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26 救世主、ではないけれど


「あんたこんなところで何してるのよ!」


 慌てて外に出ると、いの一番にそう怒鳴られた。

 私は反射的に小さくなって、わけもわからず謝罪した。


「ご、ごめんなさい。ええっと、子美はここでいったい何を……?」


 はあはあと、彼女は息を荒げていた。

 どうやら塀の外で飛び跳ねたのが余程堪えたらしい。

 私は彼女を人目に付きづらい木陰に連れていき、そこに置かれていた石に座るよう促した。

 まだ春とはいえ、今日は雲一つない青空で日差しが強い。

 それをあんなところで飛び跳ねていたら、確かに体力を消耗するはずだ。

 私は一度邸第に戻り、竹筒に冷たい水汲んで子美の元に戻った。

 彼女はごくごくとおいしそうに、その水を飲み干した。


「はあ……」


 飲み終わった彼女は竹筒を突っ返しながら、呆れたように私を見返した。


「あんたってお人よしよね。あたしに何をされたか忘れたの?」


 一瞬何かされただろうかと考えて、彼女が尚紅で投げかけてきた言葉を思い出す。

 最近色々なことがありすぎて、正直彼女にされたことなんて忘れてしまっていた。


「ったく。つっかかってるあたしの方が馬鹿みたいじゃない」


 そう言って、子美は深々とため息をついた。

 けれどそれは、全然前のような嫌な言い方じゃなくて。

 彼女の顔には薄く笑みが浮かんでいたぐらいだったので、私も安心して口を開くことができた。


「そ、それで子美は、ええと、どうしてこんなところに?」


 尋ねると、彼女の顔に不本意という感情がありありと浮かび上がってきた。


「あ、ん、た、を! 探しに来たの。そうすれば白粉のことを不問に処す、なんて偉そうに脅されてね。私は既に処分は受けたって言ってるのに、全然聞きやしないんだからあの男っ」


 忌々しげに、彼女は吐き捨てた。

 誰かが彼女を使って、私を探しているということらしい。


「それは……一体誰に?」


 恐る恐る聞くと、彼女の吊の目が更にきっと吊り上がる。


「黒曜だとかいう、イケメンのくせにやたらと恐い男よ! あんなのに追われてるなんて、あんた一体何やらかしたの?」


 まさかその人がこの国の皇帝ですとは言えず、私は乾いた笑いを浮かべた。



  ***



 心配しないでほしいという言伝(ことづて)を子美に託し、私は余暉の邸第に戻った。

 花琳に心配をかけて申し訳ないと思っていたので、彼女には感謝だ。

 私が無事でいることが黒曜に伝われば、深潭を通して花琳にもそれが伝えられるだろう。

 さあてと気を取り直して、私はなんとか余暉とのわだかまりを解決する方法を探すことにした。

 子美との会話は、いい気分転換になった。

 いい出会い方をしたとは言えないけれど、なんでもはっきり言ってくれる彼女との会話は気が楽だ。

 以前話してくれた母親の話から、彼女が根っからの悪い人ではないということも知っている。


 (そういえば子美は、お父さんと仲直りできたのかな?)


 再会した時の、父親と言い争っていた彼女を思い出す。

 言い争うというよりも、彼女は一方的に詰られていた。

 確かに彼女のしたことは褒められたことではないが、親一人子一人で仲たがいしたままというのは悲しいだろう。


 (聞いたらきっと、余計なお世話だって怒られちゃうかな? って、今は余暉とのことをどうするか考えなくちゃいけないのに)


 しかしその後も、特にこれといって素晴らしい解決法が浮かぶわけではなく。

 何の成果もないまま、一日はあっけなく過ぎていった。


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