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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第三章 川の神の戯れ
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3─7 川の神の戯れ

 真夏だと言えども、この暑さは無いわ。体感温度百度だわ。……死ぬわそんなん。

 ベッドの上で一通りボケて、身体を起こそうとした。何故だか持ち上がらない。

 まさか金縛り⁉︎


「……じゃ、ないな。何かが俺の上に乗っかってる。顎押されてて見えないけど」


 潰れていない右手で、上にあるその何かを探る。

 やたら大きいな、俺よりは小さいけど。そんで、サラサラな部分とすべすべな部分とぷにぷにした部分など感触が様々だ。

 上の方にはこれ、髪の毛みたいなのがある。さらっさらな髪の毛みたいだ。

 ……ん? ちょっと下に行くと、並んでぷくりとした何かがあるな。

 でも、アレだな。ようやく似た肌触りのものが思い浮かんで来た。


「まさか、これ、人か?」


 だとしたら、誰だ。李々華は俺のベッドで寝ることはあれど、一緒に寝るのは嫌だと言うし違うだろう。

 触ってみた感じ、脚だと思われる部位はとても長く、しっとりともしていて、ずっと触れていたいくらい心地いい。

 ……待て、このサイズは多分女子だよな。俺これ完全にセクハラしてんじゃんか。

 起きる前にやめておこう。


「そうだ髪の毛!」


 そこそこ長いと思うし、少し持ち上げて見てみれば誰か分かるかも知れない。何せ俺の知人の女子は髪色がそこそこ分かれているから。

 矢吹だったら灰色、昇だったら茶色、セフィなら淡い青色、ミコトなら赤だ。流美たんと李々華は黒だけど、流美たんは髪の毛長くないからまず無い。

 そうしたらセフィも無いな。あと、大きくないから昇でもない。


「でもここまで貧乳って、李々華とミコトのどっちかしかないんじゃね?」


「んっ、俊ちゃんおはよう。……何で胸触ってるの?」


「やっぱりミコトか……。あ、これはサイズで誰だか当てようと思って。顎押さえられてたから見れなかったんだよ」


「普通に起こせばいいじゃん。ていうか『やっぱり』って何、失礼過ぎないかい流石に?」


「面目ねーっス」


 ああ、俺今日神様に殺されるかも知れないな。女の子の身体を触りまくったもん……。罰当たりだよマジで。

 女の子はどんな人であろうと神聖な生き物だ! 俺のような変態が迂闊にセクハラしてはならんのだ! ただし彼女は例外とする!


「キモいバカ兄。彼女でもセクハラするな」


「お前は本当に怖いからせめてノックして音立てて入って来て……」


 李々華がいつの間にやら真横で俺を見下ろしていて、心臓止まるかと思った。幽霊じゃないんだからもー。

 ところでミコトお前何してんの? そんなに密着されてたら身動き取れないんだが。


「りりちゃんが、こうしたら俊ちゃんも朝から元気出るって言ってたから。ね!」


「はい、言いました。バカ兄はド変態だから、取り敢えず女の子に抱き着かれていれば簡単に理性崩壊します」


「李々華! お前は兄ちゃんをどんな目で見てんの⁉︎」


「客観的に見てんの」


「皆から見た俺ってそんななの⁉︎ つーか着替えるからミコトも出て行けって! あと今更だけどどうやって入った⁉︎ 鍵閉めてた筈だぞ!」


「合鍵あるし」


「何でえええええええ⁉︎」


 李々華はポケットから合鍵を出した。夜遅くにミコトが俺の部屋に行きたがって、開けてあげたんだとさ〜。

 いやおかしいだろ! 合鍵は没収した筈だ! ほら、この箪笥の上に──


「何でないんだよ! どうやって入ってどうやって盗った⁉︎」


 鍵は閉まってて李々華じゃ背伸びしても届かない箪笥の上に置いたのに!

 キョトンとしてるミコトの横で、李々華は呆れたように溜め息を吐いた。


「窓から侵入して、椅子を使って」


「嘘つけ⁉︎ この家にベランダなんぞないからな⁉︎ 窓も小さいし絶対無理だから!」


 窓から何とかして入れたとして、直ぐに物が色々乗っかった机もある。塞がれているんだ。

 でも、椅子さえあれば取れるのか。いやそこまでどうしたのかってのが一番分かんねーんだけども。

 扉に向かって行った李々華は、ノブに手をかけて立ち止まった。こっちに見向きもしないで、冷たい眼をしている。


「知りたければ、お母さんに訊けば。もしかしたら教えてくれるかもよ。朝ご飯出来てると思うから、早めに降りて来なよ」


 口を開けたまま、李々華を見送った。……母様? あなたまさか、合鍵作ったとか言わないよね? 息子のプライベートゾーンに実の妹が侵入する許可をしたとか言わないでね?

