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第二楽章  クライス レリアーナ(上)

   その才能に驚く他ないが、残念な事に彼は傍若無人な人間だ。



 「シンフォニアって何ですか?」


 「シンフォニアっていうのは、対オルガヌム戦闘用の機械の事ね。あとネーミングは適当だから、そこの所は何も聞かないでよ?」


 「オルガヌムって・・・?」


 「オルガヌムっていうのは、さっき戦ったヤツの事で三っつ位種類があるわ。さっきクラヴサンが倒したのはアルフレッド型みたいね」


 「クラヴサン・・・?」


 「クラヴサンはヨハン君が乗る事になった、あの黒色(ネーロ)のヤツの名前だよ。他に質問とかある?」


 「先生、近いです・・・」


 今、目の前に、いや鼻のすぐ前に先生がいる。

 このままの体制だとなんかアブナイ気がする・・・。

 先生は渋々離れていき、元々座っていたソファに腰掛けた。ていうか渋々って・・・?

 ここは六番倉庫の中でシンフォニア三機が待機している。見た感じでは、(ネーロ)(ラルジェント)茶色(マローネ)金色(ローロ)のシンフォニアの三機。その為スペースがあまり無く、隅の方にあるソファに向かい合って座っていた。

 

 「そのオルガヌムってヤツはどっから沸いて来たんですか」


 「なんか、月から沸いて来たみたい。でも数は一定量なんだって。ヨハン君が来てくれたからきっとすぐ終わっちゃうよ!」


 妙にテンションの高い先生。無理矢理連れて来られてテンションの低いオレ。

 真っ昼間だけど今なら十秒で寝れる・・・大事な事を言い忘れていた。


 「その前にオレはまだ、乗るとは言ってませんよ?」


 「何言ってんだ、上手く弾けてたじゃねぇか」


 話に割り込んできたその男を睨みつける先生のシアンブルーの目が恐ろしい。

 その眼力を教師の威厳として使えばいいものを。

 先生が睨みつける先には、煙草を吸う小汚い茶色のジャケットに擦り切れた蒼いジーンズを穿いた茜色の髪の男、フィリップ・アダムスが壁に寄りかかって立っていた。一通り自己紹介はして貰った。

 鍵盤を弾くと言ったこの人はタダモノでは無いだろう。

 この時代に一種の麻薬とされ、売買および服用を禁じられている煙草を持ち、吸っているこの男はやはりタダモノでは無いだろう。


 「オッチャン、乗るも乗らないもニイチャンの自由だろ?」


 窓際のパイプ椅子に座っているダボダボのコート・・・いや、汚れすぎて白に見えない白衣を着たほつれ気味の栗毛の女、マリア・プラネスが飽きれながら言った。

 今名前を出した二人しか自己紹介されていない。そして今、この倉庫の中にはオレを含め四人しかいない。

 つまりこのクラヴサンを所持している組織・・・いや、グループにはフィリップとマリア、そしてテレーゼ先生の三名しかいない、と言う事になる。


 「オッチャン言うな!まだ28だ!毎回言ってるだろ!」


 別に良いじゃない、と流したマリア。

 年齢の違いって結構大事な話だと思うぞ?まあ、その髭面だったらオッチャンと呼ばれても不思議ではないな。


 「で、乗らないんだろ?ニイチャン」


 いきなり話しかけられて反応が遅くなったが、質問を頭の中で確認し軽く頷いた。アレが弾けるからってクラヴサンには乗りたく無かった。

 エッ、嘘!と言う声も先生から聞こえるが、色々言われそうなので無視した。

 フィリップがオレに、冷たい視線を突き刺している。すると彼の口が開いた。


 「坊主、何故乗らない?オマエには戦えるだけの力が備わっている。ソレこそ運命、ってヤツだろ?」


 煙草の煙と共に出てきた運命という単語に反応してしまう。

 この男はオレがクラヴサンに乗らない事に疑問を抱いて居るらしい。


 「マリアさんも言いましたけど、乗る事も乗らない事もオレの自由なんですよね?フィリップさん」


 嫌味っぽく言ってやった。ホントは運命なんて知るか!とキレてやろうと思ったが、どうにもガキっぽいので心の中に留めておいた。

 フィリップは溜め息をつきながら錆付いたホワイトボードに歩み寄り、その下にあった水の入ったバケツに短くなった煙草を投げ入れた。ホワイトボードにはブーツの様な形の陸の地図が貼ってあった。

