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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第一章 100回目
26/83

1─26

 さぁ帰って参りました我が故郷、王都市です! 大きな大きな公園横切って、矢吹を無事家へ届ける為に駅へ逆戻り! なーんで駅から出ちゃったんだろう。


「ごめん矢吹。俺すっかり矢吹と一緒に帰ろうとしてましたわ」


「大丈夫大丈夫。あまり駅から離れてないから、直ぐ帰れるし」


「そうだな、もう駅見えてるし」


「そうだ、ここまででいいよ。送ってくれてありがとう花菱君」


 矢吹は駅まで後数百メートルというとこで脚を止めた。それから振り返り、右手を振る。

 俺はここでお別れというのがちょっと納得出来なくて、首を傾げた。


「何でだ? 駅の中まで行って見送るよ。それとも来て欲しくないとか?」


「いや、そうじゃないだけど」


 近寄って行くと、矢吹は眼を逸らした。正確には、ある一点を注視している。

 十字仙山──矢吹が見ているのはその頂上。それだけで、何が言いたいのか理解出来た。

 当然納得して、近寄る脚を強制的にストップさせる。


「神様の怒り……か」


 俺がそう零すと、矢吹は深く頷いた。


「僕達が水族館にいる間何もして来なかったのは、何も関係の無い人達を巻き込まない為だと思う。だけど今僕達は二人切り。何されるか、分からないでしょ?」


「だな。本当切ないけど、ここでお別れにしておきますか」


「うん、そうしよう」


 矢吹がそう言うなら仕方がない。俺としては神様に立ち向かうつもり満々なんだけど、『死なせない』と宣言したからには守り抜かなければならないんだ。

 俺一人の力では、神様の攻撃から矢吹を守れるか難しいところだ。だから確実に助かる方法を、一つ一つ優先していくしかない。

 今日はここで、もうお別れだ。まだ朝だけどもう出会ってるから呪いは発動しない筈。だからこれでいい。


 ……今日学校、行ける気しないなぁ。まぁ練習あるから行くんだけれど。


「矢吹じゃあ、今日学校で。俺は昇の様子見て来るけど、いいか?」


「大丈夫だよ。寧ろ、心配だから早く行ってあげて。じゃあ、また」


「おう、サンキュ。またな矢吹」


 学校の登校時間まで後一時間しかない。さっさと帰って準備しなきゃ間に合わない。水族館なんて夏休みにしておけばよかった。

 矢吹は矢吹で、少し変わったなと思えるところがある。矢吹は昇のことを元々『天敵』と呼んでいた。だけど今は、友達の様に大切にしている。──寧ろまだ友達じゃないの? ってツッコミたいくらいだ。


