表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第三章 川の神の戯れ
54/83

3─5

 ムクりと起き上がって、カーテンを開ける。うん、今日は悪い天気だ。大雨でガンス。

 でも何でかな、視界の端がめちゃくちゃ眩しいな。太陽縮んで真横に移転してきたか。


「おはよう、俊ちゃんっ。がっこう行こ!」


 口をあんぐりとさせて、顎が外れたかと思った。ついでに目の前の絶景に胸がドキドキ。

 ──ミコトがうちの学校の制服着てる。かつ俺に座っている。

 スカートが意味あるのかってくらい短くて、綺麗過ぎる脚が丸出しで、俺は毛布かけてないからパンツ越しにそのままお尻の感触が……。


「どうしたの? 俊ちゃん。すっごい鼓動の音」


「お、おま、おまおまおま……⁉︎」


「俊ちゃん……?」


 一言「何で制服着てんの⁉︎」って言いたいのに、俺の目はミコトの美脚を焼き付け続けている。そのせいか舌が上手く回らない。

 李々華に負けず劣らずの、更に長い美脚が今目の前に! つーかそれよりお尻が! お・し・り・が!

 ……そう分かっていながらも降りろと言わない俺。煩悩に正直です。


「俊ちゃん、寝惚けてる……?」


「か、かもなうん」


 美脚とお尻のことしか考えられてないだけです。


「おはようのチューしようか? 俊ちゃんの読んでる本に、朝起きたら息が上がるくらいチューしてるのあったし。何故か裸だったけど」


「おおおおい⁉︎ 何読んだお前! 棚に並べてあるのは全部小説だぞ、裸のシーンなんて……」


「私が見たのは、ベッドの下から少しはみ出してた裸の女の子ばかり描かれたそんな厚くない本だよ?」


「アァァアアアアアアアッ‼︎」


 これまで矢吹にも昇にもバレなかったのに、とうとう俺のお宝本を発見されてしまった! しかもこいつアホだから理解してなさそうだし、李々華とかにうっかり教えちゃうかも知れないし!

 親にも内緒でコタケヤスダとコミケ行った、初の戦利品だったのに! 捨てられたらどうすんだ!


「ミコト、その……読んだ漫画のことは誰にも言うな。言っていいとしてこれから会うであろうコタケとヤスダだけだ。それ以外に口を滑らせてしまえば、俺達は土に還るも同然よ」


「何か変な口調。他のコ達に言わなきゃいいんだね? りょーかい。……でチューする?」


「しねーよ! もうさっきので目は覚めたわ!」


 ミコトを先にリビングに下ろして、素早く着替えて決めポーズ。こうして、同居人が増えて最初の朝が始まりを告げた。な〜んてな。


「ところでミコト、お前何で制服持ってんだよ。完璧にうちの学校のだし。……あと何でそんなスカート短いんだ?」


 ミコトと並んで高校へ向かう。何か周りの視線を気持ち悪いほど感じるのは、ミコトが美少女だからだろうか? または髪の毛と目が赤いからだな。

 それか超ミニスカだから「パンツ見えないかな」とか俺みたいな考えを露わにしている者のだ。


「昨日、テキトーな理由をつけて編入手続きしたんだよね。今日は下見として自由に動けるんだ。スカート、そんなに短いかな……?」


「結構用意周到だなお前。んでスカートは短いなんてもんじゃない」


「そうかな……?」


 ミコトがターンして、見えた。はっきり見えた。何をとは言わないけど脳内に保存しておいた。白のレースだった。

 一応他の誰かが見ていないかどうか周囲を見回したら、案の定口元をいやらしく綻ばせている老若男女ばかりだった。──え? 女の子も?


「でも私、気にしないよ? 俊ちゃんはパンツ見えた方が硬く大きく育つって、りりちゃんが言ってたよ?」


「俺の妹スケベ過ぎないですか⁉︎」


「……? 俊ちゃん、何が言いたいんだい? とにかく僕は俊ちゃんを立派に育てるため、幾らでもパンツ見せてあげられるよっ」


「お前は意味を理解できていなさ過ぎる! 誰かいる時はマジでやめてくれ!」


「うーん、そう言うなら」


 一応スカートをもう少し長くしろと指摘もして、朝早くから息を荒くして登校した。

 ……いや、息荒いのは疲れてだよ? 断じて、時々見えるパンツに興奮しているからじゃ、ないよ? 本当だよ?

