しのぶ者 彼
掲載日:2015/03/03
月明かりの下、彼は駆けていた。
薄闇色の衣に身を包み、布で面を覆っている。
僅かな音を頼りに身体が空を跳ぶ。ようやく先に目当ての人影が見えてきた。
目当ての人影はふたつ。共に地面を這うように走っている。その先を見据えて彼は強く足場を踏み込み、目当ての影の間に割り込みその影らの首を掻き切った。勢いよく血が飛び、彼の背にも生暖かいものが飛んできた。
流血が収まるのを待って彼はふたりの懐を探り、目当ての筒を取り出す。中は確認しない。封をしたまま彼の懐にしまう。
彼はふと空を見上げた。
冷え冷えとした光をたたえる満月が彼を見下ろしていた。その光に手を伸ばすと、はっきりと赤く汚れているのが分かった。その手をぐっと握り、身体の横に戻す。
彼は想う。
どうかお前が生きていますように。
この空の下で。




