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瑠璃色の月  作者: Alice-rate
リンガル編
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Chapter10 声が聞こえる


瑠璃とチェリアは門番の男に言われた通り、町長の家を探してリンガルの中を歩いていた。街の中を進む度、瑠璃が最初に感じた違和感は強くなっていく。

東の大陸最大の港町と謳われるリンガル。しかし街の様子はそれとは程遠い。

まず、人が少ない。武装した兵士はちらほらと見かけるが、商人や旅人の姿をほとんど見かけない。さらに建物は壊され、放置された店が空っぽの口を開けているばかりだ。幾つかの店は開いていたが、店員にもどこか活気がない。




港に向かって進み続けると、やがて白い石造りの大きな家が見えてきた。瑠璃はその家を指差して言う。


「チェリア、あそこって…」


「ええ、恐らく町長さんの家ね。行ってみましょう。やっぱりこの街、様子がおかしいわ。」



町長の家の前に立つと、瑠璃は扉を軽くノックした。程なくして、はい、と返事がして若い女性が出てくる。恐らくこの屋敷で働いているのだろう。その女性は瑠璃達に笑顔を向けると口を開いた。


「ようこそいらっしゃいました。本日はどうされましたか?旦那様に何かご用でしょうか?」


「はい。私達、人を探してこの街に来たんですけど、街の様子が変なのが気になって。良ければお話を聞かせて頂けると嬉しいんですけど…」


その女性は少し考えてから言った。


「分かりました。旦那様を呼んで来ますのでどうぞ中へ。久々のお客様なので、きっとお喜びになられます。」


どうぞ、とメイドに言われるままに瑠璃とチェリアは家に上がった。

外見と同様に家の中も床や壁が白い。家の中には高そうな彫刻や絵が飾られ、町長の経済的な豊かさが伺える。瑠璃達は応接室に通され、ソファに座るよう進められた。応接室には花が生けられ、部屋に彩りを添えている。出された香りの良いお茶に口をつけていると、一人の老爺が杖をつきながら応接室に入ってきた。その老爺、つまり町長は頭だけ動かして一礼すると、瑠璃達と向かい合うようにソファに腰掛けた。


「旅のお方、遠路はるばるよぅ来てくれた。して、この街に起こった異変について聞きたいのでしたな。」


町長はくしゃりと笑う。笑っても尚、どこか疲労の色が見える。


「はい、そうです。」


瑠璃は答える。町長は頷くと話し始めた。


「思えばあれはニ年程前の事じゃった。この街は突然魔物の群れに襲われたのじゃ。幸いこの街には防犯の為のスフィリアが多く在中しておったから、建物の損傷はあったが、死亡者は出なかった。しかしそれからというもの、この街は頻繁に魔物に襲われるようになったのじゃ。以前は行商人で賑わっていたこの街も、魔物の襲撃を恐れた人々が街を離れていったせいで今では街の人間しか出歩かなくなってしまった。この街はもう終わりじゃ。旅のお方も早くこの街を去った方がええ。」


そんなことが……瑠璃は町長にどう声をかけていいのか分からなかった。

次々と襲ってくる魔物。消えていく人々。そんな街の首長として働いている町長はどれほど大変なのだろう。想像しただけで胸が痛む。どうにかして町長の役に立てないだろうか、と瑠璃が思案していた時、『わんっ(ねぇねぇ)』と鳴き声が聞こえてきた。


