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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第二章 陽の光に照らされて
46/83

2─18

 川の神と俺は、俺の脳内で対峙する。向こうは俺を小馬鹿にした様子で微笑んでるけど、俺は頑として睨みつける。


「聞きたいことって? 今回の、谷田崖流美の呪いに私は関与していないんだけど」


「そこじゃない。まず知りたいのは、昇の呪いは消したのかどうかってとこだ。あいつ最近、俺と矢吹が死んだ時巻き込まれてループしたんだよ」


「んー? それは何でだろう?」


 川の神は突如現れたベッドに腰を下ろして、子供の様にゴロゴロ寝転がる。


「私は梅原昇の呪いを自分では消せないんだけど、何か突然打ち消されたね。だからもう呪いのループは無くなって、死んだらはい、終わりーな筈だよ」


「でも俺達と一緒にその日の朝に戻ってた。その理由は、神様のお前でも分からないのかよ」


 少しキレた感じで言ったら、川の神は眉をハの字に曲げて眼を伏せた。頭の上に、漫画でよく見るモヤモヤマークが浮かんでる。


「ごめん、そこは力になることは出来ない。私にはさっぱりだわ。知りたいことってそれだけかい? 彼女達を待たせてもいいの?」


「分かんないならいい。戻る」


「バイバーイ」


 意識を現実に戻して、溜め息を溢す。よかった。昇の呪いは消えてた。てことは、間違いないな。


「俺達は一度、呪いで死んで五日前に戻ったことがあるんだ」


「……やっぱり呪われてたんだ」


「正確には矢吹がな。で、普段はその日の五時なのに五日も戻ったのには訳がある。──流美たんの呪いと俺達の呪いが同じ空間で発動したからだ」


 何処からどう説明すればいいんだかちょっと分からなくて、まず、このことから話していく。

 一気に巻き戻されたあの日、俺は花歌さんのスカイダイビングを失敗した。一回目の時だ。

 その時多分だけど、流美たんも別の場所で死んでるんだ。


「呪われた二人が同時に死んで、同じ日の記憶を持ったまま三人がループする。そこで何かしらがぐちゃぐちゃになって、何かが捻じ曲がって、時間が大きくズレた。俺はそう考えてる」


「何かばかりじゃないか……」


 バカに難しい解説を求めないでください。仕方ないでしょう、バカなんだから。しかも確信ないんだし。


「流美たんが笑顔を作れないのは、親から愛されなくてそう思い込んでるから。自分は笑うことを禁じられてるからって。今日、実は教えてくれてたんだよな。気づけなくてごめん」


 十字仙山の神様のことを聞いた時、流美たんは自分のことを話していたんだ。


「小六の冬、大雪の日に家出したって言ってたよな。そこで、死んだんだろ。流美たんは身体が弱いから、耐えられなくて」


「うん。そこで、十字仙山の神様が私のとこまで降りてきて、『生き返らせてやる』って。『代わりに、長く陽に当たると死に朝へ戻る呪いをかける』って言って」


「そう、俺もやっとそんな感じなんだって気づいた。でも……」


 呪いについては初めて知ったんだろう、花歌さんが頭を押さえてる。矢吹は、俺が何の話をしてるのか理解してなさそうだ。

 ──この中でただ一人。きっと俺だけが真実に辿り着いてる。


「流美たんは、十字仙山の神様に呪われたんじゃない」


「……え」


「え⁉︎」


 流美たんと矢吹が眼を丸くする。信じてくれないかも知れないけど、これは多分事実だ。


「あの日流美たんに呪いをかけた神様は十字仙山のじゃない。この町の、神社に棲みついてる神様だったんだよ。トオノミノ神じゃない」


 流美たんがちゃんと身体を起こして、本気で俺を睨みつける。俺がテキトー吹いてるって、疑ってるんだと思う。

 それでも真実を伝えなきゃいけないから、気圧されても口を動かす。


「十字仙山の神様は山の頂上から降りて来られないらしい。俺はそのことを何処かで聞いたんだ。マジで何処か覚えてないけど」


「ダメじゃん……」


「流美たんはさっき、()()()に行ってたんだろ? 俺達さっき神社にいて、そこで天気予報確認したんだけど明日は快晴だった。雲一つないって予想されてた。……本当に晴れて、決勝に出て、呪いで死んだ。そして今日に戻ったけど、疲れて今ここに寝てたんだ」


 流美たんは何も喋らない。けど代わりに、矢吹が俺の裾をぐいぐい引っ張る。


「その日の朝に戻るんじゃないの? 僕らがかけられてる呪いって」


「俺達はそうなんだよ。でも、流美たんは多分違うんだ。一日前に戻される。前に、次の相手は『強かった』って言ってた時、気にしなかったけど違和感はあったんだ。そうなんだろ、流美たん」


