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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第三章 川の神の戯れ
59/87

3─10

 一回百円が基本なゲーセンのゲーム達。よく考えたらそもそもお金があまり無いので、大して時間を潰せないことに気がついた。

 財布の中身を見て大人しく閉じた俺を隣で見つめて、セフィは苦笑する。


「そろそろ、ゲームやめとこっか?」


「そうするか。てかただでさえセフィに金返してないのに、こんなゲームとかやってていいのか俺」


「だから気にしないでって。花菱君は矢吹さんとデートしたりって色々お金かかるんだから」


「まぁ、そうなんだけど。取り敢えず必死こいてバイトして、何とか返せるようにするよ」


「もう、いいってば!」


 少々呆れた様子のセフィは、クルッと回って照れ臭そうに俯いた。何だかほっぺも赤くなってて、あまりの可愛さに俺の鼓動が高鳴る。

 こんなんだもん優柔不断なんて言われても仕方ないよね。でも女の子大好きな俺にはクリティカルなんですわ。


「その代わり、そろそろデートしたい……」


 突然のカミングアウトに、全身が熱くなる。顔だけじゃなく、殆ど全身が。

 だって、セフィみたいな超絶美少女なハーフのコにそんなこと言われたら、舐め回したくなっちゃうだろ!?


「ダメ? デート」


「わ、悪いけど、デートは……」


「矢吹さんがいるから? だったら、許可貰いに行っていい? セフィの親にも、デートしてることくらい教えなきゃ」


「そ、そろそろ振ってもらうこととか出来ないスかね……」


「ヤダ。だってまだ全然、恋人っぽいことしてないじゃないか」


「別に俺のこと好きじゃないだろ!? だったら……」


「好きだもん!」


「……え」


 セフィはハッと口元を手で覆う。気づけば、耳まで真っ赤だ。

 これまで俺は、セフィが家訓とかだけで俺の偽の恋人を続けてるんだとばかり考えてた。本当は俺のこと好きでもないけど、中々振るタイミングとかが得られないってだけだとばかり。

 でも、違うのか!? セフィはまさか本当に俺のことが──


「……好き、だよ。迷惑かも知れないけど」


 手を下ろしたセフィは、顔を背けながら呟く。俺の心臓は、とんでもないくらい興奮状態。

 おかしいな、他のコ達に告白された時、ここまで鼓動ヤバかったっけ。


「ちょっとだけ怖いけど、梅原さんも。矢吹さんも、流美ちゃんのことも好き。ですけど、何か悪い?」


「え、あ、そういう好き?」


「そうだけど……?」


 な、何だよ。本気で俺のこと好きなのかと思ったじゃんか。デートくらい矢吹に頼み込んでしてあげちゃおうとか、邪な思考が頭を巡ってしまったじゃないか。

 浮気はダメだ! 仮の彼女だとしても、デートはしない。手も繋がない! もししなくちゃいけない時が来るとしても、それはセフィの両親が俺を疑った場合だけだ。

 てかそうなったらセフィに振られたことにしておけばよくね!?


「そんなに、別れたいの?」


 頭をブンブン振っていたら、セフィがムスッとした表情で覗き込んで来た。こんな時に同世代の男子諸君に問いかけたいことがある。例えば彼女がいたとしても、別の美少女が可愛過ぎたらどうする? と。

 俺はそろそろ、色んな女の子に対して理性が崩壊しそう。何せ女の子大好きだから。その女の子達が俺を好きでいてくれてるから!


