02:事態
彼女の言葉の意図を理解できていない須賀が聞いた。
「なんで研究を中止しなきゃいけないんだ?」
「まったく…あんた、ニュースとか見ないわけ?」
「それが、忙しくてここ数日は…。」
「もう、しょうがないわね。今ここで見せてあげるわ。」
彼女がそう言うと、須賀の頭の中に映像が流れ込んでくる。ニュース番組のようだ。女性アナウンサーが緊迫感を出しながらも落ち着いて話す。
『現在、日本各地で原因不明の集団自殺が多数報告されています。原因は判明していませんが、自殺件数がこの一週間で五千を超えています。さらに、自殺者の全員がknow-to着用者であるという共通点があるそうです。今や日本人のほとんどが着用しているknow-toですので、まだなんとも言えませんが、なにか関連があるかもしれません。このニュースに関しましては、情報が入り次第、引き続きお伝えしていきます。』
映像はそこで切れた。
須賀は少し考えてから彼女に聞いた。
「今、日本で何かヤバい事が起きているのは分かった。けど、どうやったら、研究を中止する話になるんだ?あれだけで、know-toが原因とは言えないだろ。」
すると、彼女は困ったような顔をして言った。
「本当に何も気づかなかったの?今さっき、あんたはニュース番組を見たでしょ?私が、あんたのknow-toに送った映像データを。」
彼女は、薄笑いを浮かべながら言った。
「別に、何もおかしなことは…」
そこまで口にした時、須賀は気付いた。彼女の耳にはピアスも何も付いていない。know-toを着用していないのだ。
「その顔…やっと気付いたようね。」
彼女は満足げに言った。
「でも、どうやって?」
「そうね、簡単に言うなら、私が"天才"だからかしら。でも、詳しい説明は彼にも聞いてもらわないとね。」
そう言うと、彼女は鈴木を起こした。そして、背筋を伸ばし、かしこまって話し始めた。
「まずは自己紹介から。私の名前は香坂彩香。警視庁から来ました。」
彼女は警察手帳を自慢げに、そして、誇らしげに二人に見せた。