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瑠璃色の月  作者: Alice-rate
ロレシア編
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Chapter46 寒空の下の飛行

宣言通り更新が遅くなってしまいました。大分忙しさが落ち着いてきたので、更新のペースを早めていけたらと考えています。


一羽の黄色い鳥が徐々に高度を下げながら地面に近づいていく。鳥、といっても普通の鳥とはその姿は異なっていた。人の頭を簡単に咥えることができる程の大きな嘴。その姿を見た人間がいれば喚きながら逃げ出してしまいそうな大きさがあったが、その鳥の周りには逃げたすべき者は誰もいない。魔物の闊歩する凍えた大地に自ら出てくるものなど、そうそういないからだ。その鳥は太い鉤爪の生えた足でがっしりと掴んでいたオムを宙で軽く旋回してから地面に落とした。



オムから出て地に足をつけると、大地を厚く覆った雪がしゃくりと音を立てた。さっと髪を撫でた風の冷たさに瑠璃はぶるりと体を震わす。両腕で自分を抱きしめるようにしながら、首を持ち上げると、西の大陸や東の大陸で見た景色とは明らかに違う、白銀の世界が瑠璃の目の前に広がっていた。広大な雪原に疎らに生えている深い緑の葉を蓄えた木。泉は凍えて、表面が凍りついてしまっている。

白い雪に反射した朝日が眩しい。朝日は幾分か寒さを和らげてはくれたが、それでも瑠璃の震えは止まらない。人生で初めての、しかも異世界の雪国に文字通り降り立ったばかりなのだから当然かもしれないが。


アリスはいつの間にか本来の小さな鳥の姿に戻ってシルフの肩に止まっていた。


「ここの泉もアトランティスに繋がっててくれたらよかったのに。」


鳥の姿のアリスの表情を読み取るのはとても難しかったが、どことなく恨めしそうに泉を見つめているように瑠璃には感じられた。


「ブラッシュフェーブルにあった泉みたいにね。」


シルフは笑って答えている。

後から聞いた話だが、ブラッシュフェーブルにあった境界の泉はアトランティスの森の中にある泉とどういう訳か繋がっているらしい。天使や天使の認めたものならその泉を通ってあっという間にアトランティスにたどり着くことができるそうだ。シルフもアメルナから聞いてそれを知ったという。


「あー、疲れちゃった。暫く休むね。」


アリスはシルフの肩から力なく飛び立ってオムの中に入っていった。

シルフはそれを見届けてから、


「瑠璃、予定通りアリスを休ませた後日が落ちてからロレシアにいくよ。」


と瑠璃に声をかけた。いよいよか、という気がした。瑠璃は力強く頷く。


「うん、分かった。力、温存しとくね。」


「うん、頼むよ。今日は君の力が頼りだから。」






今夜はきっと長い夜になる。これも前もって決めていたことだが、オムの中で仮眠を取っていると、あっという間に陽は落ちていた。



夜は日差しがない分、日中よりも寒さが厳しい。オムから出ると冷たい風が容赦なく吹きつけてきて、瑠璃は思わず唸り声を上げた。

オムのすぐそばには再び巨大な鳥の姿になったアリスと先にオムを出ていたシルフがいた。アリスはふさふさとした温かそうな毛で覆われていたが、それでもこの寒さは応えるようだ。その大きな体を縮こまらせている。

辺りはすっかり闇に包まれていた。空を見上げれば煌めく星。雪が降っていなくて良かったと、瑠璃は胸をなで下ろした。シルフの指の上に灯った小さな炎のおかげで、アリスとその側に立つシルフの姿を確認できた。瑠璃が二人に駆け寄ると背中の弓と矢がカタカタと音を立てる。チェリアに買ってもらった弓はアトランティスに置いてきてしまった。瑠璃が今持っているのは、その話をきいたアメルナが似たようなものを選んで下界で買ってきてくれた弓だった。

シルフは瑠璃に気がつくと、指から炎を放してそれを宙に浮かせた。そして、自由になった手をアリスの体にかけ、慣れた様子でさっとその上に乗った。馬の手綱のようにアリスがくわえている紐を片手に取ると、もう片方の手を瑠璃の方な伸ばしてきた。それと同時に宙に浮かぶ炎がふわふわと瑠璃の方に近づいてくる。

瑠璃が炎の明かりに照らされたその手を握ると、ぐっと上に引っ張り上げられた。華奢な腕なのに驚くほど力が強い。シルフの手助けのおかげで、瑠璃はなんとかアリスの背に跨る事が出来た。シルフは瑠璃を自分の後ろに座らせると、手綱を手渡した。


「お兄ちゃん、飛んでいい?」


アリスが小さく鳴いた。シルフは少し待って、とアリスに言うと紫の光で瑠璃たちをすっぽりと包み込んだ。この幻影のスフィアで姿を隠しながら、ロレシア城に近づく算段だ。


「アリス、いいよ。」


「うん、行くよ!」


アリスが大きな翼を羽ばたかせると、アリスの体はぐんと上に持ち上げられた。アリスが羽ばたきを重ねるたび、灰色の地面は遠ざかっていく。空に舞い上がって進んでいくとき突風が襲いかかってくることを覚悟していたが、予想していたほどの風はこない。そこで瑠璃は、シルフが何故自分を後ろに座らせたのか、その理由に気がついた。シルフは瑠璃が風に当たらないよう風を遮るように前に座ってくれたのだ。瑠璃は心の中でありがとう、と呟いた。

下を見るとノースクロアに灯った明かりが遠く光の粒のように見えてとても美しかった。アリスが進むにつれて徐々にその粒は大きくなっていく。

手綱を持つ手が震えるのは寒さのせいか、恐怖のせいか。瑠璃の心の揺れに合わせるかのように自分の中の天使の力が潮騒のようにざわめくのを感じた。


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