 雨が途中で止んだ。学校についた途端に止んだ。もっと早く止めよ。


「そのコが、川の神様……?」


「おう、スズイロノミコト。人間として、瀬川みことって名乗るからそこんとこ頼む」


「うん、いいけど」


 昇がまじまじとミコトを観察する。これが自分を呪った悪神か、なんて考えているのだろうか。

 真っ先に嫌悪丸出しにするって予想していたが、昇は不安気なミコトに優しい微笑みを向けた。


「初めまして、瀬川さん。私のことは知っているでしょうけど、改めて挨拶させてもらうわ。梅原昇、花菱俊翔の幼馴染みです。よろしくね」


「う、うんよろしくね。昇……ちゃん」


 ミコトはやはり引け目があるのか、目を逸らしてしまった。全く、ダメ神だな。


「てか昇お前、気にしてないのか? ミコトは一応昇を呪った神様だったやつだぞ」


「……気にしてない。それより、その時私を助けてくれたことに感謝してるわ」


「お前……心の広さ宇宙?」


「変なこと言ってないで着替えてきなさい。部活遅れたらペナルティよ」


「今直ぐ行ってきます!」


 ミコトは昇が手を引いて連れて行く。……そっち、フィールドだよな。まさか見学させんの? 放置するよかマシだけど。

 本当に許せちまうんだな、昇。自分を呪ったってのに。凄いな……。


「あっ」


「俊……⁉︎」


 部室の扉を開けて、中にいた人と目が合う。何か言われる前に閉めた。

 危ねぇ、流美たん着替えてた。可愛いブラジャー見えたラッキー。……目つきが一瞬で鬼みたいになってちびりそうになったけど。

 深呼吸していたら部室の扉が開いて更にビビる。流美たんが無表情で俺を見つめた。


「着替えるんでしょ、俊翔。どうぞ」


「あ、うんえと……ブラジャー可愛かったっス」


「ありがとう。フィールドで待ってる」


「うす」


 流美たんが眉を寄せたからつい、「フィールドで全身の皮剥いでやるからさっさと来い」って意味に聞こえた。あの目は怖過ぎる。

 てかまだ俺の彼女を見かけてない。矢吹さん今どこ? 朝から心労ヤバいから膝枕してくれないかな。

 ……「膝枕」でミコトと李々華の脚にサンドイッチされる妄想をして、壁に頭を打ち付けた。そんなんされたら理性保つかボケ!


「あ、流美たんスマホ忘れて行ってる。メール来てんぞ……って、小長屋先輩と連絡取り合ってんのか、何か嫌だな。『今度の土曜、映画でもどう?』って、まだ諦めてねーのあの人」


 流美たんにキレられて冷めない恋とか何億度だよ。それだけ本気だったのか、その点疑って悪かったな。どーもすんませーん。

 でも残念ながら流美たんが好きなのは俺なので、無駄ですよ〜。流美たんは優しいから映画行ってくれるかも知れないけど、多分それは暇潰しっスから〜。


「俺嫌な奴だな。さっさと着替えて部活行こう」


 部活も終わる頃、矢吹はようやく登校して来た。ヘイ彼女、授業は遅刻じゃないけど、部活は大遅刻だぜベイベー。


 ♠︎


 ミコトは何処まで計算済みだったのか、俺のクラスにやって来た。矢吹と比べてもかなり可愛い容姿と、色っぽい声をしているので男子達が大興奮。何よりスカート短いし。

 ただ一方で、髪色と目の色について不思議がる声も多かった。そりゃそうだ。


「いやぁ、瀬川さんってハナシュンと暮らしてんのな? 大丈夫? セクハラされてない?」


「失礼だぞコタケ。むしろセクハラされてるわ」


「「うっそだぁ〜」」


「おいコラ少しは俺のことも信じろよ」


「私俊ちゃんになら何されても嫌じゃないよ? 昔から遊んでくれてたから大好きだし」


 ミコトの無邪気な笑顔に、クラス中から悲鳴が上がる。……お前らにとって俺は人権のない生き物なのか?

 言っておくけど、ミコトの言う「遊んでくれてた」は俺と昇が川で遊んだことを指してるんだからな。言えないけど。


「……昔から?」


 コタケがそう溢して、ギクリと目を逸らした。コタケは正真正銘一番古い中だから、違和感に気付いてしまったらしい。


「ハナシュン、瀬川さんのことなんて言ってたことあるか? 俺聞いたことないんだけど」


「あー、んと……」


 ミコトが今更になって目を見開く。迂闊だったと言わんばかりに目を逸らした。

 まぁ、今のは仕方ない。ミコトにとっては本当にあった出来事をそのまま声に出しただけなんだから。悪くない。

 かと言って、この怪訝そうな視線をどうするかは……


「ああ、いつの間にか姿を消してしまったって幼馴染み、そのコのことだったのね」


「えっ」


 声の主の方へ、クラス中の視線が移動する。教室の入り口に昇が立っていた。


「シュン、私と出会う前に遊んでた女の子がいたって言ってたけど、何も伝えられずに引っ越ししちゃったって言ってたコ、いたわよね。そのコでしょ? 今朝、久し振りに会えたって喜んでたし」


 救いの女神、ここにあり。でもそのコ俺知らない誰?

