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瑠璃色の月  作者: Alice-rate
旅立ち編
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Chapter7 旅立ちの決意


「チェリア、お待たせ。」


瑠璃は栗色の髪を靡かせながら立っているチェリアに声を掛けた。チェリアは瑠璃を見てホッとしたように微笑んだ。


「良かった。遅かったから道に迷ったんじゃないかって心配してたのよ。」


瑠璃は顔の前で手を合わせる。


「ごめん、人探ししてて。」


「何にせよ、良かった。さっ、行きましょうか。」



夕日が沈み、辺りは暗い。町の明かりが点々と灯り始めている。瑠璃とチェリアは町の隅にオムを置いて泊まることにした。



「本当にこの中に家があるんだよね。」


瑠璃は手にとったオムをまじまじと見ながら言う。オムはチェリアが言った通り、卵のような形をしていた。卵、といっても色はピンク色で、その表面に金色の装飾が施されている。卵の中央部分に黄色い水晶玉のようなものが埋め込まれていることを除けば瑠璃の世界のイースターエッグに似ているだろうか。卵から生えた足で瑠璃の手の上でも安定を保っていた。


「この玉みたいなのは何?」


瑠璃は黄色い玉を指差しながら尋ねる。


「ああ、それはさっき説明したスフィアよ。」


「これが。」


瑠璃は改めてスフィアと呼ばれる球体を見た。よく見ると、白い線で2人の羽の生えた人が向かい合っている絵が描かれている。


「じゃあ、これが埋め込まれているからこのオムの中に入ることが出来るの?」


瑠璃はまだ興味深そうにスフィアを見つめている。


「ええ。このスフィアには空間を作り出す力があるの。」


「へぇ、スフィアってそんなことも出来るんだ。」


瑠璃は言うと、そっとオムを地面に置いた。ここはグラスラードの町外れ。瑠璃とチェリアは呪文を唱え、オムの中に入った。




夕食を終えて、チェリアと瑠璃はリビングに居た。オムの中にはチェリアの寝室と浴室に物置、そしてこのリビングの総計4つの部屋があった。


「ねぇ、瑠璃。さっき人を探してたって言っていたけど、貴方こちらの世界に知り合いでもいるの?」


チェリアは食後の飲み物を飲みながら尋ねた。


「知り合いって訳じゃないんだけど……私に声をかけてきた人がいたの。その人を探していたんだ。結局見つからなかったけど。」


あの少年がいなくなった後、瑠璃は彼を探して道行く人に声をかけた。銀色の瞳の少年を見なかったか、と。しかし奇妙なことに誰一人として彼を見た人はおろか、瑠璃と彼が話しているのを見た人さえいなかった。


「ねぇ、チェリア。」


瑠璃は顔を上げて決然とチェリアの桃色の瞳を見つめた。


「私、あの男の子を探してみようと思うんだ。」


チェリアは静かに聞いている。


「あの男の子が言ったの。自分の力なら私を元の世界に戻すことが出来るって。だから私、彼を見つけて元の世界に帰してもらう。チェリア、今日は本当にありがとう。明日になったら私、行くから。」


「無茶よ。」


瑠璃が言い終わるやいなや、チェリアはきっぱりと言った。チェリアは続ける。


「言ったでしょう。この世界には魔物がいるって。この辺りは魔物が少ないからまだいいけど、旅の途中で魔物に襲われたらどうするの?第一、その男の子が何処に居るのかも分からないんでしょ。どうやって見つけ出すつもりなの?」


「色んな町に行って、沢山の人に聞いてみる。それに私、弓なら使えるし、ある程度なら魔物とも戦えるよ。」


「だめよ。」


チェリアは引き下がらない。


「どうしても行くって言うなら私も一緒に行く。」


瑠璃はとんでもない、というように首を激しく横に振った。


「それだけはだめ。チェリアに迷惑が掛かり過ぎる。今日一日私の面倒をみてもらっただけでも、相当な迷惑を掛けてるのに。」


「それは瑠璃が思う迷惑でしょ。その迷惑が万人に当てはまるとは限らない。私にしてみればこれから瑠璃と一緒に旅することより、今一人で出て行かれる方が数段迷惑よ。」


「でも……」


瑠璃は口籠った。瑠璃にしてみてもチェリアがついて来てくれることは願ってもないことだ。けれど、瑠璃は今、お金も魔力も何一つ持っていない。チェリアは否定するが、そんな瑠璃が旅に同行することは迷惑以外の何物でもないだろう。瑠璃はチェリアに迷惑をかけることだけは嫌だった。


「本当に、いいの?」


瑠璃はチェリアの顔色を伺った。


「うん。」


チェリアには何の迷いもないように見えた。むしろ満足気な顔をしている。


「本当に?」


瑠璃は再び尋ねた。


「うん。一緒に行こう、瑠璃。」


頷いて微笑んでくれたチェリアの顔が滲む。そうなったらもう、涙が止まらなかった。そんな瑠璃をチェリアは優しく抱きしめてくれた。


「ありがとう。ありがとう、チェリア。」


泣きながら必死に紡いだその言葉はチェリアに届いたのか、届かなかったのか。チェリアの瑠璃を抱きしめる腕の力が少しだけ強くなった気がした。






どれくらいの時間が経っただろう。瑠璃はやっと落ち着いて、今日買ってきた物品の整理をしているチェリアを見つめていた。チェリアは何か探すように荷物を探っている。


「あ、あったわ。」


チェリアは言うと、一枚の服を取り出して広げた。クリーム色の生地に大きな赤いリボンのワンピース。袖と裾に赤いラインが入っている。


「可愛い!それ、チェリアの新しい服なの?」


瑠璃が聞くとチェリアは何も答えず、照れ臭そうに瑠璃の方を見つめている。


「もしかして…私の?」


チェリアは頷いて言った。


「どんな服が好きか分からなかったから迷ったのだけど。良かったわ。気にいってもらえて。」


「本当にありがとう。大切にするね。……チェリア、改めて言うのもなんだけど、これからよろしくね。」


「こちらこそ。」


チェリアは微笑んだ。瑠璃も満面の笑顔でそれに答えた。





ーー夜が更けていく。明日から私達の旅が始まる。お母さん、朱理、みんな。必ずあの男の子を見つけて帰るからどうか待っていて。これからのことはとても不安だけど。でもチェリアがいてくれる。それなら、私は弱さを見せてはダメだよね。必ず帰ろう。必ず……瑠璃は眠りにつきながらそっと心に誓った。



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