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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第二章 陽の光に照らされて
29/83

2─1 遠征開始

第二章、開幕です。

今回のメインストーリーは二つに分かれてます。どちらも同時進行ですので、両方ともお楽しみいただければ……と思っております。

よろしくお願いします。

 ──あ、何だろう凄い風が気持ちいい。まるで空を飛んでいる気分だ。


 手足が上手く動かせないくらいには強い風に、俺は包まれていた。……包まれてるんじゃなくて、下から猛烈に風が吹いている様だ。

 何でだったか閉じていた眼を開けてみると、ゴーグルをしていたから眼にはあまりダメージが無い。視界にはビルの屋上とか真上から見れる感じ……俺、空中にいないか?

 ああ、もう直ぐ地面に着くよ。そう言えば俺は今スカイダイビング()()()()()()んだったな。


 ──らけ!


 何か、中性的な女性の声に耳を傾けてみる。


「パラシュートを開くんだ! 落ちるぞ!」


 ()()のポニーテールの女性は俺の数メートル下でパラシュートを開く。そうだそうだ、パラシュート開かなきゃ死んでしまうよな。

 パラシュートを開く為に身体に装着してあるベストみたいなのをカチャカチャと弄る──が、反応が無い。あれ? おかしいな。聞いてたのと違うじゃないか。


「うおぉっ!! 急に何だよ……っ!」


 突如開いたパラシュートは俺の腕だのベストの紐だのに絡まって不完全作動。そのまま風を受けた俺の身体は高速回転し、次の瞬間、ビルの壁に叩きつけられた。


「……っ!!」


 何とも言えない痛みだった。痛みだけなら、崖から落とされた時の方が上だったかも知れない。でも回転していて、何も分からないまま段々地面が見えて来て……着地予定の人工的な草原からズレてコンクリートに打ち付けられた────。



「はい死んだああああああああ……あ? あれ? ここ俺の部屋か。ビックリしたぁ。何だよ夢オチか」


 嘆息してほっとする俺は、全身に感じる微量の痛感を無視してベッドを撫で回した。あの夢が本当だったら、俺多分眼も当てられない死に方したんだろうからな。

 この部屋こそ俺の幸せ! ここから出ないなら俺に不幸なんて訪れない! ……ベッドでクルクル回ってたら落ちた。自業自得だな。


 それと、ここから出なかったらさっきの夢以上に不幸なことが待ち受けているのだ。


「おっと、矢吹からメール来てる。『今日は学校行くよ』って、毎日来てくれなきゃ双方困るんですよね。貴女呪われていること、忘れていらっしゃいませんか? 矢吹さん」


 ──俺の、恋人の矢吹星歌は『一日に一度好きな人と会えなければ死ぬ』という呪いをかけられている。

 矢吹は昔、両親や同級生から酷い扱いを受け、自殺したという。だが矢吹が首を吊った十字仙山という山の大樹には神様が宿っていて、矢吹を生き返らせた。果てしなく美少女な彼女に恋をしたかららしい。

 呪いは、矢吹が俺に恋をしたことがきっかけで、神様が嫉妬した為にかけた……という感じだ。


 俺達二人を纏めて殺す呪い。それに対抗する為には毎日毎日、夜の八時までに会わなきゃならない。

 今の所一度しか呪いで死んでないけど、油断は禁物だ。いつ何があるか分かんないからな。


「バカ兄、入るよ」


「あ、おう。いらっしゃいませ」


 ドアをノックしたのは妹の李々華だ。珍しいよ李々華がノックして入室確認して来るなんて。いつもなら無言でいつの間にか侵入して来てるちょいホラー少女なのに。

 相変わらずサイドテールが決まっている。煌めく太腿にすりすりしたい。……俺はサイドテールが好きで、美脚フェチなんだ実は。


 李々華は無言で無断でベッドに陣取ると、その美脚をパタパタと揺らす。俺はまるで餌を揺らされている動物の様に夢中で太腿を凝視。


「バカ兄、キモい。いちいち人の脚見てなきゃいられないの?」


 李々華は太々しい表情のまま腕を組む。はい出ました。李々華の必殺技『キモい』。お前はヒドい。

 俺は李々華の浅はかさに溜め息を零し、秘めたる中二病を解き放って出来るだけ格好つける。


「甘いな、李々華。そんなエロい生脚をわざわざ見せつけに来て、俺が釣られないと思っているのか? 喜んで釣られてやる。そのまま突き進んで未知の領域に顔だけ踏み込んで……」