「……うん」


 流美たんは布団をギュッと握って、いつもの無表情のまま自分の呪いの全てを──俺に対する答え合わせを始める。


「私の呪いは、その日の朝には戻らなかった。神様は嘘をついてた。陽に当たり過ぎるなと言われても、何処が基準なのかも分からなくて、毎回タイミングがバラバラ。私は正直、生きていける自信がない」


 三〇六十五日、一日一回ずつ死んだら三倍くらいになるんだもんな。本気で死にたくなるだろう。そのくらいは察せる。


「今日も、『今日は死なない』って思ったけど、直ぐに倒れて、気づいたら今日の朝だった。私は次に進むのに、何日もかかる」


 たった一日生きてるつもりが、流美たんにとっては三日分なんだ。そんな辛さ苦しさを、誰が分かってやれるんだろう。

 流美たんが笑ってはいけないって思い込んでるのは、自分は楽しく生きていける人生を歩んではないから、だって俺は解釈してる。

 ──それについては、流美たんは一言も喋らなかったけど。


「もう苦しい。生きてたくないのに、死にたくない理由を見つけちゃった」


 流美たんの両眼から、ボロボロと大粒の涙が流れ落ちる。矢吹はすかさず駆け寄って、ハンカチで涙を拭くけどそれ濡れてるやつ。


「私は俊翔に会い続けたい。俊翔と一緒にいたい……。サッカーもやりたい……。皆とプレーしたいのに……」


 流美たん、やっぱり……


「谷田崖さん、花菱君のこと好きなんだ……?」


 矢吹にそう言われて、一瞬流美たんの鳴き声が止んだ。みるみる内に真っ赤になって、力強く頷いた。

 正直、好意を持たれてるんだろうなってのは自覚してた。でも自惚れだったらどうしようって不安で、認めてなかった。


「俊翔が好き……。大好き。いつも優しくて、明るくて、私なんかにも気兼ねなく接してくれる俊翔に、恋してる」


「うん。僕も同じ。花菱君が大好き」


「俊翔は矢吹さんのだけど……私諦めたくなくて……」


「大丈夫だよ、そんなの誰だって同じだから。そう簡単に諦められる恋なんて恋じゃない」


 本人の前で、彼女達はなんて会話をしているんだろう。恥ずかしいじゃないですかちょっと。流美たんの呪いについてとかはどうなっちゃったのよ。

 結論言うと、流美たんの前に降りたったのは山の神じゃなくて神社の神。「陽に当たり過ぎると死ぬ」呪いをかけて、流美たんを苦しめてる。そして、知ってるどの呪いよりも強くて、他の人も巻き込んじゃったりする厄介なものだったってことだ。


