逃げたい事実
「なんだよ……ここ」
意識が戻った僕が目にした物は見た事もない世界だった。
空は透き通ったエメラルドグリーン色、その上から白い太陽が輝いている。ビルやマンションみたいな高い建物はほとんどなくレンガ造りの建物や石や木でできた家などがたくさん並んでいた。エレベーターエスカレーター搭載のショッピングモールも自動ドアであくコンビニすら無く、その代わりに大きな市場がそこにあり果物や肉、野菜が売られている。しかしそこでは全く読めない文字が並んでおり自分の目でしか何が何か判断する事ができない。まぁ一言で表すならヨーロッパの観光地みたいなところだ。テレビでしか見たことないけど。
でもヨーロッパの観光地なんかでは表せない不思議な種族がそこにはたくさんそこにはいた。先端にかけて尖っている耳、美しい白銀の翼を持つエルフが市場で買い物をし、小さな体で空を華麗に飛び回るハルピュイアが店を通りすがる人?亜人?を呼びこんでいる。他にも頭が獣のミーノータウロスや鼻が長い天狗みたいななのも市場を平然と歩いている。僕がいるのが場違いな世界に僕は立っている。
空の色が違う 建物がちかう 人がちがう
理解が追いつかない。暑くもないのに汗がさっきから全身から止まらく、体もガクガク震えていた。さっきまで僕は夕御飯を買うためにコンビニに出かけていたのに気がついたら見た事ない空が、物が、生物が広がっているのだ。こんな経験なんてしたことない。混乱してない方がおかしい。奇跡体験アンビリーバボー。
「落ち着け僕……、パニクるより先に冷静になれ」
僕は不安と恐怖に怯えそうな自分を殺した。
「まずは分析だ。分析には冷静さがいるって僕の好きな本に書いてあった。何もかも考えなしで行動しては行けないから考えるんだ……まずはここはいったいどこなんだ?」
ここどこ?
全くわからなかった。
僕が目覚めた場所は誰もいないいつ倒壊してもおかしくないような古い建物だった。大きさ的に多分一件家かな? とにかく随分と使われていないという事だけはわかった。目覚める前の記憶がぼんやりしているが服など身につけていたものはそのままだった…が、出かける時に持ってたウエストポーチは無かった。そのボロボロの建物を後にするとあーら不思議、僕の常識をぶっ壊した世界が僕をウェルカムしていた。何これ全く理解できないんだけど……
「次に時間」
これは簡単だ。
僕は服の袖をまくり腕時計の針を見つめる…が、針は午後8時15分を刺したまま1ミリも動いていない。やばい、ちょっとマジでヤバいかもしれない。汗は止まるどころか量が増えてる気がしてきた。
「まぁこんなこともあるよな……次に何でここにいるのか、それとどうやって来たかだ、あと僕帰れるの?」
わからない
ここに来た理由もどうやって来たかも全く覚えていない。帰り方なんて論外だ。
何もかもがわからない
「……っどうなってんだよこれはぁ‼︎ どこだよ!いつだよ!なんなんだここはよぉ‼︎」
何もかもがわからなくなった僕は涙目になりながらみっともなく市場の真ん中で叫んでいた。自然と不思議な視線が僕に集まる。
「あぁこれは夢だ……夢だよなぁ、早く家に帰してくれよお願いだからさぁ……」
これが夢でないのは知っている。だが夢であってほしかった。僕は現実と二次元ははっきり区別する性格であり、どんなに頑張ろうとも魔法は使えないし死んだ人間は生き返らない。ライトノベルや漫画の主人公みたいにタイムリープやリセット、異世界召喚なんて小説や漫画だけの世界だと思っていた。だがこれはもう認めるしかなかった。
「……マジで来ちゃったのかよ」
日本生まれ日本育ち、海外にすら行ったこと無い僕が異世界に来て生きていけるのか?無理。世界中の日本人を探してる人たちに連れて帰ってもらおう。いつくるんだよ……
やっと現状が理解できたところで嬉しさも喜びも何一つない。わからない世界で説明も仲間も無しにどうやって生活すればいいんだよ。1人取り残された僕の心に残ったのは恐怖、不安、怒り、悲しみ、そして絶望だった。