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瑠璃色の月  作者: Alice-rate
ダリラドール編
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Chapter28 新たな仲間

木々が鬱蒼と茂る森の中、銀色の眼の少年がいた。無造作に生えた幹の太い木々の間を抜けてシルフは進んで行く。彼が歩くたび、地面に敷き詰められた葉が乾いた音を立てる。

ふとシルフは足を止め、辺りを見回す。見上げた木々には赤や黄、カラフルなスフィアが木の実のように成っていた。


「ステラ、いるなら出てきて。」


シルフがそう言うと近くの木から一羽の鳥が現れた。ステラと呼ばれたその鳥はシルフが手を伸ばすとそこにすっぽりと収まった。翡翠色の羽が美しい鳥だ。鳥は小さな黒い瞳で首を傾けながら何の用、とでもいうようにシルフを見つめている。シルフはその鳥に話しかけた。


「今日は君に伝えたいことがあって来たんだ。セイが、捕まったみたい。これでもうあの人間が犯罪に手を染めることはないよ。」


鳥はシルフの手の上で歌うように囀る。高く澄んだ美しい鳴き声だ。


「そっか。良かった。こっちに来てからもセイのことはずっと心配だったから。」


シルフは頷いて微笑む。


「瑠璃のおかげだよ。」


「ああ、知ってるよ。例の人間だよね。その子ってどんな子なの?」


ステラが尋ねると、シルフは少し考える。


「……そうだね。一言で言うなら海みたいな子。」


「海?それって目が蒼いから?」


ステラが首を忙しく傾げる。そんなステラにシルフは悪戯っぼく微笑む。


「そういう訳じゃないけど。見た目じゃなくて性格の問題。」


「ふーん。よく分からないや。でもセイを止めてくれたその子には感謝しないと。セイはなんだかおかしくなっちゃったから。昔、寒い所で一緒に暮らしてた時は凄く優しかったのに、船に乗って温かい所に逃げてからは怖くなっちゃった。セイがまた優しくなってくれたらいいなぁ。」


シルフは悲しげに微笑んでそうだね、でもと続けた。


「セイが優しくなったとしても君はもうあの人間には……」


ステラは羽ばたいてシルフの肩に止まる。まるでシルフを励ますように。


「分かってるよ。だからこそセイと一緒にいれる時間は精一杯楽しんだもん。だからシルフは気にしないで。」


「ごめんね。」


シルフは指でステラを撫でながらぽつりと呟いた。









瑠璃は誰かが扉を叩く音で目を覚ました。

瑠璃はシルフと別れた後、その足で病院に行き、それから再びダリアに戻った。しかし、瑠璃が酒場に戻った頃には宴は殆ど終わっており、瑠璃達は自警団員と共に自警団の宿舎で休ませてもらうことになった。

宿舎の一室の中、瑠璃はベッドの上で身を起こし、降ろしたままの長い水色の髪を手で整える。寝ぼけた頭で外を見やるともう夕暮れ時だった。

再び扉が叩かれた。瑠璃は誰だろう、と思いながらはい、と返事をして立ち上がり、数歩歩いて細くドアを開けた。


「悪いな、起こしちまったか?」


ドアの先の少年が瑠璃の顔を見て苦笑いした。瑠璃はすぐにそれが誰か分かった。


「バルツ?どうしたの。」


バルツは気まずそうに頭を掻く。


「実はお前とチェリアに大事な話があるんだ。宿舎の外の庭で待っとくからさ、準備ができたら隣の部屋のチェリアと一緒に来てくれよ。まぁチェリアには昨日もう粗方話したんだけど。」


「う、うん。分かった。すぐに行く。」


瑠璃は言われるままに頷いた。




ーー大事な話って何だろう。身支度を終えた瑠璃はそう考えながらチェリアの部屋のドアを叩く。すると、程なくしてチェリアが出てきた。チェリアは瑠璃より早くに目が覚めていたようだ。

