Chapter16 贖罪
一週間以上も更新出来なくて申しわけありません。私生活が忙しいので、次の更新も遅くなるかもしれません。
朝の日差しに海が煌めく。空は青く澄んで、船旅には絶好の天気だ。
瑠璃とチェリアは町長の家の横の港で、船を待っていた。瑠璃達の他にも港にはちらほらと人が集まり始めていた。
港にはゲンと町長、そしてレオンが、瑠璃達の見送りに来ていた。
「もう行ってしまうんだな。もう少しこの街にいればいいのに。」
ゲンが残念そうに言った。
「はい、行き先が決まった以上早く出発したいですし、いつまでも町長さんのお世話になる訳にもいきませんから。」
でもありがとうございます、と瑠璃は微笑んだ。
そうか、とゲンは頷く。
「本当に貴方達には世話になった。貴方達が来てくれなければ私は今だに操られたままだっただろう。本当に助かった。ありがとう。」
ゲンが瑠璃達に笑顔で言った。瑠璃も、にこっと微笑む。
「いえ、私達もゲンさんを助けることができて良かったです。それに、リンガルの人達、ゲンさんが帰ってきてすごく嬉しそうですから。魔物の襲撃は止まらないかもしれないですけど、ゲンさんが帰ってきて少しでもこの街に活気が戻ればいいなって願っていたんです。」
ゲンはありがとう、とお礼を言ってから、少し表情を曇らせて言った。
「君たちに話さなければならないことがあるんだ。」
瑠璃は首を傾げる。
「話さなければならないことって何ですか?」
ゲンは一つ頷いてから話し始めた。
「話さなければならないことというのは、まず、この街への魔物の襲撃のことなんだ。その襲撃が始まった時期や僕が海鳴りの塔で魔物を操って君たちを襲わせたことから考えると、恐らく操られた僕がリンガルを襲わされていたんだと思う。逆にいえば僕が操りから解放された今、街が魔物に襲われることはないけど、そう簡単に街に人が帰って来るわけではない。それに、街を襲った僕の罪は重い。」
瑠璃は驚くと同時に怒りが込み上げてきた。
「そんな…ゲンさんを操ったうえ、街を襲わせるなんて。一体誰がそんな酷い事を……ゲンさん、ゲンさんは悪くないですよ!全てはゲンさんを操った人が悪いんです!」
ゲンは悲しそうに微笑んだ。
「ありがとう。でも、これは僕の罪なんだ。君の言っている事は多分正しい。けど、街の中には街が襲われた事で、僕の事を憎んでいる人もいる。その人達にしてみれば僕を操っていた得体の知れない人間ではなく、この僕こそが罪人で、犯人なんだ。罪って多分そういうものなのだと思う。犯人と黒幕が合致することの方が少ないくらい。でも、誰かが犯人になって罪を償わなければならない。それなら僕が罪を償う。もう決めたことなんだ。」
瑠璃は悔しそうにきゅっと手を握りしめる。
「罪を償うって、牢獄にでも入るつもりなんですか?」
ゲンは少し表情を緩めて首を振った。
「違うよ。そんなことはしない。僕はこの街の長になる。そして、この街を昔のような活気溢れる街にするんだ。」
「えっ。」
瑠璃は予想外の返答に驚く。ゲンは続ける。
「ひょっとしたら牢獄に入るより辛い仕事になるかもしれない。昔の貿易先に連絡したり、街の修理も進めなければならないし、仕事は山積みだ。でも立派にやり遂げて見せるよ。そして、リンガルが活気を取り戻したら、また君達にこの街を訪れて欲しい。」
ーーその時まで私はこの世界にいるんだろうか。
瑠璃の頭の中にその考えがよぎったが、とりあえず微笑んで
「分かりました。」
と言った。
「そろそろお別れのようだね。船が来たみたいだ。」
ゲンが瑠璃の後ろの方を見ながら言う。
「本当ですか?」
そういえばこの世界の船ってどんな感じなんだろう、と思いながら瑠璃が振り返って海の方を見ても、そこには何もいない。
「瑠璃、もっと上よ。」
チェリアが空の方を指差す。
「上?」
チェリアの言葉を訝しく思いながらも、瑠璃が上を見上げると、確かにそこには船らしき物体が浮かんでいた。木で作られたそれは、形こそ瑠璃達の世界の船に似ていたが、マストは翼の様で、船の横にはみ出しているし、そもそも海の上ではなく、空の上に浮かんでいる。白く大きなマストが少しずつ羽ばたきを緩め、瑠璃達のいる港の方へ高度を下げながら近づいてくる。
「あれが、船なの…」
瑠璃は唖然として呟いた。
「そうよ。……また瑠璃の世界のとは違ってた?」
チェリアが小声で尋ねたので、瑠璃はゲン達の前で空飛ぶ船に驚いていてはいけないのだと思い出した。ゲン達は瑠璃が異界から来たことを知らない。
「そんなに船が珍しかったのか?」
と案の定ゲンは不思議そうな顔で瑠璃を見ている。瑠璃は笑って誤魔化した。
「すみません、船を初めて見たから驚いてしまって。」
「そうか、初めて見るなら驚くのも当然だな。こんな大きな物が空を飛ぶんだから。」
ゲンが納得したようで瑠璃は小さく安堵の息を漏らした。
瑠璃達が話している間に船は港に到着し、船員が乗客を乗せるための階段を下ろし始めていた。瑠璃達の周りにいる人々が船に向かって動き始めている。
「そろそろ私達も行かなきゃね。」
チェリアの言葉に頷いてから、瑠璃は改めてゲン、町長、レオンの顔を見渡すと言った。
「色々お世話になりました。どうかお元気で。」
『お姉ちゃんも元気でね。』
レオンが瑠璃の足元に来て鳴いた。
「うん、レオン君もゲンさんと仲良くね。」
瑠璃はしゃがんでレオンのふさふさの頭をそっと撫でると、立ち上がった。
するとゲンが
「瑠璃、最後に一ついいかな?」
と言った。瑠璃は頷く。
「もし会うことがあればでいいんだが、塔の上で瑠璃と一緒にいた少年にもお礼を言っておいて欲しいんだ。お願い出来るかな?」
「ああ、シルフのことですね?」
「そう、あの緑色の目の少年だよ。」
瑠璃はこの言葉には首を傾げた。
「…緑色?」
おかしいな、シルフの目は綺麗な銀色なんだけど。瑠璃が困惑して返事を出来ずにいると、後ろからチェリアの声が聞こえてきた。
「瑠璃、早く!船が出てしまうわよ。」
瑠璃は慌てて
「必ず伝えておきます。」
とゲンに言うと、船の方に走り出した。