 と言ってもここで乗らなきゃ質問責めに遭いそうなので、合わせておく。


「そう! そ〜おなんだよ! よく覚えてたな、昇! いやぁ昨日こっちに帰ってきたとか言っててさ。しかも親に追い出されたって、身なりも酷いもんでしかも美人になってるから初め誰だか分からなかったんだよな〜」


 後は昨日家族達に説明したテキトーな設定を付け足しておく。にしても酷い親だな、元々住んでた町に戻って来た日に娘追い出すなんて。


「び、美人……」


 背後でミコトが何か呟いた。振り返ったら目を逸らされ……何で顔赤くしてんのお前。

 手を団扇にしているミコトに対して不思議に思っていたら、クラスメイトの少し太めな女子が駆け寄って来た。ミコトに。

 あれ? 菅野さん? 俺が告白した時そんな大きかったっけ。


「みことちゃんって、髪の毛染めてるの? てかカラコン? 似合い過ぎなんだけどっ?」


 やはり肥えてしまったらしい菅野さんが、太めな声で笑う。周りの女子を押しのけるな。

 また面倒な質問が出て来たな。何とか誤魔化せよ、ミコト。


「これ地毛だしからこんってやつも知らないよ?」


「えええええ⁉︎」


 そりゃビックリしますよね。


「が、外国人なの……?」


 外国人でも赤髪はいねーと思うよ垣根くん。あとミコトの口調は完全に日本人だろうが。


「私は日本神(にほんじん)だよ。むしろ日本以外のことは知らないかなぁ」


 日本神って何だ。聞いたこともない。でも日本人と発音に違いがなかったから、変に思われることはないだろう。

 ……あれ? 俺は何でそこに気がついたんだ?


「シュン、矢吹さん、瀬川さん。ちょっと用事があるから、早く来て」


「えっ、あ……はいはい今行く! 矢吹、ミコト行くぞ」


「うん!」


 昇が何の用事のために俺達を呼んだのか。それはメールが送られて来たことで理解した。

 俺が昨日自分で言ってたんじゃんな、ミコトについて説明するって。ずっと矢吹が不思議そうに俺を睨んでたのも、きっとそれが理由だ。いやぁ忘れてた。

 ところで流美たんいないけど? ──って思ってたら第二保健室で待っていた。当然のようにフルサワもいる。


「えっ、何でここに……」


「私は席を外すが、勝手に物を漁るなよ?」


「もちろん。でミコトどうした?」


「……ううん」


 フルサワを警戒している様子のミコトの手を引いて、ベッドに腰掛けた。流美たんもまじまじとミコトを観察。

 これで、まぁ話すべきだろう人物は揃った。


「ミコトは、スズイロノミコトって本名の、見落とすくらい小さな川の神だ。──いや神だった」


「それは知ってる」


 流美たんが無表情で頷く。昨日メールで話したし、そりゃ知ってるよね。でも一応な、一応。


「あの川の神だったってことは、昇を呪った張本人だということだ」


「だからそれを掘り返すなっての、バカシュン!」


「でもミコトはもう、神様じゃない」


 本題の中の本題に入る。これは昨日まだ伝えていなかったことだ。しかし昇は予想通りだとでも言うように頷いてみせた。

 矢吹と流美たんは驚いた顔で、ミコトを見る。


「神様……じゃないの? どういうこと?」


「悪い矢吹今から言う。こいつは、神様を辞めてきたんだ。因みにずっと、俺の中にいた。だから俺はこいつを知ってた」


「花菱君の中に⁉︎」


 意味が分からない、と矢吹は頭を抱える。だけど直ぐにハッと息を漏らして考え込んだ。

 流美たんは首を傾げてキョトンとしてる。可愛い。


「花菱君が、梅原さんが消滅しかけている時に理由を探し当てたのって……」


「そ、呪いをかけた張本人さんが教えてくれたんだ」


「……そうだったんだ」


 矢吹が、ミコトを見つめる。その視線は、俺に向けられているわけではないのに酷く痛かった。

 矢吹はきっと、ミコトを許すつもりはないのだろう。

 因みに流美たんはまた別の方向へ首を傾げた。このコ本当に可愛いね。


「ミコトは人間になった。それについて、三人に相談があるんだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