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内乱斡旋に忙しいラスボス

 薄暗い狭い部屋に、松明を持つ兵を挟んで、やせ細った男と向かい合っていた。


 二人の間には距離があり、そこには無数の木箱が並んでいる。


「これで、二百だ」


「ありがたい。これで十分に戦える」


 やせ細った男は、箱の一つを空けて槍を取り出した。

 削った長い棒の先に尖った石をくくり付けたもので、正規軍の武器に比べたらおもちゃのような代物だが、人を殺すには充分な出来である。


 男は丁寧にその武器の感触を確かめようとしていた。

 どうせ見たところで質などは分かりもしまいし、そもそも分かったところでそれを引き受ける以外に選択肢もないだろうと内心では思っていたが、仮面の人物はそのかったるい作業を静かに眺めていた。


「防具は無いのか」


「今、手配しているところだ。皮は少し手に入りにくい。もう少し待って欲しい」


「分かった」


 やせた男はその説明で納得したようだった。

 そもそも防具は取り寄せてすらない。駒に防具などは必要ないだろうと思っていた。


「数は集まりそうか」


「ああ、同胞の大半は覚悟を決めてくれた。しかるべき時には五百近い者が手をあげてくれるはずだ」


 五百か。

 前の反乱の時よりも規模は大きいが、もう少し多いケースでどうなるかを見てみたいところもあると仮面の人物は考えた。


「もう少し何とかならないか。頭数だけ揃うだけでも何でもいいのだ。例えば同意者の親族らを駆り出すとか」


「分かった。話はしてみよう」


 仮面の人物は初めの勢いがつけば何とかなるだろうと考えていた。

 一度火蓋が切られさえすれば、後は誰も引き返せない戦いが待っているだけなのだ。

 それをより確実なものにするために、こちらからも何か一工夫が必要かもしれないなと思い始めた。


「そういえば、預けていた子供達は役に立っているのか」


 スラムの十歳以下の子供を引き受けていた。

 嘗ては人攫いで子供を賄っていたが、今はこういった連中を騙し、表から提供を受けることが出来ている。

 売られた子供は組織に従順なため、敵としても警戒されにくく、またそれに教育を施せば、弾としても、奴隷としても立派な役割を果たすのである。


「ああ、彼らは魔法の勉強に専念している。我々の力になるはずだ」


「嬉しい。将来的に我々の力になってくれることを願っている」


 戦力で勝てるわけがない。

 そもそも武器の正しい使い方すら知らない素人の連中なのだ。

 しかし、こちらは全滅覚悟で戦わせる。自爆魔法を使った玉砕や特攻なども辞さない覚悟だ。そうなれば、話は変わってくるはずだ。


 理想は内紛にまで持ち込むことだ。そうすれば民族間に埋められない溝が出来あがり、血で血を洗う戦いになるはずだ。そうすれば我々死の商人は末代まで暗躍することが出来る。


「また来る。決戦の日は近づいている」


「よろしく頼む。シジマール様がいる限り、我々は負けることはない」


 話が終わり、仮面の男が引き上げている時だった。

 廊下の灯りが一度揺らぎ、次の瞬間には影が一つ増えていた。姿はどこにあるか見えないが、仮面の男はそれを気にすることはない。


「シジマール様、報告があります」


 仮面の人物は闇の間者を世界中に飛ばしていて、それらから定期的に報告を受け取っていた。

 世界は未だに魔王が降伏をしたということで歓喜の余韻が残っているらしい。

 つくづく馬鹿な連中だと思う。

 人間の歴史を知らないのか。

 魔王の登場なんぞは所詮、四百年に一度だが、人間はその間、たえまなく戦争を続けているというのに。


「天海アリサは何か動きを見せたか」


 その中で唯一気がかりなのが、頓国にいる姫の動きだった。

 彼女は人類共同軍の総指揮官だったが、魔王を倒したからと言って全く浮かれる様子はなかった。

 地に足のついた考え方で、次々と人に対して施策を打ち始めているのだ。何よりも驚きだったのが、我々に対して攻撃的な姿勢を取ってきたのだ。


 今はこちらは砂のように構え、相手の攻撃を空振りさせている。

 しかし、いつ相手が水を撒いてこちらの形を捉えて攻撃してくるかは分からないのだ。


「特に新しい動きは見えません。しかし・・・・・・」


「しかし、何だ」


「いえ、まだ噂なので伝えるほどの物ではないのですが」


「構わん。言ってみろ」


「何やら、凄腕の傭兵を雇ったという情報があります」


 凄腕・・・・・・その言葉に少しだけ引っかかりを覚えた。

 それは一体どういう意味なのか。

 隠密に優れた者が出て来るのであれば、こちらとしても下準備をしなければ捕縛することは難しいだろう。

 しかし、戦いがこちらの土地で行われる以上は圧倒的有利な状況で戦いを進めることが出来る。

 それよりも、あの者が優秀な部下をそこまで危険に晒すような安易な行動に出てくるのかとも思った。


 そんな時、脳裏に一人の人物の姿が浮かび上がってきた。

 まさか、と思ったのだ。鞭聖リコッテ。

 貴族出身の彼女ならば、他の勇者に比べて時間の融通もきくし、何よりも彼女は天海アリサと非常に親密な関係だった。


 そう思い、そして、首を横に振る。

 だとしても、だとしてもだ。

 例え勇者の一人であるリコッテを送り込んできたとしても、ここは我々の土地なのだ。

 例え相手が四方に立ちふさがる敵すべてを打ち落とす鞭の使い手であったとしても、毒、暗殺、自爆、ありとあらゆる方法を使えば、倒すことが出来ないわけではない。

 そして、あるいは最後の手段として・・・・・・。


「その者を優先的に洗え。噂程度のものなのか、本当に名のある人物なのかもすべてだ」


「分かりました」


 そう言って、灯りが再び薄白く光る廊下全体を波打ち、次の瞬間に影は消えていった。


 何の問題もない。

 そう思いながらも、仮面の人物の胸には、何か不安のようなものがうずまきだしていた。


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