 所々バツマークが付いている。


 「このイタリア領土の中に、機能している都市はもうこの場所、旧ローマと旧ミラノしかねぇんだよ、坊主」


 多分この時代にその地名を知っている人は少ないだろう。

 過去を捨て、自分達の手で未来を作って行くと言う人間達の技術革命が起きた事により、ローマやミラノといった地名は無くなり、番号で呼ばれている。

さらに数学、幾何学、理科、技術が特化され、宗教、音楽、美術、古典、歴史といった科目がすべて排除された為に過去の単語を知る人は少ないのだ、と言う事をあの糞親父に叩き込まれたワケだが。


 「そしてヨーロッパの中では、旧マドリード、旧ベルリン、旧ロンドンが今のところ機能している事が確認できた。その他は死に掛けか、死んでいる都市だ。だがそれはヨーロッパだけの話で他の大陸がどうなっているのかは全く解らん。もう既にヨーロッパ以外は滅びているかもしれない」


 フィリップが説明し終わると、マリアは少し険しい表情になり、先生は顔が俯いた。

 オレはソファから立ち上がりながら叫んだ。


 「だからってオレがアレに乗る理由にはならないだろ!」


 「シンフォニアに乗れて尚且つ器楽武装が使えるオマエを見す見す野放しにしろって言うのか!?今は一人でも戦力が要る状況だ、分かれ!」


 これだから大人は嫌いだ。使えるヤツは運命やら天才などと言って囃し立て、使えないヤツは捨てる。

 その昔、人は平等とか言ったオヤジ共が居たらしいが、才能という言葉が生まれた時点で平等じゃないだろう。

 今、オレは使えると言われた事に腹が立っている、とても。誰かにとって使える、都合の良いヤツにはなりたくない。オレは使えなくてもいい、自由であれば。それだけで。


 「分かんねぇよ!そんな下らねぇ事!誰が乗ってやるか、そんなモンに!」


 「この生意気な糞餓鬼が!」


 右拳で殴り掛かって来るフィリップ。暴力で解決すると思っているのか。

 とりあえず軽く避けて裏拳でも当ててやるか。


 「ケンカはダメだって!」


 いきなりオレとフィリップの間に割って入ってきた先生。

 それに気づいて拳を下ろしたフィリップ。


 「二人ともケンカするために会ったワケじゃないでしょ!」


 涙目で訴えるように言った先生。

 まあな、と先程とは全く態度の違うフィリップ。少し困ったような表情をしている様に見える・・・気がする。


 「フィリップ、叩くのはダメ・・・痛いよ、大きな声で怒鳴るのもダメ・・・怖いよ、そんなことしても変わらないよ・・・」


 俯いて細々と囁いた先生。声が小さかったが十分に聞こえる距離だった。

 フィリップは明後日の方を向いている。叱られたから、というより顔がまともに見れないと言う方が正しいように見える。


 「ヨハン君も、そんな才能があるんだから、人助けだと思って・・・」


 「オレは人助けするつもりはさらさらありません。ただ自由で居たい、それだけです」


 先生がハッと顔を上げる。少し涙目だ。人助けをしないという事に異議を唱えているのかもしれない。

 オレには人を助ける意味が解らない、所詮自業自得ではないのだろうか?自分の事なのだから自分で解決して欲しい。それこそ迷惑ではないだろうか?

 死にたきゃ勝手に死ね。迷惑かけずにな。

 先生が今にも泣き崩れてしまいそうに見えるが、生徒の前なので泣けないのだろう。


 「その自由ってのはわかった。だがなオルガヌムは世界を滅ぼし掛けている。世界がぶっ壊れたらオマエもタダじゃ済まねぇだろう」


 「だから何ですか」


 はっきり言って世界がどうなるかなんて興味ない。世界が水に覆われようが、砂漠になろうが、月が堕ちて来ようが関係ない。独りで生きていく自信がある。

 地球が真っ二つになったら・・・その時はその時だ。

 フィリップが呆気にとられたような驚いた顔をしている。

 しばしの沈黙。誰も言葉が出ないらしい。


 「ニイチャン、一日考えてみたらどうよ?」


 振り向くとマリアがパイプ椅子に座りながらこちらを見ている、オレに話しかけたらしい。


 「考え直すとでも思ってるんですか?」


 「話の流れでそう言ったほうがいいと思った」


 流れって・・・まぁ別にいいけど。

 そう言うとマリアはポケットから煙草を取り出し、マッチに火をつけ煙草に火を移した。

 この町でマッチ、ライターなどの小型火器を所持していると人為火災未遂の容疑で逮捕される。マリアはマッチを振って火を消すと、ホワイトボード下の水入りバケツに投げた。

 奇麗な放物線を描いてマッチはバケツではなく床に落ちた。

 マリアが口に含んだ煙を吹き出すと不意にボソッと呟いた。

 

