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「お父様。お呼びでしょうか」
恭しくお父様の自室の扉を開ける。
部屋の中には、なにやら重苦しい空気で渦巻いていた。
何があったというの。
「あの、お父様?」
「ん…あぁ、リリィ。どうしたんだい」
「いや、お父様に呼ばれて来たのですが」
「……そうだったそうだった。すまないね。ちょっとそこのソファーに腰掛けてくれ」
大丈夫なんかこの親父。
私は指定されたソファーに座る。赤く、触り心地がとてもいい。
お父様はこの国の中枢機関で働いていて……まぁ要するに、とてつもなく偉い。プラチナブロンドの髪は美しく、可愛らしいタレ目の碧眼とよく合っている。最近お腹周りが怪しくなってきたが、それでもイケメンの部類に入るだろう。
こいつ本当に私の父親か?
「で、話というのはね」
お父様は私の向かいのソファーに座る。
「こいつを見てくれ」
こいつをどう思う?ってヤカマシイわ。
お父様が私に差し出したのは、同い年くらいの男の子が写った、二人分の写真だった。
「お父様、これはなんです?」
「その2人の子は私の仕事仲間の子供だ」
と、いうことはクリサンセマムか。
確かこの国にクリサンセマムは、私の家含めて3人だから…ほうほう。
「リリィは将来、どちらかと結婚するんだ」
ほうほうほう…ほっ⁉︎
「よかったじゃないかリリィ。この国にクリサンセマムの御曹司はお前含め3人。そのうち2人は、リリィと同い年ときたもんだ。もしこれが女2人、男1人だったら、もしかしたはお前は外国に行って結婚しなければならなかったんだからな。それに、その2人はかなりの秀才と言われている。お前と気が合うと思うぞ」
ちょ、お父様!なんかよかったじゃないか、と言う時のお父様、目が座ってた!座ってた!。
因みに、もし女2人男1人だと私が外国に行かなければならないかと言うと。フルクルスの階級制度の所為だ。結婚は、同じフルクルス同士でないとできない。それが鉄の掟だ。
それにしても、結婚かぁ。考えてなかったな。
いくら私が嫌と言っても、クリサンセマムのご令嬢。あちらからのアプローチだってあるはずだ。なにせ、あちらだって外国になんて行きたくなくて必死だからな。
「リリィ、君が右手で持ってる写真の子は、ローズ家の御曹司、ゼルダ・ローズだ。左手の方はバレー家の御曹司、ルシッサ・バレー」
私は二枚の写真を見た。
まずゼルダ・ローズ。私と同じ黒髪に、赤い瞳。第一印象は、ワイルドな奴だなぁ。なんか、こう。近寄りがたい雰囲気が、写真からモンモンただよってきます。
次にルシッサのバレー。ライトブラウンの髪に、少し茶色がかった緑の瞳。先程と比べ優しそうで、人当たりのよさそうな人だ。
「なぁに。結婚は今すぐじゃあない。成人した時に、同時に式を挙げる予定だ。その2人もリリィと同じ学校に入るだろうし、仲良くしてもらうんだぞ」
「はぁ……あの、お父様」
「なんだい?」
「その、どうしたのですか?あまり元気がないように見えまして」
「……ちょっと、ね」
お父様は私から目を逸らす。少し罰の悪い顔をしていた。
「実は…私に仕事場でローズとバレーが言ってきたんだ。リスの娘さんは俺の息子と結婚するだろ?って。あの2人タイミングが同時でビックリしたよ。その後もしつこく迫られてねぇ」
「それで、お父様は疲れてらっしゃったのね」
「ああ…」
だから今、私に縁談話を持ちかけたのか。
まぁ、そう聞くからして、ローズ家とバレー家の仲は悪くはないようだ。その時点で口論にならないのがその証拠。
「話は以上だ。帰っていいぞ」
「はい。失礼します」
私は入る時と同じく、恭しく扉を開けて退室した。
◇◇◇◇◇◇
私は自室に戻ってから、先程貰った写真を見つめていた。
2人は普通にかっこいい。かっこよすぎて眩しいです、はい。しかし好みじゃない。どうせならダンディーなおじさまがよかった。好みなんだもん。しょうがない。
それよりも。この写真を見ていると、なにか懐かしいような感じがするのだ。会ったことないはずなんだけどな…。
リス、ローズ、バレー………
「あ」
なんかみんなのファミリーネーム、華の名前じゃん。
華?華……、なにかを思い出しそうで出せないような……。
…………。
「あああぁぁぁああぁぁああ‼︎‼︎‼︎」
思い出した!思い出した!思い出した!
