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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第一章 100回目
28/83

番外編というか何というか『花菱李々華は憂鬱』

今回は番外編というか、本編関係ない感じの李々華の一人称になってます。

普段俊翔を貶してる李々華の本心が知れるお話です。短いです。

 今日も朝から隣の部屋が騒がしい。間違いない、バカ兄の部屋からだ。

 バカ(にぃ)とは、私『花菱李々華』の二つ上の兄貴、『俊翔』のことだ。中等部の頃、成績が最下位になったことがあるらしいからそう呼んでる。

 バカ兄のことは別段嫌いという訳じゃなくて、むしろ──いやどうだっていっか。


 バカ兄の部屋で見つけた小説の殆どに、サイドテールの女の子が登場する。だからという訳……ではないんだけど、私は毎朝サイドテールを左に作る。

 服はなるべく清潔感があるもので且つ綺麗な印象を持つもの。で、下は太腿が露出されるくらい短いデニムパンツを選んでる。

 その為か、私の洋服箪笥は常夏かって言いたくなる物ばかりになった。


 毎朝の日課である自撮りで肌荒れとか大丈夫か確認して、部屋を静かに出る。左の部屋、中央がバカ兄の部屋だからその前でストップ。

 お母さんに許可を得て作ってもらった合鍵で、慎重に素早くバカ兄の部屋のロックを外す。外したら即行中に入って、息を殺す。

 ──にしても、幾らバカだからってこれで気づかないのは凄いと思う。


「……バカ兄、朝からうるさいんだけど何して……っ!?」

「うわっ!? り、李々華お前、急に入って来るなと言ってるでしょうが! お兄ちゃん怒るよ!」

「いいから、消して。それともそのDVDの内容、矢吹さんに教えてやろうか?」

「やめて! 俺が美脚フェチなのバレる! 矢吹の家で遊ぶ時ジロジロ見てるのバレちゃう!」

「……はぁ、キモ」


 口癖になった『キモい』という言葉。兄達にしか言わないんだけど、ちょっと後悔してたりする。

 それより、バカ兄が美脚フェチなのはとっくに知ってた。だから今更気にしない。

 DVDを渋々片付けるバカ兄は、時折私の脚を見てる。それは全く嫌じゃない。全然気分悪くはならない。だけどつい反射的に……


「キモいんだけど、何ジロジロ見てるの。人の脚見ないで、超キモい」

「李々華ちゃんは言葉を選んで下さい。いつか復讐されて全裸にされちゃうよ」

「そんなことするバカ、バカ兄くらいでしょ」

「いや多分李々華が想像してるより沢山いると思うぞ」


 バカ兄は言いつつも私の脚をチラ見し続ける。──それが私にとっては、ちょっと嬉しかったりもする。

 毎朝毎朝バカ兄はDVDを鑑賞してたりぶつぶつ何か唱えてたりするから五月蝿くて仕方がない。だけどあんまり気にはしてなくて、それを口実にして部屋に忍び込んでる。

 朝の六時から登校時間まではバカ兄と二人で会話出来る希少な時間。うちにはもう一人、エロ兄こと『廉翔』がいるから邪魔。


 エロ兄ってアダ名の由来は、いちいち彼女を作る度厭らしいことをさせてるって知ったから。電話で『今度会った時、夜はホテル行かね?』とか甘い声で囁いてたのを思い出すと何もかも吐き出してしまいそうになる。アイツマジで消えろ。


 バカ兄とエロ兄は仲が悪いから、二人が揃うと基本喧嘩して終わってしまう。だけどエロ兄が入って来ないバカ兄の部屋に居れば、自然と二人だけで話す時間が出来る。

 ──だけどバカ兄は、最近あんまり構ってくれなくなった。


「おっとこんな時間か。もう七時になっちまうから行って来るな」

「……何でそんな急いでるの。キモい。今日学校じゃないでしょ」

「いやぁ、矢吹とデートだから。李々華も俺が居たら五月蝿くて嫌なんだろ? まぁ今日は午前までだかは、またな」

「……うん、勝手にして」


 バカ兄が相手してくれないのは、『矢吹星歌』さんって彼女が出来たからだ。しかも、毎日毎日会いに行ってるみたい。

 これまでも幼馴染みの『梅原昇』と遊びに行ったり、友人の男子とバカ騒ぎしてたりと忙しかったけど、今はそれ以上になってる。

 私のことなんて、見てくれもしない。


 バカ兄が出て行って、暫くしたらエロ兄もデートに出かけた。私は中学生だからって遠出は許されてないんだけど、特に行きたいとこもないから別にいい。

 それに、恋人なんていないし。友達だって遊ぶ程仲がいい訳じゃない。

 ──バカ兄がちょっと前まで寝ていたベッドに腰掛ける。ちょっとだけって、薄めの毛布の匂いを嗅ぐ。日頃サッカー部の練習で溢れ出した汗の匂いも、いつか癖になっていた。


 バカ兄の好きなエッチな小説も誰も居ない時にこっそり手に取る。DVDは見ないけど。

 それで、バカ兄の好みに近づける様に念入りにキャラクターをチェックする。それが私の暇潰し。

 私はきっと、嫉妬してる。

 矢吹さんって彼女に。昇って幼馴染みに。コタケ、ヤスダって友人達に。部活の先輩達に。最近やたら名前を聞く谷田崖先輩にも。

 バカ兄と離れたくなくて、我が儘を言いそうになってる。だけどこんなだから言えなくて、気を張ってしまってる。


 後悔だけはしたくないのに、自分から印象を悪くしてしまっている。

 バカ兄……俊翔は、多分私のことを、嫌っている。

 そう思うと胸が苦しくて呼吸が上手く出来なくなって、身体が震える。涙なんて、本当は流したくない──。


「ただいま李々華。あれ? 寝ちまってんのか。……あれ、瞼腫れてるな。痒くて擦りすぎたか? たく、まだまだ子供だな」


 うっすらと意識はあった。だけど何となく、このまま寝過ごしていたかった。

 だから頬に触れた温かい何かに気づかない振りをして、私は今度こそ本当に意識を閉じた。


「もっと俺がしっかりして、もう暫く守ってやんないとな」

次回から二章がスタートです!一章より長くなるけど、あきないでね。……なんて。自分が頑張ります。

これからもどうぞよろしくお願い致します。


※追記です。2020/02/17

思った以上に二章は短くなりました。誤情報申し訳ありません。

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