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瑠璃色の月  作者: Alice-rate
ダリラドール編
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Chapter21 自警団の酒場へ

暗い路地に人影が二つ。さっきまでの騒ぎが嘘のように路地はまた静けさを取り戻している。

ーーただ、一人の少女の姿が消えたこと。少なくともそれだけは嘘ではなかった。




「どうしよう、チェリアが……」


瑠璃は呆然としてつぶやいた。チェリアがどこに連れて行かれたのかも分からない。そもそも瞬間移動でもうとっくにこの街を出てしまっているかもしれない。そんな状況でどうやってチェリアを捜し出せばいいんだろう。瑠璃は途方に暮れた。

そうしていると瑠璃を心配そうに見ている黒髪の少年と目が合った。

瑠璃は我に返り、少年にまだお礼も言っていなかったことを思い出し、慌てて口を開いた。


「あの、助けてくれてありがとう。貴方が来てくれなかったら多分私も連れて行かれてた。」


瑠璃が言うと少年はひらひらと手を振って気にすんな、と言い、


「そんなことよりあの攫われた女の子、お前が一緒に旅してた奴だよな?」


と尋ねた。


「うん……」


瑠璃は浮かない顔で頷く。少年は眉間に皺を寄せて考え込む。


「……奴らに攫われたか。まずいことになったな。ともかく瞬間移動じゃそんなに遠くには行けねぇはずだ。恐らく奴らはこの街の中にまだいる。」


「それ本当?まだ最悪の事態にはなってなくて良かった。それで今、奴らって言ったけどあのチェリアを攫っていった人達のこと知ってるの?」


瑠璃はいつになく早口で言った。


「ああ。あいつらはこの街で幅を利かす犯罪組織みたいなもんだ。フレーザっつうふざけた名前があんだけどな。そのメンバーは右手に鳥の羽のような焼印をつけてる。さっきの男共にもついてたから間違なくあいつらもその一員だ。」


「そんな組織が……ねぇ、その組織の本拠地とか分からない?私、急いでチェリアを助けに行かなきゃ。」


瑠璃が真剣に言うと、少年は一瞬驚いた顔をしてすぐに笑い始めた。


「ははっ、お前度胸あるやつだな。でもまぁ落ち着けって。お前だけで行ってもあいつらは倒せねぇよ。そうそう、言ってなかったけど俺、自警団で働いてんだ。とりあえず俺の仲間に相談してみっからお前も来いよ。」


「自警団?だからあんなに強かったんだね。分かった。案内して。」


「ああ。こっちだ。」


少年は路地の奥の方を指差した。瑠璃は頷くと少年の隣を歩き出した。


「そういえば、名前聞いてなかったね。なんて名前なの?」


黙っていると不安に押し潰されそうなので瑠璃は極力明るい声で言った。それでも頭の中はチェリアの安否のことでいっぱいだった。


「ん?俺か。俺、バルツっていうんだ。お前は?」


「私は瑠璃。」


「ふーん、確かにお前、目が海みたいな瑠璃色だもんな。珍しいよな。その眼の色。」


「うん、よく言われる。ねぇ、バルツはこの街にずっと住んでるの?」


バルツは首を振る。


「いや、そういうわけじゃねぇよ。俺、旅しててさ、でも金がなくなったから今だけここの自警団に無理言って雇ってもらってんだ。まぁ、そろそろだいぶ金も稼げたし、また新しい所に行こうとは思ってんだけどな。おっ、着いたぜ。このダリアっていう酒場だ。」


