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瑠璃色の月  作者: Alice-rate
ブラッシュフェーブル編
32/54

Chapter30 忘れえぬ夢

ーーここはどこかの王国?

大地が雪に覆われ、白銀に輝いていた。瑠璃の口から白い息が漏れる。辺りは静かで、青く澄んだ空が遠く見えた。不思議と少しも寒くはなかった。

瑠璃は目の前に聳え立つ灰色の塔を見上げていた。その向こうには立派な城が見える。城の屋根は厚い雪で覆われて真っ白になっていた。

それにしてもおかしな塔だ、と瑠璃は思った。瑠璃は歩いて塔の周りをぐるりと回ってみたが塔に入るための扉が見つからなかった。唯一この塔に入る手段といえば塔の隣の城から伸びている渡り廊下を使うか、塔に一つだけある窓から入るかのどちらかであろうが、そのたった一つの窓にも頑丈な鉄格子の枠がはめられていた。

瑠璃は首を傾げる。まるでこの塔は誰かを閉じ込める監獄のようだ。中には犯罪を犯した人でも閉じ込められているのだろうか。瑠璃は塔の中を覗いてみたいと思った。

飛行のスフィアを持ってたらな、瑠璃は心の中でそう呟いた。空を飛べたら、あの窓から中の様子が見れるのに。瑠璃は飛べるはずがないと分かってはいたが、そう思って地面を思い切り蹴ってみた。

すると瑠璃の体は宙に浮かび上がった。瑠璃は一瞬驚いたが、さらに宙を蹴ってそのまま上昇を続け、塔の窓の前に辿り着いた。下を見ると、白い地面に瑠璃の影がはっきりと写っていた。

瑠璃は少し迷ってからそっと鉄格子の向こうを覗いた。そして格子の先に見えた光景にぎょっとした。それは、そこに子どもがたった一人で閉じ込められていたからだ。瑠璃は信じられない、と思ってもう一度塔の中をよく見てみた。塔の中は薄暗かったが、瑠璃はそこにはっきりと窓と反対の方向に向いて蹲っている小さな背中を見た。

瑠璃の気配に気づいたのだろうか。その子どもはゆっくりと振り返った。やがてその子どもと目が合うと、瑠璃は思わす叫びそうになった。夜空に浮かぶ月のような美しい銀色の瞳。

ーーこの子どもは……









「シルフ!」


そう叫んで瑠璃はとび起きた。暑くもないのに体が汗でびっしょりと濡れている。見てはいけないものを見てしまった気がして瑠璃は小さく震えた。


「瑠璃、どうしたの?」


隣のベッドで寝ていたチェリアの声がして不意に辺りが明るくなった。見るとチェリアがベッドから半分体を起こして、指先に小さく火を灯している。チェリアの灯した明かりを頼りに辺りの様子を見て瑠璃はほっと胸を撫で下ろした。いつも通りの瑠璃とチェリアの寝室だ。瑠璃は笑いながらチェリアに謝った。


「ごめん、起こしちゃって。ちょっと怖い夢を見ただけだから大丈夫。」


薄明かりの中でチェリアが動いた。


「そう、なら良かった。明日もたくさん歩かなければならないし、もうひと眠りしましょう。灯り、消すわね。」


「うん。」


瑠璃が頷くとチェリアの指先の炎が消え、再び部屋は闇に包まれた。

瑠璃はベッドに潜りはしたものの、すっかり目が冴えて眠る気にはなれなかった。それで、さっきの夢のことを考えていた。

夢の中に出てきた銀色の瞳を持つ男の子は幼い子どもだった。仮にあの子がシルフだとしたら、今の夢はシルフの過去だったのだろうか。そこまで考えて、瑠璃は心の中で首を振った。所詮は夢だ。夢で他人の過去など覗くことができるはずはない、と。

けれどあの夢はただの夢と決めつけるにはあまりにも現実味があった。


ーーあの時の夢と同じだ。


瑠璃はふと以前にも同じような夢を見たことを思い出した。そう、瑠璃がこちらの世界に渡った日の朝に見た夢。瑠璃はどちらかというと夢を見てもすぐに忘れてしまう方だったが、あの夢だけはアルフィランドに来てから一ヶ月が経とうとしている今でも決して忘れることができなかった。月と海の見える岸壁に響いた声。

ーーお前の使命は世界を変えること。

誰ともしれない、それでいて懐かしいあの声が耳に蘇ってきた。






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