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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第一章 100回目
17/83

1─17

 時間割り、決めないとな。


 何の話か、まぁ不思議だよな。

 実は水族館デートの話でして、いつ何を見てどうするか計画的に行動しなきゃと思ってたとこなんだ。

 泥塗れの身体でしかも車の中なんだけど。


 露骨に嫌そうな表情を作ってる母さんとは別に真横の矢吹は真顔だ。絶対臭いんだろうけど、我慢してくれてんのかな。

 ごめんよゴミ臭くて。


「なぁ母さんや? 今日の風は異常じゃね? 台風だとしても、車が横転しながら俺に突進して来る?」


「そんなことあったんだ」


 矢吹が明らかに引いてる。気が引かれてるっていうか、それよりは血の気が引いてる感じ。

 顔に出てるよ矢吹。因みに俺ギリ避けたから大丈夫。

 まぁ当たってたら生きてないだろうけど。


「別に普通じゃない? 台風なんてこんなもんよ。下手したら東京タワーが側転してるでしょ」


「マジかマミー、それマジか。嘘だろんなこと。一度も見聞きしたことないぞ」


「まぁある訳ないよねぇ」


「何なんだマミー」


 ケラケラ笑う母を背後から見てこんなにも腹が立つとはな。冗談言ってる場合じゃないわ。死にかけたぞ。

 矢吹多分一瞬信じたぞ? 目ぇ見開いてたし。「そうなの!?」って驚いたぞ心の中で。

 多分なんだけど。勘なんだけど。


 それにしても、神様の嫉妬には困っちまうよな。まさか自然災害まで味方につけるとは。

 流石に対抗難し過ぎだよ。

 対抗したら対抗したで更に命狙われること増える気もするんだけど。


 まぁその時は矢吹と共に、どんな困難でも乗り越えていけばいいよな! と、煌めく視線を向けたら顔を背けられた。

 何かダメだったのだろうか。仕方ない。


「てか、母さんよ。こんな暴風、絶対有り得ないよな?」


「有り得なくはないって言ってんでしょ。ほら、もう直ぐ着くから大人しく座ってなさい」


「いや自分の家だからどのくらい近くなのかは分かるわ。だけど早くないっすか?」


「知らないわよ」


 素っ気ねぇなおい。母親おい。

 まだ車に乗って数分しか経ってないよな? 俺駅まで一時間かかったぞ。スピード違反してないよな?

 もしかしたら、邪魔されて異常な程かかったのかも知れないんだが。

 ……そもそも、普段は徒歩で三十分ちょっとだ。車ならこんなもんか?


「えーと、矢吹さんだっけ? 風強いから、反対から出た方がいいかも」


「風強いって言ったな今!」


「分かりました。花菱君、早く出よ? 急いで手当てして、まず身体洗わなきゃ」


「あ、おう」


 矢吹に急かされたからだが、俺側のドアを開けて車庫に出た。車庫と言っても屋根と壁しかないんだが。

 因みに横向きに止めるから、奥の俺が先に出た方が危険も少ない。

 それでもすっと周囲を見回し、安全かどうかを見極める。父の趣味でペンチとか置いてあるけど、流石に飛んでは来ないだろう。


「矢吹、手」


 守ってあげたい一心で矢吹の手を取り、庇う様にして家の扉に向かう。

 因みに車庫の他にちゃんと玄関のドアもある。車庫付近にもドアがあるってことよ。便利便利。


 ひとまず家まで無事、なのか分からんが取り敢えず辿り着き、一息吐こうとソファーに座ろうとしたら李々華に阻止された。

 お疲れの兄貴に飛び蹴りをかますとは、お主中々やる。さては悪魔の化身だな!?


「李々華、何すんだよ。俺疲れたんだよ休ませて」


「先にお風呂入って来て。どうしたらそんな汚れるの? 泥でも食べて来たの? キモい」


「……はい」


 ビシッと指差された風呂場に向かい、項垂れる。うちの妹は何故に『キモい』が口癖なんですかね。

 それと李々華。お兄ちゃん流石に泥は要らないよ。女の子と普通のご飯でいいよ。



「花菱君、君の部屋に行かせてもらってもいいかな」


「ほえ」


 風呂上がりに堂々と珈琲飲んでたら矢吹が覗いて来た。着替えてなかったら大惨事だぞ。

 ……因みにごめん矢吹。風呂入ってたらすっかり忘れていた。


 それより、何で急に俺の部屋に? もしかして、「ねぇ、もう我慢出来ないから──」とかそんな感じのお誘いが待ってるのか!?


