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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第一章 100回目
11/83

1─11

「きゃ! びっくりしたぁ。作り物の生首が作り物の井戸から出て来ただけじゃない。もうっ、ビックリさせないでよね!」


 お化け屋敷に入って早々一人騒ぐ昇さん。因みに俺はショックでテン下げ〜。


「……昇、お化け屋敷に本物の生首も本物の井戸も有る訳ないだろ。それと脅かす為にやってんだからビックリさせるの当たり前だよ」


「えっ、あ……そ、そうね。あはは、恥ずかしいわ」


 俺の指摘に跳ねて恥ずかしそうにする昇は、ちゃっかり俺の腕に掴まっている。大きな二つのクッションに挟み込まれる右腕が幸せ。何て言える程余裕はない。

 恥じらいを見せる昇が幾ら可愛くてもテンションは上がらない。……待て、こんな思考回路を持ってる時点で上がってる気がする。


 だがよ、昇が腕組んでる代わりに矢吹が少し離れて歩いてるんだよ。あっちのお肉も堪能したいよ。

 俺の肩幅くらい離れてるよ矢吹。これ恋人の距離違くない? 昇に隠してるからって、悲しいよ。

 そもそも幼馴染みに隠し事するってのも気が引けるし。


 気が引けても、昇が何か怖いから仕方ないんだろうなぁ。矢吹を見る目が凄い恐ろしい。まるで射殺す様な視線を向けるから。

 マジで初デートこんなんなの……?


