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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第二章 陽の光に照らされて
36/87

2─8 矢吹花歌(矢吹星南)

 日本人形で、髪が伸びるとかよく聞くじゃん? そういう人形って主に市松人形だよな。無表情過ぎて明るくても怖い。

 人形のモデルは当然人間だから、似てる人がいてもおかしくはない。何が言いたいかというと、流美たんは普段その無愛想な市松人形みたいだということ。

 雰囲気、明るくても偶に怖い。


「動く分、恐怖は軽減されるからいいんだけどさ、ずっと棒立ちでこっちを見て来るってのはどうなんだ? 少しくらい表情変えような」


 ホテルの温泉から出たら、俺と同じく遅れて入浴した流美たんがバスローブのままじっと見て来た。しっかりと拭けていないのか、ただ蒸気でなのかは知らないけど湿っている。

 身体、拭いてあげたいなぁなんて考えた俺はそろそろ矢吹に刺されるんじゃないかと思う。


「俊翔、道忘れちゃった。だから待ってた。私達の部屋って何処だっけ」


「次からは番号見ておけよ? ほら、おいで流美たん。今おんぶしたら俺が興奮しちゃうから手を繋ぐだけな」


「興奮……? 何で? 手は、繋ぐけど……」


 流美たんはいそいそと俺の手を握る。しかも両手で。結局は袖を摘まむ程度になったけど。

 つい最近流美たんに対して多分、冷たい態度を取った。だからか、この状況はそこそこ気まずい。

 流美たんもあまり目を合わせようとしないし、これじゃチームワークも何もないよなぁ。


「……明日は四回戦だ。その二日後くらいに、決勝。絶対勝とうな流美たん」


 俺が話題に困って試合についてを話したら、流美たんはピクリと反応してから頷いた。

 ──そうだ、試合と言えば一つ、流美たんにどうしても聞きたいことがある。


「何で嘘ついた? 今日」


「……えっ」


 俺の質問の意図が分からなかった様子の流美たんは足を留めた。袖を摘まれているため、俺も足を留める。

 振り返って、なるべく威圧しない様に流美たんを見つめた。


「夜なら倒れないんじゃなかったのか? だから試合にも出したのに、結局倒れてた。しかも、前半しか動いていないのに更にフィールドで」


 この頃流美たんはとても不思議だ。陽射しを避け、だけど試合には出たがる。だけど、倒れた。

 誰も居ないフィールドに戻って、着替えずに汗だくで倒れていた。明らかに、違和感しかない。

 流美たんは後半開始時には既にベンチで寝転がっていた。汗も、必要以上にかくことなんて無い。

 俺はこの謎を解き明かしたくて、流美たんに少し強めに言った。


「何か隠してないか? 俺に。いや、俺達に。チームメイトなんだから、少しくらい話してくれてもいいだろ。四回戦は試合には出さない。倒れたんだから、当然だろ」


「……でも、次の相手は()()()()し、私が居ないと厳しい相手。私は、出る」


「出さないって言ってるだろ聞き分け悪いな。いいか? 出してほしくりゃせめて隠していることを教えろよ。じゃなきゃ問答無用でベンチだ」


「そんな……」


 泣き出しそうな程眉を曲げた流美たんを睨みつける様にする。本当は女の子にこんなことしたくないが、それ以上に苦しむ姿は見たくない。流美たんはきっと、何かを無理してる。

 そう感じるのはきっと、身近で起きたことなどが原因だ。


 俺や矢吹には、呪いというものがかけられているから。


「流美たん、神様って信じるか?」


 流美たんが答えを出すより早く、俺は更に質問した。この質問にはちゃんと意味がある。神様を信じるなら、少なからず存在を知っている可能性があるってことだ。と思う。

 つまり俺は、流美たんが呪われているんじゃないかって推測したんだ。


「神、様? 何で? 神様は……いないと思う」


「そっか。……んじゃ何だっていいや。違うなら、別にいい。体調だけは気にしてくれよ、決勝には出てもらうからな」


 まだ勝てると決まった訳ではないけどね。

 元気よく頷いた流美たんの手を引いて部屋に戻ったら、他三人がトランプで遊んでいた。


「夜更かしはよくないですよお三方。特にセフィは選手でしょうが」


「花菱君もやらない? 流美ちゃんは、どう? 楽しいよ?」


「女子四人とトランプできゃっきゃ騒ぐのも楽しいだろうけど、俺はちょっと疲れたし寝る。流美たんは強制で寝せる」


「分かった。シュンが寝るなら、電気を消さなきゃね。矢吹さん、セフィ、カードしまうよ」


「「はーい」」


 三人がトランプを片付けている間にベッドに入ったら、そこに流美たんも侵入して来た。他三人の眼がギラリと光る。怖い。


「流美たんどうした? 俺と一緒に寝たいとか? 嬉しいけど、どうして?」


「寝せるって言ってたから、寝てくれるのかと……」


 凄い勘違いの仕方だった。君は幼い子供かい?