「えっ」


瑠璃が驚いて下を見ると真っ白な毛で覆われた犬が瑠璃を見上げて尻尾を振っていた。瑠璃は耳を疑った。気のせいでなければこの犬に話しかけられた気がしたのだ。


「どうして犬が生きてるの。」


チェリアは驚いて目を見開いている。町長はそんなチェリアの様子にふぇらふぇらと笑う。


「珍しいだろう。もうほとんど動物は生きていないからね。でもこの子はまだ無事に生き残ってるんだ。うちで飼っているんだよ。」


「へぇ、そうなんですか。」


チェリアと町長の会話をよそに瑠璃はまだ呆然としていた。瑠璃は一か八かその犬に話しかけてみることにした。


「ねぇ、今喋ったよね?」


恐る恐る犬に聞いてみた。


『わんわん(うん、お姉ちゃんも僕の声、分かるんだね。)』


会話が成立していることに驚きながら瑠璃は話し続ける。


「お姉ちゃんも、って他に誰かいるの?」


「瑠璃、もしかしてその犬と話しているの?」


チェリアの言葉に会話が遮られた。この言葉に瑠璃も我に返る。犬と会話している女子高生って相当おかしな光景だよね。チェリアはともかく町長は相当不審に思ってるはずだ。そう思って恐る恐る町長の方を見ると、案の定とても驚いた顔をしている。瑠璃は思わず口に手を当てた。


「お嬢さん、その犬、レオンと話ができるのか?」


瑠璃は誤魔化しようがないので渋々首を縦に振る。すると、町長は微笑みながら言った。


「そうか。素敵なスフィアを持っておるのじゃな。それで、レオンは何と言っておるんじゃ?」


「えっ、あっ、聞いてみます。」


予想外の反応に動揺したが瑠璃はそうか、と納得した。魔法が存在するこの世界ではきっと動物と話すことはそんなに珍しいことじゃないんだ、と。それでも疑問に思うことはある。瑠璃はスフィアを見たことこそあるが、触ったこともなく、スフィアを持っているはずがないのだ。不思議に思いながらも瑠璃はレオンに向き直ると話を再開した。


「レオンくん、さっき言ってたレオンくんと話せる人って誰なの?」


レオンは脚で体を掻きながら答える。


『名前は分からないけどね、銀色の綺麗な眼をしたお兄ちゃんだったよ。』


「うそ!」


瑠璃は思わず叫んだ。銀色の眼、それだけの情報しかなかったが、それが瑠璃の探している少年だと瑠璃には確信が持てた。レオンは話を続ける。


『それでね、そのお兄ちゃんが言うには僕の飼い主のゲンは海鳴りの塔にいるらしいんだ。お姉ちゃん、スフィリアなんでしょ。だったら僕を海鳴りの塔まで連れて行ってくれないかな。僕、ゲンに会いたいんだ。』


「えっ、でも私……」


スフィリアじゃないのよ…そう続けたかったがスフィアがあるからレオンと話せるのだと信じている町長の目の前でそんなことが言えるはずもなかった。せめてチェリアがついて来てくれたら、そう思ってチェリアを見ると桃色の瞳と視線がぶつかった。チェリアは真剣な表情で瑠璃を見つめている。チェリアなら分かってくれる、瑠璃は決心した。


「町長さん、この辺りに海鳴りの塔ってありますか?」


町長はぎょっとした表情になった。


「海鳴りの塔じゃと。確かに近くにあるが、あそこには沢山の魔物が出る。たとえスフィリアでも危険じゃ。」


「でもそこにレオンくんの飼い主がいるかもしれないんです。」


町長は目を丸くした。


「レオンの飼い主?まさかゲンのことか。ゲンは私の息子だ。ずっと忙しい私に代わってレオンの面倒をみてくれとった優しい子じゃ。しかし二年前、隣町に行くと行って出て行ったきり帰ってくることはなかった。街の者は魔物に襲われたのだという。本当に海鳴りの塔にいるのかどうか…」


「町長さん、確かめに行くことだけでもさせてもらえませんか?それに私も瑠璃もスフィリアです。魔物のことなら大丈夫です。」


大人びた声で言ったのはチェリアだった。瑠璃の意図を理解したようだ。


「よし、分かった。そこまで言うなら明日行ってみるのがええじゃろう。今日はうちに泊まっていきなさい。」


「ありがとうございます。」


瑠璃とチェリアは同時にお礼を言った。



レオンも話の成り行きが分かったのか尻尾を振って嬉しそうにしている。


『お姉ちゃん、ありがとう。』


レオンが鳴く。


「どう致しまして。」


瑠璃は笑顔で答えた。


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