Chapter26 天使の伝説
「カンパーイ!」
酒場ダリアに明るい声が響き渡った。
食べ物の焼けるいい匂い。並々とグラスに注がれた酒。
宴会の始まりだった。
瑠璃は酒の代わりに果物のジュースを飲んだ。ダリラドールのある国、ラースの法律では十五歳から酒を飲んでもいいらしいが、日本の法律を破るのは気が引けたからだ。
瑠璃は暫くホールでリンを始めとする自警団員と談笑していたが、やがてカウンターにいるマスターの元に向かった。そもそもこの酒場に来たのはマスターにシルフについて何か知らないか尋ねてみるためだ。瑠璃はチェリアも誘おうか迷ったがチェリアが他の自警団員と楽しそうに話していたのでやめておいた。
「マスター、ちょっとお話を聞かせてもらっていいですか。」
そう言って瑠璃はカウンターの椅子に腰掛ける。マスターは空になった酒瓶を片付けながら答えた。
「ああ、もちろんだよ。嬢ちゃんは人探しをしてるんだってね。そのことかい?」
「はい、そうなんです。マスター、銀色の目をした少年のこと、何か知りませんか?」
マスターは目を見開く。
「銀色の目をした少年だって!?嬢ちゃん、そんな人に会ったことあるのかい?」
「はい、何度か。あの、何か知ってるんですか?」
瑠璃の蒼い瞳が輝いた。
「いや、その嬢ちゃんが会ったっていう男に関係があると決まった訳じゃないんだが……」
瑠璃はカウンターに乗り上げる。
「その話だけでも聞かせて下さい。」
マスターは瑠璃の勢いに押され頷く。
「昔、俺がまだ子供の頃の話だ。俺の死んだ婆さんは俺のことよく可愛がってくれてなぁ、色んな話を聞かせてくれたんだ。その中にな、天使の伝説っていうのがあったんだ。」
「天使の伝説……?」
ーー天使。瑠璃は自分がこの世界に渡った時に入った祠にもこの世界に辿り着いた時の祠にも天使像が置いてあったことを思い出した。瑠璃はこの話はどうしても聞いておかなければならない重要な話に思えた。
「それで、その天使の伝説っていうのはどんな話なんですか?」
マスターは宙を見上げて頭を掻く。
「ああ。あまりはっきりとは覚えていないんだが、確か神がこの世界を創った時に銀色の瞳の天使と…もう一人が何色だったのか思い出せないんだが…何らかの別の色の瞳の天使を生み出して、それでその天使にこの世界を守らせたって感じの話だったと思う。記憶が曖昧で申し訳ない。」
「いえ、いいんです。……マスターはあの、その話、ただの伝説だと思いますか?」
瑠璃は心の中でマスターが否定してくれることを願いながら尋ねた。
「いや、俺はそうは思わないね。古い建造物にはやたらと天使像が置いてあるし、銀色の目をした人間には一度もあったことがない。ちょっとぶっ飛んだ発想だが、銀色の目が天使に特有のもので、人間がその目の色を持つことが禁止されていると考えれば、ある意味辻褄が合う。俺自身もこの伝説にはちょっと興味あってな、店に来るお客さんに聞いてみたりもしたんだがこの伝説自体知ってるやつが殆どいなくてな。しかも知ってる人の中にも俺以上に詳しい奴はいなかった。」
「そうですか。とても参考になりました。ありがとうございます。」
帰国したので更新を再開します。長期間更新が出来ず申し訳ありませんでした。