「念の為、傷口消毒したりしたいからさ。リビングよりは個室の方がいいんじゃないかなって」


「あ、なるほどそゆことか。十八禁ってタグがつく様なことじゃなかったか」


「しないよ!」


 真っ赤になって怒られた。はい、すみません。

 だけど地味にショックデカいよ矢吹。俺達恋人なのに少しもそういうことやらせてくれないじゃん。チューしたいよチュー。


「矢吹チューしないか?」


 思い立ったら即決行。それが俺の今現在のポリシーだ。

 ねぇ、ポリシーって何だっけ? ま、いっか。


「しない! とにかく部屋に案内してくれる?」


「つれないなぁ。了解。こっちだぜぃ」


 チューすらさせてくれないんだもんなぁ。手は繋いでくれるんだが。

 ハグもさせてはくれるけど、一番したいチューさせてくれよ。チューしたいよ。

 ……まさかガッつき過ぎてるからダメなのか? こうなったら矢吹が誘って来るのを待つか。

 それまで辛抱あるのみ!


 取り敢えず今は早いとこ消毒してもらおう。忘れてたせいで気がつかなかったが、めっちゃ染みてるから。


 俺の部屋は二階の中央。両端にはそれぞれクソ兄貴と李々華の部屋がある。

 廊下最奥部には洗面台があるけど、何であんな変なとこに設置したんだろうな。風呂場とかでいいだろ。

 まぁ近いから面倒くさくはないけどさ。


「じゃあ、おでこ出して?」


「おう! お願いします!」


「うん」


 夢だったんだよなぁ、女の子に手当てしてもらうの。ついさっき夢見てたんだよ。

 だけど矢吹手当て出来んのかな。保健とか評価どのくらいっすか? 地味に不安だ。

 少しの不安は有り難いことに的外れで、矢吹は丁寧に手当てを完了してくれた。ただ消毒して大きめの絆創膏貼っただけだけど。


 疲れたら腹減ったなぁ。母さんに何か食べ物無いか聞いてみるか……って、その前に矢吹紹介か。


「矢吹、悪いんだけどうちの家族に紹介……何してんの?」


「えっ、あ、ちょっとね」


 そわそわしてたなぁとは思ってたけど、俺の部屋じっくり見てんなぁ。そんなに珍しい物ないぞ?

 有るとして、いやまぁ珍しいのかは分からないが、アダルトなDVDくらいだ。

 あ、見られたらまずいな。


「矢吹、腹も減ったし行かね?」


「あ、うん。でもさ、恋人の部屋に入るの、何か感慨深いなぁって」


「そうか? 俺初っ端から矢吹宅に進入してるからそうは思わなかったな。どう? 俺の部屋どう?」


「うん、エッチなのばかりだね」


「ごめんなさい」


 隠すも何も、アダルトな漫画とか小説とかもあるんだった。何冊も。

 ついでに裸の女の子が印刷された抱き枕も転がってるし、壁にはグラビアのポスター有るし、これ隠せたもんじゃないね。


 もう嫌だ逃げたいわい。

 逃げた過ぎてドアノブに手をかけた直後、矢吹が立ち上がって再度部屋を眺めた。もうやめて恥ずかしい。


「ま、花菱君らしいっちゃらしいよね。それとさ、机が壁際の真ん中にあるって、僕と一緒だね。ふふ、何か嬉しいかも。枕の位置とかもそうだし」


 花が咲いた様な笑顔に癒されました。

 矢吹って俺と恋人になってから本当に表情増えたよなぁ。以前はクールにお地蔵様みたいだったのに。

 今はクールよりキュートが似合うかも知れない。


「だな、運命だな。もう結婚してもいいくらいだな」


「いやそれは分からないけど」


「さて下行くか! 母さんは〜ら減ったや〜い! 朝飯何だ?」


「もやし」


「もやし!?」


 矢吹を連れて降りると、食卓を李々華と廉翔が囲んでいた。朝飯卵ライスじゃないか。ビビらせるなよ。

 つぅか、廉翔いんのかよ。消えろ消えろ。てか彼女の美少女さに屈しろ。


 李々華の隣に矢吹を座らせ、仕方なく空いてる廉翔の隣に腰をかけた……ら、廉翔が鼻で笑った。

 どうした、頭でもイかれたか?


「いや本当に彼女いたんだな。てか凄え可愛いじゃん。お前には勿体ないな」


「だから可愛いって何度も言ってただろが。お前にこそ勿体ねーわ」


「バカ兄エロ兄、黙って」


「「さーせん」」


 李々華は食事の時に雑談をするのが嫌いらしい。『飯は黙って食え!』って感じのタイプなよう。

 だけどさ、楽しく食べた方がよくないか? 久々に家族揃ってんだし。今の会話は楽しくないが。

 ……親父今いないな。


「ごめんね矢吹さん。エロ兄もバカ兄も本当にバカで。キモいよね」


 何てこと矢吹に言ってんのお前。『エロ兄』って言われても『バカ兄』って言われてもどっちがどっちだか分からんだろ。

 どっちもが両方当てはまるんだし。


 李々華の発言に苦笑した矢吹は一旦箸を置き、多分だけど作り笑顔を見せた。ナチュラルなスマイルは未だ苦手っぽいな。


「ううん、楽しい家族で羨ましいよ。それと、嫌だったら花菱……俊翔君と付き合ってないよ」


 何か照れる。矢吹に改めて好きって言われた気分だ。

 クソ嫌いな兄貴の眼の前でだし、より心地がいい。


「でもキモいでしょ」


「うーん、ちょっとだけ」


「矢吹! 酷いよ矢吹!」


「うるさいキモいバカ兄。今私が話してんの」


「えー……」


 矢吹を李々華にとられた。その後も『今幾つなの?』って矢吹が質問したり、『浮気したらどうする? 殺す?』って李々華が質問して『いつものこと』って答えられてショックも受けた。

