1─15 100日目
今頃で申し訳ないのですが、各話タイトルの喩えば『1─○』の後にたまにあるのはちゃんとしたタイトルです。
次のタイトルがあるまで、丸々話が繋がっている様なものだと思っていただければと思っております。
よろしくお願いします。分かり難くてすみませんでした。
試験勉強頑張って、血眼になるイメージが湧く程頑張って臨みました。結局、平均五十点台。赤点は五十点以外なので、国語以外は無事でした。
日本人なのに国語が一番出来ない俺何何なの? これから英語で会話するか。ハローマイフレンド、明日はどちらへ?
現在放課後で、部室には俺にプラスして矢吹・昇・谷田崖って同級生メンバーが揃ってる。
何か、昨日会話してから谷田崖も部活出てくれる様になった。なったけど、一人で黙々と練習してた。チームワーク高めませんか?
「うわっ、シュン国語四十二点って……。あんたバカだとは思ってたけど、ここまでなの」
バッグからはみ出てたらしい俺の国語のテストを覗いて昇が溜め息を吐いた。
選りに選って一番低いの見られたよおい。勘弁してくれチラリズムの神様。
……チラリズムなのか?
「ちょっ、やめろ昇。俺の個人情報でしょうが。ついでに矢吹と谷田崖居るんだからマジやめて恥ずかしい」
「知らないし」
いやそんなこと言われても、矢吹も谷田崖も俺のことが好きなんだぞ。谷田崖は多分だけど。
知的なイメージ崩れちゃうだろ! 実際バカだから、イメージだけの話なんだけど。
昇からテストを取り返そうとドタバタしていると、谷田崖は済ました様にボールを磨いて、矢吹は肩を叩いて微笑みかけてきた。
天使の様な笑顔、これが見れるだけでハッピー。
「大丈夫、僕なんて平均三十六点だったから」
「はい、何が大丈夫なのか教えてくれ」
「……分かんない」
「バカが他にもいるとは思わなかったわ……」
「私、平均七十一。低い……?」
「いや、まあいいんじゃない?」
「お前が高いだけだろ昇」
ふっ、矢吹俺より平均二十点近く低いのか。俺学年百八十位でかなり下だったぞ。君は更に下?
今更だけど、昇はクラス委員にもなるくらいだし、確か生徒会擬きだし頭はいい。平均点九十四点で、学年十二位だとさ。
それより谷田崖たん、意外と普通なのね。おバカでも頭よくもないって感じなのね。
そりゃ、アピールポイント少な過ぎて馴染み難いだろうなぁ。俺みたいな成績なら、『やっべクソ低。めちゃめちゃ俺バカじゃーん』的なノリで笑わせられるのに。
まあ、下手したら更に成績低い人達に睨まれるかも知れないんだけども。俺の彼女とかね。うん。
この学校の一年生確か女子が百十九人で、男子が八十六人だから……え、矢吹ビリ近いんじゃね? ヤバくないか?
このままじゃ真の馬鹿ップルになってしまう。何とか回避したいな。
まあ出来たら苦労はしないんだが。
「谷田崖、谷田崖にたん付けは言い難いから、『流美たん』でもいいか?」
「何の話か分からない」
真顔で返された。何で分からないんだ? 勿論呼び名に決まってるだろう。
まず、人と馴染むには呼称から明るめのものにしていくのが得策だ。自論だけど。で、クラスメイトとかも「あ、意外と話しやすいのかも」なんて寄って来てくれるかも知れない。
ま、一番の問題は谷田崖本人が逃げちゃうってとこなんだよな。
「ちょっと、何て呼び方にしようとしてんの。あんたと谷田崖さんそんなに仲よかったっけ?」
花菱俊翔、襟首引かれて首締まる。俳句みたいに言ってみたけど、結構苦しかった。
昇が不機嫌そうなのは、俺が谷田崖を困らせてるから? それとも嫉妬心から? まあ、真面目な昇は前者だろう。
「いやさ、谷田崖が友達出来る様にするにはまずどうしたらいいか考えた結果がコレなんですよ」
「せめてもっと普通の呼び名にしなさいよ」
「『流美みん』とか?」
「普通って分かる? てか呼び辛いし!」
これもダメか。俺の命名センスゼロなのかも知れないな。段々ショック受けてきた。
矢吹には『クーデレ女神』嫌がられたし。
谷田崖の手を握って昇と言い合いをしてると、そこを断ち切る様に矢吹が割り込んできた。
あら、妬いてくれてるのかな。だとしたら可愛いマジ。マジ天使。
「あんまり強要することないと思うよ。呼び名なんて人それぞれだし。だから谷田崖さんはそのままでも充分いいと思う。あとは、勇気が出せればね」
「そうよ。まず、自分から何も動かないで人と仲良くなりたいなんて無理でしょ」
「流石だな、二人共。それは自分達を棚に上げて言ってるのか、それとも自分の失敗から利口な考えを導き出したのか」
「また勇気……」
「ま、まあ焦らなくても大丈夫だろ。まず俺が友達だし! な!」
無言で頷いた谷田崖に、何かキュンとくるものがあった。
汗でくっついてくっきりした服のおかげかな? それともそれとも長めの前髪から覗く愛らしい瞳かな? どれにしても、単に可愛いからな気もする。
「今さ、この部室内に美少女しか居ない訳だよ。勿論俺以外な。でさ、皆炎天下汗かいてる訳だよ、びしょびしょなくらい。めちゃくちゃ眼福……ちょ、昇目潰しは危ないから」
「早く着替えて二人共。私はコイツ外に追い出しておくから」
「「うん」」
冷ややかな視線が怖かったので、大人しく追い出される。ちゃんと目の無事も確認したぞ。
何だよ、別にいいじゃないか。彼女と俺を好いてくれてる女の子の身体を見たって!