「流石にキモ過ぎる。誰がいつバカ兄に脚を見せつけたの。キモい。キモ過ぎ。エロくないし」


「酷過ぎる。でも誇ってくれ李々華。お前の太腿は俺が知る限りトップの輝きを誇る絶品だ。世界クラスの美脚の持ち主だと思うぞ」


「知らないキモい死ね。それよりさっさと行きなよ、昇さん待ってるよ?」


「昇? 何でだ? ……あ、部活の準備があるから早く来いって睨みに来た訳ね。りょーかーい」


 さっさと学校の準備して外に出たら、幼馴染みの梅原昇は高貴な風にも感じる程堂々と扉前に立っていた。柵を越えて来るなよ。


「シュン、遠征の準備をするわよ。だから早めに集めてくれって小鷹先輩に頼まれたんだけど、早過ぎたかしら」


「早過ぎなんてもんじゃない。俺は偶然起きてたけど、まだ五時過ぎたばかりだからね。殆ど全員寝てるからな」


 そう考えるとやっぱ、李々華は起床時刻が早い気がするな。……あれ? 李々華俺が部屋出た後出て来てない気がするな。あいつ人の部屋で何やってんだろう。俺の大事な物漁ってたりしないだろうか。不安だ。


 漁られていないことを祈り、首を傾げる昇に眼を向ける。今はもう消えて無くなったらしいけど、昇も呪われてたんだよな。別の神様に。

 あの時俺は何も出来なかった。矢吹が居たからこそ昇は助かったんだ。本当に、心から感謝してる。

 昇は一段と矢吹と仲良くなってくれて安心したんだけど、代わりに矢吹はあまり構ってくれなくなった。昇を優先するから。

 俺は切ないよ悲しいよ。いよぉ〜お!


「バカやってないでさっさと行くわよ。いつもより登校時間が二時間くらい早まったって何の支障も無いでしょ。それより練習時間も増えるんだし、寧ろ良いことばかりだわ」


「よくないことと言えば、まだ俺が朝食食ってないってとこと眠過ぎるってとこだろうな。昨日九時後半に寝たのにまるで一睡もしてないかの様に眠気が酷い」


「あら、それは心配ね。あんたはうちの部の中でも上手い方なんだから、体調管理くらいしっかりしてほしいわ。そんなんで勝てると思ってるの?」


「お前がこんな早く迎えに来なけりゃあと一時間は寝てるつもりだったんだよ」


「そんな暇無いわ。遠征まではもう直ぐなんだから」


 踵を返す昇に向かって息を吐く。溜め息だがな。それから大欠伸を天に向けて、後に着いて行った。


 学校には既に先輩方が到着しており、部室前で飴に群がるアリよろしく集合している。そんな先輩の内一人の肩を叩いて、割り込んでみた。


「やぁやぁ皆さん何事で? 花菱俊翔参上(つかまつ)りました。……ってあれ? あんた誰?」


「……君こそ、誰だ」


「今自己紹介したぞ? 補足入れると、サッカー部MF一年生ってとこだな」


「部の人か。宜しくお願いします。『セフィ』って呼んでください」


『セフィ』と名乗る少年は深々ときっちりとしたお辞儀をする。もしかして、外国人の方ですか? それにしては日本語ペラペラのペラッペラだけど。……薄っぺらいみたいだな。

 よく見てみると、瞳は濃いブルー。日本語で喩えると、紺が近いかも知れない宝石みたいに綺麗な色だった。黒と茶以外の眼は初めて見たから新鮮だ。

 それでいて、髪の毛は薄い青っぽい色素の薄い外見。どう手入れしているのか、少しも跳ねること無く動作について行っている。

 ちょっと近づくだけで分かるけど、物凄い良い匂いする。


「ストップ。花菱ストップ。匂い嗅ぐな変態。一応俺が説明するから下がれ」


 無我夢中で首筋の匂いを嗅いでいたら、小鷹先輩に引き摺られた。セフィは汚物を見る様な眼で俺を睨む。

 だけど、抵抗しない辺りそんな嫌ではないのかもな。

 一番嫌なのは、真後ろから鉄鬼面の昇が射抜く様な視線を送って来ているというとこだ。怖過ぎてちびる。

 セフィの肩に手を乗せた小鷹先輩は、部員全員に聞こえる様に大きな声を出して注目させる。……もしかして部員揃うの待ってた? だとしたらまだ二人来てないぞ。

 それでも、小鷹先輩は気づかずに説明を始めた。


「この子は今日転校して来た一年生の『セフィーラ・カロ・アドルワ』だ。産まれたのは日本だから、日本人として接してほしいらしい。いいな? それと──」


「なるほど、だからセフィって呼んでほしい訳ね。確かに俺もそっちのが呼びやすいから賛成だな。よろしくセフィ!」


 俺は小鷹先輩の説明を途中まで聞いて、セフィに握手をせがむ。ここに居ると言うことはサッカー部に入るということだろう。だから親睦を深めなきゃな!

