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瑠璃色の月  作者: Alice-rate
ロレシア編
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Chapter44 オムの中の作戦会議

更新が大変遅くなってしまいました。以後このようなことがないように気を付けます。申し訳ありませんでした。

瑠璃はこの日、瑠璃が寝泊まりしているオムから出た後、オムがずらりと並べられた棚の前であるオムを探していた。


「この棚の上から八段目の、右から二番目のオム……」


そう呟きながら瑠璃は目的のオムを探す。指でオムの列を辿っていくと、その深い緑色をしたオムはすぐに見つかった。今日は天使の力を使う練習を後回しにし、先にロレシアにどう攻め込むのか、その話をシルフから聞くことになっている日だ。ロレシアに攻め込むのは七日後。ちょうどその時ロレシアでは隣国への遠征の真っ最中だそうで、城の警備はいつもよりは手薄になる。そこを狙おうというのがシルフの考えだった。

瑠璃はシルフから聞いた呪文を唱えてオムに入る。



オムの中は想像していた以上に広い部屋だった。壁の両側に整然と椅子が並べられ部屋の中央に丸いテーブルが置かれている。ここはシルフたちにとって会議室のような場所なのだと昨日シルフが教えてくれた。外には悪戯好きな動物たちがたくさんいる。他には邪魔されたくない重要な話をする際、この部屋を使うらしい。


瑠璃はテーブルの側に立っているシルフに声をかけた。


「シルフ、お待たせ。」


シルフは瑠璃に柔かい笑顔を向ける。


「来たね。じゃあ始めようか。」


瑠璃はシルフのそばまで歩みよって、机の上にある紙に目を落とす。城を中心としてそれを円形に囲む街、そしてその外の平野や山脈が丁寧に描かれている。


「これは、地図?」


「そう。ロレシア城の城下町、ノースクロアとその周辺のね。その下にあるのがロレシア城の内部の見取り図。」


瑠璃が地図をめくってその下にある紙を見ると、確かに城内の構造が書かれた紙があった。地図も見取り図も手で書かれたもののようだ。作るのには余程の手間がかかっただろう。読めない文字でびっしりと書き込みの入った二枚の紙が、今回のロレシアに攻め込む計画が周到に準備されたものであることを伺わせた。

瑠璃はふと誰かの鋭い視線を感じた。見るとシルフの足に隠れて小さな女の子が睨むようにこちらを見つめている。シルフも瑠璃の視線に気づいたのか足下の少女を見やって言った。


「紹介するよ。この子はアリス。」


瑠璃はダリラドールでアリスと出会った時のことを思い出す。


「確かシルフのこと、お兄ちゃんって呼んでた子だよね。シルフと同じ金髪だし、妹さんなのかなって思ってたけど。」


瑠璃がそう言うとアリスは俯いて微かに顔を赤らめた。シルフはそれには気づかずまさか、というように笑って首を振る。


「アリスはそもそも人間ではないよ。俺に近づきたいって練習を重ねてうまく人間に姿を変えられるようにはなったけど。」


「そうだったんだ。アリスちゃん、改めてはじめまして。」


瑠璃がアリスの目の高さまでかがんで微笑みかけるとアリスはふいっと顔を背ける。


「アリス、ちゃんと挨拶して。」


シルフに低い声で言われ、アリスは堪忍したようにシルフから離れ、瑠璃の前に出てきた。そしてぶっきらぼうにはじめまして、と言った。それだけ言うとアリスはすぐにシルフの元へ戻っていく。


「今日アリスを連れてきたのはこの子にも今回の件を手伝ってもらうからなんだ。」


「アリスちゃんに ?何を手伝ってもらうの ?」


瑠璃が尋ねるとシルフは少し考えてから悪戯っぽく笑うと、足下のアリスに声をかけた。


「実際に見てもらう方が早いかな。アリス、お願い。」


「えっ?……お兄ちゃんが言うなら仕方ないなぁ。」


仕方ないなぁ、などと言いながらもアリスの行動は早かった。アリスがすっと目を閉じると、程なくしてその小さな体が緑色の淡い光に包まれる。その光が消えるとそこから弾き出されたかのように小さな黄色い鳥が羽ばたき、シルフの肩に止まった。

瑠璃は短く感嘆の声を漏らす。


「驚いた?人間の姿をしてることが多いけど、アリスは本来は鳥なんだ。そして人を乗せられるほど大きな鳥という魔物としての姿も持ってる。アリスにはここからノースクロアの近くまでオムに入った状態の俺たちを運んでもらう。その後、俺たちはオムから出てアリスに乗り込み、そのままロレシア城に向かう。」