「あ、あのさ……」


 お化け屋敷も恐らく終盤だろうなってとこまで歩き、俺は恐る恐る昇に話しかけた。矢吹が不安そうに俺の顔を覗くので、手を握って大丈夫アピール。

 瞬間、獣の様に昇の瞳が光った気がしたので放す。


「何?」


 昇は少しだけ不機嫌そうに返事をして来た。多分だけど俺がビビってるのが気に食わないのだと思われる。

 だったらそんな威圧的な眼を向けて来るんじゃないよ君は。幾ら美少女顔だからって怖いよ。


 左側に矢吹を守っているつもりで昇に顔を向ける。

 昇は顔を傾げて俺の言葉を待っている様だが、掴まれた右腕が軋んだ気がして血の気が引いた。

 それでも、何となく気になっていたことなので口を開く。


「何で、一人で遊園地なんて来たんだ? 来るなら友達とかとにしたら良いのに」


 素朴な疑問だと思う。

 だって、一人で来たところで遊園地なんて面白くないだろ。いや遊園地が面白くないんじゃなくて、何やっても楽しくないんじゃないかってさ。

 現に、このお化け屋敷とかだって、入って怖くても一人で叫んでたら恥ずかしくね? 周囲の眼を気にするでしょ。


 ジェットコースターだって、乗った後一人何事も無かったかの様に去るなんて無理じゃね? 誰かと感想言い合った方が絶対楽しい。


「友達……ね」


「あ……」


 ぽつりと呟き瞳を曇らせた昇に気づき、口を覆う。

 やってしまった、と今直ぐ逃げ出したくなった。お化け屋敷なんて薄暗い場所で辛気臭い雰囲気になるなんてマジごめん。無理逃げたい。


 やってしまったと思ったのは、昇に『友達と来たら』みたいなことを言ってしまったことだ。何度も言ってるけど、昇は俺について来る。それは友達がいないからでもあるんだ。

 中学一年生の頃の事故というか、あの川に流されたことをきっかけに昇の記憶は消えた。恐らく何か強いショックを受けてしまったものだと、俺は勝手に解釈してる。

 記憶が失くなったということは、今までの思い出が残っていないということだ。そうなると、人を誰かすら分からなくなる。

 結局は、見捨てられてくことになってしまった。


 自分の両親にも、かつて友人だった人間にも見放され、もう俺しか残っていないんだ。

 ──言っちゃ悪いけど俺以外に友達作ったら? 本当悪いけど。

 脳内でちょっとだけだけど呆れていたら、その間に昇は喋り出していた。みたい。


「友達なんか出来てたら、苦労してないわよ。友達欲しいし、私だって。あんたみたいな変態とだけ一緒に居るなんて気持ち悪いだけだし」


「あらまそりゃ酷い。これでも頑張って生きてますのよ?」


「私もよ。友達だって作りたいけど、無理なの。また前みたいにその思い出まで消えちゃったらって考えると、怖くて……」


「あ、あぁ〜……」


 そうね、よく考えたらそうだね。今一瞬「俺はお化け屋敷が怖い」なんてボケようとした自分を殴りたいよ。今真剣な会話だぞ。

 ただ、怖いのは本当。


 昇が友達を作れない理由なんて、ちょっと考えれば直ぐに浮かんで来るじゃんな。何言ってんだろ俺。


 これでまた、昇の心に傷が出来ちまったらどうするんだ──。


 返事はせず、反省し続けて暗い雰囲気のままお化け屋敷を出た。後半は、もう何も怖く感じなかった。

 昇の記憶がまた消えてなくなる方が、余程怖い。二度と、あんな状態の昇を見たくない。

 現実にはならないでくれよな。


「さてと、次は何して遊ぼうかしら? シュン、矢吹さんまだ行ってないとこある? そっちの方が楽しめるでしょ?」


「あ、ああそうだな。でも……」


 このままじゃ、昇には悪いけどデートが台無しになっちゃうんだよなぁ。断らなきゃ、男して。

 俺が一歩前に踏み出し、昇を正面に捉えると──背後から裾を掴まれた。

 振り返ると、矢吹が切なそうな表情で首を左右に振っていた。


 表情にドキッとしたが、彼女のやりたいことがよく理解出来なくて困惑。

 その間に矢吹は昇に近づいて行き、手を握った。


「何でもいいよ、梅原さん。行きたい場所、言って? 僕達も一緒に遊ぶから。僕達がもう行ったとこなんて気にしなくていいよ」


「や、矢吹……?」


 ちょっとそれ訂正させてもらっていいっスか? 『絶叫系は無し』って訂正させてもらってもいいっスか?

 矢吹の笑顔を目の当たりにし、昇は少しの間驚いて固まっていた。

 矢吹のやりたいこと、俺今漸く理解したよ。今回は、デートを捨てるってことでいいんだろ? 悲しいけど、賛成する。


 代わりに、昇を楽しませてやるんだ。昇に思い出を作ってやるんだよな、矢吹。

 苦手だって言ってたのに、優しい奴だな本当。幼馴染みのくせに俺最低だよ。気持ち考えてなかった。

 矢吹には勝てないなぁ。


「ね? 何乗りたい? まだまだ時間はあるから、どれでもいいよ」


「そ、そう? じゃあ、アレかな……」


「ジェットコースターだね。うん、行こう花菱君。梅原さんも」


「ジェットコースター……!?」


 まさかの絶叫系で、思い切り俺がダウンしたものが選ばれた! 昇だからああいうの乗ってみたいだろうなぁとは思ってたけど、真っ先に来た!

 幼馴染みと彼女の前で再ダウンするのだけはごめんだったぜぃ。女の子の前でアレは情けない。

 それでも好きと言ってくれる矢吹サンキュー。あとでハグするわ。


 珍しく積極的な矢吹に対し、いつもよりオドオドしてる昇は手を引かれて驚愕の表情。そんな驚かなくてもね?


「や、矢吹さんって結構大人しそうに見えてたけど、印象変わったわ」


 昇がそう言うと、矢吹は照れ臭そうに髪を弄りながら微笑んだ。

 凄ぇ可愛いもん見た。他の男見てないだろうな? アレは今俺達だけの前に舞い降りた天使だからな。分かれよ?