「……君は、星歌と彼女のどちらが大切なんだ? 花菱君」


 花歌さんが鋭い眼を向けて来て、緊張した。深呼吸して息を整えて、俺なりの答えを出す。


「どっちもです」


 女の子だからね。俺は女好きなので。

 流美たんを慰める矢吹によってここで中断することになり、花歌さんにキツく睨まれたけど部屋に戻った。

 流美たんにとっては初めてではないけど、俺にとっては初めての翌日。予定通り快晴で、簡単に流美たんを死なせてしまいそうだ。


「谷田崖は悔しいだろうが、決勝に出す訳にはいかなかったかんな。まぁ仕方ない」


 流美たんが居ないまま決勝戦に挑み、見事惨敗。小鷹先輩やセフィ、小長屋先輩は食らいついてたけど、残りのメンバーはもうやる気をなくしてて勝敗は丸分かりだった。


「すんません、勝たせてあげられなくて」


「気にすんなって。まだ冬が残ってるし、練習するのみだ。頼むぞ少年」


「いや歳あんま変わんないでしょ」


 すっげー悔しいんだろうけど、小鷹先輩はおくびにも出さない。流石キャプテン、一生じゃないけどついていきまっせ。


「俊翔」


「おわっ⁉︎ ……ビックリした流美たんか」


 自販機で品定めしてる時に背中突くなよ心臓ぶち撒けるから。──いや怖いな。爆弾でも埋め込まれててスイッチ押されたのかよ。

 俺が買うより先に、昇が全員分に買って来てたらしいスポーツドリンクを渡された。よかった、もうほぼ金なくて助かる。


「流美たん、悪い決勝負けちった。MFの俺がもうちょっとパス回し頑張んなきゃなんなかったのに、ヘマしたなぁ」


「俊翔は充分頑張ってた。でも、周りがアレだから……」


「アレって」


 まるで寒気がしてる様に流美たんは両腕を押さえる。今ちょっと聞いてみたら、小長屋先輩が苦手だそうで。ザマーミロ先輩。

 そりゃあね、コミュニケーション取るのが苦手な女の子にあんなね、チャラくお気楽なテンションで迫ってたら嫌われますわ。はっはっは。勝った。


「……って流美たんナチュラルに手握ってくんのね。いつもみたいに恥ずかしがらないの?」


「恥ずかしいけど、私は恋人になれないからこれくらいは許してほしい。ちゃんと、矢吹さんに許可もいただいてきた」


「矢吹は心狭いんだか広いんだか……」


 間接キスはダメで、セフィみたいなコと仲良く話すのもダメなのに、流美たんと手を繋ぐことはOKなんだな。基準がよく分からん。

 流美たんなら押しが弱いから俺が盗られることはない、とか考えてたりして。安心してくれ、俺は君一筋さ。

 女の子に興奮はしちゃうけどね。女好きの性、許せよ。


「俊翔、お願いがあるの」


「ん? お願い? 肩揉もうか?」


「違う」


 流美たんは俺の手から手を放し、身体をこっちに向ける。ジャージ姿暑そうだけど大丈夫なのかな。

 廊下に人は俺達以外居なくて、男女が神妙な面持ちで付き合うとする。これは、告白されてしまうのでは?


「私を振って」


「ほぁ?」


 愛の告白ではなく、俺が幾度と受けて来たことを自分にしてくれというそこそこ突飛なお願いだった。

 自分を振ってくれって、中々聞かないセリフだ。


「俊翔は私が告白したことに気がついてなかったみたいで、その返事は貰えてない。でも俊翔には矢吹さんがいる。だから結果は見えてる。……私を、振ってください」


「なる、ほどね。そういうことか理解した。ビックリさせんでくれホントにもー」


「ごめん」


 既に覚悟完了してる女子ってことか。よく漫画とかで見かけるよ。告白しても返事は分かりきってて、自分からこうやってお願いする切ないシーン。

 その後、笑顔で去って何処かで隠れて泣くのがパターンな気もする。流美たんも同じなのかな。笑うのかな。

 と言っても、振る方も気持ちは簡単ではない。充分に深呼吸して、流美たんに頭を下げた。


「ごめんなさい。俺にはもう、大切な人がいます。君とは付き合えません」


 言い切った直後、物凄い力で顔を上げられた。

 ──視界には、涙を浮かべて仄かに微笑む流美たんがいた。


「ありがとう。俊翔、大好き」


 それだけ残して、流美たんは廊下を歩いて行った。

 女の子の涙って本当に綺麗だよな。んでもって、胸が苦しくなる。

 ごめん、流美たん。俺の方こそ好きになってくれてありがとう。


「あ、花菱君遅かったね。何処に行ってたの?」


「ちょっと廊下で」


「飲み物飲んでたんだ?」


 ホテルに戻って、帰る準備を始める。昇は一足先に準備終えて流美たんと一緒にバスに向かった。セフィもついさっきトイレに行って、今は矢吹と二人きり。

 何故なら俺も矢吹も準備が遅いから。


「なぁ矢吹、ちょっとふざけていい?」


「なに? 花菱君はいつでもふざけてるから今更でしょ?」


「それね、多分ジョークのつもりなんだろうけど案外傷つく言葉だから気をつけてね。うっかりその窓からダイブしそう──なんて俺に勇気はない」


「知ってるよ」


「知らないでいてくれよ」


 矢吹は、窓の枠に腰掛けて俺を待つ。さっきふざけるって言ったこと、一応ちゃんと聞いてくれるっぽい。

 でもね矢吹、手、止まってる。昇に怒られるからマジで早くしよう。


「ゴホンッ。えー、と、俺ってそんなに魅力的かな」


「ぶはっ!」


 吹き出すなよビックリするから。てか傷つくから。


「な、何言ってるの急に。もう、笑わせないでよ」


「そんなつもりは毛程もなかったんだよ。もう、笑わないでよ」


「ごめんごめん。花菱君が魅力的かどうか、だよね? そりゃ勿論、僕からしたら魅力だらけだけど……一般論はちょっと分からないかな」


「要するに然程魅力的ではないってことね。サンキュー」


 これで自惚れずに済む。矢吹、昇、流美たんって好意を寄せられたから、これからもっとモテるんじゃないかって変な期待しなくて済む。少し手遅れかもだけど。

 ……でもやっぱり傷ついた。

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