 矢吹に告げた様にまずは昇の家に向かう……訳でなく、家に帰った。先に学校の準備をしないことには始まらないから。

 家の鍵は開いていて、まるで俺が帰って来るのが分かってたみたいだ。


「ああ、昨日バカ兄がその日の内に帰って来ると思ってたから、開けておいたの。だけど帰って来なくて、ホテルに居たとか……死ねば?」


「李々華の俺に対する罵倒が悪化していませんかね。廉翔君、どう思うよ」


「そうだな、何とも言えねぇ。で、土産は?」


「がめつい野郎だな。泣いて喜べ。お前にはマリモをくれてやる」


「さ、サンキュー」


「李々華にはヒトデの枕な」


「うわセンス悪いねバカ兄」


 李々華は嘆息し、廉翔は落ち込んだ。廉翔は狙い通りだったんだけど、李々華は喜んで欲しくてそれにしたんだよなぁ。ダメだったか。

 悲しくて溜め息を零す俺。呆れて溜め息を吐く李々華。ただ嘆いて溜め息が溢れる廉翔。俺達三兄弟は朝から負のオーラに纏わりつかれていた。


 母上は朝飯を作っているので、テーブルの上にネックレスを置いておく。その間に二階に上がって、自分の部屋で着替え。

 着替えを済ませた俺は学校のバッグを持って階段を駆け降りる。はた、と廊下に目を向けたら、多分父がトイレに入った。

 珍しい奴が居るなぁとか考えてトイレのドアを見つめ、『テーブルにスーパーボール置いておくぞ』と伝えておく。父へのプレゼントです。


「なぁ俊翔、日頃の俺に対する嫌がらせか? それとも仕返しか?」


 朝食を取っていたら、廉翔が俯きながら聞いてきた。マリモは大層気に入らなかったみたいだ。ザマァ見ろ。


「どっちかっつーと仕返し。本当は買うつもりなんてなかったんだけど仕方なくな。有り難く思え」


「……へいへい」


 いつもみたいに反論が来ると予想してたが、廉翔は大人しくマリモを部屋に持って行った。李々華も驚いてるみたいで、じっと廉翔を見送る。


「珍しいね、あのエロ兄が大人しく引き下がるなんて。『もっといいのなかったのかよセンスねぇなぁ』とか言いそうなバカなのに」


「李々華ちゃんがそれ言います?」


「別に要らないとは言ってないし。私枕欲しかったから、よくよく考えたら嬉しいかも。ありがとうバカ兄」


「その呼び名だと感謝されてる気がしないよな」


 ひとまず、超自惚れだけど家族は満足してくれたと思う。トイレから最後まで戻らなかった父上を除いてね。後で感想聞かせてくれ。

 学校の登校時間になる前に、俺はバッグを持って家を出た。勿論、昇の家が目的地だ。


「あ、シュン君。うちに用? 昨日デート行ったのよね?」


「あ、昇のお母様。何で知ってんの?」


「勘よ、勘」


 勘でそんなことが分かるもんか。てか何で毎度俺か来る時には家の前でスタンバイしてるの? 俺を呪い殺す為? 呪いはもう間に合ってます。

 お母様は心の無い笑顔でこっちを見てくる。それが怖いけど、昇の顔を見る為に──あれ? 何で急に()()()()が始まった?


 俺クリソツなイケメン雰囲気を出す執事は、カメラ目線でカーテンをブチ切った。ご乱心ですか。

 ……と思ったら、いつもの麗しのお嬢様がベッドと共に姿を現す。綺麗な御御足でハイヒールを履き、姿勢をよくしてこちらに向かって来る。

 よく見たら小学生みたいに幼い顔つきをしていて、その白く細い腕が────俺の頬に触れた。


「えっ……!?」


 咄嗟に頬に右手を当てたけど、何の感触も無い。それでもまだ触られてる。ひやりとした冷気みたいな感触が、俺の頬に触れている。

 俺に含みのある笑顔を見せつけ、至近距離でお嬢様は声を出した。

 その言葉が、俺の心臓を握り締めるかの様な苦しみを与えた。


『貴方の大事な大事な幼馴染みは、ここには居ないわ。この家には居ない。早く学校に向かうことね……でないとあの女の子──』


 ──死んじゃうわよ?


 お嬢様が何だか分からないのが怖くて、その言葉が恐ろしくて、俺は呼吸も忘れていた。

 不安気に眼を細めた昇のお母様は、俺に駆け寄って来る。


「どうしたの? シュン君まで、何かあったの? きっと昇を迎えに来たのよね? けれどあの子、もう学校に行っちゃって……」


「……っ!? 昇は、本当に学校に行ったんスね!? 俺も行ってきます!」


「え、あっ……シュン君、気をつけてね! 今の昇、何かおかしいから!」


「え!? どういうこと!? とにかく会ってから判断します!」


 お母様は心配そうに大きく手を振る。まるで俺に昇を託すように、ずっと。

 学校方面の道を進む。段々と、胸騒ぎがして来た。きっとこれはただ事じゃないんだって、教えてくれてるみたいな。


 昇は何で一日で体調を治して、直ぐに学校に向かった? まだ普段の登校時間ですらないのに。

 お嬢様は昇の何を知ってる? 昇が死んじゃうってどういうことだ? 何か起こるのか!?

 お母様の言ってた『昇が何かおかしい』っていうのは、一体全体どういうことだ!? 今昇はどうなってる!?

