Chapter12 海鳴りの塔
翌日の朝、瑠璃とチェリア、そしてレオンは町長にもらった地図を元に海鳴りの塔に向かった。辺りに高い建物がないから塔を見つけるのは容易だった。
魔物の動きが比較的穏やかな早朝だけあって塔に着くまでに魔物に出会うことはなかった。
ーーこれが海鳴りの塔。
瑠璃は塔を見上げる。
塔は高く、瑠璃が首を逸らしてみても頂上は見えない。白い石で作られたその塔は朝の光を受けてもなお、瑠璃には不気味に感じられた。瑠璃は手をぎゅっと握り締めた。
『お姉ちゃん、大丈夫?』
瑠璃の足元でレオンが鳴いた。
「うん、平気よ。」
瑠璃が少し微笑んで言うと、レオンは安心したようだった。
「今、レオン君が瑠璃のこと心配したんでしょ?」
チェリアはくすくす笑いながら言う。瑠璃は驚いて尋ねた。
「えっ、チェリアにもレオン君が何て言ったのか分かったの?」
瑠璃は期待を込めて聞いたが、チェリアは頭を振った。
「いいえ、分からないわ。でも今の瑠璃を見てたら誰でも心配したくなるわよ。顔色は悪いし、足も震えてるしね。」
瑠璃ははっとして頬をパチン、と叩いた。
「ごめん、私が塔に行くって言い出したのに今更怖がったりして。でも私、足手まといにならないように頑張るから。絶対ゲンさんを見つけ出そう。」
瑠璃がチェリアの目をしっかり見て言うとチェリアは分かってる、というように頷いた。
チェリアが塔の入り口の観音開きの扉を開く。何もいない。塔の中は広い。床には水が張ってあって、塔の窓から差し込んだ朝日を受けて水面が輝いていた。壁には上の階へと続く白い螺旋階段が蛇のように巻きついている。瑠璃ははぐれないよう、レオンを片手で抱えていた。
塔は四階建てだと町長が言っていた。瑠璃、チェリア、レオンの三人は次の階に行くべく階段を登る。不気味な程静かな塔の中に瑠璃達の足音だけが高く響く。
階段を登りきるやいなや先頭を歩くチェリアが叫んだ。
「瑠璃、しゃがんで!」
言われるままに瑠璃が屈むと頭の上を冷たいものが吹き抜けていくのを感じた。体を起こして後ろを見ると、壁の一部が凍りついている。そして聞こえる低い唸り声。瑠璃が声の聞こえた方を見るとそこには赤い毛並みを持つ虎のような獣が二匹いた。ただ、普通の虎と違うのは大の大人三人は軽く乗せられそうなその大きさと、身体の周りに白い冷気を纏っていることだった。
その魔物は瑠璃達に向かって鋭い氷の刃を無数に飛ばしてきた。すると、チェリアはすかさず瑠璃達の前に来て、火の玉を飛ばしてその刃を消していく。チェリアはその刃を消し去ると、更に火の玉を飛ばしてその魔物を攻撃する。程なくして二頭の虎は炎に包まれて消えていった。
瑠璃がほっと一息ついたのも束の間、塔の窓から沢山の緑色の鳥のような魔物が入ってきた。その魔物はそれぞれピギャー、ピギャーと口うるさく鳴いている。
「瑠璃、階段へ!上の階まで一気に行くわよ。」
チェリアの言葉に頷いて瑠璃はチェリアに続いて階段を登り始める。そんな瑠璃達に目掛けて鳥の魔物は空中から体当たりしてくる。瑠璃はレオンを庇いながら勘一発でその攻撃を避ける。
「瑠璃、壁際に寄って。」
「えっ、うん。分かった!」
瑠璃はチェリアの言葉に従って壁際に寄って階段を上がる。
チェリアは瑠璃が動いたのを見ると、指を鳴らして階段の手すり側に炎の壁を出現させた。魔物はその壁に突っ込んでは次々と消えていく。
凄い…瑠璃は瞬いた。チェリアは間違いなく戦闘慣れしている。敵が来ても冷静で適切な判断を下す。前を行く物理的には瑠璃より小さなチェリアの背中がいつもより大きく見えた。