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帝国の進撃  作者: 芥流水
開戦編
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第六話 OH作戦二 準備

 現地時刻七時五七分、ウェーク島に海兵隊のF4Fワイルドキャットを輸送したその帰路にあったウィリアム・ハルゼー・ジュニア中将率いる空母『エンタープライズ』を旗艦としたTF16(第一六任務部隊)はオアフ島西方一三〇(かいり)にいた。TF16は昨日に真珠湾へと入港する予定であったが、駆逐艦が途中の嵐で小破しており、その為に到着が大幅に遅れていた。


「何!真珠湾が攻撃されているだと⁉︎敵の数は?損害は?」

 ハルゼー中将はそう報告してきた部下に聞き返した。だが、要領の得ない答えしか返ってこず、通信兵にオアフ島太平洋艦隊司令部まで連絡を入れさせた。



「すると本当に真珠湾がやられたのだな?」

 詳しい情報が得られたのは九時を超えた時間であった。ハルゼー中将の脳裏には既に何通りもの反撃の策が浮かんでいた。

「はい。敵は日本軍と思われ、航空機によって奇襲攻撃を仕掛けてきました。一部に独逸機がいたとの報告も有りますが、大多数が日本機です。投入された機数から敵は空母を少なくとも五隻使用しています。味方の損害は甚大であり、真珠湾に停泊していた艦は全滅。オアフ島の飛行場も被害を受けており、機体は飛ばせない状態である、とのことです」

 報告を聞き終えた司令部は沈痛な呻き声に満たされた。その中で、ハルゼー中将のみが言葉を発した。

「奇襲か……いかにも卑怯者のジャップがやりそうな事だな。それでキンメル大将からは何か命令があるかね?」

「いえ、まだ何とも……」

 連絡兵の返事を聞くと、ハルゼー中将はすぐに大声で命令した。

「偵察機の発艦準備を速やかに整えろ。命令が来次第飛び立てるようにな」

「命令とは……?」

「決まっているだろう。キンメル長官からの敵艦隊を撃沈せよとの命令だよ」

 ハルゼー中将はそう答えた。


 ハルゼー中将の元に、キンメル大将から洋上艦隊の全指揮権を渡すとの連絡がきたのは、九時二〇分の事であった。

 この時ハワイ西方近海にはTF16以外にももう一つ任務部隊が有った。TF12である。ハルゼー中将は先ずそれと合流することを決定した。さしもの猛牛(bull)ハルゼー中将といえども一対六の空母決戦は無理であると判断したのであった。しかし、日本の機動部隊の位置を知るためにも偵察機は飛ばさなくてはいけなかった。


 ほぼ同時刻に真珠湾攻撃の知らせを聞いた空母『レキシントン』艦長フレデリック・カール・シャーマン少将は即座に引き返すように命令した。この時『レキシントン』率いるTF12はミッドウェー島に海兵隊の機体を届ける輸送任務の途中であり、オアフ島西北西方向 六〇〇浬にいた。

「出来る限り急げよ。日本の艦隊を逃してはならん」

 彼の顔には焦りがにじみ出ていた。『レキシントン』は『エンタープライズ』と違い未だ輸送はしておらず、機体は十分な数が有った。


 いくら日本の空母機動部隊がオアフ島の艦及び飛行場に壊滅的被害を与えたとしてもそれは奇襲の効果であり、過剰に評価する物ではない。寧ろ奇襲という手段に頼ったということは彼らに一定以上の能力が無い証である。ハルゼー、シャーマン両提督はそうとすら思っていた。そうでなければ六隻もの空母を保有する艦隊に挑む上で平常心が保てなかった。


 その夜のことであった。オアフ島が戦艦に砲撃されたとの連絡が両任務部隊に届いた。それを聞いたとたんハルゼー中将は叫んだ。

「要塞砲は何をしていた!?」

 ハルゼー中将の脳裏には直ぐさま夜間攻撃の文字が浮かんだ。だが、彼はこれを行わなかった。搭乗員は夜間発艦は出来ても夜間着艦は出来そうにないからである。オアフ島の飛行場にならば着陸できるが、その飛行場が砲撃を受けて使い物にならなくなっているのだ。ハルゼー中将は自分の中で焦りが大きくなっているのを自覚していた。