 「アンタら学校は?」


 あ、と言い残し開いた口がしばらく閉まらなかった先生だった。



 残り数分で授業が終わるのにもかかわらず、オレは屋上で掌を枕にして寝そべっていた。正直言ってあの密室空間に何分もいることが耐えられない。窓はあるから密室ではないな。

 あの後、先生に本日二度目の連行をされたオレは、校長の次に偉そうな人に先生と共に謝る破目になった。先生も無断外出だったらしい。

 ほとんど空返事で通し、話を聞いていなかった。

 偉そうなヤツが紙を何枚か押し付けて反省しろと言っていた・・・かもしれない。

 先生が何やら弁解していた・・・気がする。

 偉そうなヤツが時計をちらちら見て、さっさと教室に戻れと怒って職員室に戻ってしまったと思う・・・数枚の紙を残して。

 そしてオレは記憶が不確かであるような気がして、いつもの屋上に戻ってきたのだった。

 側にはクシャクシャに丸まった紙が四つ、誰に作り方を教えてもらったのか分からない紙ヒコーキが一つある。飛ばしてみたら面白いかも、と思ったが気分が乗らないのでそのまま側に置いてある。

 空にはドームに穴が開いたかのように、数々の摩天楼の間から蒼い空が見えていた。

 商業地区ではないのでディエーチは存在していないが、今の人はこの摩天楼に住んでいる。

 青は赤に変わりつつある空。同じ形の無い空は見ていて飽きない。

 空に手を伸ばす。

 あそこまで飛んで行きたい。自由に遠く高く飛んでみたい。何度ここでそう思ったことか。

 だけど人は自由にはなれない。必ず不自由が付いて回る。

 ビル風が吹き、頬を伝っていく。丸めた紙がカサカサと音を立てていく。

 オレはすぐさま起き上がり、紙ヒコーキを手にすると風の向かう方へ飛ばした。

 風に乗りビルの谷間を悠悠と飛んでいく紙ヒコーキ。

 しかしいつかその自由の翼は落ちてしまうだろう。

 この世に永遠など存在しない。きっと当たり前の事なのだろう。

 それでも人は永遠を求め続ける。それこそ永遠に。

 希望だけが永遠かもしれない。

 しばらくその紙ヒコーキを眺めてそんな事を考えていた。見失ってしまった。


 「戻っていたんだな?」


 後ろから声が聞こえた。

 振り向くと芥子色の髪の毛で伊達メガネを掛けた少年、アーサーが軽く片手を挙げていた。隣に亜麻色のロングヘアーの少女、リュリが微笑していた。

 アーサーは軽そうなオレのカバンを投げて渡してきたので、オレはカバンをうまく受け止めながら返事をした。


 「一応な」


 空返事だったかもしれない。


 「フッと消えてフラッと現れるのがヨハンだからな、いつもの場所に戻っていると思ったよ」


 ソレは影が薄いって事を遠回しに言っているだけなのか?

 反射的に目を逸らし舌打ちした。

 グシャッという音に続き、痛ぇ!とアーサーの叫びが聞こえた。

 二人を見ると、アーサーが頭を抱えて蹲っている隣でリュリが彼に先程の微笑を向けていた。

  凶器・・・推測によるとカバンだと思われる。

  備考・・・病弱な少女による犯行。

  動機・・・彼の迂闊な発言による衝動的犯行。

 頭の中に今の状況が簡潔に現れた。オレなんかスゲェ。


 「帰るか!」


 無理矢理に笑顔を作って問いかけた。一番妥当な判断かもしれない。

 

