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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第二章 陽の光に照らされて
39/87

2─11

 スカイダイビングって、何で事前に教えてくれないんだよ……。

 後ろが怖い。もう扉が開いてるから、一歩間違えばそのまま落下する。

 外に身体を向けて、落ちてしまわない様身長に立つ。そしてようやく矢吹に返事をした。


「ごめん、今上空にヘリで飛んでるから、声があまり聞こえんかも」


『何やってるの⁉︎ 空を見覚えのあるヘリコプターが飛んでたからもしかしたらって思って……!』


「スカイダイビングしなくちゃならないっぽいんだよな」


 スマホの向こうで、矢吹が必死に叫んでる。珍しく、大声を出してる。

 スカイダイビングは未経験だけど、多分大丈夫だろ。夢で経験済みだ。落ちたけど。


「矢吹、俺はこれを成し遂げて、決勝のために花歌(はるか)さんに誠意を見せるよ。それで、帰る。だから待ってて」


『だから! 花菱君どうしたの⁉︎ 最近おかしいよ!』


 矢吹が更に声を荒上げる。おかしいって、大体常に言われてるけどどうして?

 今俺、何か変なこと言ったか? 寧ろかっこよかったつもりなんだが。


「なぁ矢吹、俺は矢吹が何をそんなに焦ってるのかがイマイチ分かんないんだけど。パラシュートもあるし、大丈夫だと思うんだが」


 無言で装着させられたのがパラシュートでした。『parachute』って書いてあるもん。

 珍しい読めた!

 簡単な単語を読めて嬉しさが込み上げてる俺を他所に、矢吹は少しだけ声のトーンを落とした。


『前回……何で死んだか覚えてないの?』


 まるで消え入りそうな声だ。心配というよりは、恐れてる様な、そんな声。

 矢吹は何かに怯えているみたいだ。──待って、()()


「俺らが死んだのって、二人揃ってだと一度だけだよな……?」


 スマホの向こうで、息を飲む音がした。


『違うよ、二度だよ。覚えてないの?』


「花菱君、さぁそろそろ準備だ。先に言っておくが、これをクリアした程度では終わらない。私を納得させるまでは帰さんよ」


 ──覚えてない? 何をだ。そして俺はいつ、二度目の死を経験したんだ?