汗気持ち悪そうだなぁって見るだけだよ。決してやましい心なんて持ってないからな!
あとすみません、俺多分一番汗かいてるんですよ。矢吹と昇は日陰で立ってて、谷田崖は一人でボール蹴ってるだけだったんだよ。俺は小鷹先輩達とパスしたりトリックプレーの練習したりしてたんだよ。
凄いお疲れなんですよ。汗拭かせてよ。
約六分程経ってから、びしょびしょでエロエロな服装じゃなくなった三人が部室から出て来た。昇に顎で指示され、不貞腐れながら部室で着替えた。
あ、喉渇いたのにスポーツドリンク空になってる。新しいの買わなきゃな。……てか俺全部飲んだっけ。
「なぁ、誰か俺のスポーツドリンク飲んだ?」
扉を開けながら、部室前で待ってる三人に訊いてみた。昇が凄い怪訝そうな顔してる。
「何言ってんの? それあんたの飲みかけ飲んだことになるでしょ。飲むわけない」
「いやいや、分からないだろ。俺との間接キス目的で口をつけちゃったのかも知れないし」
「花菱君、僕達は違うよ。多分全員。先輩達の誰かが間違えて飲んじゃったんじゃないかな」
「うげ、マジで? 女子に間接キスされるならいいけど、男はなぁ」
「私の、飲む……?」
ずい、とエナジードリンクを押し付けてきた谷田崖は一人先に進み、振り返りもせずに去って行った。
俺も矢吹も昇も全員去る谷田崖を見つめ、エナジードリンクを見つめ、そして互いに見合った。
「これ飲んでいいの?」
「さ、さぁ。でも、女の子が口つけた物なんだから、まさか飲まない……よね?」
「いやでもそしたらこれどうすんの?」
「花菱君、信じてるからね?」
「えぇ……」
喉渇いてるから今直ぐ飲みたいんだが、睨まれるので一旦バッグに仕舞っておく。新しいの買わなきゃな。
それより、谷田崖の好意を有り難く受け取っておく方がよっぽどいいと思う。彼女なりに気を遣ってくれたのだろうから。
ちょっとトイレに行くと言って本当に向かい、少しだけ口をつけた。間接キスの、つもりは、ない、ぞ? 喉が渇いたんだぞ? 本当だからな?