 まぁ、それは後で訊くとしよう。さっさと着替えて待ち合わせ場所行かなきゃ。


「わっ! 俊ちゃん流石に女の子の前で着替えるのはどうかと思うよ⁉︎」


「いつまでいるんだよ忘れてたわ! んなこと言うくらいなら初めから入って来んじゃねぇ!」


 見せつけてやろうか⁉︎ 終いにゃ剥くぞ! ありのままの姿にして押さえつけて目に焼き付けてやろうか⁉︎

 そんなことしたら興奮し過ぎて死ぬわ!

 ──ミコトが階段を駆け下りて行って、俺も急いで着替える。ミコトと外出って考えると面倒臭いけど、矢吹や昇と会えるって鼻の下伸ばしていれば、ポジティブでいられるだろう。


「あんたはいつでも鼻の下伸ばしてるでしょ、女の子さえいれば」


 待ち合わせ場所にはまだ、昇しかいなかった。出会って早々何を言ってくれちゃってんの。


「俺は全ての女子が好きではあるけど、全ての女子に鼻の下伸ばすことはない!」


「そうね、可愛い女の子だけよね。オシャレだったり、美人だったり」


「そういう意味ではなくてね⁉︎」


「脚が長くて綺麗なコとか、胸が大きいコだと一層だらしない顔になるわよね」


「好きだからなるとは思うけど! そういうことじゃないんだって!」


「照れ屋なコをいじめてる時が一番ゲスだと思うわ」


「昇ーーーーーーーー⁉︎」


 親友が、物凄い意地悪になってしまった。氷河期も更に凍てつく冷めた眼を向けて、抉るように言葉のボディブローを放って来る。

 昇にとって俺はそんな奴なのね。てか、周りから見たら俺って本当にド変態なのね……。

 何だか朝からテンションドン底なんだが。


「つまり、オシャレで美人で脚が長く綺麗で胸が大きい照れ屋なコが好みってこと?」


 ミコトが変なとこに興味を持った。確かに俺の性癖が暴れ出しそうなステータスだけどもね。


「俺が好きなのは矢吹! たとえそのような女子が現れようとも、俺の心を揺るがすことは出来ぬ!」


「いつも揺れてるじゃない」


「そ、そんなことないし」


 てかそんな女子パーフェクト過ぎて存在する気しないんだが。

 たとえば、昇の場合は美人と胸が大きい点のみが当てはまる。

 流美たんはオシャレでそこそこ美人だし胸もそこそこあるし照れ屋で、昇よりは多く丸がつく。

 ミコトは美人で美脚だけどもそれだけだ。

 矢吹は最高だぞ。美人だしちょっとオシャレだし胸もあるし照れ屋だし! ──あれ、流美たんと変わんないな。


「でもでも、俺が好きなのは矢吹だから。他とかありえないから」


「鼻の下は伸ばすけどね」


「しつけーよ⁉︎」


 泣きそうになったら、背中をツンツンとつつかれた。何だかゾクゾク。

 こんな可愛らしく気づかせるとしたら、あのコだ。


「流美たんおはよう。今日もオシャレでめちゃめちゃ可愛いな」


「ありがとう。日傘、差してもいい……?」


「もっちろん。ここまでは差してこなかったの?」


「タクシーで来た」


 まさかの? でもそっちの方が安全だし安心も出来るか。日傘差したら呪いの影響を受けないのか、なんて実は不確かなことなんだし。

 流美たん、日差しダメだけど暑いからかな? 肩出しのトップスって何だか興奮するよね。セクシーな感じで。


「シュン、あんたね。誰にでも可愛いとか言うのやめなよ? 仮にも矢吹さんの彼氏なんだから」


「仮じゃないよ⁉︎ ガチ彼氏だから俺! ……でもそうだな、一理ある。もう少し気をつけよう」


「俊ちゃん私は可愛い?」


「はいはい、可愛い可愛い」


「……はぁ」


 昇の溜め息で自然と口が動いたことに気がついた。クルクル回ってみせるミコトは確かに可愛いけど、矢吹の前では褒めてはならぬ。マジで気をつけよう。

 彼女の前で他の女子褒めるとか、下手したらソッコー別れる案件だから。


「でも俺に女子を『可愛い』と思わないことは出来ない!」


「声と顔に出さないだけでいいのよ、せめて。デレデレしてたらアウト」


「つまりはポーカーフェイスだな!」


「……うーん」


「花菱君ムリしなくて大丈夫だよ。どうせ直ぐ言っちゃうんだし」


「うお矢吹いつの間に! 今日もサイコーに可愛い。熱い抱擁を交わさないか⁉︎」


「……暑いし」


 ミコト以外がジト目で見て来たけど、一体どうしたのだろうか。俺また何か変なこと言った?