 ピトッと密着してくる流美たんの身体が気持ち良さ過ぎて、そのまま寝ることにした。矢吹が射殺す様な眼で見て来るけど、この誘惑には勝てそうにない。

 自分から触らなきゃ有りってことで許してくれない?

 どれだけ疲れているのか、流美たんは数秒で熟睡した。吐息が首にかかってゾクゾクする。いい匂いで涎垂れてきそうだ。


「邪な感情は抑え込もう。矢吹、昇、セフィおやすみ」


「おやすみ」


「おやすみなさい」


 なるべく小声で言うと、矢吹と昇も小声で返してくれた。もう一つのベッドで転がるセフィだけが、返事をしてくれなかった。

 嫌われちまったかな? だとしたら、仮の恋人を解除してほしい。


 夢の中で流美たんに愛の告白をされて、そのまま禁断の野外プレイ(何のとは言わない)に励んだ後しっかりと眼を覚ました。何で矢吹じゃないんだろう。


「おっと、何か擽ったいと思ったら流美たんか。流美たん起きろ、めちゃめちゃ可愛いけど、顔を擦り付けて抱き締めるのやめてくれ」


「んん……」


「彼氏に怒られるぞー」


「……っ!」


 うつらうつらした流美たんに「彼氏」という単語を出しただけで、眼がぱっちり開いた。これ起こす時に使えるかもな。

 でもやっぱり小長屋先輩のこと好きなのかな。血相変えて飛び起きたし。


「朝からうるさいよシュン。……谷田崖さん? 何処行くの?」


「……外」


「は?」


 心配そうに訊いた昇に眼もくれず、流美たんは部屋を出て行った。

 俺と昇は暫く沈黙に陥り、顔を見合わせた。


「「『外』って何処?」」


 ハモった声に驚いてセフィが起きたことで、俺達一年組は全員起床することにした。


 大試合四回戦が行われる直前になっても、流美たんは姿を現さない。俺が小鷹先輩に今日は流美たん抜きって教えておいたから、別に不備はないけども。

 だとしてもせめて、ベンチにはいてくれよ。


「また花菱君でしょ」


「……え?」


 ハーフタイム、矢吹にジト目で呆れられた。何のことかしら全く分からないので、首を傾げてみた。


「谷田崖さんがここに居なくなる様にしたのは、正直花菱君が原因だと思うんだ。何で()()同じことするのかな」


「いやいや矢吹さん言い掛かりはよしていただきたい。俺がいつ、何を流美たんにしたと言うんだ」


「冷たい態度をとって、嫌がらせ。花菱君にとって嫌がらせじゃなくても、僕から見たらそう取れるから」


「マジか嘘っしょ? ちょっと具体的に頼めるか? 次から注意するから」


「自分で考えなよ……」


 分からないから無理。確かに昨日温泉の後に廊下で流美たんと話した時は、わざと態度を悪くした。冷たくしたよ。でもそれは矢吹が見ていないとこでだ。

 何か思い当たる節……流美たんが傷ついた様な 反応を見せる時。──『彼氏』か?