 オアフ島には大小合わせ三六あまりの要塞砲が有った。この内三〇糎を超える大口径砲は四カ所にあった。

 バレット要塞 四〇糎砲二門

 ウェーバー要塞 四〇糎砲二門

 カメハメハ要塞 三〇糎砲一門 一五糎砲二門 一二糎砲二門

 ホノルル要塞 七・六糎砲二〇門

 ルーシー要塞 三六糎砲二門 一五糎砲二門

 ルガー要塞 一五糎砲一門 一二糎砲二門

 この内特に驚異となるのが真珠湾を守るウェーバー要塞と西岸を守るバレット要塞の四〇糎砲であり、これらは射程距離が四五〇〇〇(meter)を誇る。迂闊に近づこうものなら地上砲の安定性を活かした精密射撃の餌食となるだけである。

 陸軍は機動部隊の攻撃にばかり気を取られており、戦艦の砲撃など想像だにしていなかった。その為、本来は要塞砲に配置されていた兵士も、対空砲へと回されていた。そこを見事に日本軍に突かれた形となった。砲撃を終え帰投する艦隊へ向け、バレット要塞は砲撃を行なったが、破れかぶれのものとなり、至近弾こそ出たものの、命中は出なかった。



 九日〇時-現地時刻四時三〇分-『赤城』艦橋。艦隊司令部の面々が大きな机を囲んでいた。机にはオアフ島の地図が広げられ、飛行場のある場所には白い碁石、要塞砲のある場所に黒い碁石が並べられている。

「して、この後の第一波攻撃隊の編成はどうするかね」

 航空参謀の源田中佐がそう切り出した。

「艦爆を中心に編成すべきでしょう。オアフ島の飛行場は昨日の航空攻撃と砲撃によって壊滅状態でしょうから、次は要塞砲を無力化しなければいけません。それには精密性のある急降下爆撃が有効かと思われます。しかし……」

 樋端少佐はそこで言い淀んだように黙ってしまった。

「しかし、何だね」

 草鹿少将が続きを促す。

「いえ、急降下爆撃では要塞砲の防御力を考えればそれを破壊しきれないかもしれません。出来れば艦攻の徹甲爆弾を使いたいのですが……」

「命中率の問題か」

「はい。低空飛行にしても対空砲の損害が心配です。それに万が一敵艦が出現した時を考えると魚雷を放てる艦攻は手元に置いておきたい」

 源田中佐の言葉に樋端少佐は頷いた。今後の対米戦を考えれば自軍機の損害は可能な限り少ない方が良かった。この真珠湾だけが戦場ではないのだ。又、水面下を喰い破り艦にとって致命傷となる魚雷を放てる艦攻は敵艦の出現時には重要な戦力となる。

 その時南雲がぽつりと呟いた。

「時間差を付ければ良いのでは」

 その言葉に樋端少佐は何かを閃いたように、両手を大きな音を立て叩いた。

「そうか!空母の半数からは艦爆を主体とした攻撃隊を出し、その少し後に残りの半数からは艦攻を主体とした攻撃隊を出す。敵の要塞砲には最初艦爆が攻撃を仕掛け、それで効果が得られない場合には艦攻の徹甲爆弾で攻撃を仕掛ける。ルガー要塞は寧ろ艦攻でなければ爆撃し難いですから、何方にしろ艦攻の出撃は必要。今の所これが出来うる最大の策か……長官流石です」

 他の参謀達も樋端少佐の説明に納得した表情を浮かべ、大きく頷き合った。

「いや、素人の思い付きだよ。詳しい編成は任せる」

 南雲中将は照れ臭そうに笑い、そう言った。

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