 もしかしたら、流美たんみたいなハイスペックの持ち主かも知れないし。

 手を差し出す俺に、初めの強気な態度は失われてオドオドするセフィは、はにかんで握手を交わしてくれた。あら、可愛い。

 ハーフとか外国人って、男でも可愛かったりするよね。でも昇がまだ鬼さんだから早めに離れておこう。


「……で、小鷹先輩? セフィのポジションは何処? もう部員なんでしょ? 俺、仲良くなりたいから同列のMF希望します」


「お前の希望は知らねーよ。でもそうだな、セフィやりやすいのって何処だ? こん中の数人は仮入部と助っ人だから空いたとこをやらせる。一応経験者なんだよな?」


 小鷹先輩が屈んで聞くと、セフィは二度素早く頷いた。セフィ、小鷹先輩と並ぶと凄く小さく見えるな。身長いくつ? 小鷹先輩は百八十近かった筈だけど。

 セフィは暫く唸ると、唇に人差し指を当てて思い出す様に答えた。


「以前のチームでは、FWをやらされていました。でも、セフィはどっちかと言うと守る方が得意だと思います。だからDF希望します。……いいですか?」


「勿論だ。FWに俺と谷田崖、MFに花菱と入谷、DFにセフィ。これなら充分何とかなりそうだな」


 今小鷹先輩が名前を出したのは、高校以前から経験があるか上手いレベルに入れるメンバーだ。俺は小学生からで、流美たん同様特に古株だ。まぁ流美たん最強だし。

 それより、セフィがかなり上手いのは今の会話で確定したも同然だ。基本的に攻めるのが得意な人は流美たんを含めて多数存在するが、守る方が得意だって人はあまり見かけない。

 相手のFWやらが突っ込んで来るのを防いだりしなくてはならない為、かなり技術が必要となるポジションなんだ。その上セフィ華奢で小さいし。


 ちっ。セフィと手取り合って楽しい楽しい練習を一瞬で夢見たというのに。


「花菱君……?」


「ひっ」


 凍てつく息吹が首筋にかけられる。背後からピストルでも突きつけられた様に無抵抗。背後の雪女は俺のよく知る人物で……ぶっちゃけ矢吹だった。

 思わず小さく怯えた声を発した為か、正面で俺を見上げるセフィはキョトンとしている。

 やがて俺からひょこりと顔を出した矢吹とセフィの眼があって、数秒の沈黙が現れる。


「……どうも。矢吹星歌です。一応、このサッカー部のマネージャーをやってます。因みに、花菱君の彼女です」


 矢吹は念を押す様に、『彼女』って部分を強調した。セフィは矢吹の自己紹介にハッとし、また深々と頭を下げる。

 矢吹はそれで気が引けたのか、ちょっと困惑した表情になる。安心しろ矢吹、セフィは多分誰にでもこうだ。


「サッカー部に入らせていただきます。一年生の、セフィです。よろしくお願いします」


「こ、こちらこそ」


 何かセフィが微笑んだ瞬間後ずさってここからも去ってしまった矢吹だが、一体どうしたのだろう。フルサワの元にでも向うのかな? 第二保健室の。

 矢吹、おーい矢吹。今から遠征の準備するんだけど……おぉーい。

 矢吹の姿が完全に見えなくなったのを全員で見送り、全員顔を見合わせる。そして何事も無かったかの様に小鷹先輩が部室の扉を開く。

 セフィは未だ矢吹が走って行った路を見つめてる。


「あっ……」


「ん? お、流美たんじゃんか。セフィ、あの子がこの部で最も強い谷田崖流美たんだ」


「……あ、大丈夫。分かります。彼女とは、ちょっと前に知り合いましたから」


「ほ? マジで? 流美たんと知り合いだったのか」


 小鷹先輩達も歩いて来る流美たんに気づいて、早く来い、と手招きする。流美たんは日傘を差していて、ゆっくりと向かって来る。

 日傘差してる姿は初めて見たな。ちょこちょこ太陽気にしてるっぽいが、暑いのかな? 眩しいのかな? 俺はちょっと眩しい。


「えっ……」


 セフィを見た流美たんはちょっと離れた位置で足を留めた。それから、疑う様な眼でじっとセフィを見つめる。セフィはずっと微笑んだままで、とにかく可愛い。

 再度歩き出した流美たんはセフィと俺の正面に立ち、困惑した様子で呟いた。


「何でここにセフィが居るの。ここに入学してた記憶無い。別のとこに行った筈。なのに……」


「セフィ、転校して来たんですよ。流美ちゃん」


「……ん? 知り合いって聞いたけど、どんな関係なんだ?」


 流美たんは困った様に眉を曲げると、ハッキリ開くことのない小さな口を小指が入る程度だけ開けた。


「セフィとは同じ小学校だった。それで、同じサッカーチームに所属してたの」


「……ほう!」


 小学生時代の流美たんを知るチャンスってことで、一気に興奮した。

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