 あと矢吹すまん。今真夏なの忘れてた。

 正直言うと、肩から下げられたネズミのポーチが、柔らかダブルお饅頭に食い込んで強調してるから触りたくなったんだ。


「俊翔は多分、今頭の中で矢吹さんにセクハラしてる」


「ぶほっ」


 流美たんが淡々と俺の本心を暴いてみせたから、何も含んでないのに吹き出してしまった。


「顔に出てた。昨日私の下着見た時みたいに、痴漢してたおじさんみたいな顔になってた」


「それ結構ヤバそうだよね顔! 痴漢なんて見かけたことないから分かんないけども!」


「私はよく痴漢に遭うわね」


「えっ」


 昇の衝撃の告白に、俺達は皆して注目した。昇は全く顔色も表情も変えずに、小さく息を吐いた。

 綺麗な人差し指が示すものは──俺。


「あんた」


「おおおおお俺痴漢なんてしししてなないいい!」


「そう? 結構頻繁に胸を揉まれてる気がするんだけど」


「全部不可抗力ーー!」


「その割には、丹念に触ってるけどね?」


「ごめんなさい‼︎」


 思いっ切り、首を痛めたけど頭を下げ続ける。昇の胸は大きいから、一度触れると中々手を離す気分にならないんです。心地よくて。

 ああ、チクチクザクザク視線が刺さる。痛い。矢吹と流美たんが俺を蔑視しているんだろう。見なくても分かる。

 今日は本当に朝から気分がドン底だ。


「でも、花菱君が()()なのは今に始まったことじゃないし、もう諦めるとして……」


「矢吹それすんごい傷つく」


「そろそろ行こっか。暑いし。何より、流美ちゃんを無理させられないし」


 彼女は少しも悪びれることなく俺をスルーし、スマホの画面を薄目で見てる。多分眩しくてよく見えないんだろう。

 そんなことより俺、めちゃくちゃ泣きそう。


「最初は誰からがいい? 僕はもう少し時間が経たなきゃダメなんだよね」


「私は、息抜き出来るような場所だから最初はパスかな」


「私はいつでも大丈夫。……あ、あと一時間しないと開かないんだった」


 流美たんは何処かのお店かな? 息抜き出来る場所って、何処だろう。皆が選んだ場所と被らなきゃいいけど、俺は確か日没以降行けなくなる場所だった筈だから、


「最初は俺のオススメスポットに連れて行こう」


 昇がフッと小馬鹿にしたような笑みを浮かべて息を吐いた。腕を組むからおっきくモチモチそうなお山が目立つ。


「シュンのオススメって、何だかセクハラのイメージが湧くんだけど。ちゃんと女の子相手って考えてるの?」


「女の子も楽しめると思う場所だよ! それと、この王都市を連れ回すんだから、まずは誰もが行ったことのあるメジャーな場所でいいんだ!」


「何処?」


「ふん……って、今から行くんだからその目で確かめりゃあいいでしょ!」


「あっそ。じゃあ早く連れて行ってよ」


「……はい」


 日差しは熱いくらいなのに、周りの女の子達は凍えるくらい冷たい。俺、何かしましたっけ。

 本当はふて寝したいとこだけど、矢吹達を呼んだんだしそんなこと出来ない。ミコトのためというつもりはないけど、楽しんでいよう。

 ……この空気で楽しめるかな。


「あっ、皆何してるんだ? 一緒に遊ぶの?」


「セフィ⁉︎ な、何でここに……」


 Tシャツ短パンというラフスタイルのセフィが、手を振っている。躊躇いもなく輪に入って来た。

 まずいぞ、セフィは呪いについてを知らない筈だ。うっかり口を滑らせないように注意しないと。


「あれ、昨日部活にも来てた転校生? 瀬川さんだよね、よろしく!」


「あ、う、うん……!」


 転校生ではなく、編入生です。その編入生ミコトはオドオドした様子で、セフィから差し出された手を握る。

 俺とは脳内で出会ったがために気が楽なんだろうが、他の人と話す時はかなりビビってるよなこいつ。

 特にピンポイントで話しかけられる時は。


「セフィ、私達これから瀬川さんに町案内をするの。暑いし、悪いけどもう行くわね」


 流石昇、頼りになるおっぱい……じゃない女、だ。流美たんのことをチラリと見てたから、多分だけど気にしているんだ。

 流美たんは、長く日に当たると死んでしまうのだし。

 流美たんの呪いほど条件が曖昧なものはない。どのくらい当たったらダメなんだよマジで。流美たん本人は日によってまちまちって言ってたけどさ。


「町案内か〜、久し振りって言ってたもんね」


 何で知ってんだ。クラス違うだろ。

 話を聞いたセフィは少し何かを考えるようにして、直ぐにニコッと笑みを作った。


「──それ、セフィも行っていいかな。セフィ別にこの町よく知ってるわけじゃないから、案内は出来ないけど」


「「え……」」


 俺達全員がハモる。多分きっと、同じ心境だ。

 一言で済ませると…………「マジで?」。

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