「うん、僕は暗いかも。でも色んなことに挑戦してみたいって気持ちは多分人並みにあるよ」


「そうなんだ」


「あ、それは一旦置いておいて、ちょっと梅原さんに相談あるんだけど」


「何?」


 ジェットコースターの順番待ちをしている最中、矢吹が振り返って昇を見上げた。見上げたって、矢吹小さいな。

 でも、矢吹が昇に相談なんて何を言うつもりなんだろうか。少しだけ心配になったので、こっそり耳を傾けてみる。


「僕も、サッカー部のマネージャーやりたいんだけど……ダメ?」


 矢吹の相談事は、聞き覚えのある内容だった。

 サッカー部のマネージャーをやるかどうか、それを言い出したのは俺だ。呪いに対抗する為、導き出した最善策。

 矢吹は一度、昇の嫉妬を警戒して不安そうにしていたが、それを直接、本人に相談したのだ。


 昇に対する警戒心が解けた、ということなんだろうか。


 戸惑った様に目を泳がす昇は、チラッとこちらに眼を向けると、また矢吹に視線を戻した。何で俺を見たのかは知らんが、答えが決まったと考えていいだろう。


「矢吹さん、それってシュンと一緒に居たいから?」


 昇、まさかの返し。思いっきり出して来たな嫉妬。こういう時くらい素直に答えてあげて。

 矢吹もそこを突かれたら厳しい心境だろうなぁ。俺と会えなきゃ死ぬなんて、そう簡単に信じてくれる人間居ないよ。

 だが、矢吹は何か吹っ切れたのか静かに頷いた。


「うん、僕は花菱君と居たい。他に友達いないからね」


 矢吹がはぐらかしたことに、少しだけほっとした。何だ、バラす訳ではないのか。

 ……ちょっと待って? もしかしたら矢吹、本当に他に友達居ないんじゃね? 嘘だろマジかよ。俺以外ぼっちかよおぉぉぉい。


 矢吹の言い訳を聞いた昇はまだ唸るが、ポリポリと頬を掻き苦笑した。


「うん、丁度一人じゃ限界あったから、助かる。後で部長に話しておくわ。これからよろしくね、矢吹さん」


 それから、目一杯の笑顔を見せた。

 人の笑顔を見分けることが出来る俺には、それが偽物の笑顔じゃないことが分かった。だからこそ二人のやりとりには口を出さずにいた。

 昇の返事を聞いた矢吹も微笑み、頷いた。


「よろしく、梅原さん」


 微笑ましくも思える美少女達の感動的なシーンに涙ぐむ思いだった俺は、回ってきたジェットコースターの順番に本当に涙ぐんだ。怖いよぉ。

 だがこの二人が打ち解けてくれたなら俺の胃も無事に済むだろう。時々心臓止まるかと思ってたからな。

 ……ただ、席に座ってからはまたまた修羅場の様な雰囲気に変わった。左右から、「負けないぞ」と言わんばかりにバチバチと火花を飛ばされてるしね。


『発進しまーす。安全かどうかは定かではないので、しっ……かりとお掴まりくださ〜い』


「怖いこと言わないで!?」


 安全点検とかしてます!? メンテとかちゃんとしてます!? 多分同じことだよね! 分かんねー!

 左右の美少女ファイトと、不安過ぎるアナウンスに恐怖心を溢れさせながら、何か、棒に必死に掴まる。

 数秒後、急激に発車した。


 さっきまでと違くない!? 一度乗った筈だけど、全然違くなってるううううううううう!!


「ああああああああああああああああ!!」


 ──園内全体に響き渡った俺の叫び声は当然、迷惑だったらしく俺だけジェットコースター出禁になった。逆に有り難い。

 矢吹はしゅんとしてるけど、俺的にはハッピー&万々歳。パン◯ース穿いて走り回りたいくらいだ。

 流石にそんなことしないけどね。本気だと勘違いされたら凄い困るんだが。ははは。


 今更だけどさ、この三人中またまた俺以外がなんだけど、遊園地初めてって感じだよな。多分。

 昇は中学以降行ってない筈だから、記憶失ってから初めても同然だ。

 何か仲間外れ嫌だからさ、共通のなんか無い? おトイレ一人で行けるかどうかとか。そりゃ全員同じになるか。


 アホみたいな思考は一旦止めて、矢吹と昇に連れられて行ったり来たり吐いたりダウンしたり。この後も沢山アトラクションに乗りました。

 もう限界、と俺が吐き出したことで遊園地から脱出成功した。矢吹達が気を遣ってくれたんだけど、凄い悔しそうだなどっちも。

 俺は辛いから有り難いけど。


「あー、どうする? この後。今午後四時になってますが。俺と矢吹はまだ食べ歩きする予定だけど昇は?」


 もう、デートということすら忘れていた。何時間も三人で行動してたんだもんそりゃね。

 だが、矢吹も嫌そうではないし否定もしないので同じ考えなんだろう。昇が来るなら一緒に、来ないならここで別れるということだ。


 嫉妬中の昇なら百パーついて来ると予想してたが、それは勘違いだった。


「うーん、私はもう帰るかな。ごめんね、今日は邪魔しちゃって」


 驚く、のはちょっと悪い気もするが、とにかく予想とは別だったからか矢吹はキョトンとしている。

 俺も昇がついて来て、結局ホテルに泊まれないと踏んでいた為驚愕だ。そしてラッキーとはしゃぐ心の自分を殴りたい。


「ううん、全然大丈夫。気をつけてね、また明日学校で」


 柔らかい口調で矢吹は手を振った。昇もそれに倣って右手を挙げる。

 君達いつの間にそんな仲良くなったのかしら? 俺の居場所はどこだよ。昇の幼馴染み? 矢吹の彼氏? それとも部外者?

 最後はないよな流石に。な?


「今日は楽しかった。また明日ね、二人共。この後も楽しんで」


「おう、じゃあな昇」


「うん」


 ホテルでもお楽しみ頑張ります。

 昇が見えなくなるまで見送り、交差点の信号機前で立ち尽くす俺達はふと互いに顔を見た。優しく微笑む矢吹と厭らしく微笑む俺。

 一瞬引かれた気がしたので、真顔を作る。


 見合っていると、矢吹の右手が行き場を失くしてウロチョロしているので優しく握った。

 安心しきった様に照れ笑いする矢吹に胸を打たれてもそれを耐え、少しだけ屈んで矢吹と視線を合わせた。


「なぁ、次は何を食べるんだ? 結構遊んだ(結構吐いた)から腹減って来てしまった。何が食べたい?」


「うん、ちょっと早いけど夜ご飯にしよっか。僕が行きたいカフェがあるんだ、そこ行こう? まだ行ったことない場所なんだけど」


「オッケ! んじゃあ、思い切って食べまくるとするか! 行こう!」


「うんっ」


 手を繋いだまま矢吹に連れられ、俺達はその後二軒店を回った。腹が膨れ過ぎて死ぬんじゃないかと思ったけど、何とか生き延びました。

 午後七時になってからホテルに向かい、心の準備を整えてから色々準備してたが、何も無く即就寝。まぁ分かってたんすけど。はい。


 期待は、してたんですけど……。



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