今まで「何か」が違うと引っかかっていたけれど、その「何か」、わかっちゃったもんね!
今まで「何か」が違う。そう思ってきたが、その比較してたものが、私の前世の記憶だ。
そう、私はどうやら前世の記憶を引き継いで転生したらしい。
前世の私は確か、平成という世でOLをやっていた。毎日夜遅くまでパソコンと睨めっこの日々は辛かった。
ある日のことだった。私は死んだのだ。
えっと、死因は……あれ?覚えてないや。ま、どうせ交通事故かなんかだろう。
そして、この世界へ転生した。
しかし、まぁ、なんでよりによってこの世界に。
前世、私は転生ものの小説は好きだった。よく読んだし、だからかこの状況を頭で理解するのは早かった。別に慌てなくとも、この世界で第二の人生を精一杯生きればいいのだから。
しかし、そんな悠長なことを言ってられなかった。なぜなら、この世界を私は知っている。
ここは、「華の都、貴女は蕾」という乙女ゲームの世界なのだ。
ローズ、バレー、そして私リス。こいつらはそのゲームに出てくるキャラクターだ。貰った写真と記憶のゲームのスチルが瓜二つなので、まず間違いないだろう。
ゲームの世界だ。わぁい。嬉しくない。
あのゲームはかなり完成度(もとい難易度)が高かった。数多くのエンディング、イケメン声優ボイス、高画質スチル。
勿論、ゲームオタクの私は全てのエンディングを制覇した。
だから言える。マジでヤバイ。
ゼルダ・ローズとルシッサ・バレーを攻略キャラと言うならば、私、リリィ・リスはライバルキャラだ。
確かリリィはあの2人の顔に惚れ、決められないと2人と婚約をした。
そして、ヒロインがやってくる。あるイベントでヒロインはゼルダ達と接触するが、それがリリィの逆鱗に触れた。
独占欲が強かったリリィは、ヒロインに婚約者を取られまいと、取り巻きを使ってヒロインをいじめ通すのだ。
リリィ、恐ろしい子!
だが、独占欲は彼らの方が高かった。
因みに言っておくが、このゲームは(R18G)がつくヤンデレゲームです。本当にありがとうございました。
彼らはヒロインを好きになり、ストーカー駆け落ち監禁心中殺害殺人と、アカン方向に持って行きたがる。
その中で、ヒロインをいじめ抜いたライバルが、彼らに殺されるエンディングは数多くある。否、最終でライバルが殺されるのは既にあたりまえになっているのだ。
ヤンデレ、恐ろしい子!
ヒロインがどうなろうと関係ない。ヤンデレ諸君、煮るなり焼くなり好きにして。
だけど私を煮るなり焼くなりするのは勘弁してください。
前世でも30代で死んじゃったし、次は大往生したいよぉ!うえぇェん!
「……決めた。私外国のクリサンセマムと結婚する」
それが一番の逃げ口だと思った私は成人をするまで、降りそそぐフラグの破壊活動を始めようと決心したのだった。
先程の大声で使用人達が駆け込んできたのは、また別のお話。
クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントを一緒にされそうで、夜も10時間しか眠れない。