 「うん!」


 他の男子であれば見とれてしまう程の笑顔で返事をしたリュリ。


 「そうだな!」


 片手で後頭部を押さえながら立ち上がって返事したアーサー。

 屋上から出る直前、振り返り空を見上げる。

 二人とは近くも遠くも無い距離で付き合っていると思っている。

 二人がどう思っているかは分からない。

 二人を守るためにシンフォニアに乗れと言われたとしてもオレは乗らない。

 親友でもなく疎遠でもない、空模様のようによくわからない関係だから。


 「理由になって無いな・・・」


 独り言を空に向かって呟くとオレは独り言を言ってしまう自分の頭の心配をしつつ屋上から出た。



 エレベーターを降りると十八階だった。

 居住地区と工業地区のビルは平均十五階、商業地区のビルは平均二十階建てのモノが多いため、オレの住むビルは平均より高く作られている。

 エレベーターから降りたのはオレだけだった。

 ビルの中心にエレベーターが四機稼働しておりちょっとした広間のような場所に出る。

 エレベーターの前には廊下があり、突き当たると人が住む部屋のドアが並ぶ廊下に出る。

 また熱心に説明している自分がいる。誰に説明してんだ?

 オルガヌムとかシンフォニアとか意味分からん言葉のせいで頭がおかしくなったのかもしれない・・・。

 一つの黒いドアの前で止まり、ポケットから鍵を取り出して上の鍵を開ける。

 そういえば指紋認証型や網膜認証型の鍵はウイルスやらハッキングやらで簡単に初期設定をし直す事ができ、普通に入ることができるとニュースで言ってたな・・・犯人は部屋に居座り続けたらしく、元の住人がビルの管理人にリセットを要求するも効果が無く、警察は窓からの強行突破で犯人を逮捕したらしい。

 要はどんなモノを作ってもソレを超えるモノが作られるのだ。

 いい意味でも、悪い意味でも。

 思い出している間に下の鍵も開け、ドアを半開きにしていた。

 誰かいる・・・?中が少し明るかったため直感した。

 中の構造は玄関とキッチンもあるリビングの間に廊下があり、個室が二部屋とトイレ兼シャワールームが廊下を挟んで存在している。

 今はリビングから光が漏れているらしい。

 誰がいるかは分かっている。ただ顔を合わせたくない・・・。

 中に入り玄関のドアを閉め、鍵も一つ閉めた。

 廊下を忍び足で歩いている。もう少しでオレの部屋に着く。

 ドアノブに手を掛けた。


 「帰っていたのか、ヨハン」


 ばれたか・・・軽く舌打ちした。振り向かず返事をする。


 「あぁ、親父」


 身体を動かさず後ろを見た。短く切った黒髪に挑発的な目つきのその上にメガネ・・・多分伊達ではないを掛けた親父が、いつもの誰も信用してないような目つきでこちらを見ていた。

 胃がキリキリと音を立てている、それほどの嫌悪感。敵対心。


 「勉強はしているのか?」


 「当たり前だろ?」


 外から見れば普通の会話だが、二人の間には重すぎる空気が流れ、オレは親父にありったけの嫌悪感を剥き出しにし睨み付けている。さらに親父の挑発的な目つきがオレの敵対心を駆り立てる。

 時間が過ぎるのが遅い・・・胃がかなり痛く、その痛みも嫌悪感に混ぜて親父に送りつけている。

 

 「・・・・・・・・・そうか」


 戦闘終了。

 親父は自分の個室へ入っていった。嵐は過ぎ去った。

 胃の痛みから解放され、冷や汗が吹き出し疲労を身体に感じた。

 自分の部屋へ入るとすぐにベッドに倒れこんだ。今日一日の疲労はココから来たんじゃないだろうか?

 ていうかもう何も考えたくねえ。

 一瞬シンフォニアが頭を掠めたが、ソレの答えは出ていたので気にも留めず深い眠りに落ちていった。

どうもまた木村です。

どうやら言わなきゃならない事が沢山あるようです。

まず、タイトルは曲の名前なので本編には80パーセント関係ありません!

クライス・レリアーナなんてキャラはでませんよ!

とりあえず(上)なので曲の紹介はありません。

なるべく話の内容とタイトルが合うように選んでみますが今回だけは許してください・・・お願いします。

あと〜、ネーロとか変なフリガナが振ってあったと思いますが、舞台が旧ローマということもあり、50パーセントくらい信じていいイタリア語です。

なぜ50パーセントなのかというと、「六ヶ国語会話1」なる本を持っておりそこに書いてあったモノを引用したのですが、コレの初版が昭和35年ということもあり半分信用している次第であります。

さて、結構長くなってきたのでこれで終わりにしたいと思います。

では、また。

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