Chapter24 卑劣な罠
右、左、右……
瑠璃達はリンの指示に従い、細い廊下を進んでいく。瑠璃は先頭を走るリンの横を走っていた。そして、そのすぐそばにはバルツがいる。これは事前に話し合いで決めた順番だ。
この順番は、道が分かり、スフィアによる攻撃にもある程度対応できるリンと、スフィアの攻撃の盾となることができる瑠璃が先頭を走り、そのそばに戦闘能力の高いバルツを置き、瑠璃を武器の攻撃から守るという意図で決められた。
瑠璃は先頭を走りながら激しい心臓の動悸を感じた。曲がり角を曲がる度、そこに敵がいるのではないかと恐怖で胸が跳ねる。それの繰り返しだった。
四つ目の角を曲がった時、ついに敵は現れた。
「おい、いたぞ!侵入者だ。」
敵のフレーザ員が声を上げた。瑠璃は気を引き締める。ここからが本当の戦いだ。
瑠璃の身体の中でまた熱い力が動き出す。瑠璃はその力を敵の攻撃に向けて放ち、敵の攻撃を消し去っていく。
何なんだろう、この力は。瑠璃は必死で自分の力を調整しながら考えた。少しでも気を抜けば、味方の攻撃まで消してしまいそうになる。瑠璃はそのくらい強い力が自分の中で渦巻くのを感じた。
そこからは敵の攻撃の連続だった。瑠璃達は敵を追い払いながら進んでいく。しかし、フレーザ員は追い払っても追い払っても、付き纏ってきた。瑠璃達の体力は確実に削られていく。最初二十人いた仲間は途中で倒されたのか、それとも置いてきてしまったのか、瑠璃は少しずつその数が減ってきていることに気がついて、ぞっとした。瑠璃達は永遠にも思える程、長い廊下をただただ走り続けた。
不意にバルツが叫んだ。
「瑠璃、危ねぇ!」
驚く間もなく、瑠璃は左肩にどんっと衝撃が走るを感じた。瑠璃が驚いて自分の肩を見ると、そこに矢が刺さっているのが見えた。左肩が燃えるように痛い。
瑠璃は咄嗟に叫びそうになったが、なんとか堪えた。そして、恐る恐る矢に手を伸ばし、矢を引き抜いた。左肩に激痛が走り、その痛みに顔が歪む。
「瑠璃、大丈夫か?わりぃ、俺がついていながら。」
バルツはそう言って自分の服を裂いて得た布を瑠璃の左肩に巻いて止血してくれた。
「ありがとう、バルツ。もう大丈夫だから、早く進もう。」
瑠璃は無理にバルツに向かって微笑むと
また走りだした。
そしてやっとの思いで3階への階段を見つけた。
瑠璃達は階段を駆け上がり、3階に辿り着いた。瑠璃も瑠璃の周りの仲間も息が上がっている。瑠璃達は階段を上がってすぐ目の前にある扉を思いきり開けた。
ここにオムがあるはずだ。
その部屋の中は目が痛くなるほど派手だった。ショッキングピンクの壁に蛍光黄色の床。広い部屋にいくつも置かれた家具もどれも明るい色をしていたが、その中で一つ、木でできた空っぽの鳥籠だけが、やけに目立ってみえた。
瑠璃が部屋を見渡すと、多くのフレーザ員を後ろに控えさせ、その先頭に立っている女が目に入った。瑠璃はその女が手に持っているものを見て目を見開いた。その女は赤いオムを持っていたのだ。
女は不敵に微笑んで瑠璃達を見ると、口を開いた。
「よく来たわね。自警団の方々。私はフレーザのボスのセイ。それで、あんた達がここに来たのはこのオムが目的なんでしょ?」
その女は手に持った赤いオムを仰々しく上げて見せる。
瑠璃の隣にいるリンが、セイに怒鳴った。
「そうだ。私らの目的はそのオムだ。分かったらおとなしくそれを渡しな。」
セイはくすりと笑う。
「あんた馬鹿なの?あたしが素直にこの女を返すわけないじゃない。こんなお金になりそうな話、そうそう転がってないもの。見逃すわけにはいかないわ。」
リンは明らかに舌打ちする。
「話し合いで返してもらうってのは難しそうだね。」
「当たり前じゃない。私達フレーザが、盗んだものをそう簡単に返すと思った?ていうか、あんた達、ちっとも自分達の状況が分かってないみたいね。」
「どういう意味だ?」
リンがセイを睨む。
「いいわ、説明してあげる。こういうことよ。」
セイがパチンっと指を鳴らすと、部屋の左側に、大きな音を立てて箱型の牢屋が現れた。その中身を見て瑠璃は青ざめた。なんと傷ついた仲間達が閉じ込められている。
「まさか……!」
瑠璃は思わず言った。
「そう、カジノの前で派手に暴れてくれた連中も含めて、あんた達がここに来るまでに私達が倒した自警団の奴ら。捕まえて、みーんなここに入れたってわけ。感謝してよ。殺さないでいてあげたんだから。まぁ、あんた達がここで暴れ始めたらこいつらの命はないと思った方が良いわよ。」
「つまり、こいつらは人質って訳だ?」
リンが悔しそうに歯を噛み締めている。
セイは相変わらずの笑顔だ。
「そーいうこと。さぁ、分かったらあんた達も無駄な抵抗は止めて、こっちの牢屋に入ってもらおうかしら。あっ、今牢屋の中に入ってる奴らにも言ったけど、もしテレポートで誰か一人でも逃げ出したら、残った奴らは皆殺しにするから。」
そう言ってセイが再び指を鳴らすともう一つ、新たな牢屋が現れた。牢屋は瑠璃達のほうに向けて獲物を待つ獣のようにその口を開けている。
瑠璃達は困惑して互いに顔を見合わせたが、やがて観念したように牢屋に向かって歩き始めた。