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帝国の進撃  作者: 芥流水
激戦編
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第三六話 ラバウル攻略二 情報参謀

 大発が、砂浜に乗り上げる。敵前上陸となるために、敵放火は熾烈を極めるかと思われたが、実際には疎らな物であった。これまでの陸攻の猛爆に加え、事前の艦載機の攻撃。もはや、ラバウルの敵兵は逃げ出したのかもしれない。上陸した陸軍兵は、そうとすら思っていた。上空にいるのは日の丸航空隊ばかりである。しかし、敵も負けてばかりでは無い。飛行場付近は渡してなる物かと、一段と激しい物となっていた。

 陸軍からの救援要請を受けた小沢中将は、『伊勢』『日向』に敵飛行場への砲撃を命令。零式通常弾を使用したその砲撃は、艇の陣地に大打撃を与えた。これが決めてとなり、敵陣地は崩壊。そこに帝国陸軍がなだれ込んだ。愈々ラバウルの敵兵は白旗を揚げたのであった。


 日本海軍は直ぐさま、工兵を派遣し、飛行場の整備を始めた。ここは、連日の爆撃に、だめ押しとして艦砲射撃すら受けたのだ。どこもかしこも穴ぼこだらけであった。

 その為、一連の修理が完了するまで二週間掛かり、七月二〇日に漸く飛行隊が進出したのである。

 帝国海軍はこの防御基地にしようと考えており、配属される機体は戦闘機が主流であり、攻撃機は少数であった。


 更には、同島の港湾を整理して、前進基地に使用する計画が進められていた。とは言っても、大型軍艦が進出する分けではない。配備されるのは、潜水艦である。

 何のためにと言うと、米豪分断作戦に使用する為である。というのも、ハワイは日本の手に落ちたので、豪州支援ルートはその機能を過半失ったのであるが、南太平洋を島伝いに輸送するルートが残っているのである。それを、潜水艦によって、さらに締め上げようという作戦である。


 これによって、帝国海軍は長期持久体制を整えたといってまちがいなく、連合国も迂闊に手を出せなくなってしまったのであった。



 サンディエゴにある、米海軍太平洋艦隊司令室には、老若の男が二人向かい合っていた。年を取った方は深く椅子に座っており、若い方―それでも三〇代は行っている―は机を挟んだ状態で、屹立している。

 直立している男が、沈黙を破った。

「長官、日本が次に行う作戦、その目標が、分かりました」

 太平洋艦隊司令長官、ニミッツ大将は、その言葉の続きを促した。

「それは、なんだね?情報参謀」

 太平洋艦隊情報参謀、レイトン大佐はそれを受け、次の言葉を発した。

「ここです」

「ここか」

「はい、我が合衆国西海岸、その最大の海軍基地である、サンディエゴ港。それが、次にナグモの艦隊が現れる場所です」

 ニミッツ大将は、ハワイからの数少ない生き残りである男から、それを聞いても驚きはしなかった。もう既に日本の機動部隊はパナマを空襲している。彼らに合衆国本土空爆の意思があるのはあきらかであり、そこに疑問の入り込む余地はない。しかし、西海岸は広大であり、爆撃を受けたばかりのパナマは無いにしろ、それでも日本海軍が目標とするに足りるだけの施設がある場所は、無数にあった。それが絞れただけでも行幸だ。

「と、すると……ヤマモトは未だに健在な我が空母群を脅威に感じている、というわけか。名誉なことだ」

 サンディエゴを攻撃するとなれば、太平洋艦隊の撃滅が主目標であるだろうし、戦艦部隊が壊滅している現時点で太平洋艦隊のめぼしい艦といえば、空母しかいない。

「しかし、どうしてサンディエゴ(ここ)だと分かった?確か、日本海軍は敵基地についてはランダムに略譜を用いていると、聞いていたが」

「はい。何らかの規則性があるのかもしれませんが、それは見つけられませんでした。なので、このサンディエゴに問題が起きたと、日本軍に探知されるように、偽装電を打ちました。そしたら、向こうで、サンディエゴでトラブルが起きているらしいぞ、と電文が打たれます。その略譜と、作戦目標に用いられていたものが、一致した、というわけです」

 太平洋艦隊司令長官からの質問にいけしゃあしゃあと、答える情報参謀。

「因みに、トラブルの内容は?」

「電探関係です。真空管に問題がある、と。なので近日中に、真空管が届くかもしれませんが……」

「ヤマモトの次の目標が分かった事に比べれば、小さな問題だな。しかし、次は私に事前に話を通して貰えると、助かるのだが」

「は、申し訳ございません」

 口では、そんなことを言いつつも、ニミッツ大将は仕方ないことか、と思う。この男は焦っているのだろう。前代長官は、捕虜となってしまい、その中で、自分を含む僅かな幕僚だけが、脱出に成功した。その彼らも大部分は責任を負われ、更迭されてしまった。それなのに、自分は新しい長官のめがねにかない、立場を追われることも無かった。それから生じる、後ろめたさが、彼の気を急かせている。現に、彼の目の下には濃い隈が生じている。何日も徹夜をしたのだろう。

「ご苦労だった。おかげで、ナグモの艦隊への、盛大なパーティーの準備が出来る。それで、彼らはいつ来る?」

 ニミッツ大将がそう言うと、レイトン大佐は申し訳なさそうに頭の後ろを掻いた。

「それが、向こうでもまだ決まってないようでして……八月上旬の数日間で、それ以上絞り込めていないのです」

「そうか、いや、それでも本来は十分なのだがな……。しかし、一寸でも正確な報告が欲しい」

「はい、引き続き暗号解読に……」

「うん、それも大事なんだがな……今は少し休め。ナグモも、何も今日明日に来るというわけでも無い」

 レイトン大佐は照れ隠しか、少し笑うと、敬礼をした。

「は。では不肖レイトン情報参謀、長官の命令通り、休息をちょうだいいたします」

「うむ。しっかりやってくれ」

 ニミッツ大将は、そう返礼した。

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