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瑠璃色の月  作者: Alice-rate
ロレシア編
43/54

Chapter41 頼みごと

翌日の朝、瑠璃は森の中を走っていた。スフィアのなった木ばかりが並ぶ森だ。空から降り注ぐ日差しを奪い合うようにして、木々が高く背伸びしている。そんな木々を避けながら瑠璃は森の奥へと進んでいく。

森のあちこちから動物たちの鳴き声が聞こえる。木々の隙間から朝の光が差し込んで、瑠璃の解けたままの長い水色の髪が点滅のようにちらちらと輝いた。



息が切れるまで走ったところで瑠璃は足を止めた。必死でここまで銀色の天使の気配を辿ってきたが、あまりにシルフの気配は強く充満していてどちらに彼がいるのか分からなくなったのだ。


参ったな。心の中でそう呟いて瑠璃はどちらに行こうか考えてあぐねていた。見渡す限り森に囲まれ、方向を確認しながら歩かなければ迷ってしまいそうだ。思い切ってシルフの名を呼んでみたが答えるものはおらず、瑠璃はいよいよ困り果てた。

そうしていると瑠璃は近くの木に止まった小さな青い鳥がこちらをじっと見つめていることに気がついた。


『あなた、瑠璃?』


鳥は美しい声で鳴いた。瑠璃はその鳥に名を呼ばれ瞬いた。


「私を知ってるの?」


『うん。シルフが教えてくれたから。わぁ、本当に蒼い目だ。シルフを探してるの?』


その鳥はちょこちょこと首を動かしながら瑠璃を見下ろしていた。その可愛らしい動作に思わず笑みがこぼれる。


「うん、そうなの。この辺りだと思うんだけど、うまく気配を追えなくて。」


『多分シルフは泉にいるよ。ついてきて。案内してあげる。』


そう言って鳥は枝から飛び立つ。瑠璃は慌てて小さな鳥の姿を追った。


「ありがとう。でもどうして親切にしてくれるの?」


鳥について走りながら瑠璃は尋ねた。


『お礼だよ。瑠璃にはお世話になったから。』


「えっ。私あなたと会ったことあるっけ?」


この世界に来てからの記憶を辿ってみても魔物はともかく、動物の鳥に会った覚えはない。ましてや鳥を助けたことなど一度もなかったはずだ。


『ないよ。だって私じゃないもん。私の大切な仲間がお世話になったの。』


「仲間 ?仲間っていったい誰のこと言って……」


そんな会話をしているとやがて開けた場所に出た。木々に囲まれるようにして澄んだ水を湛えた泉が鏡のように空の青さを写している。日の光で煌めく泉のほとりにシルフが座っているのが見えた。水浴びをしていたのか、金色の髪が濡れている。


『あっ、シルフいたよ。それじゃあね。』


「あっ、ちょっと……」


瑠璃が言い終わるのを待たず、青い鳥は森の緑に紛れて姿を消してしまった。


「こっちに真っ直ぐ向かってくると思ったらステラが案内してくれたんだね。」


突然シルフの声が聞こえ、瑠璃の心臓は跳ね上がった。シルフはいつの間にか立ち上がって銀の瞳でこちらを真っ直ぐ見つめている。

昨日の事を思い出すと気まずくて、まともにシルフの顔を見ることが出来ない。瑠璃は俯いたまま曖昧に頷くことしか出来なかった。


「そう。それで俺のこと探してたみたいだけど、何か用?」


低い声で何か用、と尋ねられて心臓が締め付けられるような思いがした。瑠璃は迷いを振り払うように頭を振ってから、顔を上げて言った。


「シルフ、厚かましいのは分かってるけどお願いがある。天使の能力は使えば使うほど強くなるんだよね。私、もっと天使としての力を強くしたい。だから力を使う練習に協力してくれない?……貴方にしか頼めないの。」


「昨日はあんなに俺に怯えてたのにもう平気なんだ。」


シルフは濡れた髪を絞りながらつまらなそうに言った。

お願いする前に昨日のことを謝るべきだった。瑠璃は心の中で自分の行動を悔いた。それでもこんなところで引き下がるわけにはいかない。なんとしてもシルフに頼みを聞いてもらって自分の力を強くしなければならないのだから。瑠璃は言葉を続ける。


「うん。昨日はごめんなさい。……あれから色々考えて思ったの。シルフはきっと沢山の生き物と会って話してて、私より視野が広いんだろうなって。私は人の価値観しか知らないからシルフの考えを頭ごなしに否定してしまった。だけど、分からないからって諦めたくはないし、今からでも知っていきたいって思う。そして私なりに天使の審判で何を願うのか、きちんと答えを出したい。」


「なるほどね。自分なりの答えを出そうと思ったからこそ、強くなりたいと思ったって訳だ。」


シルフはそこで言葉を切ってから瑠璃の方を見てふっと微笑んだ。


「いいよ、協力してあげる。」


「本当 ⁉︎」


昨日感情的にシルフに怒りをぶつけてしまったこともあり、断られると思っていたので、頼みを聞いてもらえて瑠璃は余計に嬉しかった。安堵で肩の力が抜け、思わず顔が綻ぶ。

喜ぶ瑠璃にシルフはぴしゃりと言った。


「けど条件がある。」


「条件 ?」


瑠璃は驚いてシルフの言葉をそのまま返す。


「そう。言ったよね、君に頼みたいことがあるって。俺の頼みを聞いてくれるのなら、天使の力を強くするための練習に付き合ってあげる。」


瑠璃はアベルの里で連れ去られる前シルフに言われたことを思い出した。確か審判とは関係のないことで瑠璃に頼みたいことがあると言っていたはずだ。

どのようなことを頼まれるかは分からないが、瑠璃の消滅の力を利用しようとするものであることはまず間違いない。瑠璃は緩めた顔をもう一度引き締めてから尋ねた。


「分かった。頼みって何?」


「ロレシアという王国にあるスフィアを君の力で消すこと、だよ。」


更新が遅くなってしまって申し訳ありません。もう少し更新を早められるように努力します。

ステラって誰だっけ、と思われた方はChapter28をご覧ください。

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