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帝国の進撃  作者: 芥流水
激戦編
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第四六話 東太平洋大海戦一〇 幸運

艦載機よ踊れ

この海と空で

米艦隊の空母にある甲板なんて壊すほど

 爆雷同時攻撃。艦爆と艦攻が同時に攻撃するこの方法は、大きな利点がある。

 艦爆は高空から、艦攻は低空から敵艦への攻撃を行うことで、その対空砲火を分散するのだ。

 高速性能と航続距離を何よりも求められた日本海軍機はその代償として、防御能力を大きく奪われていた。この構図は戦闘機にも当てはまる。その為に損害を減らし、一発でも多くの爆弾や魚雷を敵艦に放つためにこの攻撃方法は生み出されたのである。

 この攻撃方法にはもう一つ利点がある。敵艦長はこの攻撃によって、艦爆と艦攻、二つの異なる攻撃に対して対処を求められることになる。これによる回避の制限や、判断ミスを誘えることになるのだ。

 何が言いたいのかというと、帝国海軍は正に今その攻撃を行っているのだ。米機動部隊に対して。


 九九艦爆の金星四二型エンジンがうなり、『エンタープライズ』と『ホーネット』に襲いかかる。同時に九七艦攻が低空から忍び寄り、雷撃を放とうとする。

 対抗するTF16-2の防空火線も奮戦していた。彼らはTF16-1の残存艦艇と合流を果たしていたので、防御火力は単純に言っても二倍になっていた。

 しかし、帝国海軍の攻撃隊も精鋭揃いである。彼らは物怖じせずに、対空火器の中に突っ込んでいった。

 宗像少尉はその中で一番槍に降下していった。

 至近距離で、対空砲弾が炸裂し、九九艦爆の機体が揺れる。と、衝撃が数度襲いかかる。高角砲弾の破片が当たったのだ。しかし、まだ飛べている。致命的な傷では無い。

「高度、一〇……〇八……〇六……〇四」

「てっ!」

 海軍の標準爆撃高度は六〇〇メートルである。しかし、宗像少尉は必中を決する為に四〇〇メートルにまで降下して、投弾した。当然、それはより多くの時間敵艦の対空砲火に身をさらすことを意味する。それだけでは無い。四〇〇メートルなどという超低空土で、ほとんど直角にダイブしている姿勢から、急上昇に転じるのだ。少しでもしくじれば、海面に激突し、この世とおさらばしてしまう。

 しかし、それだけの危険を冒した価値は、どうやらあったようである。


「命中!」

 偵察員のその言葉に、宗像少尉は機体の高度を十分に取った後に、機体を旋回させ、そちらの方をちらりと見る。成程、確かに『エンタープライズ』の艦上からは煙がもくもく上っている。

「二番機、三番機はどうだった?」

「共に外れました」

「そうか……」

 九九艦爆の装備している二五番爆弾では破壊力に劣るため、少しでも命中弾が欲しい所だが、かなり激しい対空砲火に曝されていたのだ。小隊の全機が撃墜されなかっただけマシというものだ。

「よし、帰投する」

 何、まだ兵力は残っている。止めは刺せるさ。

 宗像少尉は強いて自分にそう言い聞かせた。


 空母『エンタープライズ』の左右に、艦橋ほどの高さはあろうかという水柱が屹立する。この艦には、先程の爆撃による命中で火災が発生していた。幸い、発生した火災は小規模なもので、誘爆は発生していない為、艦速の低下は発生しておらず、まもなく鎮火できる見込みは立っている。

 しかし、飛行甲板が破壊されており、甲板回復の作業を遅れさせないためにも、これ以上の被弾を喰らうわけにはいかない。

 とは言っても、艦長は間違いなく最善の操艦を行ってくれている。キンケイド中将はそう思っていた。

 先程から、爆撃加え雷撃も四本躱しており、その巧みな腕を見せている。この『エンタープライズ』は幸運艦などと言われているが、決してそうでは無い。艦長以下のスタッフがきわめて優秀であるからこそ、生き残ってきたのだ。そして、この海戦もその例外では無いだろう。彼はそこまで発想を飛躍させていた。


 しかし、彼女の後方にいる『ホーネット』はそうでもなかった。この艦は空襲によって複数本の魚雷をその身に浴びていた。しかし、これは一概にスタッフが悪いとは言えない。

 この攻撃に加わっている帝国海軍の艦攻は二〇機強と、決して多くはない。例えば、命中率を二割と見積もったとき、この機数では四本を当てることができる。しかし、それでは『ヨークタウン』級のような中型以上の空母を仕留めるのは難しい。その為、彼らは事前に一隻に雷撃を集中することに決定していたのだ。

 しかし、それは全ての艦攻を一隻に集中させることを意味しているのではない。例え一本でも避雷すればその軍艦の速度は低下せざるを得ない。その為、集中を行わないもう一隻に関しても、有利な射角に着けるようであれば、雷撃を行うようにしている。むやみに標的を変えれば、余計な時間対空砲火に曝されることとなる。そうなれば、被撃墜率は上昇し、結局は敵空母を逃すことになるのだ。

 この集中的に雷撃を受ける空母に、厳粛なる抽選の結果選ばれたのは『ホーネット』であった。これは同じ『ヨークタウン』級であったこと。そして、攻撃隊長が同艦に雷撃を仕掛けたことでがその理由となる。

 そして、大部分の艦攻は『ホーネット』をその標的に選んだ。

帝国の進撃

「『ホーネット』はよくやってくれた」

「馬鹿な!敵機だと!?」

「俺たちを甘く見るなよ、ジャップ!」

戦わなければ生き残れない!

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