い意地の張った女の子って思ってるよね!」


「滅相もございません」


 矢吹に詰め寄られて、思わず目を逸らす。こんだけ顔近いと流石に照れる。

 次に声を出したのは流美たんで、


「私は、何か賞品が貰えるものをやってみたい。例えば、射的とか」


「あーなるへそ。確かに今回まだやってなかったな。ちょい待ち、パンフで探してみる」


 んーと、パンフレットによるとここからは結構離れてるな。その間に金魚すくいとかあるけど……


「あ、セフィこれやってみたかったんだった! 金魚すくい! でも飼えないんだよなぁ」


 強引に覗いてきたセフィが、パンフレットにある金魚すくいの屋台を指差す。まぁ飼えなくても戻せるからな。


「やるだけやって、取れたら戻してやればいいと思う。屋台の人も助かるし、楽しむだけが目的ならそれでいいんじゃね?」


「え、それ有りなんだ!? じゃあそうする! 明るい方が取れそうだからもう行かない?」


「何で明るい方が取れそうなん?」


「暗いと見えにくいかなって」


 流石に屋台は電気点いてると思いますが。見たことないことはないよね? 昔はここに住んでいたんでしょ?

 さて、最後はずっとオドオドしているコイツだ。全く世話の焼ける。


「ミコト、何かやりたいもんあるか? 分からないならパンフレット見ていいから、ほい」


「あ、ありがとう俊ちゃん。えっと……」


 時々流美たんをチラ見しているから、きっと呪いのことを気にしているんだろう。でも気にするくらいなら、早めに決めてさっさと移動しようぜ。

 ミコトはハッとして俺の顔を見上げる。いま気づいたけど、ミコトこの中で俺の次に身長高いんだな。


「コレ、昔俊ちゃん達が持ってたの見たことある! 私もコレ欲しい!」


「ヨーヨーか。確かに、な」


 昔、祭りの帰りに、ミコトがまだ神様だった頃の小川に寄ったことがある。そこで俺と昇は、ヨーヨーで殴り合いのじゃれ合いをしてびしょ濡れになった。そんで帰り遅くなり過ぎて母上に怒られた。

 ミコトにとってはあんな二人遊びも、()()()()だったんだ。


「ん? 何、シュン。急にこっち見て」


「……いや、何でもない」


 ──そして昇はもう、その記憶はない。


「一般的には、思い出せないだけ。でも神様の力でだから……」


 昇の記憶が戻ることは、きっとない。それは過去の思い出を笑い合うことも出来ないってことだから、凄く悲しい。

 だけど昇本人は、今のままがいいと言っているんだ。記憶が失くなる前の思い出より、失くなった後のことを忘れたくないからって。


「どうしたのよ? たくっ、早いとこ移動しましょ。一番近い金魚すくいからでいい? 皆」


「うん!」


 ご機嫌なセフィとミコトを連れて、昇が歩き出す。流美たんが少し遅れて反応したのは、暑さで身体が弱ってきている証だろう。向こうに日陰あるかな。


「花菱君、何か様子がおかしいけど、どうかした?」


「ああ、矢吹。別になんてこたないんだけど、さっき昇の記憶のこと思い出しちゃって」


「話し合いで出てきたこと?」


「うーん、そうっちゃそうかな。昔、昇とコタケと三人で祭りに来てたことをなんだけど」


「あっ……」


 矢吹はそれだけで察してくれたみたいだ。

 ミコトのことを責めたくない理由に実は、あいつにとっては俺達が、幼馴染みで友達だったのと変わらないって知っているからなんだ。

 友達に嫌われるのは、本当に嫌だ。その怖さは俺自身よく知ってる。


「行こう矢吹、俺が結構器用だってとこ、見せてやるから!」


「うん、頑張って! 手先だけはそこそこ器用だもんね」


「だけ、は要らん!」


 自分を無理やりにでも鼓舞して、昇達の後を追う。矢吹と手を繋ぐことは忘れない。

 既に取り返しがつかなくなったことを考えたって時間の無駄だ。だったらこれからの昇をどう楽しませるかを考えた方がいい。

 もう、目の前で誰かが死ぬなんてごめんなんだ。


「うううう~! 難しいっ! 全っ然取れないよ金魚~」


「追い回すだけじゃ取れないわ。何でそんなに強引に行っちゃうの? 濡らし過ぎたらポイが破けちゃうでしょう?」


「勢いでどうにかならないかなって」


 セフィの根性論というか何と言うか、とにかく今の言葉を聞いて直ぐに何か言える者はいなかった。屋台のおっちゃんも隣のjSも含めて。

 マジで脳筋疑惑が浮かび上がって来たよセフィ。容姿は超絶美少女、声は鈴の音程に美しいが、性格はごり押しタイプだった。

 サッカーでは守る方が得意らしいけど。


「セフィはお淑やかじゃない」


「流美ちゃんっ!!」


 静まり返ったとこに流美たんの不意打ち追い討ち。セフィが羞恥でか真っ赤になっている。哀れなり、仮カノ。


「んじゃあ次流美たんとミコト挑戦してみ? お前ら三人が取った合計を、俺が上回ってみせるから」


「は? あんたそんなに上手かったっけ?」


「ハッハッハ昇よ。ああ昇よ。それは野暮というものだ」


「あっそ。はぁ……」


 何か思うものがあるのか、昇が深い溜め息を吐く。その間に、ミコトと流美たんがおっちゃんからポイを受け取った。

 さぁ、二人の腕はどうかの? ミコトに至っては、今どんなものか教えてもらってるレベルで初心者だけど。なるだけ正確に言い換えれば金魚すくい初対面だけど。


「取れた」


「早いな流美たん。こういうのって得意だったりする?」


「あまり。今日は運がよかったのかも」


 運動神経は常人離れしている流美たんだし、金魚すくいとかもパパッと出来てしまうのかも。このままじゃ大量ゲットになってマズいのでは!?

 ──と思ったら、二匹目にして流美たんのポイは破けた。内心ホッとした俺。


「失敗。私一匹」


「ま、いいんでない? 普段取れないならちょっと嬉しいもんっしょ?」


「うん、嬉しい。私は身体が弱いからサッカー以外で外に出してもらえることが殆どなくて、友達と遊ぶのも中々ないから」


「そりゃよかった」


 金魚取れたことより、俺達と遊べることの方が幸福らしい。いいコだ。そして可愛い。滴る汗がエロい。


「んでもってこっちは……」


「わっ、わっ! どうしたのかなこのコ達。凄い寄って来る!」


「何その状況!?」


 流美たんの脇で同じく金魚すくいに励むミコト。励んでいる……のかな。アレ。

 何か水バシャバシャ弾きながら、金魚がミコトの方に集まっている。まるで餌を投げ入れられた直後の鯉みたいだ。流石に気持ち悪い。


「おおっ!? 逃げない! このコ達逃げないよ俊ちゃん!」


「どういうこと!?」


 次々と、金魚達はミコトに掬われていく。でもどちらかと言えば、金魚が自らポイに乗っている様に見える。コレはどゆことやら。

 ──あ、まさか。


「凄い、取れたけど、こんなには連れて帰れないなぁ」


 一匹一匹丁寧に戻される金魚は、全てミコトを見つめている。多分だけど。

 まさか、さ。


 金魚達、ミコトが元川の神様って気づいてるんじゃね?

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