2─last
「たーーーだーーーいーーーまーーーー‼︎ 我が、友よ!」
「おーーーかーーーえーーーりーーーー‼︎ 負けたらしいな」
「うっせ」
学校に戻って早々、馬鹿騒ぎする俺とコタケ。いきなり痛いところ突かれるとは予想外だった。
因みに、同じクラスの筈の矢吹と流美たんだが、共に教室へは戻っていない。矢吹はいつも通りサボりで、流美たんもいつも通り保健室だから。
うん、そろそろ彼女に注意が必要かも知れん。授業出なきゃマジでヤバいぞと。成績がヤバいぞと。
「花菱、お前と谷田崖さん、決勝出なかったって聞いたけど何で? この学校が誇る二大プレイヤーだろ?」
「ヤスダ、俺いつの間にそんな凄い人になってんの? 多分小鷹先輩とかセフィの方が上手いよ?」
「いや、先輩と転入生のこと知らないからさ」
「テキトー過ぎんだろ」
因みに、俺は決勝戦には後半だけ出た。脚がズタボロだったもので。まぁ、前半小鷹先輩とセフィ以外がちょっと焦り過ぎて失点が多すぎたから負けたんだけど。
「しかし、あの谷田崖が一度も出ないなんて考えられないな。あのコ、中学の時プロの選手に天才だって褒められてたんだぜ? 知ってるかお前ら?」
「マジでか。いや確かに天才だし普通にありそうではあるんだけど」
流美たんそんなこと一度も言わなかったな。謙虚な性格ではあるし、自慢っぽいことはしないだろうけど。
コタケ、ヤスダが趣味の話で盛り上がり始める。うん、流石は俺の親友達だ。まさか趣味の話が女性用下着についてだとはな。
「っと忘れてた。コタケ、得点王掻っ攫って来たぜ! 流美たんが出てなかったからFWとしても参加した時にな!」
「おお! さっすが! お前小鷹先輩にパスしないで自分だけでシュートしてたんだろどうせ」
「よく分かったな」
流石俺の親友だ。俺のズル賢さをよく分かってらっしゃる。ヤスダ、お前なんでドン引きしてんだ。
夏のサッカー大試合で、セフィの身体能力の高さと美貌は瞬く間に噂で広まっていった。今朝の記事にも、「美少女プレイヤー、セフィーラ。屈強な男子相手に一歩も進ませない」なんて書かれてたし。
想像よりもずっと、セフィのディフェンススキルは高かった。
「転入生、可愛いよなぁ。彼女になってほしい」
ヤスダが夢を見ている。お前みたいな腰抜けのチビ、そして変態となると女子も中々寄ってこないだろ。セフィレベルは諦めなさい。
「確かに、遠征前に至近距離で見たけど綺麗だよな。髪も肌も顔立ちも。声も可愛いし、あんな女本当にいるんだな」
「女子は皆可愛いぞ。セフィは容姿ならその中でも群を抜いてるけど」
「ハイハイカワイイネヨカッタネ。でも俺は、セフィに告白しようとか思わないな。俺よりスペック高過ぎてカッコつけられない」
「お前身長めちゃめちゃ高いじゃん」
「身長と体重は抜いて話せよハナシュン」
美少女でさえあれば好きになれるヤスダと違って、コタケにはプライドがあるみたいだ。それなら、絶対にくれてやらないけど矢吹がオススメだ。頭悪いし、運動も大してできないし。絶対にくれてやらないけど。
プライドが高い男なら昇のことは諦めるべきだ。運動結構出来るし、学力は校内トップクラスだからな。悔しくなる。
「だとしたら、流美たんのことどう思うよ?」
「流美たん? 谷田崖のことか? 確かに、矢吹さんやセフィに比べたら容姿は平凡かも知れないけど、運動神経ワールドクラスじゃん。泣けるわ」
「俺はあの射殺す様な眼で『死ねば?』って言われてみたい」
「ヤスダ、もうお前は病気だ」
「「お前が言うな」」
おい、ハモんな。考えてみろよ二人共。流美たんの射殺す眼はハートを撃ち抜くなんて可愛いものじゃないんだ。杭打ち機で心臓破られるみたいなもんだ。並みのマゾでは即死だぞ。
「あんたら、中々愉快な話をしてるじゃんか。そういうのは休み時間までにしておけ」
あーらヤマナカ先生じゃないの。よっ! 我らが担任。ところで、もう授業始まってたのね申し訳ない。
俺もヤスダも自分の席に戻って、俯せになる。──スリッパで叩かれた。
「安田、花菱、授業中に堂々と寝るな。それと花菱は今日は受ける必要ないだろ」
「あ、そうなんですか? もしかして運動部は大会後の振り替え休日がある的な? 何一つ話聞いてなかったせいで覚えてませんでした」