「アリスちゃんに私たちの移動を手伝ってもらうわけだね。でも、どうしてロレシア城に向かうの?」


「瑠璃にはロレシアにあるスフィアを消して欲しい、と言ったよね。ロレシア王国は所持しているスフィアの殆どを城にある宝物庫に保管しているんだ。」


そう言いながらシルフは見取り図の地下にある空間を指し示す。恐らくそこが宝物庫なのだろう。


「なるほど。だからその宝物庫にあるスフィアを消すためにお城に向かうってことだよね。」


「そう、話が早くて助かるよ。けれど宝物庫にあるスフィアの数はあまりにも多い。普通にいけば瑠璃の力でそれらを一度に消し去るのは不可能。だからこれを使う。」


そう言ってシルフが取り出したのは大きな黄色いスフィアだった。黄色のスフィアということはオムを作るのに使われる、空間を広げる力を持つスフィアだ。瑠璃より一回り大きなシルフの手にも余るほどの大きさがある。


「このスフィアを元にオムを作って、そのオムの中に宝物庫にあるスフィアを入れる。そしてその空間ごと消してしまえばスフィアを一つずつ消していくことなく、大量のスフィアを一度に消し去れる、という訳だよ。」


瑠璃は頷きかけてあれ、と首を傾けた。


「でも、私が以前オムに嵌め込まれたスフィアを消した時、オムの中にいた子は無事に出てきたよ。空間を広げるスフィアの力自体は消せても、中にいる人や置いてあるものはその時みたいに出てきてしまうと思うんだけど……。」


「それは瑠璃がブラッシュフェーブルに行く以前のことだよね?」


瑠璃は記憶を辿る。チェリアを助けるため、スフィアを消したのがダリラドールでのことだから、当然ブラッシュフェーブルに行く以前のことだ。シルフがなぜそのようなことを聞くのか理解できないまま、瑠璃は頷く。


「うん。そうだけどそれがどうかしたの?」


「簡単なことだよ。そのオムを消した時の瑠璃にはスフィアの力を消す能力はあっても、現実の世界に存在するものを消す力はなかった。瑠璃がその力に目覚めたのはブラッシュフェーブルでのことだからね。だから空間のスフィアの力自体は消せても、オムの中にいるものは消せなかった。」


「じゃあ、今、私があの時と同じことをしたらオムの中にあるものも消せてしまうということ?」


「そういうことだよ。」


シルフにそう言われても、瑠璃は合点がいかなかった。確かにブラッシュフェーブルにいた時瑠璃が無我夢中で力を使った後、瑠璃たちに襲いかかってきていたガーディアンはいなくなったし、瑠璃の周りだけ草木がなくなっていた。アベルの里でも瑠璃色の天使はスフィアを無効化する力とものを消滅させる力の二つを持つと説明された。しかし、瑠璃は依然として自分が消滅の力を持っていることを信じることができなかった。


シルフはどこからかオムを取り出す。


「納得いかないって顔してるね。なら実際に試してみればいいよ。このオムの中にはいくつかスフィアが入っている。瑠璃がこのオムに嵌め込まれているスフィアを消して、中にあるスフィアが消えたなら俺の言ってることは本当だということになるよね。さぁ、試してみて。」


そう言ってシルフは瑠璃にオムを手渡す。瑠璃は少し悩んだが、右の手でそれを受け取って、空いた方の手でそのオムに埋め込まれたスフィアに触れた。すると、すぐに濃い青色をした光がスフィアを包んだ。しかしその光はスフィアを包むだけでは止まらずに広がっていき、オムの表面をすっぽりと覆い尽くす。やがてその光が消えると瑠璃の右手の上にはもう何も残されていなかった。

瑠璃は驚いて自分の右手を見る。スフィアだけならともかく自分の力でオムまでも消してしまった、その事実を信じることができなかったのだ。知らない間に床の上に落としてしまったのではないかと机の下を見てみても、やはりさっきのオムはどこにもなかった。


「これで証明されたよ。」


「……うん。」


瑠璃がどんなに信じたくなくても、自分に消滅の力を持っていることは事実だ。瑠璃はそれを他でもなく自分に言い聞かせるように頷いた。瑠璃にとって何度も自分や仲間を救ってくれたスフィアを無効化する力はともかく、自分に宿る消滅の力はどうにもそら恐ろしいものだった。


「瑠璃、城の中に入った後のことも今から話すからよく聞いておいて。」


瑠璃は無理に笑顔を取り繕うと、分かったと答えた。

シルフの肩の上にいるアリスが、怪訝そうにこちらを見つめていた。


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