「何となく、分かったかも知れない。確かに俺の軽率な行動が原因だな。……言動か」


「うん、絶対にそう。僕はほぼ話さないし」


 ハーフタイムを終えた俺は、矢吹にタオルを預けてフィールドに駆け出した。

 プレー中もずっと、流美たんへの言動を改めようと考えていてミスした。昇にどやされる。

 流美たん多分、小長屋先輩と付き合ってることを冷やかされるのが嫌なんだろうな。マジで悪いことしたなぁ。


 試合は何とか勝利。かなりギリギリだったし、本当に流美たんいないと危ないなこのチーム。主に俺が悪いけど。

 いっそセフィをMFに入れて俺がDF行けばいいんじゃね? そっちの方が強そうだし。

 ホテルで流美たんを発見し、見失わない様に注意しながら矢吹に近寄った。


「俺、これまでのお詫びの印に流美たんとちょっとデートしたいんだけどいい? デートって言っても、話しながら町を歩き回るだけなんだけど」


「いいよ。僕も谷田崖さんが可哀想だと思うし。ちゃんと謝るんだよ?」


「分かってる。悪い、行って来る」


 矢吹は笑顔で許してくれた。見送られる中、俺は半ば強引に流美たんを外に連れ出した。

 眼を見開いて固まる流美たんにまず頭を下げる。


「悪い、矢吹に指摘されるまで気づかなかったけど、傷つけてたよな……。お詫びとして、何か、奢ります」


「お金無いのに……?」


「よく分かったな流美たん。そうだった俺今金無いんだった」


「何も要らないよ、欲しい物もない」


「んじゃあ、ちょっとした散歩デートってことで……いいっすかね」


「うん」


 今日の陽射しはそんな強くない。流美たんが陽射しを警戒しているなら、多分この時期は今日くらいしか散歩出来ない。もう直ぐ試合終わるし。

 デートと言っても、流美たんを涼ませるのが目的だ。なるべく涼しい場所を調べたから、そこに連れて行く。恋人同士のデートとは陰と陽程の差があると考えて欲しい。


「流美たん、この雑貨屋涼しいだろ? このくらいなら体調とか大丈夫か?」


「うん、平気。私は暑さじゃなくて、陽射しに弱いだけだから」


「陽射しが暑くて倒れるとかじゃねぇの?」


「違う、そうじゃない」


「ほーん。……それより調べた最初のとこが雑貨屋とは……」


 クーラーの設定温度どのくらいなんだろうな、この店。かなり涼しいけど。

 雑貨屋では、流美たんが犬の箸置きを購入した。何となく気に入ったらしくて、遠征から帰ったら早速使うそう。

 調べて次に出て来たのは、ペットショップ。涼しいよりは暖かい方がいいんじゃないのか? ここは。


「猫を見る度、昇が可哀想だと思うわ」


「何で?」


「アイツ猫好きだったのに、ある事件をきっかけに猫アレルギーになったんだよ」


「あぁ、記憶喪失……」


「やっぱり知ってたか。そりゃ知ってるか、中学同じだしね」


「うん。本当に別人みたいで、ちょっと怖かった」


「まぁそう言いなさんな。気持ちは分からんでもないが。……ところで流美たんはどれが好き?」


「……これかな」


 流美たんが指さしたのはインコだった。セキセイインコ。俺もそいつ好き。

 流美たんは興味津々に見てたインコが急に十八禁用語を言い始めたから、真っ赤になってた。可愛いね、純真だね。

 ……誰がそんな言葉教えたんだおい。


「本屋に来たはいいけど、流美たんDVD見てんのか。何か気になるものでもあった?」


「俊翔が好きそうな……の探してる」


「太腿堪能出来るやつとか?」


「……え?」


「いやっべ、別に、何でも」


 危うく性癖暴露するところだった。いや思い切り暴露してたんだけど、流美たんが相手で助かった。

 俺は流美たんがふらっとアダルトコーナーに向かいそうになったので、がっしり掴んで引き戻した。


「危ない危ない。本当無垢なコは何するか分かったもんじゃない」


「あ、アダルトコーナー……。俊翔が止めるなんて思ってもみなかった」


「俺を何だと思ってんだ」


「え、えっちな……男の子……?」


「……なるべく他の人が居ないとこで頼む」


 後ろのお姉さん方に笑われたじゃないか、どうしてくれるんだ流美たん。確かに俺は、汚れ塗れてる変態男子高校生ですが。

 健全な高校生でしょうが! 寧ろ! エロいこと考えない方がどうかしてると思うね俺は!


「……流美たん、結構歩いたけど大丈夫か? 倒れそうじゃないか?」


 歩道でよろけた流美たんの背中を支えて、顔を覗き込んだ。そっぽ向かれて悲しい。


「大丈夫。今は陽射しが全然無いから、倒れないと思う」


「ならいいんだが、何故に眼を逸らす」


「……近い」


 照れた様に口元を袖で覆う流美たんが可愛くて、ほぼゼロ距離でしつこく眼の前に顔を出す。逃げられまくって最終的には突き飛ばされたから終了。

 俺も周り気にするの忘れてんじゃん。ダメだな俺達。傍迷惑なことにも気づかなそう。


「ふふ……」


 耐えられずに笑みを零した流美たんは、直ぐに無表情に戻った。無邪気な笑顔はセフィや矢吹に引けを取らないくらい可愛いんだから、笑ってればいいのに。

 ほんの一瞬の笑顔では有ったんだけど、きっと今見せてくれた笑顔が初めて見た笑顔なんだけど────俺がその笑顔を見たのは、きっと初めてじゃない。


 何の根拠も記憶も無いけれど、()()()だった気もする。

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