 坊主のおじさんに背中を押され、ヘリと空のギリギリの境界線に立つ。背筋が凍る程おっかない。

 そんな俺の状況を察したのか、矢吹が再び声を上げる。周りに人はいないのだろうか。


『花菱君は前回、()()で死んだんだよ! パラシュートが引っかかって、ビルに叩きつけられてそれで……!』


 矢吹が一生懸命伝えることは、確かに身に覚えがあった。ずっとずっと、忘れてなんかいなかった。


「五日くらい前に見た……あの夢って、夢なんかじゃなかったんだ」


 ずっと夢だと思ってた。でも今思えば、この状況まで酷似し過ぎている。偶然じゃまずない。

 それどころか、あの時聞こえた女性の声。それが花歌さんのものだって、今ならハッキリ分かる。

 一つおかしい。何故一回しか死んでないのに五日戻ったんだ。普通は一日だろ。


「矢吹、後で一回話し合おう。少し気になる点があるんだ。いいか?」


『えっ、じゃあ、今直ぐ降りて来なよ! 飛ばないでいいから、ね⁉︎』


「悪い、それは出来ない」


 矢吹との通話を終了して、花歌さんに真剣な眼差しを向けた。

 覚悟した。飛んでやりますよ、今度は見事に着地してやる。


「さっきのは、星歌との電話か? やめておけとでも言われたのかな?」


 意地悪な眼をする花歌さんに苦笑して、軽く上に手を伸ばした。大丈夫だ怖くないって、自分に言い聞かせる。


「そうっすね、でも断りました。今度こそ成功させて、花歌さんに認めてもらいますから」


「ふっ、いい心意気だ。『今度こそ』という部分はよく分からないが」


「いいんすよ、分からなくて。それは俺と矢吹だけが知ることの出来る、裏オプションのことなんで」


「君達にオプションなど存在したのか?」


「細けーっす」


 拍子抜けするからマジでやめて? とにかくかっこつけたいだけだからテキトーにかっこつけさせて? もう何も言わないでくれ。

 ……一つだけ、絶対に謝らなきゃならないことがある。


「矢吹ごめん。死なせないなんて大口叩いておいて、簡単に巻き込んじまった」


 前回の反省をぼそっと呟いて、轟々鳴る上空から広い人口草原に眼をやる。あそこにパラシュート開いて降りりゃいいだけなんだ。簡単だ。


「行くぞ、花菱君」


 花歌さんが微笑んできたので、歯を煌めかせてニカッと笑ってやった。

 先に花歌さんが飛び降りて、俺も後に続いた。おお、これは凄い感覚だ。崖から落ちた時はよく分からなかったけど、こんな遥か上空から飛び降りるとか正気じゃない。


「はぁかややまははあわばばははぁくぁ」


 自分が何を言いたいのか分からない程、正気の沙汰じゃない。怖い怖い。

 しかし、これもただ天使に生まれ変わったと自己暗示しておけば何てことはない。前方の花歌さんの合図と共に、パラシュートと言う名の翼を広げればいいだけだ。


「今直ぐ開け! パラシュートを開くんだ! 落ちるぞ!」


 ポニーテールを逆立てながら、花歌さんが俺に叫ぶ。はいはい、分かってますよ──。


「ん? 何か、マズった気がするぞ……」


 俺の前方には、草原でなく小さめの建物が幾つか見えてるだけだ。着地地点が明らかにズレている。

 確か、パラシュートを開いてもコンクリートじゃほぼデッドエンドなんだっけ?


「やべぇ! 開け開け開け開け!」


 せめて軌道を修正したい。その思いだけでパラシュートをかちかちかちかち弄りまくる。思えばこの行動が命取りとなったのかも知れない。


「うぉっ⁉︎ 急に何だよ!」


 パラシュートは突然開く。そして腕やベストなどに絡みつく。──まるで前回同様に。


「嘘だろふざけんな直れ! 正常に開け! クッソ……!」


 必死に足掻く。足掻いてる中でようやく気が付いた。

 ──パラシュート開くの、明らかに遅過ぎたんだ。

 軌道修正も出来ないでパニックに陥って、絡まって、前回同様コンクリートに一直線。その前に一度、ビルに叩きつけられる。


「あっ……が、かはっ……ぁ、ぁ」


 呼吸が困難になって、最早何処が何処だか分からないくらい空中で回転してる。でも吐く余裕すら無い。

 あ、見えた。

 コンクリートが正面に見えた。あと、ざっと十メートルってとこか。上からじゃ全然分からないけど。

 とにかく、俺の死は確定した。


 ──ごめん矢吹。ちゃんと言うこと、聞いておくべきだった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 掌に柔らかい感触。取り敢えず握ってみると、布だってことが分かった。

