Chapter2 瑠璃色の瞳の少女
ピピピピッピピピピッ
真っ白な目覚まし時計が起床の時刻を告げている。ベッドで眠っていた少女が二度空振りしてからその音を止めた。
ーー今のは何だったんだろう。暫く少女は考え込むように目を閉じていたが、やがて
「夢か……」
少女は小さく呟くとゆっくりと目を開けた。零れるような長いまつ毛。何より目を引くのはその瞳の蒼さだ。少女は眠そうに目をこすって、ベッドから起き上がるとカーテンを開けた。部屋の中を日の光が照らす。机の上にはまだ真新しい教科書が綺麗に立て掛けてある。
少女、否、瑠璃は空を見上げてそっと微笑んだ。今日は雲一つ無いいい天気だ。
よし、心の中でそう呟いて瑠璃は学校に行く支度に取り掛かった。紺のブレザーに赤いリボン、赤地に黒のチェックの入ったプリーツスカートの制服に着替え、部屋のドレッサーの鏡を見ながら手慣れた手つきで空色の髪を高い所で二つに結い上げる。東洋人らしい黄みがかった肌に蒼いパッチリとした目。すっと通った鼻にぷっくりとした唇。相当の美人だが、ピンクのリボンで結い上げられた髪のせいか、どこか幼く見える。
瑠璃は急ぐように大きな音を立てて階段を駆け下り、リビングに向かう。瑠璃がリビングに入ると
「おはよう、瑠璃。」
栗色の髪に黒い瞳の女性。瑠璃の母親、香穂が瑠璃に挨拶した。その柔らかな表情から、彼女の穏やかな人柄がみてとれる。
「おはよう、お母さん。」
瑠璃も笑顔で挨拶を返すと、テーブルに座り、朝ご飯を食べ始めた。
「珍しいわね。瑠璃が寝坊するなんて。いつもならもう五分早くリビングに来るのに。」
瑠璃の母親が食べ終わった朝食を片付けながら言う。
「うん。昨日夜遅くまで起きてたから。」
本当はいつもの時間に寝たんだけどね。瑠璃は心の中でそう呟いて苦笑しながら答える。夢のことは言わないことにした。夢で見たことを間に受けたなんて言ったら、また子ども扱いされかねないと思ったからだ。
「あら、夜更かしなんてしちゃダメよ。沢山寝ないと体にも悪いし、大きくなれないわよ。」
香穂は顔を顰めてそう言った。
結局子ども扱いか……瑠璃はそれには答えず、大きく溜息をついた。
香穂は瑠璃の父親が他界してから、女手一つで瑠璃を育ててきた。瑠璃はそんな彼女を敬愛していたが、その一方で彼女に一人前の大人として認められたいという気持ちも強かった。しかし、瑠璃が高校生になった今でも、香穂は瑠璃を小学生ぐらいの子どものように扱う。瑠璃は香穂のそんな態度には嫌気がさしていた。
しばらくたって朝食を食べ終えると瑠璃は鞄を肩に掛け、玄関に向かった。朱理が来てるかも。そう思った瑠璃は少し急ぎ足だ。いつものことだが、香穂も玄関まで着いて行く。
「忘れ物はない?弁当は持った?」
心配性な彼女はいつもこの台詞を言う。
「大丈夫。忘れ物はないよ。」
瑠璃は少しうんざりしながら答え、靴を履いてドアノブに手を掛けようとした。
「ねぇ、瑠璃。気をつけてね。」
香穂は突然とても寂しそうに言った。
「?……どうしたの?」
瑠璃は驚いて振り返った。
「なんでもない。貴方がどこか遠くに行ってしまう気がして。」
香穂の顔色が悪い。
「大丈夫だって。まだ部活も始まってないし、いつもの時間に帰ってくるよ。」
瑠璃は彼女を安心させようとして微笑んだ。
「ごめんなさい。変な事言って。行ってらっしゃい。」
香穂もまだ青白い顔のまま、微かに微笑んだ。
「行ってきます。」
瑠璃はもう一度彼女に向かって微笑むとそう言って家を出た。