 俺っていつもいつも浮気してるんですかね。俺より最低な廉翔に最低って言われて殴りたくなったんだが。


 逆に俺の浮気相手って誰だ? 一番会話するとして昇だろ? 次にフルサワか流美たんだな。

 昇は幼馴染みだし、フルサワは矢吹のこと聞くだけだし、流美たんはほぼ部活でしかもただの友達だしなぁ。

 その前にフルサワ教師だから抜くか。普通は。


 安心してくれ矢吹! 俺は浮気してない! 清廉潔白だ!

 ──清廉潔白ってなんだっけ?


「バカ兄がまたバカなこと考えた気がした」


「何てこと言うのマイシスター。それ俺が毎日毎日バカなこと考えてるみたいだろ」


「ごめん間違えた。毎分だね」


「な訳ないでしょ。俺にそんな思考能力は存在しない」


「威張ることじゃないし」


「別に威張ったつもりはないし?」


 李々華ちゃんちょっと酷いわよ? 人が部屋で独りで考え事してるのに割って入って来るなんて。

 貴女いつもどうやって侵入して来てるのかしら? あたし鍵閉めてる筈よ?

 あれ、今矢吹何してんだろ。まさか一階で廉翔と二人きりとか言わないよな。何か不安になってきたぞ。


 李々華と会話してる場合じゃない、と扉前で腕組みをしている妹をベッド方面に突き飛ばしてノブを鷲掴み。何て掴みにくい。

 駆け足で矢吹の元へ向かおうとした俺の身体はかかとで支えられる様に一瞬浮遊感を感じ、ピタリと引き止められた。多分、李々華が裾を引っ張ったんだ。


「ちょっと、李々華何すんだよ。俺早く矢吹んとこ行かなくちゃなのに。このままじゃ矢吹が廉翔の毒牙に……!」


 掴まれたままでは振り返り難いので、声だけで抵抗。

 それでも力を弱める気配は一切感じられない。李々華は俺と一緒に居たいのだろうか。だとしたらツンツンでデレってる感じだな。


「……人突き飛ばしておいて何? 謝罪も無いの? てかいくらエロ兄でもそれはないでしょ。バカなの? バカ兄だもんバカだよね。超キモい」


 酷く突き刺す様に怒られた。

 何故かな。『キモい』を今日だけで何度耳にしたらいいのだろう。てかそう言われてる。

 そもそも何に対しての『キモい』なんだかよく分からないよ李々華。


「お兄ちゃん、李々華の口調とかで将来が不安になってきたぞ。どうにかして言葉遣い直そうな?」


 よよよって崩れ落ちそうになる素振りを見せつつ脱出を試みるが、失敗。いい加減放してくれないかな。


「大丈夫。家でしかこんな言葉遣いしないから。で、謝罪は?」


「ごめんなさい」


 このコ要するに猫かぶってんのね。まあそれがいいと思いますよはい。

 だけど俺や廉翔に対しては口が悪いってことだろう? かなりショックデカいよ。嫌われてるみたいじゃんか。

 じゃあひとまず俺は矢吹の元に……。


「……李々華さん、放してくれないかな。これじゃ扉を開けることすら不可能なんですが」


 李々華はまだ裾を握っている。しかも、今の俺の要求は無言でスルー。酷いわ。


 このままじっとしている訳にもいかない。てかじっとしてたら何も出来ない。当然だけど。

 何とかして、機嫌を損ねちゃった(?)李々華を慰めて脱出しなくては。

 何か思い浮かべ。李々華のご機嫌を取る手段! ──思いつく様な脳はお持ちでないです。


 一か八か、直接訊ねたら口を開いてくれないだろうか。

 何となく深呼吸し、呼吸を整えてから背後の李々華の思考を引き出してみる。


「何か、行ってほしくない理由でもあるのか? 李々華」


「……無い」


 零れ落ちる様なか細い声を発した李々華の手はその瞬間、俺の裾から離れた。

 たった今李々華が伝えたかったことは何一つ分からなかったが、とにかく動ける様になったので扉を開ける。


 そのまま無視して行くわけではなく一度振り向いた。李々華は何もない、俺から見て左方向の壁に視線を向けている。

 何を考えてるのかさっぱりだが、妹な為気がかりにはなる。


「何か有るんなら、後で聞くな」


「……うん」


 李々華の不器用な相槌を受け取り、静かに扉を閉めた。

応援してくれると嬉しいな!です。以上。

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