「ナメてんのかあんたは。普段どうやって物事を記憶してるんだ」
「学校に関しては、昇任せです」
「「「バカの極みじゃねーか」」」
全員でハモるなってこれまでで何度言ったと思ってんの? 何? うちのクラスは俺以外以心伝心なの? 何それ仲間外れ嫌よあたし。
テレパシーの方法でも後で教えてもらおうと心に決めて、クラスメイト達に泣きっ面で手を振る。返してくれたのはコタケだけだった。切ない。
「昇! 今日は俺達授業出なくていいらしいぞ。矢吹先帰っちゃったから一緒に帰ろうぜ!」
校内の図書館で自習中の昇の隣に座る。昇の眼鏡姿はとても貴重で、何か眺めてたくなる。
「悪いけど、私今日はあと二時間くらいここに残るつもりだから先帰ってて」
「え? 二時間も勉強すんの? 怠くね?」
「普段の授業は六時間以上あるでしょ。それと、一時間半は勉強に使うけど、残りは違うわ。フルサワ先生に呼ばれてて、行かなくちゃいけないの」
フルサワ? って言ったら俺達の呪いを知ってるし、それについてかな。今はもう無いけど、昇も呪われてたんだし。
昇と一緒に帰れないとなると、残りはセフィかな。家までの道も結構近いし、誘ったら了承してくれないだろうか。
「んじゃあ、頑張れよ昇。目指せ学年一位!」
「……そうね。期末では一位狙おうかな。バイバイシュン」
昇はやる気に満ちた笑顔で、俺に手を振る。改めて可愛いしおっぱいがデカいと認識した。
それはそうと、昇は中間で平均九十四点なのに十二位だった。それより上の奴らはどんな勉強をしているんだろうか。聞いた話だと満点が六人いたらしいし。
この学校のレベル怖い。え〜ん。
「花菱君、一緒に帰らないか? なんてね」
「お、セフィいいとこに。丁度帰り誘おうとしてたんだよね、一人寂しいから」
「矢吹さん帰っちゃったし、梅原さんも用事あるみたいだしね」
「そうなんだよ切ないよな。んじゃ行こう」
独りぼっちで帰ることにならなくてよかった。こういう時、セフィのことは「友達」としてしか見ていない。幾ら相手の家訓で仮の恋人になっているとしても、俺には心に決めた人がいるから。
前に、それでセフィの機嫌を損ねてしまったことはあふけど──って、思い出した。
「セフィ、バイト復帰して給料貰えたら金返すからな。沢山貸してくれてありがとう」
「あはは、気にしないでいいのに。だって、部員全員分のお弁当代は多過ぎるでしょ」
「だよね。本当酷いよねあの先輩達。もう多分部活に来ないけどさ。大会終わったし」
流美たんに振られたし。
「いいんじゃない? どうせ流美ちゃんの気を引きたかっただけで真面目にやる気なんて無かった人達なんだし。セフィは正規のメンバーさえいればいいよ」
「ま、そうなんだけど」
帰路で楽しくお喋りしてる間、俺は今朝車内で川の神と話していたことを思い出していた。
何故か、セフィはループを捻じ曲げて俺達の前に現れた。大筋には殆ど関係して来なかったけど、異常事態なのは間違いない。
このコがもし、それを自分自身でコントロールしたというのなら、何者なのだろう──と。
「ここまでかな、同じ道なのは」
「お、マジ? この道の先に行くと昇の家あるよ。近いんじゃね?」
「えっ、そんなんだ偶然! 凄い! 今度一緒に帰ろうって誘ってみようかな」
「委員会の仕事ない日なら多分いつでも大丈夫だと思うぞ。今日みたいに用事がある日もあるだろうけど」
セフィの家は、昇の家の少し先らしい。なら、後で遊びに行ってみるのもいいかもな。……あ、でも矢吹にちゃんと断り入れておこう。
「それじゃあまたね花菱君。次会える時まで、また」
そう言ってセフィは小さく手を振る。このコの笑顔は、本当我を忘れそうになる程可愛い。ロリ顏でもあるし最強だよな。
「また、な。明日は休日だけど、どっかで会うかも知んないし、一応『またな』で」
「ふふ。うん、またね」
まるで本当の恋人みたいな雰囲気になったけど、俺とセフィはきっぱりお別れした。大試合お疲れさん。
久々のお家でござりまする。ああ、鍵が開いてる。多分これは李々華が愛しい兄貴のために気を利かせてくれたんだ。
「ただいまマイファミリー! 最近しょっ中遠出してメンゴメンゴ! 今日明日って一杯家事手伝うよ!」