バルツの言葉に瑠璃は驚いた。


「ダリア?えっ、ここ、私がチェリアと一緒に探してた酒場だよ。」


「へぇ、こんな酒場探すなんてお前も物好きだな。まぁ、ここには情報通のマスターがいるからな。人探しでもしてたのか?」


「うん、そう。でもせっかくたどり着けたのに、今は情報集めてる場合じゃないや。」


瑠璃はふぅ、と溜息をついた。バルツは瑠璃の肩を軽く叩いて微笑む。


「そんな顔すんなって。またあの子助けてから来ればいいだろ。俺も協力すっからさ。元気だせよ。」


「うん、ありがと。」


瑠璃も少し微笑んだ。





酒場の中は人でぎっしりだった。床にはたくさんのテーブルが並べられ、人々はそれぞれの談笑を楽しんでいる。

店に入ってきたバルツの姿を見つけると何人かの人が


「おっ、バルツかわいい彼女連れてきたじゃねぇか。」


「あんたも意外と隅に置けないねぇ」


などと囃し立てるのでバルツはムキになって否定している。瑠璃も男の子と二人でいるとそう見えるんだ、と思い、少し恥ずかしくなった。


瑠璃とバルツは人々の合間をくぐり抜け、店の奥のカウンターに向かう。カウンターにはバーのマスターと楽しそうに話している、がたいの良い中年の男性がいた。頬に大きな傷があり、それがその男性が数々の戦闘をくぐり抜けてきたことを示している。


「レーガ、ちょっと話したいことがあるんだ。」


「なんだ、バルツ。何か事件か?」


レーガと呼ばれたその男性はさっきまでの楽しそうな表情から一変して真剣な顔になった。この顔がこの人の仕事の顔なのだろう。


「ああ、そうなんだ。パトロールしてたらさ、この子の知り合いがフレーザの奴らに連れ去られる現場に出くわしてさ。早く助けねぇと厄介なことになるだろ?だから急いで来たんだけど。力貸してくんねぇか?」


「私からもお願いします!大切な友達を取り戻したいんです!」


瑠璃は頭を下げた。


「フレーザが人攫いだと⁉︎珍しいこともあるもんだ。……まぁ、奴らが逃げ込んだとしたらあそこのカジノでまず間違いねぇな。カジノを見張ってる連中に連絡とってみるか。」


瑠璃とバルツの顔がぱっと明るくなった。


「じゃあ協力してくれんだな?」


バルツが聞くとレーガはにっと笑った。


「当たり前だろ。この街で起きた事件をほっといて何が自警団だ。それに可愛い女の子に頼まれたら断れないのが男ってもんだろ?」


「本当に、ありがとうございます。」


瑠璃はレーガの優しさに涙が出そうになった。不安でいっぱいの今の瑠璃の心には、人の優しさがよく染みた。


「レーガは見た目は怖えけど、本当は優しい奴だからな。絶対協力してくれるってわかってたけどな。」


とバルツがにやにやしながらレーガに言うと、レーガは


「うるせぇ、今カジノの連中と連絡とってんだから、黙ってろ。」


と低い声で言った。

バルツははいはい、と言うと静かになったが、どこか楽しそうだ。


瑠璃が見ると、レーガは確かに誰かと連絡をとっているようだ。誰もいない方向に向かって相槌を打っている。これもスフィアなのかな、と思いながら瑠璃が見ていると、やがてレーガは渋い顔で連絡を切った。


「どうやら当たりのようだ。カジノにいる連中がオムを持った男達が店の奥に入って行くのを見たらしい。恐らく攫われた奴はそのオムの中だ。」


「じゃあ、チェリアはそのカジノに……」


瑠璃が言うとレーガが頷く。


「そういうことだ。しかしオムに入ってるとなると厄介だな。オムを取り戻したうえで奴らにそのオムの呪文を聞きださないといけねぇ。」


「オムさえ取ってこられれば私がなんとか出来ると思います。」


瑠璃が言うとレーガは眉を顰めた。


「嬢ちゃん、それは本当か?」


「はい。」


瑠璃がはっきりと答えたのでレーガは信じてくれたようだ。


「よし、となると今回のミッションはオムを奪うことだな。」


レーガは椅子から立ち上がるとバーの客に向かって叫んだ。


「お前ら、新しいミッションだ。作戦会議をするぞ!」



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