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瑠璃色の月  作者: Alice-rate
リンガル編
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Chapter8 魔物との遭遇


旅立ちを決めた日から数日後。瑠璃とチェリアは東の大陸最大の港町、リンガルに向かっていた。行き先は、港町なら人の行き来が多く、瑠璃の探している少年の情報が集まるかもしれない、というチェリアの提案で決まった。移動は徒歩。この世界には車は存在しないし、動物がいないので馬での移動も出来ないのだ。リンガルは東の大陸の西沿岸部にある。瑠璃達はひたすら西に向かう。








「この辺りで休憩しようか。」


「うん、そうだね。」


チェリアに答えながら瑠璃は草原に腰を下ろした。柔らかい風が瑠璃の頬を撫でる。羅針盤で方角を確認しているチェリアを見やって瑠璃は尋ねた。


「ねぇ、あとリンガルまでどれくらいかかりそう?」


「そうねぇ、あと3、4日ってところかしら。」


チェリアは地図と羅針盤を見比べながら答えた。




リンガルに向けてグラスラードを出発してからはや三日。オムに泊まりながら日の出ている内は歩き続ける、という生活を続けている。

歩いても歩いても見渡す限り草原ばかり。普通の人ならうんざりしてしまうだろうが、瑠璃には寧ろ、そんな景色が新鮮で好意的に感じられた。けれどこんな草原に似つかわしい動物達がいないのがどこか寂しい。実際、アルフィランドに来てからというもの、鳥の声を聞くこともなかったし、野を駆ける獣を見ることも一度もなかった。

動物がいない……チェリアにその話を聞いた時はただ驚いただけだったが、本当は凄く寂しいことなのかもしれない、と瑠璃は思った。まるでこの広い世界の中、人間だけが取り残されてしまったかのような……


「ギャアアアア」


突然聞こえた悲鳴のような声に瑠璃の思考は止められた。なにっ、と驚いて振り返ると、そこには見たこともない程大きなカラスがいた。翼を広げると軽く3mはありそうだ。瑠璃は呆然とその巨大カラスを見上げていた。あまりに突然の出来事に、身体がついていっていなかった。ただ瑠璃の思考だけがこれがいったい何なのかその答えを出そうと必死にもがいている。

だが、そんな瑠璃を他所にカラスは翼を羽ばたかせ、高く舞い上がると瑠璃の方に向かって急降下してきた。瑠璃は目を瞑ることさえ出来ないまま、自分に向かって落ちてくる黒い塊を見つめていた。黒い塊が徐々に大きくなってくる。…一瞬の出来事だった、その黒い塊が真っ赤な炎に包まれ、あっと言う間に消えていったのだ。瑠璃が驚いて辺りを見渡すとこちらに向かって走ってくるチェリアの姿が見えた。


「瑠璃、大丈夫?怪我、してない?」


チェリアに差し出された手を掴んで瑠璃はやっと立ち上がった。瑠璃の足は今更になって震えている。


「怖かったわよね。もう、大丈夫よ。」


「うん…」


チェリアの優しい言葉に瑠璃は落ち着きを取り戻した。いざ冷静さを取り戻すと尋ねたいことが沢山あった。


「さっ、さっきの魔物だよね?今の炎、チェリアが出したの?チェリアってスフィリアだったの?」


瑠璃は堰を切ったように尋ね始めた。チェリアは困ったように微笑む。


「そんなに聞かれても一度に答えられないわ。ええっと、じゃあ一つ目の質問だけどさっきのカラスは魔物よ。魔物は色んな種類がいるけど、どの魔物も人間を見つけたら襲ってくる。さっきみたいにスフィアで倒せば消えるけどね。それで、二つ目の質問だけど、さっきの炎を出したのは私。もちろん炎を出せる訳だから私はスフィリアよ。これでいい?


「うん、教えてくれてありがとう。」


瑠璃はそう言ってはぁ、と溜息をついた。

ーー怖かった。あれが……魔物。

思えばあちらの世界では人間が他の生き物に命を狙われることなど、そう多くはなかった。けれど、このアルフィランドではそれが日常的に起きているのだ。瑠璃の持っている当たり前のことや常識なんて、この世界では殆ど意味をなさない。

チェリアは黙り込んでしまった瑠璃の様子を見て心配そうに言った。


「瑠璃、大丈夫?」


瑠璃ははっとして笑顔を作ると答えた。


「うん。全然大丈夫だよ。」


瑠璃は心の中で自分を叱った。チェリアには弱さを見せない、そう誓ったばかりなのに一体何をしているんだと。



「瑠璃……」


チェリアは何か言いかけたが、途中で口をつぐんだ。代わりににこっと笑うと、


「よし、そろそろ出発しましょうか。まだまだリンガルは遠いしね。」


と言った。


「そうだね。先を急ごう。私、港町を早く見てみたいし。」


瑠璃は極力明るい声で言った。


「あら、さっきまで魔物に怯えて固まってたくせに調子いいこと言うのね。」


チェリアはクスクス笑いながらからかうように言った。


「お、怯えてなんか…」


瑠璃は憮然として言い返すが、


「瑠璃って本当にウソが下手ね。視線が泳いでるわよ。」


と、チェリアに軽く流されてしまった。

言葉に詰まった瑠璃を他所にチェリアが歩き出したので、瑠璃は慌ててその姿を追った。




空には太陽が輝いている。瑠璃たちは今日もこの太陽が沈むまで歩き続ける。


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