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瑠璃色の月  作者: Alice-rate
リンガル編
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Chapter15 帰還


シルフがレオンの方へ近づいていって尋ねた。


「レオン、本当にいいんだね?」


『うん、もう決めたんだ。』


レオンはわん、と答える。

シルフは別れを惜しむようにレオンの頭に手を置いた。


「そうか、分かった。また様子を見に来るよ。」


『うん、ありがとう。お兄ちゃん。』


シルフは頷き、すっと手を離すと瑠璃の方に向き直った。


「瑠璃、それじゃあ俺はもう行くよ。」


シルフは瑠璃にそう言うと立ち去ろうとする。


「待って!」


シルフの背中に瑠璃は叫んだ。シルフは足を止めて振り返り、怪訝そうな顔をする。瑠璃は続けた。


「シルフ、前会った時に言ったよね。私はもう少しこの世界にいた方がいいって。あれから一週間は経ったよ。まだ……駄目なの?」


瑠璃は縋るような目でシルフを見つめた。シルフは穏やかな顔で言う。


「ごめんね。まだ君をあちらに帰すことは出来ない。けど少しだけ近づいた、とだけ言っておくよ。…それじゃあ、また。」


そう言い終えるとシルフの姿は一瞬で消えた。



ーー瞬間移動。瑠璃はまださっきまでシルフが立っていた場所を見つめていた。風、飛行、そして瞬間移動。シルフは幾つのスフィアを持っているんだろう。結局何一つ彼の事、分からなかったな。そう思って瑠璃は溜息をついた。そこに、


「瑠璃!」


と聞き慣れた声が聞こえた。瑠璃が声の聞こえた方を見るとこちらに走ってくる茶髪の少女の姿が見えた。瑠璃はその少女に微笑む。


「チェリア。良かった。無事だったんだね。」


チェリアはええ、と頷く。


「何故かは分からないけど、突然魔物達が私を襲うのをやめて塔の外に出ていったから。それで戦うのをやめてここに上がってきたのだけど……どうやらそっちも無事にゲンさんに会えたみたいね。」