「花菱君?」


「あ、いや……セフィが嫌だから別れたいとかではないんだけど、本当に矢吹に申し訳ないから早めに別れたい」


「……そっか」


 セフィが酷く落ち込んだ様子で、底抜けの罪悪感が沸き上がって来た。俺の不注意が原因だってのに、好きにさせてあげられなくてごめんな。


「でも別れない」


 ケロッとしてつーんとしてしまったセフィを見て、何かが冷めた気がした。

 なーんでこのコは長引かせたがるのかしら。


「まだ別れないから。だって、花菱君まだ僕に恋人っぽいことしてくれてないし」


「こ、恋人っぽいことって何?」


「……知りたい?」


 小悪魔みたいに、セフィは微笑む。やはり顔は誰よりも可愛い気がする。服がラフ過ぎてそっち見れば気持ちが緩和されるけども。

 知りたいかどうか? 知りたいに決まってる。それさえクリアすれば、セフィと別れて正真正銘矢吹とだけの恋人に戻れるんだから。

 セフィはクスッと笑い、人差し指を口元に運んで──


「キス」


 ハートマークが付きそうなくらい可愛らしく答えた。

 思わずセフィの小さく柔らかそうな唇に注目して、喉を鳴らした。


「な、なな何言ってんだそんなことするわけないだろ!? 俺達本当の恋人ですらないってのに!」


「めちゃめちゃ照れてるじゃないか。ふふっ、おかしいの」


「わ、笑うな! 照れてないから!」


「ふふふっ」


「笑うなっての!」


 今日はよく遊ばれる日だな……。でも、女好きが美少女にキスをねだられたらそりゃ照れるでしょ。したくなるでしょ。

 俺もセフィも、昇から買い物が終わったというメールを受け、ゲーセンを出た。ミコトがかなり嬉しそうにしてるので、まぁようござんしたって感じ。

 俺はそこから、セフィの唇がやたらと気になって仕方なかった──。


「さてと、全員分終わったし、そろそろ帰りますか」


 俺が言うと、女子メンバーが皆してミコトに視線を移した。

 ミコトは一瞬寂しそうに表情を暗くして、分かりやすい作り笑顔をした。


「うん! 今日は皆ありがとう。これからは、学校でもよろしくね」


「ええ、相談したいことがあったらいつでも教えて。全部は難しいかも知れないけど、力になるから」


「ありがとう、昇ちゃん」


 昇はニコッと笑みを見せる。きっと、ミコトの不安を見抜いてそうしたんだ。

 矢吹も、流美たんも続いて頷く。まだちょっと、矢吹は嫌々って感じもするけど。

 セフィも、意味は分かってない筈だけど、元気よく頷いた。

 何はともあれ、これで何とか学校生活は大丈夫。だと思う。確証は何一つ有りはしないけども。


「じゃあな、昇にセフィ。また月曜に学校で」


「うん、またねシュン。そして瀬川さん」


「またねー!」


「ま、またね昇ちゃん! セフィちゃん!」


 矢吹、流美たんとはとっくに別れた。たった今昇とセフィと、分かれ道で手を振る。ミコトはまだ慣れてない様子だった。

 因みに、基本的に外国風の名前には「ちゃん」をつける必要はないと思う。そうだよね? 外人は皆、名前の後に何もつけないだろ?

 まぁ別につけちゃダメなんて決まりもないけど。


「さーてと、帰んぞミコト。分かってるだろうけど、昇とセフィはご近所さんだ」


「うん、みたいだね。家近い」


「あー疲れた疲れた。結局矢吹とのデートはまた次の日曜だよ」


「……」


 ミコトが道の途中で立ち止まった。おい、疲れてるんだから早く帰らせてくれ。一週間の内六日が部活有りで、流美たんもセフィも俺も昇も皆疲れてたんだぞ言っておくけど。昇の頼みで皆来てくれたけど。

 セフィは偶然だけどね。そして矢吹は大して何もしないからそれ程疲れてるかは分からん。


「俊ちゃんは、私といるの楽しくない?」


 ミコトが遠慮がちな上目遣いになる。は? 突然何言い出すかと思えば。


「別に、楽しくはないな。昇に呪いをかけたことはもう気にしてないけど」


 正確には気にしないようにするけど。


「後先考えずに行動して、面倒事ばかり増やされてんだから。それに、俺には矢吹って彼女がいるのを知っているくせに密着して誤解を招くとか、迷惑でしかない。改めて正直に言うと、楽しくない」


 少し言い過ぎた気もするけど、何故か、ミコトを普通の女の子達同様に扱うことが出来ない。俺はなるべく、女の子を悲しませたくない筈だってのに。


「そっか、ごめんね変なこと訊いて。帰ろっか」


「……おう」


 明らかにショックを受けた様子のミコトは、家に入るまでただ静かに俺の後をついて来た。

 ──それに気づいたらしく、李々華が部屋に侵入して来て見下して来た。見下ろすじゃなく、見下すね。


「バカ兄、何したの」


「……別に何もしてないっス。あと鍵はない筈なのにどうやって入って来たの。まさか母さんマジで合鍵作ったの?」


「いいから正直に何したか答えなよクズ兄」


「クズ!?」


 このコったら何てこと言うのかしら!? 実の兄に! 普段からキモいキモい言われてますけども。悲しいことに。

 てか、本当に俺何もしてないんだけどな。ミコトが何で落ち込んでるのかは、当然知ってるんだけど。


「ミコトと居ても楽しくないって教えただけ……」


「死ね」


「……」


 李々華は凍えそうな程冷たい眼で言い放ち、乱暴に部屋から出て行った。「死ね」は酷い。流石に酷い。

 意外にも、李々華が怒るなんてな。あいつ、基本的人見知りが激しいから、ミコトのことなんて気にしないと思ってた。

 ……謝るか? でも、謝っても意味がない気もする。てか謝る理由が浮かばないから、むしろ謝らない方がいいんじゃ? ……よく分かんねー。


「この後のミコトが落ち込んでたら、言い過ぎたってことくらいは伝えとくか」


 ♠️


 ミコトは平然としていた。今、登校中だけど何事もなかったように隣を歩いてる。昨日一昨日みたいに、起きたら俺の部屋に居た。

 ひとまず落ち込んでないってことでいいのか? 俺に嫌われたくないとは言ってたけど。


「あ、見てみて俊ちゃん! 猫だ!」


「本当だ。多分そこら辺で飼われてるんだろ。首輪ついてるし」


「へ~」


 オマケに元気だしなぁ。気にしないタイプではない筈なんだけど……よく分かんないな、コイツ。


「ねぇねぇ、サッカーのルール教えて~。俊ちゃんがどんなポジションなのか知りたい!」


「えっと、僕はまだそんな詳しくないから、梅原さんに訊いてみて」


 部活中でも、ミコトは明るいままだ。何も気にする必要はないのか?