 それは右手で、左手も開閉してみる。物凄い心地よい、柔らかい感触。これも布なのを触感で理解した。


「また五日戻ったのか? またバス乗るの嫌だよ。ついでに何回戦もするの嫌だよ」


 死んだ後は基本的に疲労感が酷いってのをたった今覚えて、触るだけで癒される様な左手の感触を堪能する。

 まるで、女の子のおっぱいの様な心地よさ──


「こ・ら!」


「っだぁあ⁉︎」


 デコに一点集中の大ダメージ。これは母さんから何度も受けたことがあるから身体が覚えてる。デコピンだ。

 無理やり手を離されて、ようやく眼を開けた。何か小綺麗な天井・電気に……脇には昇。


「あれ? ここホテルじゃね? 今回は五日分戻った訳じゃないのか」


「違うわよ。たったの一日だけ。今日は四回戦があるけど、出れるのシュン?」


「ああ、そっか。今日は四回戦の後、流美たん連れて外行って──花歌さんに会うのか」


 一日戻ったってことは、そういうことだ。

 起きたのに流美たんが同じベッドに居ないどころか、矢吹とセフィも含めて部屋に居ない。つまり、矢吹が人払いをしてくれた、と。

 普通残るの矢吹じゃね? てか、ちょっと待て。


「もしかして昇、俺に何あったか知ってる? だとしたら昇も死んだのか……?」


 矢吹が昇にここを任せたってことは、話を聞いたってことだ。……が、それだけじゃ到底理解は出来ない。だからこの考えに至った。

 昇は苦笑して、リュックからスポーツドリンクを取り出した。その間に一応身体を起こしておく。


「何でかな、死んだみたい。何が起こったのか分からなかったけど、矢吹さんと一緒に」


「俺らの呪いのことを知ったからか? いやそれは無いか。だとしたらフルサワもループする筈だし」


 初めて死んだ時、呪いを知ってた筈のフルサワはループしていなかったからな。違うんだろう。

 だとしたら、何でだ? 何で昇まで戻ったんだ。


「ダメだ、呪いのことなんて考えても分かんねぇ。ところで、矢吹は何でここに残ってないんだ?」


「谷田崖さんとセフィが居て、さっきみたいにうっかり呪いのことを口に出しても大丈夫なの?」


「……あー、何かダメな気がする。それより、試合の準備しよう。なるべく同じ様に過ごさなきゃ」


「うん、そうしよ」


 四回戦のハーフタイム、矢吹と昇と相談して、流美たんを連れ出すのはやめにすることにした。花歌さんと会う際、面倒そうだし。

 矢吹は花歌さんと再会するのを、かなり強く否定して来た。


「永遠に脱出出来なくなっちゃうよ花菱君! あの人について行ったら、何度も何度もスカイダイビングすることになる! それで多分同じ結末が待ってるんだ!」


 必死な矢吹は、俺の腕を掴んで行かせまいとする。もっと抱き締めてくれたら、気持ちよさそう。

 矢吹の言う様に、花歌さんに会うことで永久的なループに入ることだろう。俺も何度も死ぬのはごめんだから、それは避けたい。……し、矢吹を巻き込みたくない。


「だけど、どうやっても回避は出来ないと思うんだ。花歌さんは俺らのことを調べてた、計画してたんだ。俺を捕らえるのを」


 だから今回逃げても、また会う時が来る。そしてその時もスカイダイビングをさせられると予想出来る。

 だとしたら、早い方がいい。


「何とかしてスカイダイビングをしないルートに上書き出来なきゃ、このループからは抜け出せない。……何か策無いかな」


「何もないのに偉そうなこと言ってたのあんた……」


 昇が呆れた様に額を押さえる。俺にそんなこと考える能があると思ってるのか。ないわ。

 試合の後の時間、誰も来ないだろうホテルの多目的トイレで考える俺達三人。まずい、ムラムラして来た。


「あの……」


「トイレに女子二人と一緒に入ってるとか犯罪の匂いしかしない。ここで、『助けは来ないぜ』とか言って無理やり服を脱がしたりする極悪な変質者とか、許せないって気持ち通り越して羨ましい」


「何の想像してるんだかちょっと分からないけど、僕から提案があるんだけど……」


 矢吹と昇がジト目で俺を見つめるから、正気に戻った。危ない危ない、あのままだったらこのトイレ暫く貸し切りになるとこだったぜ。


「どんな案だ? なるべく簡単なことがいいんだけど。躱し続けるってのは流石に厳しい」


 平静を装って問いかけたら、矢吹はブンブンと首を振った。捥げるんじゃないか? 首。


「躱し続けるなんてどう足掻いたって無理だよ。絶対に。いつ出会うかも分からないし。それより、スカイダイビングさえやらせなきゃいいんだよね?」


「ヘリの破壊とか無しで」


「そんなこと出来る訳ないでしょ。賠償金払うのも無理だし、それ以前に壊せる物もない」


 矢吹が「やらせなきゃ」なんて言うから、強引にでもスカイダイビングを不可能にするつもりなのかと思った。でもどっちにしろ別の日にやるかもな。

 あと、あの人一つ壊れてももう一つ準備して来そうだし。


「僕も一緒にあの人と会う。それで、スカイダイビングは絶対させない様に釘を刺す」


「……マジで?」


「うん、マジで」


 矢吹は頑として考えを変えない。あの花歌さんを少しも恐れず、かつてない程険しい顔つきをしてる。

 険しい表情で、何処か怒ってる様にも見えるけど、それでも可愛いとか反則だろ。舐め回したい。

 でも本当に一緒に来るのか? 『お母さん』とすら呼べない相手の元に、行けるのか?


「俺は、矢吹が少しも後悔しないってんなら構わないんだけど。大丈夫か?」


「大丈夫。花菱君守るためだもん、後悔なんてしないよ」


「でも、そのお母様のこと、嫌いなんでしょ?」


「それでも、ループから抜け出さなきゃいけないし。梅原さんもこれ以上巻き込みたくない」


「何かあったら、俺が守るから大丈夫だよ。昇は皆のこと、特に流美たんのこと頼んだ」


「あんたが守れるの? 分かったけど」


 昇、信頼してくれよ。俺はやると言ったらやるかも知れないタイプだかんな、ナメンナヨ。

 ──そろそろ、花歌さんと出逢う時間だ。俺と矢吹は支度して、花歌さんと会ったあの本屋に向かった。


「どわーーーー! 雨降るってこと、忘れてたああああ!」


「結構凄いっ」


 出たのが遅かったから、随分と早く大雨に打たれることとなった。また本屋でバスタオルを借りる。

 そういや、俺と流美たんがこの本屋に戻ったのって、雨宿りするためじゃんな。ここ凄い寒くて風邪ひきそうだけど。

 ──あと何故バスタオル?

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