Chapter9 潮風香る街へ
小高い丘を瑠璃とチェリアは登っている。チェリアは涼しい顔をして歩いているが、瑠璃の息は荒い。一週間近く続いた歩き通しの旅。瑠璃の体力を奪うには十分過ぎるぐらいだった。それでも、瑠璃の表情は明るい。瑠璃は目的地が目前に迫っていることを知っているからだ。
瑠璃の前を歩くチェリアが前方を指差しながら弾んだ声で言った。
「瑠璃、あれがリンガルよ。」
それを聞いた瞬間、瑠璃の蒼い瞳がぱっと輝いた。瑠璃は疲れた体に鞭打って丘を駆け上がった。丘の頂上に辿り着いた時、瑠璃の目に飛び込んできたのは蒼と白。深い蒼を湛えた海と、その海に突き出すようにして、白い建物が立ち並ぶ大きな街。街の白い建物は陽の光を受けて眩しい程に輝いている。海風が火照った体に気持ちいい。この丘を下ればリンガルに到着する。
「チェリア、早く行こう!」
瑠璃はチェリアの方を見て、にこっ、と笑うと丘を下っていった。チェリアはそんな瑠璃を見て、くすり、と笑う。こんなに笑うのはどのくらい久しぶりだろう。チェリアは考える。あの日以来初めてだ。そう、全てが狂ってしまったあの日から……
丘を下るにつれて徐々に街を囲う外壁に近づいていく。この世界では魔物から身を守るため、大抵の町は外壁に囲われている。瑠璃は外壁を見上げて首を傾げた。白い石で作られた丈夫そうな外壁が所々壊されている。瑠璃を追ってきたチェリアの方を見ると、瑠璃と同じように怪訝そうな顔をしている。
「なんだか様子が変ね。町の人たちに聞いてみましょうか。」
瑠璃は頷く。
リンガルには四つの街へ入る為の門がある。瑠璃とチェリアはその中から一番近くにある門に向かった。門の前には門番らしき男が二人立っている。門番のうちの一人は瑠璃達の姿を認めると、二人を順番に睨めつけ、不審そうな目で見ると言った。
「お前たち、商人ではないようだが、……旅人か。この街に一体何の用だ?」
男の語気は鋭い。瑠璃は少し怯んだが、チェリアは平然として答えた。
「私達、探している人がいるんです。ここは有名な港町でしょう。だから、ここに来れば何か分かるかと思ったのですが、なんだか様子がおかしいみたいですね。良かったら何があったのかお聞かせ願えませんか?」
「ふむ……」
男は少し考えてから口を開いた。
「そういうことなら町長の家に行ってみるといいだろう。港の隣の一際大きな家だ。見ればすぐに分かるだろう。」
「ありがとうございます。行ってみます。」
チェリアは言うと、街の中へスタスタと歩き出した。瑠璃も男に一礼すると、慌ててその背中を追って街に入っていった。
遂に瑠璃色の月も10話になりました。いつも読んで頂き、ありがとうございます。次の話では瑠璃の力の一部がわかります。