ゲンとレオンの方を見ながらチェリアは言った。


「無事…ではないかな。」


瑠璃は苦笑しながら答える。チェリアはくすっと笑った。


「あら、色々あったみたいね。でも積もる話は街に帰ってからにしましょう。」


「そうだね。きっと町長さん、ゲンさんやレオン君の帰りを待ってるよ。」







それから瑠璃達は塔を降りて街へ向かった。既に日は高く、眩しい光が草原を照らしている。

道すがら瑠璃とチェリアは、ゲンに町長に聞いたリンガルの話をした。ゲンは悲しそうな顔をして黙って瑠璃達の話に耳を傾けていた。やがて街の外壁が見えてきた。


「ゲン!」


ゲンの姿を見ると、門番の二人の男が駆け寄ってきた。瑠璃とチェリアがこの街に入る時、出会った門番だ。門番は幽霊でも見るかのようにゲンの顔を見つめて言った。


「ゲン、お前本当にゲンか?」


「ああ、そうだよ。どうやらあれから二年間も経ったらしいね。」


「そうだ。お前二年間も一体どこにいたんだよ。いや、まぁいい。ともかく町長がお前の事待ってるぞ。早く行って差し上げろよ。」


そう言うと門番は門を開けた。


瑠璃達は街の中に入った。道を歩くゲンの姿を見ると、街の人は口々にゲンの名を呼び、その帰還を喜んでいた。


瑠璃は町の人と楽しそうに話しているゲンを見ながら言った。


「ゲンさん、人望厚いんだね。」


「ええ、この大きな街で、これだけ知り合いがいるんだもの。まるで王族みたいね。」


チェリアが頷く。


『みんな、この街の次の町長はゲンが良いって言ってるんだよ。』


レオンが瑠璃に教えてくれる。瑠璃はへぇ、と言い、チェリアにもこの事を伝えた。


「なるほど、そういうことだったのね。」


「次の町長候補なら当然有名だよね。……ねぇ、チェリア。町の人達、凄く嬉しそうだね。」


チェリアは笑顔で頷く。


「本当に。町の人達の表情が暗かったのは、ゲンさんが行方不明になってたのもあったのかもしれないわね。」


「でも、良かった。ゲンさんが街に帰って来れただけでも。」


「そうね。あっ、あの人町長さんじゃない?」


瑠璃がチェリアの指差した方向を見ると、町長が杖をつきながらゲンの方へ歩いているのが見えた。町長は目に涙をいっぱいに溜めている。

町長はゲンとひとしきり話すと、瑠璃とチェリアの方へやって来た。


「お嬢さん達。ゲンを連れ戻してくれて本当にありがとう。本当になんとお礼を言ったら良いか。」


深々と頭を下げた町長に瑠璃は慌てて言った。


「町長さん、顔を上げて下さい。、私達が自分で海鳴りの塔に行くって言い出したんですから。それに、街の皆さんの喜ぶ姿が見られただけでもお礼は十分です。」


瑠璃がねっ、とチェリアの方を見るとチェリアも頷いた。


「そうか、素敵な旅人さんに出会ったものじゃの。とは言っても何かお礼をしたいのじゃが…そうじゃ、お嬢さん達は人を探して大きな街を巡っているのでしたな。ならこの街から出る船で、西の大陸のダリラドールという街の近くの港に止まる船がある。せめて船の手配ぐらいさせてもらえはせんかの。」


町長が縋るような目で瑠璃達を見ている。


「瑠璃、どうする?」


チェリアが瑠璃に尋ねた。


どうしよう、瑠璃は少し迷った。

町長の好意に甘えること、それ自体は嫌ではなかったが、問題はシルフを追い続けることだ。仮にまたシルフに会えたとして、彼は果たして瑠璃を元の世界に帰してくれるのだろうか、その疑問が瑠璃の中にはあった。彼は何を以って少しだけ近づいた、と言ったのだろう?瑠璃にはそれが全く分からなかった。


「…少しチェリアと相談してもいいですか?」


瑠璃は悩んだ末、町長に言った。


「ああ、ええとも。」


町長はにかっと笑って答える。

ありがとうございます、とお礼を言うと瑠璃はチェリアに向かって口を開いた。


「チェリア、私ね、塔の最上階で探していた銀色の目の男の子、シルフに会えたの。」


チェリアは珍しく驚いた顔をした。


「そうだったの。うん、それで?」


「それで、色々あって助けてもらったんだけど…それはまた話すね。その後彼が帰ろうとして、その時に私、元の世界に帰してくれないか、って彼に言ったの。そしたら彼、まだ私を元の世界に帰すことは出来ないけど、少しだけ近づいたって言ったの。でも私その言葉の意味がよく分からなくて。」


「なるほどね。私もその場にいた訳ではないから、よく分からないけど。でも、私は瑠璃は彼に会ってもっと話すべきだと思うわ。だって分からないなら直接聞いてしまえばいいじゃない。そして、そのためにはやっぱり大陸を渡るのが良いと思う。」


瑠璃はチェリアの言葉にふっと笑った。


「確かにチェリアの言う通りだ。分からないなら直接聞いてみればいいだけの話だよね。凄く当たり前のことなのに、何で気づかなかったんだろ。気がついたら、あれもこれも出来るはずないだろうって勝手に決めつけて身動き取れなくなってた。私の悪い癖だね。」


チェリアも笑う。


「そんなことないわ。瑠璃はきっと優しすぎるだけよ。周りの人、みんなのことを考えすぎてしまうからこそ、悩んでしまう。でも、きっとそんな風に慎重に考えなければならないことも沢山あるわ。要はケースバイケースってことよ。それが悪い癖なんてことは決してないわ。」


「ありがとう。励ましてくれて。」


瑠璃はチェリアに言い終えると、町長に決めました、と言った。


「町長さん、船の手配をお願いします。私達、西の大陸に行ってみます。」


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