チェリアは瑠璃の姿を認めると口を開いた。


「バルツに話は聞いてるわ。さぁ、行きましょう。」




瑠璃とチェリアは階段を下って宿舎の玄関に向かう。階段に二つの足音が響いた。瑠璃は隣を歩くチェリアを見てふっと微笑んだ。


「そういえばチェリアと一緒に歩くの、久しぶりな気がする。」


チェリアの桃色の瞳が笑った。


「あら、奇遇ね。私もちょうど瑠璃と歩くの久しぶりだなって思っていた所よ。……不思議ね。私達、殆ど一日しか離れてなかったのに。」


瑠璃は深く頷く。


「そうだね。たった一日だけなのに。……たぶんチェリアと一緒にいるのが当たり前みたいになってきてるんだと思う。」


ーー本当はそんなことないのに。瑠璃は心の中でそう呟いた。今なら痛いほど分かる気がした。

チェリアは何も答えず困ったように微笑んだ。



広間を抜けて宿舎の玄関のドアを開くと、瑠璃はすぐに噴水に腰掛けているバルツを見つけた。風が吹くと花の匂いがする。バルツは瑠璃達に気がつくと立ち上がり、片手を挙げて挨拶する。

左右対称に敷き詰められた白い石のタイルの周りにいくつもの小さな花が咲く美しい庭。雲に覆われた空の隙間から差す夕日が出たり入ったりしながらその庭に温かい光を与えていた。

瑠璃とチェリアはバルツに近づいていった。

瑠璃はバルツに声をかける。


「バルツ、おまたせ。それで大事な話って?」


バルツは頷いたものの、少しの間硬い表情のまま黙っていた。それから、決心したように真剣な顔で瑠璃を見つめた。瑠璃はその瞳に宿った強い光にどきりとした。普段、笑顔で話している時のバルツとはまるで別人のようだ。


「実は、俺をお前らの旅に一緒に連れていって欲しいんだ。」


えっ、と口の中で言って、瑠璃は予想外の言葉に固まる。バルツは続けた。


「俺はずっと旅をしてきたってこと、もう瑠璃には話したよな。それでそろそろダリラドールを出ようと思ってることも。俺な、お前に会って、お前と一緒に戦って、純粋にお前と一緒に旅してみたいって思った。それに俺はスフィアこそ持ってねぇけど剣の腕前ならそこらへんの兵士には負けねぇ自信があるし、お前の役に立てると思う。だからお前と一緒に行きたい。だめか?」


だめか、と聞かれ瑠璃は何と答えればいいのか迷った。バルツは本気だ。その目を見ればすぐに分かる。しかしバルツは瑠璃の決定的な秘密を知らない。

本気で旅について行きたいと話してくれたバルツのことは裏切れない。瑠璃は覚悟を決めて口を開いた。


「バルツ、正直に言って貴方が旅について行きたいって言ってくれたこと、とても嬉しい。けどね、バルツが私の秘密を知ったら気が変わるかもしれない。……信じてもらえないかもしれないけど私、異世界から来たの。」


「……異世界から来た?」


バルツは訳が分からないという風に瑠璃の言葉を繰り返した。その目に明らかな動揺が見える。瑠璃はきゅっと胸が締め付けられた気がしたが、話を続けた。


「うん、本当のことだよ。でも向こうの世界に帰る方法が分からなくて困っていたらある人が自分の力なら私を元の世界に戻せるって言って、だから私とチェリアは今その人を探して旅をしているの。」


バルツはしばらくの間頭を抱えていたがやがてぱっと顔を上げると言った。


「つまりだ、俺が瑠璃が異世界から来たってことを知って、やっぱり旅について行くのやめたってならなければ、俺はお前と一緒に旅をしてもいいってことか?」


「もちろん、バルツがそれでも旅について行きたいって思うなら。でも、私と一緒にいると厄介なことに巻き込まれるかもしれないよ。」


瑠璃は真剣に言ったのに、バルツは笑った。


「将来起こる厄介なことなんていちいち考えてられねぇよ。それが起きたら、なんとかするだけだ。瑠璃、俺の気持ちは変わらないぜ。」


でも、と瑠璃が口を開こうとしたその時、ずっと黙って二人の話を聞いていたチェリアが口を挟んだ。


「バルツは行きたいって言ってるんだし決まりね。」


「チェリア⁉︎」


瑠璃は驚いた。チェリアはどちらかというとバルツがついてくることに対して慎重な意見を持っているのではないかと思っていたからだ。


「チェリアはいいの?バルツが一緒に来ること?」


違和感が拭えなくて瑠璃はチェリアに尋ねたが


「当たり前じゃない。旅は人数が多い方が楽しいものよ。」


とチェリアは平然と答えた。


ーーチェリアが納得している、バルツも一緒に行きたいと言っている。

瑠璃はにこっと笑うとバルツに手を差し出した。


「バルツ、これから旅の仲間としてよろしく。」


差し出したされた瑠璃の手を見て、バルツは照れたように笑うとその手を固く握り返した。


「不束者だけどよろしくな、瑠璃、チェリア。」


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