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瑠璃色の月  作者: Alice-rate
ダリラドール編
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Chapter17 聖域を渡る船

どうやら瑠璃達が最後の乗客だったようだ。瑠璃達がチケットを見せて船に乗り込むとすぐに階段が取り外され、船員の出発の合図がかかった。すると勝手にマストが開き、ゆっくりと羽ばたき始める。それと同時に船は高度を上げ、あっという間に空に浮かび上がった。




「すごい!この船どうなってるの?」


瑠璃は呆然としてすっかり小さくなったリンガルの街を見つめている。チェリアはそんな瑠璃に、笑いながら答えた。


「どうなってるってスフィアで飛ばしてるに決まってるじゃない。飛行のスフィアで船体を浮かせて、念動力のスフィアで羽を動かして前に進ませる。そうやって進むの。場合によっては風のスフィアも使うわね。船員達が交代でスフィアを使ってるの。船を飛ばすのには結構スフィアがいるし、なくなったら補充しなくてはいけないから。」


「なるほどね。そういう仕組みなんだ。あれ?スフィアを補充って……スフィアって一度入れたらずっと使える訳じゃないの?」


チェリアは頷く。


「そうよ。ある程度使ったら体の中で自然と消えてしまって、使えなくなるわ。まぁ、また入れればいいだけの話だけどね。」


瑠璃はへぇ、と頷く。


「そうなんだ。スフィアにも制限があるんだね。でもそれなら船を飛ばすのに相当の量のスフィアがいるんじゃない?」


「そうよ。だからこそ船は国が国庫からスフィアを出して飛ばしてるの。他の大陸に渡る手段は船しかないし、船がなければ貿易も出来ないから。それに船は一番安全な交通手段だしね。」


瑠璃ははっとして青ざめた。


「船が安全って全然そんなことないんじゃない?だって空を飛ぶ魔物に船ごと落とされたら助からないよ。」


チェリアはあからさまにきょとんとした顔をした。


「えっ?だって海の上なのよ。生き物が来るわけないじゃない。」


「へ?どういうこと?」


この言葉に今度は、瑠璃がきょとんとした。

チェリアは口に手を当てて眉を寄せて言った。


「もしかして貴方の世界では海に生き物がいたの?」


「うん。たくさんの生き物が海の中や上で暮らしてた。」


「そう、私たちの世界と貴方の世界、やっぱり何もかも違うのね。」


「ねぇ、海に生き物がいないってどういうことなの?」


瑠璃が尋ねると、チェリアは眼下の蒼い海を見やる。


「私たちの世界では海は聖域だとされていて、何故かは分からないけど生き物は海の上にだけは行こうとはしないの。魔物も、昔だったら動物も。一説には海には神が住んでいて、神が海に生き物が寄り付かないようにしているのだと言われているけど、確かなことは分からないわ。まぁ、こうして人間だけは船を作って聖域を侵してる訳だけど。」


瑠璃も甲板の縁から蒼い海を見下ろした。澄んだ水が静かに波打ち、確かにここに神がいると言われても強ち間違いではない気がした。


「でも、神様がいたとして…どうして海を守ってるのかな。」


瑠璃がぽつりと呟いた。


「さぁ、分からないけど海に大切なものがあるからじゃないかしら。そう、ちょうどこの海の真ん中、そしてこの世界の中心に当たるところに雲の要塞というものがあるの。厚い雲で出来た塔のようなものね。学者はその中に何かあるんじゃないかって睨んでるらしいけど、とても中に入ることは出来ないから調べられないし、事実は分からないわ。」


「雲の要塞……この船、その近くを通るの?」


「いいえ、雲の要塞を避けるために南側に迂回するはずよ。雲の要塞の近くに行くとスフィアがうまく使えなくなるって聞いたことがあるわ。だから、普通船乗りは雲の要塞に近づかないような航路をとるの。」


瑠璃は熱心にチェリアの話を聞いていた。


「そうなんだ。本当にこの世界、不思議なことが多いよね。」





瑠璃とチェリアはひとしきり話した後、自分達の客室に向かった。船は五階立て。一階は倉庫、二階が食堂や浴場になっていて、三、四、五階は客室になっている。さながら空飛ぶホテルのようだ。瑠璃達はここで約十日間過ごすことになる。

瑠璃とチェリアの部屋は五階。この船を手配した町長の心使いだろう。ベランダのついた部屋で、この船の中では上等な部屋だ。


「509、509…あった。この部屋ね。」


チェリアが一つの部屋のドアを指差した。金のプレートに、瑠璃にとっては訳の分からない記号が書かれている。チェリアがチケットの裏に書かれた呪文を唱えるとガチャリ、と音を立てて鍵が開いた。


部屋の中には大きなベッドが二つ。体の細い瑠璃とチェリアなら一つのベッドに一緒に寝ても余裕がありそうだ。床には赤い絨毯が敷かれ、部屋全体に高級感を出している。その他にもソファや机、タンスなどが置かれ、快適に過ごせそうだ。




「そういえば瑠璃。貴方もスフィアを持ってみる?」


荷物の整理をしていたチェリアが唐突に口を開いた。手にはスフィアの入った袋が握られている。瑠璃は突然の提案に一瞬驚いたが、すぐに首を振った。


「駄目だよ。よく分からないけどスフィアって貴重なものなんでしょ?そのスフィアはチェリアの持ち物なんだから。」


チェリアは笑う。


「確かにスフィアは貴重なものよ。でも、瑠璃がスフィアを使えたら魔物との戦闘の時に役立つし…私としては是非持っといて欲しいのよね。」


瑠璃はそう言われると言い返せなかったので、分かった、と渋々頷いた。


「なら決まりね。瑠璃はどのスフィアが欲しい?」


チェリアが袋の中を探りながら尋ねる。


「私、風のスフィアが欲しい。」


瑠璃はすぐに答えた。ゲンやシルフが使っていた風のスフィア。あのスフィアなら魔物を倒すことではなく、吹き飛ばすことで彼らを追い払うことが出来るのではないかと瑠璃は思っていた。魔物は友達、というシルフの言葉を聞いてからというもの、魔物がただ理由もなしに人間を襲うだけのものには思えなくなっていたのかもしれない。


「分かった。風のスフィアね。」


そう言ってチェリアは薄い黄緑色のスフィアを取り出して瑠璃の手の中に落とした。


ーーその瞬間


瑠璃の手に触れたスフィアはドライアイスのように溶けて消え始め、瑠璃が驚いて床に落としたそのスフィアはもうほとんど残っていなかった。


「今の、スフィアが私の中に入ったってこと?」


瑠璃は呆然と床に落ちたスフィアを見つめて呟いた。チェリアは大きく首を振る。


「違うわ。今のはスフィアが体の中に入ったっていうよりも、スフィアが消えていった、という感じがした。こんなに小さくなったスフィア、初めて見たもの。」


チェリアが瑠璃が落としたスフィアを親指と人差し指で拾いながら言った。


「ごめん、チェリア。大切なスフィアをそんなに小さくしてしまって……」


瑠璃が零れそうになった涙を必死で堪えながら謝ると、チェリアは優しく微笑んだ。


「いいのよ。謝らなくても。瑠璃はこうなるって知らなかったんだし、仕方のないことよ。」


「うん。ありがとう。……やっぱり私が異世界人だから、スフィアを使えないのかな?」


「ひょっとしたらそうなのかもしれないわね。まぁ、他に異世界から来た人なんていないから確かめようもないけど。」


「うん……」


落ち込んで俯いていた瑠璃は、チェリアが何か言いたそうな顔で瑠璃の蒼い瞳を見ていたことに気づかなかった。


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