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怪奇日誌  作者: 赤犬 悠
1/3

#1 建設作業


 きっかけは単純なものだった。おばあちゃんっ子だった僕は、小さい頃から度々おばあちゃんの家へ連れて行ってもらい、たくさんのお話をしてもらった。笑えるような楽しいお話から悲しく寂しいお話、そして中でも僕の心に残った震えるような怖いお話があった。本当の話なのか、作り話なのか、当時の僕にはそんなことを考える余裕さえ、もちろん無かった。


 そんなお話好きなおばあちゃんは、僕が中学2年生の頃に亡くなった。




 高校生になった僕は、改めてあの怖いお話を思い出すようになった。とある田舎町で建築中に起きた事件。インターネットで調べてみてもそのような事件を見つけることは出来なかった。両親に聞いてみても、おばあちゃんはお話し好きだから……の一点張り。僕の望む回答が返ってくることは無かった。


 SNSではそのような事件を”奇妙な事件――怪奇事件”と説明されていた。探せば怪奇事件たるものはたくさん存在するのだとか……。いろいろな意見が欲しい。僕はお話を文章にし、画像としてSNSに投稿することにした。




   1.


 人口の少ない田舎町。そこではある会議が行われていた。みんなが顔を合わせられるような公共の施設、避難所としても使える、そんな施設の建設会議。そこで現場監督として声を上げたのが佐々岡という男だった。年齢は58歳。すごく真面目で、周囲の信頼もあつく、とても頼れる男。

 

会議の時間は2時間も必要のないくらいに順調にまとめられ、数日後に作業を開始することになった。

 

建設する建物は2階建てで、1階には広めのホール、2階にはいろんな用途で使えるようにと均等に4部屋作る予定。そんなに難しいという作りではない。一般的な技術しかないため、このような建物に決まったのだ。

 

数日で必要な資材を集め、作業が開始された。





 作業はとても順調だった。土台を作り、柱となる木を立て、床をはめる。壁も作り、2階へ続く階段を作った。2階も同じようにと、完成一歩手前まで作業が進んでいた。


 「階段部分を最終チェックしてくるから、みんなはそのまま作業を続けててくれ」


そう言って佐々岡は一人、階段のチェックへと向かった。神経質と言うほどでもないが、細かい部分も手を抜きたくない。一段一段丁寧に行われた。


 階段を登りながらも佐々岡はいろいろなことを考えていた。3段目辺りに花畑の絵を飾ろう、7段目辺りにはみんなの集合写真を飾ろうと、嬉しさと楽しみで笑みがこぼれていた。





 「どうだみんな。作業は終わったか?」


作業仲間の一人がそう言うと、1階のホールへみんなが集まってきた。大きく手を上げてハイタッチをする人、嬉しさのあまり半泣きで抱き合う人、小さな田舎町ならではの嬉しさの表現方法だった。


 「あれ? 佐々岡さんはどうした?」


一人がそういうと、みんなは辺りを見回し声を上げた。


 「佐々岡さーん。どこですかー」


 「作業が終わってなければ手伝いますよー」


それでも佐々岡はみんなの前に出てこない。


 階段をチェックしに行った佐々岡だが、二階で作業をしていた仲間も見てないと言う。もちろん一階と二階を繋ぐ階段は一つだけ。行き違いになることも考えられず、外を探しても佐々岡は見つからなかった。





 2.


 佐々岡がいなくなって二日が経った。町の大人たちが探し回ってもこの有様だ。そんな疲れ切った大人たちの中、町長が下を向きながらボソッと呟いた。


 「私のせいだ。気づいていながら黙っていたから、佐々岡くんは消されてしまったんだ」


 「それってどういう意味ですか?」


 「何を黙っていたっていうんですか、町長!」


仲間が何を言ったところで、町長は黙り込んだままだった。そして、町長への説得が始まった。





 一時間、二時間経っただろうか。このまま黙っていても何の解決にもならない。固く閉ざされたその口がゆっくりと開いた。


 「駄目なんだ。――十三という数字は不吉な数字なんだ。あの階段は死の階段。一段一段思いを込めて登ってはいけないんだ」


真面目で頼れる存在の佐々岡だからこそ、いろいろな思いがあったのだろう。もちろん、それは決して悪いことではない。あの階段が悪かった。


それを聞いても理解の出来ない仲間たちはいくつかの質問をした。なぜ十三が不吉なのか。一段一段思いを込めてとはどういうことなのか。そして消えた佐々岡はどうなったのか。


 「…………すまない。本当にこんなことになるなんて思っていなかったんだ。信じられるはずないだろう、あの階段が死へ繋がっているなんて。申し訳ない……許してくれ……許してくれ」


それ以上、町長がこの件について話すことはなかった。





 3.


 おばあちゃんはこのお話をしてくれた後、決して階段の上を見てはいけないと言っていた。十三という数字は過去の数字。今はどうか分からない。深く考えず、普段通りに登っていれば何の問題もないと。


 そして間もなく、SNSからのコメントが寄せられた。


 公になったものではないが、昔似たようなお話を聞いた人がいた。中には十三に込められたものを教えてくれた人もいた。以下がまとめたものである。




 同じように建設途中で村人が一人消えてしまった。そこでその村ではその建物をお祓いしようということになった。隣町にいるお坊さんを呼び、問題の建物の戸を開け、中に入ってもらってすぐのこと。そのお坊さんの顔がみるみるうちに真っ青になっていった。側にいた村人は理解が出来ず、とにかくお坊さんを建物の外へと引っ張ることしか出来なかった。


 お坊さんが落ち着くのを待ってから、あの建物の中で何が見えたのかを聞いた。


 「あるはずのない物が見えた。上に吊るされた鋭利な刃。あれは遥か昔に使われていた処刑台だ」


 その村では、呪われた建物を作ってしまい、その呪いで処刑された……ということで片付けられた。





 処刑台と十三という数字は関連していた。処刑台は階段の上にあって、そこに続く階段の数が十三段。処刑される罪人は今までに犯した罪に対して思ったことがあったのだという。



 一段目……ごめんなさい。

 二段目……ごめんなさい。

 三段目……許してください。

 四段目……許してください。



 一段一段ゆっくり登ることで、罪人にいろいろ考える時間を与えた。もちろんそれはいいものでは無い。十三段登れば処刑。じわじわと恐怖を与えるものだった。



 十一段……嫌だ。

 十二段……嫌だ。

 十三段……死にたくない。





 建設関係者の中で暗黙のルールが作れらた。階段は十三段にしてはいけない。もし作ってしまったら死への道が開かれてしまうかもしれない。処刑という形で人が消えてしまうかもしれない。このようなことはこの先、決して起こしてはいけないと。





 4.


 おばあちゃんのお話は本当なのかはもう分からない。これらのコメントを読んでも僕は半信半疑だった。だけどその可能性が1%でもあるのなら、心の隅にでもおいておきたい。


 奇妙な事件――怪奇事件。


 たくさん存在するのなら、僕はいろいろ調べてみたい。もしその怪奇事件が起こる可能性があるのなら、少しでも知っておいた方がいいだろう。


 せっかくだから調べてまとめてみるか。


 名前はどうしようか。――そうだな……”怪奇日誌”とでも名付けておこうか。

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