「おい! 花菱!」


「へ? ンオゴォッ!?」


 ボールが顔に直撃した。今はパス練で、俺のパートナーは叶都パイセン。つまり叶都パイセンの蹴ったボールが、運悪く顔にヒットしたと言うわけ。

 心配そうに駆けて来た叶都パイセンが、ズッコケた俺の上半身を優しく持ち上げる。やはり肌が綺麗。いい匂い。


「集中しろよ、練習中くらい。女ばっか見てて勝てるのか?」


「いや、確かに女の子見てたっちゃ見てたけど、ちゃんと理由がありまして」


「何だっていいけどさ。それより、保健室行くか?」


「いいやノー問題! 続けましょう!」


「今度は余所見すんなよ?」


 叶都パイセンが可愛らしく微笑むので頭撫でてみたら、休憩に入るらしい小鷹先輩にチョップされた。────え、何であなたが?


「カナ、行くぞ」


「ちょ、ちょっと待ってよ裕也!」


 何だか、小鷹先輩が変だ。そして叶都パイセンはその後をいそいそと追う。ちょっと先で、叶都パイセンが小鷹先輩に笑顔で話しかけた時、小鷹先輩は少し不機嫌そうだった。

 とにかく、何故小鷹先輩にチョップされたのか不思議でならないけど、次は暇そうな入谷先輩とパス練習をしよう。


「ゲ、雨降って来てやがんの。今日天気予報確認し忘れたな。うっかりうっかり~」


「どしたハナシュン。傘忘れたのか?」


「まーな~」


 下校時刻、今日は部活なしと昇に報告され、帰宅準備中。なるほど、結構な雨が降るってのを予想していたのか。さすが昇だ。

 コタケは自身の傘を少しの間見つめ、「いや」と首を振った。


「俺今日は用事あるんだったわ。悪いな、途中まで一緒に帰れりゃちょっとはマシだったかも知んねーのに」


「気にすんな気にすんな。俺も今更男と相合い傘なんてしたくねー」


「言えてるな。じゃあまた明日な、気をつけて帰れよ」


「コタケもなー」


 一足先に教室を出て行ったコタケに手を振り、深い溜め息を吐いた。雨が凄いけど、今日は昇が委員会の仕事があるだか何だかで一緒に帰れないと言っていたから相合い傘出来ない。

 矢吹は雨が降るのを見越してなのか、とっくに帰った。流美たんも病院に行く予定があるらしく、一時間早く下校。なのにミコトはいるんだ。


「……ミコト?」


 ミコトがいなかった。おかしいな、隣の席に座っていなかったか? 授業中は。

 確かに、途中から全く声がしなくなった気もする。そんなことを思い出した瞬間、自然と足が動いた──。


「あ、花菱君。今日一緒に……」


 廊下に出たらセフィが何か言ってたけど、無我夢中で駆け出した。背後から驚いたセフィの声が聞こえる。ごめんな、何の用か知らんけど後で聞くから。


「お? どしたハナシュン血相変えて」


「何でもない!」


「……は?」


 さっき出て行ったばかりのコタケも追い越して、雑に靴を履き替える。校舎の外に出て、別に何かを考えてる訳でもないのに走る。

 何だ? ミコトが見当たらないってのに、俺は何処に向かってる? 大雨なのに傘も差さずびしょ濡れになって、何をしてるんだ?


 ──気づけば、かつて昇が溺れた場所で立ち止まっていた。あの時同様、川は氾濫している。

 そして、まだ流れは激しくない川の中に、ミコトはいた。


「何してんだお前!!」


 昇が溺れた時のように、身体が先に動いた。川にダイブして、ミコトのこと身体を抱き寄せる。

 まだ充分動けるから、急いで川から上がった。ミコトはずぶ濡れの酷い姿で、俯いている。


「何してんだ、バカ! あの川はもうお前のじゃねーんだぞ!?」


「……ごめん」


「ごめんで済むかよ! 死んだらどうするつもりだったんだこのバカ!」


「……ごめんなさい」


 ミコトはそれしか言わない。眼も合わせようとしない。

 だからそれ以上何も言わずに、手を引いて家に帰った。そこでも、ミコトは俯いたままだ。

 何を血迷ったのか知らないけど、もう二度とあんなことしないでほしい。


 俺に、昇が溺れた時のことを思い出させないでくれ。

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