 何がどうなって、どんな状況なんだよ──。


「コタケ、ヤスダ! 丁度いいとこに! 何でもう居るんだよ、ってのは今はいいや。昇見なかったか!?」


 学校に着いて早々、昇降口でコタケ達に出会った。二人は顔を見合って、首を傾げる。


「この前は悪かった! 何かむしゃくしゃしててさ」


 俺が頭を下げようとしたら、コタケが掌でそれを止める。


「それはいいんだけど、何かあったのか? 梅原さんって、お前の幼馴染みだよな?」


「そう、そうだよ! だから何だ。記憶を失くしてもお母様は『おかしい』なんて一言も言わなかった。なのに何で……!」


「分かった。見つけたらとにかく知らせるよ。あまり大事にしたら梅原さんも気分悪いかも知れないし、俺達だけで捜そう」


 ヤスダの提案に俺とコタケは頷く。どんな時でも直ぐに協力してくれる、親友達はやはり大好きだ。後でマリモあげるからな。

 コタケ達と別れて、一応もう数人に聞いてみることにした。部活の為ちょっと早く来てたっぽい、流美たんと小長屋先輩の二人だ。


「俊翔、どうしたの。もう朝練……って雰囲気じゃ、無さそうだけど」


 流美たんもコタケ達同様首を傾げる。小長屋先輩は走って来て息を切らす俺に戸惑っているだけ。

 小長屋先輩が焦って渡して来たスポーツドリンクを少し飲んで、呼吸を整えて昇のことを訊ねる。


「それ私の……。えっと、梅原さんは、見てない。珍しく部室には来てないみたい」


「部室に来たら名前のとこに印つけるじゃん? そこには俺達のくらいしかなかったよ」


「そっすか二人共サンキュー! 朝練邪魔してごめん! ではまた!」


「えっ!? えっと、何かあるなら俺達も手伝うけど……」


「ダイジョーーーーブ!」


 ぽかんとしてる二人を置いて、俺は学校中を駆け回った。人はまだ全然登校して来てないのに、中々見つからない。

 学校の、開始のチャイムが響き渡る。そこで俺とコタケ達は一旦集合し、話し合う。


「どこ捜した? お前ら。俺は校舎全体捜して見たけど、梅原さんっぽい人は見かけなかった」


「梅原さんって凄い長い茶髪で、毎日大きなリボンつけてるでしょ? それ目印に昇降口で人を見てたけど、居なかったよ」


「コタケもヤスダも見なかったか。俺も……って、まだ校舎裏見てない? もしかして」


 俺がふと思い浮かべて訊くと、二人はハッと口を開いて頷いた。まだ捜してないのって、もしかしたらそこくらいだ。だけど昇も人間だから歩き回ると思うんだよなぁ。


「という訳で俺が見て来るから、ヤスダは昇降口見張ってて。コタケは教室に来たら教えてくれ」


「了解。……でも、いつもならハナシュンにつきっきりの梅原さんが見当たらないなんてな……。ハナシュン、何かあったんなら、しっかり決着つけて来いよな」


「おう! 行ってくる!」


 コタケに促され、頷いたけど何との決着だよと表情を失う。

 開始のチャイムが鳴ったということは、授業開始まで三十分もないということ。人も増えて来た。それでも何とか声を出して道を開けてもらってスムーズに進む。

 一人ぼっちなんかじゃなくてよかった。きっと中等部の時あんな事件があったからこそ、俺は仲間に恵まれている。


 ……でも昇は違う。サッカー部の皆や、俺以外だとコタケくらいしか会話する相手がいない。コタケはコタケからなんだけど。

 まぁとにかくだから、友達が居ない。友達なんて居ないから、人の眼には入らない。俺が見つけなきゃなんないんだ。


「昇、昇! やっと見つけた! お嬢様──は何でもなくて、お母様が、お前がおかしいって言ってて……」


 予想通り、まだ見ていなかった校舎裏に昇は立っていた。

 話しかけて、歩いて近づいて、肩に触れようとして脚を止めた。脚を止めたのは手を正確に置く為じゃなくて、無意識にだった。

 昇は俺なんて見ていなくて、今にも消えてしまいそうな雰囲気を出していて──何か、生きてる感じがしない。

 こんな状態の昇を見るのは、勿論初めてのことだった。


「昇……だよな? 昇、俺だよシュン。分かる、よな? いい加減こっち向けって」


「……シュン? シュン……だ」


 壊れかけの機械仕掛けみたいな動作で、昇は振り返った。そこで俺は一瞬、恐ろしくなってしまった。

 昇の眼はブラウンでなく真っ黒。いや、真っ暗で、光も透過してない。水晶なんて見えない。その瞳の上下からひび割れみたいな線が伸びていて──人間とは思えなかった。


 直感だった。昇は()()()()()()()。崩れかけてしまっているんだって。

 だから俺は、昇が消えてしまわない様に肩を優しく掴んだ。


「昇、見えるか昇! 何があったんだよ! 教えてくれ昇!!」


「……シュン、は……矢吹さんとデート……したんだよね?」


「……し、知ってるだろ。お前が『行って来なよ』って言ってくれたんじゃんか!」


 昇は小さく口を開いて、俺に揺らされた身体はパキパキと嫌な音を立てる。

 皮膚が硬化して来ている。そんな状態だ。

 俺の言葉を聞いた昇は、ゆっくりと首を左右に振った。そして一筋、涙を流す。


「シュン……ハナレタクナイ……ヨ。イヤダ、イヤダ……。イヤダイヤダイヤダイヤダ!! ──矢吹サント、ツキアッテホシクナイ……」


 昇から溢れ出した言葉で、俺の手は自然と離れた。


「シュン……シュンノコト、スキナノニ……」


 いつか矢吹が言っていた、昇が嫉妬する理由。それは矢吹の予想通りのものだった。

 昇は俺が好きで、ずっと近くにいたのに……俺は矢吹が好きで、矢吹のことばかり考えていて──昇の気持ちを分かってやれなかった。


 俺のせいで、昇が苦しんでる。でも矢吹を見捨てたら、矢吹は死に戻りの呪いを一人で背負う日常に戻ってしまう。

 俺一人が幸せになろうとしたら、誰かが不幸になるんだ。


 ──俺は昇に何も言えず、その場に立ち尽くした。

次が一章最終話となります!

よろしくお願いします!

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