あ、眼の前に二つも自販機あるじゃん。折角だからスポーツドリンク買っておこう。
……売り切れてました。この時期は皆買うのかしら。五月終盤はあっついっスからねぇ。
「ただいま〜。いやぁ出たわ。本当に出たわ。めちゃくちゃ出たわ。三時間もぶっ通しで部活やってたから溜まってたっぽいわ」
「花菱君黙って」
「すみません」
矢吹がギロッと睨んでんの結構恐ろしいわ。幼い顔つきしてるからどっちにしろ可愛いんだけど、眼つきだけは鷹の様に鋭い。
気づけば昇にバッグを奪われていた。ちょっと、返してくれよ。お財布とか入ってるんですよ。
取り返すと、昇の手にはエナジードリンクが握られていた。先程谷田崖が渡してくれた、俺が間接キスをしたエナジードリンク。
飲みたいのか? 間接キスがダブルだな。
「飲んでるわね」
「えっ」
昇が呟いた一言で矢吹の表情が凍りつく。同時に俺の血が凍りつく。
「シュン、谷田崖さんから貰ったこれ、飲んだわね。私達に見られない様にこっそり隠れて」
「いや何で分かるの!? 本当に少しだから、気づかないくらいなのに!?」
「花菱君、最低……」
「えええええ!? だって、だって喉乾いてたんだぞ! あのままじゃ水分の不足でミイラみたいに干からびるとこだったぞ!?」
「んなことなるわけないでしょ。あんたのことは、隠れたことが最低だって言ってんの。それと、私今日バイトあるから先帰るね」
「えっ、あ、ごめんなさい行ってらっしゃい」
人形を連想させる程無表情になった矢吹は、俺を無視してズカズカと歩いて行く。バイトがあるらしい昇とは正反対の道に行き、何か嫌なので必死に追いかける。
「誤解だって! 本当にやましいことはない! 本当に喉乾いてただけなんだよ! 飲んだ後に自販機の存在に気づいたけど」
「ふーん」
明らかに無視されてるなこれ。嘘つかれて不機嫌って感じなのだろうが、俺別に何も嘘は吐いてないんだよな。
あ、やましい気持ちが無いってのは正直嘘。女の子との間接キス夢でしたすみません。
反省してるから矢吹のも飲ませて。
会話ゼロのまま矢吹と別れる駅まで辿り着いてしまい、結構ショック。あと一週間ちょっとで水族館デートなのにこんな険悪なのは残念だ。
改札を抜けて行く矢吹に小さく手を振り、バッグを学校に忘れたことに気づいて絶望。最悪。もう閉まってるよ。
顔を上げると、矢吹はいつの間にか振り向いていた。それで俺が気づいたことを察したのか、小さく手を振る。
嫌われたかと思ってビビった。結構なヘタレだな俺。
「楽しみにしてるね」
「え?」
駅の中は雑音が大きく、しっかりとは聞き取れた感じしないけど何とか分かる。でも何が?
「だから、デートだよ。ネズミはいないけど、水族館だって楽しみなんだよ?」
「あ、そっか! 俺も楽しみだよ。矢吹と、記念のデートでもあるからな」
「記念? まあいっか。それと訂正。僕が楽しみなのは水族館に行けることじゃなくて、今度こそ二人切りでデート出来るってことだよ」
「矢吹、俺も凄い嬉しいよ」
「うん、じゃあまたね。明日は学校無いからうちに来てくれると嬉しいな」
「分かった行くよ。また明日」
「うん」
電車を追いかけながら矢吹を見送ったけど、見えなくなった瞬間に全力で咽せる。しかも足痛ぇ。部活の後だしね。
そうだ、大会一つ目が終わったら小鷹先輩にかけあってみよう。『スパルタ過ぎてっと体壊すから休憩入れろ』って。
そもそも顧問が存在しない部活なんて、何で部活として機能してるのか知りたい。サッカー部なんて十一人必要なのに四人だよ選手。
勧誘失敗の先は廃部ですか? それだけは絶対に阻止したい。
五月二十一日。今日は特に何も無しで一日を終えた。これなら水族館デートまで呪いなんて余裕で防げるだろ。
家に帰って、ちゃんと風呂に入って適当に飯食って歯磨いて寝た。疲れが取れるといいけど、明日矢吹の家に向かう前に学校行かなきゃな。バッグ取りに。
でなきゃ電車代無いから。
矢吹の家が地味に遠いってのがなぁ。いっそ同棲したくなってきたよ。
あ、まだ家族に矢吹紹介してないじゃんな。メールしておいたら来てくれないかなぁ。迎えには行くけど。
「えーと、『家族が矢吹のこと見たがってるんだけど、来てくれない?』っと。送信」
──『分かった。じゃあ明日午前九時あたりに駅まで迎えに来てね』。はい、分かりました。
矢吹を家に呼ぶって、何か、結婚相手招き入れるみたいだな。矢吹と結婚します! って感じの紹介にならないよう自重しなくてはな。
さて、もう眠いから寝よう。
──五月二十二日日曜日。午前八時四十二分起床の花菱俊翔です。おはようございます。
「ああ……何でだろ〜何でだろ〜てかマジで何でだろ〜。何でこんな外風強いの!? 急に台風とかふざけてね!? 俺が知らなかっただけですか!?」
ダメだろ誰か教えてくれなきゃ。俺達は色々自己管理すら出来ない様な駄目ップルなんだから。
真性馬鹿ップルで駄目ップルなんだから。
あ、矢吹から迎え来いってメールが来てる。もう駅に着いてるのか早いなおい。九時じゃなかったっけ?
「台風──号の出現に因り、王都市はデタラメな程荒れてます。木揺れてるし物飛んでます。車まで勝手に動いてます。あまり外に出ない様にしましょう」
「雑過ぎるニュースだこと。さて、矢吹を我が家に招き入れる為、いざ行かん!」
勢いよく外に飛び出し、想像以上の風圧に転げ回る。
ねぇ、矢吹何で今日は断ろうと思わなかったんだい?