廉翔に李々華に母上。皆して白けた顔してる。おい何だその顔は。
「俊翔、手洗って顔洗って脳みそ洗って来なさい」
「母上、死ぬわ」
それとどうやって洗うの。
「バカ兄お帰り。遠征長くて、しかも雷酷かったから死んだかと思ってた」
「予め日数はお伝えしておいた筈ですが。それと、雨天延期についてもメールで教えたでしょうが」
あと、正確には二度死にました。
「何か土産ねーの? あ、くたばってたんだっけ」
「あながち間違っちゃいないけど、代わりに部員のクォーターの子がこれ買って来てくれた」
「何これ」
「ギブアンドテイク饅頭」
まさかあのサービスエリアにも売ってるとは思わなんだ。そしてセフィはどんだけ好きなんだその饅頭。
廉翔が早速袋から饅頭を取り出して、四等分する。四人全員で食べて、何となく無言で自室に上がって行った。
「さーてと、折角帰ったし矢吹に電話しようっと。大丈夫だよな、迷惑じゃないよな?」
疲れてるんじゃないかって少し躊躇って、やっぱ声が聞きたくて発信。数秒で応答されて、何かホッとした。
「矢吹? ちょっと話さないか? 声が聞きたくなってかけたんだけど」
『いいよ。僕も花菱君とお話ししてたいし」
「天使か。んっとじゃあ何話そうか?」
『何も浮かんでないんだ?』
「面目ねぇ」
こういうのは、男が話題を作らねばいかんと思うんだ。だから空っからの脳をフル回転させて、ちょっと頭痛くなっただけだった。
『……谷田崖さんのこと、どうした? 花菱君。多分だけど、告白されたでしょ?』
ごちゃごちゃ考えてたら、矢吹が先に話題を出してくれた。けどその質問結構胃に来る。
「んと、ちゃんと断ったよ。俺には矢吹がいるし。それ以外の誰かと付き合うなんて今はもう有り得ない」
『セフィとは付き合ってるじゃん』
吹き出した。笑えたとかそういうのではなく、驚いて。
「仮な⁉︎ 俺がアホなことした所為でセフィん家の家訓に従うことになっただけだから! 俺は早く別れたいし、いつか向こうから振ってくれる予定だから! あと、俺的には恋人として見てないから! 信じてくれ矢吹!」
『大丈夫、冗談だよ。花菱君は、僕のために生きててくれるんだもんね……?』
少し遠慮がちに、スマホの向こうで矢吹が問う。一瞬悪役のセリフかと勘違いしたから間を空けることになったけど、俺は唾を飲み込んで噎せてハッキリ答えた。
「勿論、そのつもりだよ。俺はもう覚悟を決めてる」
少し恥ずかしいけど、今こそ自分の本気を伝える好機でもある。いつの間にか李々華が俺のベッドに座ってて怯えたけど、矢吹に俺の気持ちを伝える。
「俺は矢吹を一番に愛してる。誰よりも愛してる。たとえ、これからも神様に殺され続けてしまったとしても、矢吹を幸せにしてみせる!」
言い切って、正直涙目。妹の眼の前でこんな愛の告白しないといけないなんて、何の拷問だよ。いいけどさ、別に。
李々華に罵られることも覚悟していたら、矢吹がクスクス笑う声が聞こえて青冷めた。
「何で笑うんだよ⁉︎ かなり緊張したんだからな⁉︎」
『ごめんごめん。嬉しくってさ。……僕が好きになったのが、君でよかった。花菱君、大好きだよ』
矢吹は「えへへ」と可愛らしく照れる。耳が幸せ。ヨダレ垂れそうなんて顔面崩壊してたら、背後から小さく「キモ」と聞こえて真顔になった。
──俺は流美たんの呪いのことも知ってる。矢吹や昇の呪いのことも知ってる数少ない人間だ。それでいて、全員の近くにいる。
誰かとじゃなきゃ乗り越えられない神々の呪いから、俺が全員を守ってみせる。例え妹が鳥肌立てて蔑視して来てたとしても、絶対にめげない。
「でも本当傷つくからやめろ李々華! 兄ちゃん泣くぞ!」
「うるさいキモい。デレデレしてる顔が普通にキモい。泣くなら勝手に泣いてたら」
「お前酷過ぎんだろ⁉︎」
昇の時みたいな奇跡があと、何回も起きてくれるなんて夢だ。夢でしかない。
でも俺の周りはどれだけ呪いが渦巻いてるんだよ。逆に言うと、何で殆ど全部に関与してる俺には呪いがかけられてないんだ? 矢吹の巻き添えは除いて。
いや、待て。
本当に、自分だけが例外なのだろうか?
──俺は、無意識の内に胸の奥で笑みを溢した。
二章完結です!ここまでありがとうごさいます!
引き続き読んでいただけると嬉しいです♪




