Chapter23 カジノへの突入
瑠璃はバルツについて街の喧騒をくぐり抜けて行く。街は人々の笑い声や耳馴染みのない楽器の音で騒がしい。光のスフィアで発生させているのであろうカラフルな明かりが目に痛かった。瑠璃はふと夜空を見上げ、この世界でも街の中で星が見えないのは同じだな、と思った。
途中、バルツは人混みにもまれている瑠璃を見かねて瑠璃の手を取って引いてくれた。瑠璃はバルツの手助けもあってなんとか人混みをかいくぐり、目的地のカジノの近くのエーテル広場に着いた。
エーテル広場も酒を飲み交わす人や広場で行われる見せ物を見に来た人で溢れていたが、さっき酒場で顔を合わせた人が一箇所に集まっていたので、瑠璃達はそこが自警団の集合場所だとすぐに分かった。瑠璃達はその集団に合流した。
裏口チームは20人ほど。瑠璃達はここで人混みに紛れて身を隠しながら、機会を見て裏口付近に移動し、そこで突入の指示を待つことになっていた。
このチームのリーダーはリンという二十代後半くらいの女性。このチームの中では数少ないスフィリアの一人だ。リンは念話のスフィアを持っており、正面玄関チームの団員と連絡をとって、時が来れば瑠璃達に指示を出してくれる。
瑠璃はリンの方に注意を向けながら、緊張で乾いた唇を噛み締めた。すっかり夜は更け、普段ならもう寝ていてもおかしくない時間だが眠気はなかった。それは、これから始まる作戦の結果がチェリアの運命を左右することが瑠璃にはよく分かっていたからだ。
やがて、リンに動きがあった。リンはさっとカジノの方を指差すと何も言わずに歩き出した。
瑠璃達は移動を開始した。あまり大人数で固まって動くとさすがに目立ってしまうので、瑠璃達のチームは五人ずつのグループに分かれて、それぞれ別の道を使ってカジノの裏口に向かう。
瑠璃は他の四人の自警団員と共にエーテル広場を右回りし、裏口へと向かった。
今頃正面玄関チームは幻影のスフィアや火のスフィアでぼやを発生させ、客を避難させているはずだ。
ーーどうかこの作戦が上手くいきますように。瑠璃はそっと天に祈った。
裏口の前にはどうやら見張りがいるらしい。リンが壁際に並んだ瑠璃達の先頭で曲がり角の先にいる見張り達の様子を伺っている。
瑠璃は自分の胸に不安が広がるのを感じた。見張りがカジノでぼや騒ぎが起こっているにも関わらず、逃げずに見張りを続けているということは、フレーザにはぼや騒ぎが偽物である事が分かっているはずだ。そうでなければカジノで火事が起こったことに驚き、見張りなど止めて逃げ出しているはずだからだ。
チームの団員たちは各々隠していた武器を静かに取り出していた。瑠璃もそっと弓と一本の矢を取り出して右手に握り、突入の時を待った。瑠璃はそういえばこの弓もチェリアに買ってもらったものだ、と思い出した。瑠璃は硬い木の弓をぎゅっと握った。
「……突入!」
リンが不意に叫んだ。瑠璃達は一斉に動き出す。
「なっ、なんだこいつら!」
驚く見張りのフレーザ員に、自警団員達は奇襲をかける。まず数人の団員が武器で見張りの者を倒した。そして、鍵の掛かったドアをスフィアで壊し、瑠璃達はカジノの中に駆け込んだ。
瑠璃達の目指す場所はカジノの三階。カジノは五階建てだからちょうど真ん中の階に当たるその階にフレーザのボスがいる部屋があり、そこにチェリアの入ったオムが置かれているらしい。こちらが遠視のスフィアを持っていることは敵側も分かっているだろうから、敵がオムを移動させる可能性は低いだろうとレーガが言っていた。
瑠璃達は2階に続く階段を目指し、細い廊下を駆けていく。しかし、長い廊下を息を切らしながら走り抜け、瑠璃達が階段に差し掛かった時、突然フレーザ員が十数名程、テレポートで現れた。瑠璃達の意表を突いて攻撃しようという敵側の作戦だろう。そのフレーザ員達は現れるなり、即座に瑠璃達にスフィアの攻撃を仕掛けてきた。
ーー絶対にチェリアを助ける。
その思いに駆られた瑠璃は、咄嗟にフレーザ員と自警団員の間に立ち塞がった。瑠璃を目掛けて、自警団員達を狙った炎や風の攻撃が飛んできたが瑠璃は蒼い瞳でその光景を見つめたまま、その場を動こうとはしなかった。
瑠璃の体は燃えるように熱い。瑠璃は自分の中で大きな力が動いているのを感じた。そしてその力が目の前の攻撃に当たった瞬間、炎も風も立ちどころに消え去った。
「リンさん、みんな!今です!」
瑠璃が叫ぶと、何が起こったのか分からないという顔をしていた自警団員達は、はっ、と我に返り、同じく呆然としているフレーザ員達に攻撃を始めた。
一瞬の反応の差が勝敗を分けた。
自警団員達はあっという間にフレーザ員達との間合いを詰め、武器で攻撃を仕掛けていく。フレーザ員達もスフィアで対抗するが、接近戦においては武器で戦う自警団員の方が有利だった。自警団員達はスフィアの攻撃を躱しながら相手の隙を突いて攻撃している。
瑠璃は、剣や槍で敵と接近戦をしている自警団員の仲間を少し離れたところから弓でサポートしていた。
瑠璃は弓で相手を狙いながら横目で敵と戦っているバルツの様子を見て、やっぱり強いなぁ、と思った。
剣技について殆ど知識を持たない瑠璃だが、バルツの剣の腕が相当立つことは分かった。最初出会った時に感じたバルツの強さは本物だったのだと瑠璃は確信した。
暫しの戦闘の後、若干の負傷者こそ出たものの、瑠璃達はなんとかフレーザ員を巻いて階段を上がることに成功した。
瑠璃は階段を上がってすぐの廊下に、差し当たり敵の姿が見当たらなかったのでホッとした。
2階は一階とは違って敵の侵入に備える為に細い廊下が複雑に入り組んだ迷路のような構造になっている。予め遠視のスフィアを利用して階段へと続く道を把握している瑠璃達だが、敵の襲撃はまず避けられない。
瑠璃は荒れた呼吸を整えると、自警団員と共に走り出した。
瑠璃色の月を読んで頂きありがとうございます。更新が遅くなってしまって申し訳ありません。
最近なかなか話が進められてないのですが、ダリラドール編が終わったら物語の核心である天使の伝説について触れていけたらなと思っています。